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講師のおすすめ本紹介⑦~川端シリーズ~

こんにちは、志高塾です。

今回お届けするのは、主に西北校に勤務している社会人講師・土屋のおすすめ本紹介文です!読み応えたっぷりの、豪華2本立てです。

講師のおすすめ本コーナーが始まったのは今から4年前。2019年の秋頃です。
第1回の募集の際、彼女は誰よりも早く、すてきな紹介文を送ってくれました。

竹内による講師紹介のコメントと合わせて、思いのこもった一つ一つの言葉をじっくりとご覧頂ければ幸いです。(ちなみに、ヘッダの写真も竹内撮影です)

竹内による講師紹介

自分の持っている最大限のものを生徒に提供するために、事前の準備を怠らない。
いつもそのことを大事にして、長く指導してくれているのが土屋さんです。もう少しで働き始めて丸5年を迎えます。
生徒への深い愛情を持って粘り強く導くその姿は、在籍する講師たちの指針となっています。
 
そんな土屋さんの紹介文は、読書が単に“fun”なのではなく“interesting”なものであるという気付きをもたらしてくれます。
そういう読書経験は、じわじわと効いてきて、必ず自分に返ってきます。
講師たちが丁寧に紡いだ言葉と共に本棚に収められる1冊1冊の本はもちろん、こうして蔵書づくりに関わってくれる講師が多いことは、まさに志高塾の財産です。

土屋のおすすめ本①『掌の小説』

「純文学は興味はあるけど、読破できるか心配で…」と躊躇している人がいたら、ぜひお勧めしたいのがこの作品です。文字通り「両の掌(てのひら)に書ききることができるくらいの短編」という意味で、このタイトルが付けられています。実際には各作品平均で原稿用紙6枚前後といったところです。巻頭にある18歳の時に著したとされる「骨拾い」に始まり、その後40年余りに渡って書き続けられた122編が収録されています。

どの作品も文章に無駄がなく、かつ「起」がしっかりと「結(オチ)」に関連づけられており、さらにそこへ到達させるためにそんな展開をさせるのかと、その構成力の巧みさには感嘆させられるものが多いです。皆さんが作文をする上でのヒントが満載されているはずです。ちなみに志高塾の教材でも御馴染みのショートショート作家、星新一は「自分が何回生まれ変わってもこのような短編は書けない」と絶賛したとの逸話があります。

川端は幼少期に両親を結核で相次いで亡くし、祖父母に引き取られましたが、最後の肉親の生き残りとなった祖父とも15歳の時に死別し、天涯孤独の身となりました。その少し前から作家を志しますが、「骨拾い」はそんな祖父の葬儀のことをモデルにした小説です。当時筆者は皆さんとほぼ同年代だったと認識して読んだとき、どんな印象を受けるでしょう?他にも記憶にない母親のことにヒントを得た「母」、出征する恋人への思いを果実で表現した「ざくろ」、『伊豆の踊子』のモチーフとなった「有難う」、虫取りに始まり意外なオチが待っている「バッタと鈴虫」など、時代性のある不思議な世界で彩られています。

それにしてもノーベル文学賞を受賞し、文壇の重鎮としての地位を確固たるものにした川端が、なぜその4年後に自殺しなければならなかったのでしょう。この作品を通し、もし興味を持たれましたら、『伊豆の踊子』『禽獣』『水月』『雪国』『山の音』など読み進め、その謎に迫ってみるのも、秋の夜長にはいいかも知れません。

                       2020年10月のおすすめ本

土屋のおすすめ本②『たんぽぽ』

ある時突然、大切な人や物が見えなくなる「人体欠視症」との奇病に罹った稲子。治癒させるために精神病院へ入院させることを希望する母親と、そうさせたくない稲子の婚約者・久野。物語のほとんどは、病院へ稲子を送り届けた帰りの、母親と久野の会話で成り立っています。

この病の背景には何が潜んでいるのか?謎の入院患者・西山老人が書き綴る「仏界易入、魔界入難」は何を意味するのか…?

1964年から雑誌に連載が始まりましたが、残念ながら作品は未完のまま。1968年のノーベル文学賞受賞から4年後に、川端は死去します。みなさんならこの後、どう展開させ、どう締めくくりますか?

作家は生涯かけて処女作に回帰していくと言われます。今回いきなり未完の最晩年作を紹介しましたが、少年期に祖父の介護の日々を綴った日記を題材にした「十六歳の日記」、川端作品としてよく知られる「伊豆の踊子」(一般的にはこれが処女作と位置づけられているようです)「雪国」や、「抒情歌」「山の音」など執筆年代ごとに読み進め、探求しようとしていたものを考えてみるのも面白いかも知れません。

●おまけ
川端康成は3歳から旧制高等学校入学までの15年間、大阪府茨木市に暮らしていました。
阪急茨木市駅から20分余り歩いたところに「茨木市立川端康成文学館」があります。川端邸の縮小模型や幼少期の手習いメモ、ノーベル賞受賞の際の記録映像など、ここでしか見られない貴重な資料が盛りだくさんです。小学校へ上がるまでに読み書きは全てマスターし、「小学校なんて、面白ない」と不登校していた、などという記録も残っています。
ご興味のある方はぜひ足を運んでみて下さいね。

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