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「認知症の早期発見」で、歯科に期待⁉


1. 認知症グレーソーンが400万人以上!


 高齢社会の進展に伴い、認知症の増加が社会問題となっています。

 認知症の前段階は、「軽度認知機能障害(MCI=認知症グレーゾーン)」と呼ばれています。認知機能が著しく低下しているものの、日常生活に大きな支障が出ていないという状態です。

 厚生労働省は、このグレーゾーンの高齢者が現在でも約400万人以上、2025年には約700万人になると推測しています。
 歯科診療の現場も、無関係ではいられなくなっているのです。

黒澤俊夫著『認知症グレーゾーンの歯科診療と地域連携Q&A』(日本歯科新聞社)より

 
 また、「高齢の歯科医師ほど、患者さんの中に認知症グレーゾーンの割合が高い」という声も上がってきています。患者さんが歯科医師とともに高齢化していく傾向があるためです。

2. 早期発見で進行が止められる!?


 実は、「物忘れが増えた」「怒りっぽくなった」などの兆候から、認知症グレーゾーンが疑われた場合、早期発見・治療によって進行が抑制されるケースが少なくありません。
 日本神経学会のガイドラインによると、16~41%はグレーゾーンから健常に回復しているとのことです。

黒澤俊夫著『認知症グレーゾーンの歯科診療と地域連携Q&A』(日本歯科新聞社)より


 さらに、治療薬『レカネマブ』など、新たな治療法が開発された結果、早期発見、早期治療すれば、進行を抑制できる可能性が高くなっているのです。

 ここで、大きな課題となるのは、「どこで」「誰が」気付いて、専門医療機関に紹介すればよいかということ。
 その早期発見の窓口、専門医療への架け橋として、歯科医院の存在がにわかに浮上してきたのです。

3. 早期発見の場として、歯科医院に期待


 なぜ歯科医院かという理由は、病院と異なり、長期的に通い続ける顔見知りの患者さんが多く、異変に気付きやすいためです。「アポイントを忘れることが増えた」「会計をしていないのに、したと言い張る」「怒りっぽくなった」などは要注意の症状です。

 このほど『認知症グレーゾーンの歯科診療と地域連携Q&A』(日本歯科新聞社)を出版した黒澤俊夫氏(茨城県開業)によれば、隠された異変に気付き、認知症グレーゾーンの兆候を見つけるためには、相応の知識を身に着ける必要があるとのこと。
 例えば、「いつも素敵な笑顔を浮かべている患者さんが認知症というケースも少なくない」と言います。一見すると「笑顔」に見えるものが、実は、表情の細かい表現をする能力を失っている結果なこともあるのです。

 黒澤氏の書籍の趣旨は、
 ◎ 認知症グレーゾーンの段階で歯科医院が気付き、専門医療機関に紹介。地域連携によって進行を止める役割を果たす
 ◎ 認知症の発症、増悪のリスク因子と考えられる歯周病や睡眠障害の軽減によって、経過をサポートする
 ◎ 認知症が疑われる患者さんとの、診療契約上の注意点を抑えておく

といったものです。

 Q&A形式により、豊富な臨床経験をもとにした具体的なノウハウを紹介するとともに、国内外の信頼性の高い最新文献を踏まえた歯科医学的な知見も解説しています。

4. 医科との「連携力」に必要なのは?


 もちろん、糖尿病と歯周病のように、双方向の関連性が歯科でも医科でも共通認識を得られるようになった疾患と異なり、「なぜ、認知症を歯科が?」と疑問に思う医療・介護関係者も、少なくないのが現状です。

 そのような中で、医科医療機関と連携するためには、医科の言葉、考え方に慣れることが重要です。

 認知症グレーゾーンの疑いを持って主治医や、地域の認知症サポート医に紹介するにしても、ただ「認知症かもしれない」というのでは、説得力がありません。紹介状には、以下を明記することが必要です。 
 ◎ 現在行っている歯科治療の内容
 ◎ 認知症に関連する可能性のある歯科所見
 ◎ 認知症を疑った経緯

 黒澤氏は、長年、多くの医科医療機関と連携してきた経験から、「問題意識が明確な紹介状を書くと、相手もそれに応えてくれるもの」と言います。「この歯科医師は、認知症に理解があるのだ」と思われれば、信頼関係につながるでしょう。さらには、「認知症に立ち向かう一員」として何ができるか…も課題です。

黒澤俊夫著『認知症グレーゾーンの歯科診療と地域連携Q&A』(日本歯科新聞社)より


 言うまでもなく、歯科は認知症を診断したり、治療したりする診療科ではありませんが、急増することが予測されている認知症にチームで対応する地域連携の一翼を担う存在になりうるのではないかと期待できるのです。



【この記事を書いた人】
水谷惟紗久(MIZUTANI Isaku)
Japan Dental News Press Co., Ltd.

歯科医院経営総合情報誌『アポロニア21』編集長
1969年生まれ。早稲田大学第一文学部卒、慶応義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。
社団法人北里研究所研究員(医史学研究部)を経て現職。国内外1000カ所以上の歯科医療現場を取材。勤務の傍ら、「医療経済」などについて研究するため、早大大学院社会科学研究科修士課程修了。
2017年から、大阪歯科大学客員教授として「国際医療保健論」の講義を担当。
【主な著書】
『18世紀イギリスのデンティスト』(日本歯科新聞社、2010年)、『歯科医療のシステムと経済』(共著、日本歯科新聞社、2020年)、『医学史事典
』(共著、日本医史学会編、丸善出版、2022年)など。10年以上にわたり、『医療経営白書』(日本医療企画)の歯科編を担当。
 趣味は、古いフィルムカメラでの写真撮影。2018年に下咽頭がんの手術により声を失うも、電気喉頭(EL)を使って取材、講義を今まで通りこなしている。


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