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むし歯治療20万円⁉…「医療の金融化」が進むアメリカの惨状【⑦Another view 医療システムの過去・未来・海外】The effects of the "Financialization of Health" in the United States.

 こんにちは。歯科医院経営・総合情報誌『アポロニア21』編集長の水谷惟紗久です。
 本コラム「Another Viewー医療システムの過去・未来・海外」は、「どの国の医療制度が良いのか?」「歯科と医科はなぜ分かれているのか?」など、医療とお金にまつわる疑問を世紀からの歴史的背景からひも解いていきます。


※この記事は、月刊『アポロニア21』2024年6月号掲載の内容を改変したものです。

アメリカの医療費が驚くべき高額に


 現在、アメリカの医療費は、
「むし歯で20万円」
「軽い打撲の治療も20万円」
「盲腸の手術は1,000万円超え」
… 
など、日本人にはとても信じられない高額なものになっています。

 「短期的な利益」を求める医療機関の運営や、医療関連のさまざまな産業がそれぞれに利益を追求するようになった結果、医療費の単価が極端に高額になってしまったのです。

シカゴのドラッグストアにて(2010年頃撮影)。深夜営業しているドラッグストアのオーラルヘルスコーナーには、 ホワイトニングや矯正、さらにはむし歯治療まで自分でできるキットが、古くから販売されてきた。歯科医師に診てもらうと、 高額な治療費がかかるためだ。

 
 治療費の金額を見ると、「アメリカの病院や医師はさぞかしお金持ちなのだろう」と感じるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

 アメリカの医療費総額はGDPの17%(日本は8%未満)ですが、その多くは保険会社、医薬品給付管理会社(PBSM:処方薬を給付しない保険を補うもの)、薬局チェーン、医薬品卸などの「仲介企業」の利益となるのです。これらの企業もM&Aが進んで巨大化。強い価格交渉力を持つ一方で、それによる利益は患者に還元されていません。

権威ある医学雑誌が「医療の金融化」に警告!


 近年、こうした実態に医学界からも批判が出ています。
 例えば、世界的に権威のある『The New England Journal of Medicine 』(NEJM:ニューイングランド医学雑誌)に掲載された「アメリカにおける医療の金融化」(原題:The Financialization of Health in the United States)という短い評論が、各国の関係者に波紋を投げ掛けています。

 「医療の金融化」とは、ファンドなどが医療機関の運営に乗り出した結果、患者の命より利益が優先される危険を伴う現象です。『NEJM』のような純然たる医学研究雑誌に、金融化への懸念が掲載されたこと自体、アメリカの医療現場で大きな不安が広がっていることを示唆しているといえます。

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