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シカク運営振り返り記 第21回 シカク出版を始める その3(たけしげみゆき)

 シカク出版を本格的に立ち上げる計画を練り始めた私。店を始めた時には一切の計画なく始めたが、こればかりは適当にやってダメでした、というわけにはいかない。自分たちが貧乏になるだけでなく、著者である作家さんが悲しい気持ちになるからだ。

 まず「本を流通させるにはどうしたらいいか?」を調べてみた。が、これは早々に諦めてしまった。理由は流通に必須のISBNというコードの取得にいくらかお金がかかるためと、これまた必須の取次との契約方法がサッパリわからなかったため(この辺りについては後々の連載で詳しく触れる)。
 そうなると、残された道はただ一つ。バーコードをつけずに、自分の店と、即売会と、一部の直接取引書店のみで販売する。要は、シカクでいつも売っている同人誌と同じ方法をとるわけだ。

 とはいえ、編集経験も知名度もない自分が「本を出しました」と言うだけで売れるはずがない。創業以来初めての熟考を重ねた末、生まれた作戦は以下。

(1)売る本を作るだけでなく、本が売れる状況も作る
(2)製造コストを徹底的に下げる
(3)印税の支払い方を変えさせてもらう

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(1)売る本を作るだけでなく、本が売れる状況も作る

 シカク出版と他の出版社の最大の違いは、自分の店とギャラリーを持っていること。これを活かさない手はない。
 私はギャラリーの展示を企画し、その展示に合わせて画集を出版させてもらうことにした。そうすれば展示に来てくれたお客さんはほぼ間違いなく画集を買ってくれるはずだからだ。

 声をかける作家さんは「主にインターネットで作品を発表しており、他の出版社から書籍化されておらず、自費出版もほとんどしていない人」という基準で探した。うちから本を出版すると、作家さんからすると印刷費を払わなくていい代わりに売上の分配も減ってしまう。その割には書店に並ばないし、人に自慢できるネームバリューもない。なので作家さんにメリットを提供するには「本を作りたい気持ちはあるけど、自分一人では(技術、金銭面、時間などの理由で)作れない人」に依頼をするのがいいだろうと考えた。そして、そういう雰囲気を持っており、かつ作品が素敵で人柄も良さそうな人が現れたら、展示と画集制作をオファーすることに決めた。
 とはいえ別にノルマも期限もないので、「いつか巡り会えたらいいな」くらいの気持ちで、日々インターネットを徘徊していた。

※ちなみに当時は知らなかったが、ギャラリー(またはイベント)と出版を一箇所で行なっている個人店舗は他にもたくさんある。そして年々増えている気がする。


(2)製造コストを徹底的に下げる

 本の印刷代は高い。画集のためのフルカラー印刷となると、なおのこと高い。
 私は『シカクの本』を作った時に発揮した検索力を再び総動員し、少ない財力でフルカラーの画集を作る方法を考えた。
 その結果、本そのものは印刷通販(プリントパックやグラフィックなど)の無線綴じ印刷コース、カバーや帯はチラシ印刷コースで別々に印刷し、手作業で巻くことにした。こうすれば通常の書籍印刷会社に頼むよりも格段に安く、見た目もそれっぽい本ができる。
 色校正や束見本がないので、完成するまでどんな仕上がりになるかわからないとか、印刷会社が用意した紙しか使えないとか、手で巻くのがめちゃくちゃ大変などのデメリットはあるが、ない袖は振れないので仕方ない。


(3)印税の支払い方を変えさせてもらう

 通常、出版社が本を作る場合、著者には印税が支払われる。発行部数に応じてだったり販売数に応じてだったり、支払いのルールに差異はあるが、だいたい10%前後が相場だ。だけどこの10%、計算してみるとなかなか払うのが大変なのだ。
 なので私と当時の店長Bは、このあたりのルールをガン無視して、以下のようなオリジナルの支払方法を生み出した。(シカク出版の立ち上げにおいてBが唯一頭を働かせたのがこの時だったように思う)

 ①シカクが本を作る
 ②印刷費を回収できるまでは、売上は全額シカクがもらう
 ③回収した以降は、シカクと作家さんで半分こする

 シカクからすると、売り上げが回収できず赤字となるリスクを減らし、その代わりたくさん売れたときに黒字になるリターンも減らした。
 作家さんからすると、あまり売れなかった場合1円ももらえないリスクは増えるが、たくさん売れた時のリターンも増えることになる。作家さんにお金を払えないことを想像すると辛かったが、それはもうたくさん売るしかない!!と自分にハッパをかけて頑張ることにした。(結果として売れたからよかったけど、今思うと無謀すぎてちょっと怖い)

※ちなみにこの支払い方法は数年前まで使っていたが、刊行点数が増え計算がややこしくなったため、現在は印刷数に応じた印税をお支払いしている。よくわからないお金の払われ方に納得してくれた作家の皆さん、本当にありがとうございました。


 そんなこんなで計画を練り、2014年6月に発行させてもらったのが、イラストレーター・うえむらさんの画集「おやすみまでのいくつかの瞬間」だ。

うえむら画集

 それまで自分が書いた文章や絵をまとめることはしてきたが、人の作品を1冊の本にまとめるのは、全く違う経験だった。「いいものにできるだろうか」「売れるんだろうか」というプレッシャーは半端じゃないが、そのぶん「最高の見せ方を考える!!」という強い意志も生まれる。
 完成したものが人の手に渡り、お金を出して買ってもらえたり、褒めてもらえた時の感動もひとしおだった。自己評価位の低い私は自分の作品を褒められてもつい謙遜してしまうが、作家さんと一緒に作った本なら「これいいでしょ~!!」と自信を持って言えるし、悩んでいる人にも「最高の本なので、ぜひ!!」と勧められる。
 つくづく私は、自分自身をプロデュースして売り込むより、自分がいいと思ったものを他の人に知ってほしいという欲求の方が何倍も強い人間なんだと思い知った。

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 それからも展示にあわせて何冊かの本を作った。その時々でベストを尽くしたつもりでも、完成したものを見て「もっとこうした方がよかった」と気付くこともあれば、日々触れる本やデザインを見て「いつかこの感じも試したい」と心の引き出しにしまうこともある。それを次の作品に活かせるのも、継続的に本を作っていくことの楽しさになった。

 そのようにささやかな規模で続いたシカク出版に転機が訪れたのは、2年後の2016年のこと。が、その話はまた改めて。

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