小説を書いています。

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  • 短編小説集『空の飛び方』

    短編集

  • ベートーヴェンのアトリエ

    コンビニでバイトをしている大学生佐々原律はバイト先にいつも買い物に来るサラリーマンにほのかな思いを寄せていた。気むずかしそうな見た目から、律はその人にベートーヴェンさんとあだ名をつけていた。ところがここ数ヶ月、姿をみかけない。バイトを辞めようかと思っていた矢先に、久しぶりにベートーヴェンさんが買い物に来た。しばらく見ない間に雰囲気が随分変わっている。その日のバイト帰りに表で声をかけられ、絵のモデルを頼まれる。  ベートーヴェンさんの名前は人見靖彦といった。  描くことと歌うこと、表現者二人の共鳴し、ひとつの物語となる。

  • 関西のステキな場所を紹介します。

  • いのまたむつみ展

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ベートーヴェンのアトリエ (一)

あらすじ コンビニでバイトをしている大学生佐々原律は、バイト先にいつも買い物に来るサラリーマンにほのかな思いを寄せていた。気むずかしそうな見た目から、律はその人にベートーヴェンさんとあだ名をつけていた。ところがここ数ヶ月、姿をみかけない。バイトを辞めようかと思っていた矢先に、久しぶりにベートーヴェンさんが買い物に来た。しばらく見ない間に雰囲気が随分変わっている。その日のバイト帰りに表で声をかけられ、絵のモデルを頼まれる。  ベートーヴェンさんの名前は人見靖彦といった。  描く

    • 第二十二回 書き出し祭り 紫倉紫の作品当て参加者のための、参考『書き出し集』

      公式ポストhttps://x.com/kakidashi_fes/status/1791069423404745007 作者当てにも参加したいなと思い立ち…… 今回、書き出し祭りに参加し、密かに第二会場におります。  せっかくなので、私を当ててくれる方を募集中です。 作者当てで正解した場合の景品 すでに、景品欲しさに頑張って予想してくれている方も、単に、作者当てにプライド? を持って探してくれている方もいます。  この後は、作者当てのヒントとして、過去に書いた私の書き出し

      • ベートーヴェンのアトリエ (エピローグ)

         SNSに配信を告知した。  画面にはギターの絵が表示されている。 『久しぶりすぎて、見落としかけた』と、早速コメントがはいる。  誰も来ないかもしれないと思っていた。 『どうして無言?』  弦をて弾いてこたえる。 『エレキなんだ』 『直接つないでる?』  違ったけれど、かまわなかった。  コメントが増えていく。懐かしい名前が並ぶ。  一度、開放弦で強めに鳴らした。ノイズがひろがる。 『カッコいーー』  マイクの音量調整も悪くないようだ。音割れしていれば、誰かがそう言ってくれ

        • ベートーヴェンのアトリエ (五)

           毎日、一回は車の練習をさせられた。上達しないので人見さんは少し困っている。  それ以外の時間、人見さんはほとんどアトリエにこもっていた。夕食だけは一緒にと、その時間になると帰ってくる。食べるとまた出かけて、遅くまで描いているようだ。わたしの暮らしていた部屋に、泊まり込むこともあった。  それほど淋しくはなかった。人見さんが絵を描いている。その様子は、みていなくても鮮明に思い浮かんだ。  歌を一つ、完成させた。歌詞もそれなりに書けたと思う。今は少し希望に満ちた歌をと思っている

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        ベートーヴェンのアトリエ (一)

        • 第二十二回 書き出し祭り 紫倉紫の作品当て参加者のための、参考『書き出し集』

        • ベートーヴェンのアトリエ (エピローグ)

        • ベートーヴェンのアトリエ (五)

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        • 短編小説集『空の飛び方』
          13本
        • ベートーヴェンのアトリエ
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        記事

          ベートーヴェンのアトリエ (四)

           免許の学科試験を受けた日の夜、フレンチレストランを予約してくれていた。  合格したからよかったものの、落ちていたら残念会になってしまうところだった。  少し大人っぽい服を着るように言われ、髪もアップにした。買ってもらった化粧品を使った。かかとの高い靴も、ほとんど履いたことがなかったから、歩くのにも苦労する。  入ったときから場違いな気がした。お店の人に、椅子を引いてもらってから座るのも初めてで、ひどく緊張していた。  真っ白なテーブルクロスの上に並んだフォークやスプーンまで

          ベートーヴェンのアトリエ (四)

          ベートーヴェンのアトリエ (三)

           スペイン語の特別講義を受けるために大学へ来ていた。テーブルの上に伏せて置いてあるスマートフォンが短く震える。確認すると人見さんからメールが届いていた。今は小さめの講義室なので教授も近い。だけど、気になってメール画面を開く。 『三日分の報酬を振り込んでおきました。ご確認下さい。』  大きなため息をついてしまった。続けてメールが届く。今日の予定を訪ねられた。今日も会えると思うと、一転、心がおどる。午前中で終わることを伝えた。隣に座っている美佐子がわたしの腕をつついてきた。横を向

          ベートーヴェンのアトリエ (三)

          ベートーヴェンのアトリエ (二)

           いつもより早起きした。寒いけれど、苦にならない。せめて、スカートにしようとロングの巻きスカートを選んだ。化粧は、不評だったから色つきのリップだけにする。今日は、髪型をサイドアップにした。  六時に下で待ち合わせている。人見さんは車を出しておくと言っていた。  家族の車以外に乗ったことはなかった。考えたら、緊張してきた。少し早いけれど家にいても落ち着かない。ブーツを履いて外に出た。  マンションの入り口付近で待つことにした。向かいの脇道から、車が出てきた。  ヘッドライトが少

          ベートーヴェンのアトリエ (二)

          1995年1月17日早朝

          5時46分00秒  胸騒ぎがして、目が覚めた。  辺りはまだ暗い。室内とはいえ、朝の空気は冷え切っていた。隣で眠る幼い息子の寝息以外は何も聞こえなかった。  子供の体温は高い。  布団の中で手を伸ばして、そっと引き寄せる。背中にうっすら汗をかいている。手のひらに、息子の心拍と呼吸のリズムが伝わってくる。  小学生になってから、急に成長した気がした。痩せているけれど、肩も背中もしっかりしてきた。  突然、爆音がした。何が起こったのかがわからず心臓が早鐘をうつ。  確かに、体が

          1995年1月17日早朝

          今年読んだ小説 純文学系とその他

          前回、ミステリー系を紹介したので、純文学系とその他を。  基本的に、わたしは純文学を好んで読みます。  今年前半に読んで、良かった小説をいくつか紹介します。 (後半は全く読んでないので紹介するものはありません。) 改良 (河出文庫) | 遠野遥 | 日本の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon Amazonで遠野遥の改良 (河出文庫)。アマゾンならポイント還元本が多数。一度購入いただいた電子書籍は、KindleおよびFire端末、スマートフォンやタブレ

          今年読んだ小説 純文学系とその他

          今年読んだ小説 ミステリー系

          2022年前半は、私にしてはたくさん小説を読んだ。 それに、読書家の人に面白いとすすめられた物ばかりだったので、外れなし。 とくに、心に残っている小説を、ざっくり、紹介する。 (後半は全く読んでないので紹介するものはありません。) (あくまで個人の好みなので、あしからず) ダレカガナカニイル… (講談社文庫) | 井上夢人 | 日本の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon Amazonで井上夢人のダレカガナカニイル… (講談社文庫)。アマゾンならポイント還元

          今年読んだ小説 ミステリー系

          人生で一番最悪な、クリスマスエピソード。

           子ども達が幼かった頃、私は、親からとサンタさんからのプレゼントを両方用意していた。ゲーム機などの、高価な物ではないけれど。  サンタさんからのプレゼントは、枕元の置いてみたり、「あー寝る前に鍵を開けておくの忘れてた」と、玄関の外にかけておいたりと、毎年、いろいろなパターンで渡していた。  努力の甲斐あって、子ども達はサンタさんを、長い間、信じていた。  三女が、小五の頃。  そろそろ、二つずつプレゼントを用意するのも面倒に思えてきた。  子ども達と、クリスマスプレゼントの

          人生で一番最悪な、クリスマスエピソード。

          買ってよかったもの

          私は、ゴッホの『花咲くアーモンドの木の枝』の色がとても好きだ。 去年は、のれんのような物を買って、寝床の間仕切りに使った。 今年は、エコバッグをみつけてしまい、迷いに迷ったのだが……。 というのも、エコバッグを使わないから。 だけど、図書館で本を借りるときなど、活躍の場はいくらでもありそうだと、思い切って購入した。 色がきれいだった! 気を良くした私は、リュックの中の整理にちょうどいいとポーチまで買ってしまった。 ちなみに私の好きな画家はゴッホでは無い。 ジャン=フラ

          買ってよかったもの

          空の飛び方

          「私たちが幼馴染なのって、奇跡だよね」  あの日、遥が突然そんなことを言いだしたものだから、僕は狼狽えてしまい、「ばっかじゃねーの」と、手に持っていた数学の教科書を放り出した。机が大げさな音を立て、遥は一瞬驚いた顔を見せたけれど、すぐに「まー君にはわかんないかなあ」と、目を細めた。  遙とは幼稚園からの幼馴染だった。母親同士がママ友で、小学生の低学年までは、お互いの家をよく親子セットで行き来していた。中学生になってからは、成績の良い遥に僕の母親が頼んで、時々一緒に勉強をしてい

          空の飛び方

          『ある男』を観た。

           私の大好きな小説家、平野啓一郎先生の小説『ある男』が映画化されたので観に行った。  平野啓一郎先生の作品の中で一番好きなのは『空白を満たしなさい』という小説なのだが、人に、先生の作品を勧めるときにはいつも『ある男』と言う。  理由は、適度な長さで、エンタテインメント小説に近い引きもあって、そして、純文学的な読み応えを兼ね備えた小説だからだ。  この小説の主人公は、城戸という弁護士だ。  城戸は宮崎に住む谷口里枝からある依頼を受ける。それは、亡くなった彼女の夫が、本当は誰だ

          『ある男』を観た。

          彼女の待ち人

           僕は、同期の女性二人に誘われて職場近くのワイン酒場に来ていた。  金曜の夜には、ふらっと行っても入れないと聞いていて、三人で予約をいれてあった。  入ってすぐ漂ってきた、焼けたチーズの香りに食欲をそそられた。肉の焦げ目の匂いもする。  外からはこぢんまりした店にみえたが、カウンターや相席用の大テーブルもあわせて意外に客席がある。評判通りの賑わいで、僕らが店に着いた時間には、すでに八割ほどが埋まっていた。店内はBGMをかき消すほどの明るい話し声が溢れていた。  木肌をふんだん

          彼女の待ち人

           僕は、君に送る言葉を探している。なぜなら最近、君が冷たくなったから。  目覚めてすぐに、スマホの通知をみた。  まだ、夜は明けていない。暗闇の中にスマホの画面が浮かび上がる。通知がないものを開いたところで、届いているはずはなかった。  ベッドに入ったのは0時を少し回った頃だった。それから、目覚めるのは三度目。僕は毎夜、こんなことを繰り返している。  待っているのは、付き合ってひと月になる彼女からの返信だった。  本当なら、電話をかけて声を聞きたいくらいだが、僕は彼女の電話