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2023.6.29 夏と、わたしと、パクチーと。

休日出勤をしたので、外でごはんを食べようと、久しぶりに大戸屋にきた。

こういう定食屋では、あまり冒険をしない。
大体いつもチキンかあさん煮定食かしまほっけの開き定食を注文する。

入店する前は、今日はサカナの気分だな。とか思いながら、口の中を"サカナ"にスタンバイさせていたのだが、店に入り、テーブルの側までくると、机の上に"イチオシです"と言わんばかりに主張された『アジアンフェア』のメニューが置いてあった。
そうして席に着くや否や、お水とおしぼりを持ってきた店員さんにまで「ただいまアジアンフェアを開催しております。」と声をかけられる。

口の中を"サカナ"でスタンバイさせていたわたしに、アジアンの風が漂ってきた。

うーん。アジアンフェアか……

パラパラとメニューを捲るが、漂ってきた風には靡かなかったようで。
早々にアジアンフェアのメニューを机に置き、わたしはタブレットからいつものメニューを探し始める。

サカナ、サカナ……いや、待てよ。
今日はちょっとだけサッパリとしたいから、梅チキンカツもありだな。

……やっぱりお肉が食べたくなってきた。
レッスンをしてお腹が空いているんだ。
結構ガッツリといけそうだ。

そうやって、脳内で1人会議が始まる。

そういえば、先日タイ料理を食べに行ったっけ。
割と本格的な店だったなぁ。

なんちゃってタイ料理しか食べたがことないわたしは調子を扱いて、トムヤムスープやらグリーンカレーやら、ガパオライスやら、色々なタイ料理が食べられるセットを注文した。

わくわくしながら目の前に出された料理からは、特有のハーブの香りが広がっていた。

一瞬、眩暈がした。

日本では嗅いだことのない香りだ。
これ……わたしはいけるのか。

いかにわたしが食べていたなんちゃってタイ料理が可愛らしいものであったかを突きつけられる。

これは……すごいぞ。

語彙力をなくしながらも、食べてみたら美味しい。
そしてクセになる味と香りだ。
はじめてあんかけスパゲッティを食べたあの時と似ているかもしれない。

いやいや。その話はまた今度だ。
脱線しすぎたので、話を戻す。

そう。わたしはもう本格的なタイ料理を食べられるオトナのオンナになったのだ。(たかだかタイ料理を食べたくらいで大袈裟すぎる。)

そんな訳でひとり脳内会議で議決されたのは、アジアンフェアに肖ってスイートチリからあげ定食を注文することにした。

いつもと違うメニューを注文することの高揚感。

ワクワクと画面をタップしたら、『パクチー大盛り』を勧める画面が現れた。

パクチー。

こいつのことは、すきでもなければ、嫌いでもない。
でも好んでは食べない。
……いや。
なんだったら少し苦手かもしれない。

大盛りもできると書いてあったが、勿論遠慮しておく。

ご丁寧にパクチーを別添えにするかどうかまで聞いてきてくれたが、そこは特に気にせず、いざ注文。

そして目の前に運ばれてくる、アジアの風。

カラフルな見た目も食欲をそそる。

空腹という最高のスパイスを添えて、サラダ、からあげを頬張る。パクチーも一緒に、頬張る。

なんだ。爽やかで美味しいじゃないか。
苦手なんて、克服できたんだな。
あの頃よりわたしはオトナになったのだ。

そう思ったのも束の間。
シャキシャキと咀嚼すればするほど、小学校の夏休みのプールサイドみたいな味が、口いっぱいに広がっていくのだ。

小学校の時の、夏休みに開放してくれるプールの時間。間に休憩があって、その時はプールサイドに上がらないといけない。ジリジリと焦げそうになりながら、暑いから早く水に入りたい。あのじれったい時間に嗅いでいた、プールサイドの側の草の匂い。

宿題はまだ終わっていない。
けれどもあの時間、友達と全力で楽しむプールの時間が好きだった。

なんとも言えない、あの夏の思い出。
あの時が蘇る。

それって、美味しいの?
美味しくないの?

どうか、そんな野暮なことは聞かないでいただきたい。

大丈夫。
わたしはもうオトナだから、パクチーは残さず食べることができる。
そして、パクチーを食べることでさらにスイートチリからあげが美味しくなることも分かっている。

苦いものを味わったからこそ感じる旨み。
それってなんだか人生みたいだな。ハハハ。

たかが、スイートチリからあげ。
されど、スイートチリからあげ。
大事なことに気付かせてくれてありがとう、アジアンフェア。
そうやってまたひとつ、わたしはオトナになれた気がするよ。



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