見出し画像

シカク運営振り返り記 第11回 改装工事をする(たけしげみゆき)

インディーズ出版物のお店・シカクの運営を振り返る連載です!
過去の記事はこちら。

画像1

 日本一狭いのではと思うほど窮屈な商店街で、豆腐屋の居抜き物件を借りた私と初代店長B。1階を本屋、2階を住居にするために、まずは改装工事をする必要があった。

 改装をする際の一般的な手順は、

(A)改装業者を探して相談しながらイメージを固める
(B)まずイメージを決めてからそれが実現可能な業者を探す

 のどちらかだろう。
 しかしここまで連載を読んでくれている皆さんならお察しかと思うが、ゴミに囲まれて生活している貧乏人であった我々には、業者に依頼するお金なんて当然なかった。とはいえ、流行りのDIYでなんとかできるほど生易しい物件ではないことは明らかだ。
 どうしたもんかと不安になっていたが、自信満々のBはこう言った。
「俺の父親の友達で、昔大工やってた人がいるねん。今は引退して仕事もしてないらしいから、その人に頼んだらやってくれると思う!!」
 能天気な私は、あまり深く考えずに「それなら大丈夫!よかった!!」と思った。昔から、よくも悪くも物事を深く考えないタチなのだ。

 数日後、引退した元大工の田中さんがやってきた。

 能天気な出会い方をしたものの、田中さんとの出会いがなければ今のシカクは成り立っていない。彼はのちにシカクのお抱え大工になり、この改装工事以降も細かな仕事を引き受けてくれるようになった。現在の店舗の壁や床や柱を作ったのも田中さんなので、まさにシカクの建役者といえる。

 一瞬話が逸れるけど、これからお店を始めようと思っている人は、お抱え大工さんを見つけることを強くオススメします! お店をやっていると「ここにこういうサイズの棚がほしい」「この机がこうならもっと使いやすいのに」という細かい要望が必ず出てくるし、建物に関するトラブルもなぜか定期的にやってくるのです。日本は災害大国だし。
 現在のシカクは、壁や床、大型の棚などの大がかりな工事は田中さんに。小さな机や棚など、DIYでできるちょっとした工事は、ピンチの時にお手伝いしてくれるアドバイザー兼スタッフさんにお願いしています。みんないつもありがとう……(脱線終わり)

 田中さんは、Bの父の美大予備校時代からの友人で、昔は版画の工房などで働いていたらしい。そのため芸術分野にも理解があり、わけのわからない店をやっている我々のことを面白がってくれた。ガテン系っぽくなく、柔和でおっとりしており怖くない。昔歯ぐきの病気をしたため歯が2本しかないそうで、「柔らかいものしか食べられないんだけど、それはそれで歯がない人の気持ちがわかるから気に入っている」とニコニコ話しており、本人も変わり者(でもいい人)らしいことが伝わってきた。

 彼は工事を引き受けるにあたって、いくつかの条件を提示した。

(1)体力が落ちているし一人だから、作業がゆっくりで、正確な納期もわからないこと。
(2)ペンキ塗りやゴミ運びなどの軽作業を手伝ってもらうこと。
(3)専用の道具がないため、0.1ミリ単位できっちり合わせるような正確な仕事はできないこと。
(4)家が遠くて通いだとガソリン代がかかるため、工事中は現場に寝泊まりさせてもらうこと。

 それでもいいなら、予算に見合った形で工事を引き受けてくれるということ。
 問題なんてあるはずもない。私たちは「よろしくお願いします!!」と硬い握手を交わした。


 さて。ここから工事の流れを逐一たどると連載の趣旨から外れてしまうので、ビフォーアフター形式で写真を見ながら駆け足で振り返ろうと思う。みなさん、頭の中であの音楽を流しながらご覧ください。

画像2

画像3

 まずカビた畳と頭がおかしくなりそうな床の傾斜が印象的だった2階は……

画像4

 畳とふすまを取り払って開放的な空間に!
 田中さんが床の角度を調整してくれたおかげで、なんと水平な床が実現。
 床にはたまたま人からもらったフローリングカーペットをあしらいました。

画像5

画像6

 続いて1階です。油がこびりついて軍手がくっつくほどだった換気扇とダクトは……

画像7

画像8

 この通り! バールやブリキバサミを駆使して無理やりぶち壊しました。
 壁に貼られたブリキも汚いので剥がしたところ……なんということでしょう、柱が全て腐っていることがわかりました。長屋で左右の家に支えられていたおかげで崩れずに済んでいたようです。助け合いって本当に大切ですね。
 というわけで、柱を補強してもらい、新しい壁を作りました。

画像9

画像10

 長屋作りで壁の向こうがすぐお隣さんになっているため、きちんとした柱を入れ直すことはできないのですが、これだけでもだいぶマシだそうです。

画像11

画像12

 続いて台所です。ところどころ床が腐って、トイレの前に至っては穴が空いていましたが……

画像13

 ご覧ください、フローリングの腐っていない床に生まれ変わりました!
 床材は節約のため、田中さんの家にたまたま余っていたものを使用。おかげで色や質感が忙しく変わる、見たことのないタイプの床に仕上がりました。
 明るい雰囲気にするため壁に白いペンキを塗りましたが、化粧板の上に下地材を塗らずに直接水性ペンキを塗ったためまだらになってしまいました。しかし細かいことを気にしなければ平気です。

画像14

 そして、全体的に灰色っぽくて本屋らしくなかった店舗部分は……

画像15

 大きなカウンターをつけることで、お店と言われたらそうかもと思える程度に変身!

画像16

 床にはとりあえず奇抜な色を塗っといたら面白いだろうと思い、小学生が考えたようなカラーリングでシカク模様をあしらいました。

画像17

 こちらは商品を置く棚です。コンクリートでガタガタの床に本棚を置くのは難しいため、壁に丸い棒を打ち込み、その上に木の板を並べるという斬新なスタイルを提案。材料費も浮き一石二鳥です。

画像18

画像19

 井戸の空気抜きは塞ぐと怖そうだったので、その上に新しく床を作ってしまうという大胆な方法をとりました。写真の中央に写っている大きな棚は初代店長Bの手作り、それ以外は拾った元ゴミを組み合わています。

 さて、ここに商品を並べてみると……

画像20

画像21

 なんということでしょう! 完全に店になりました。置ける商品の数もグンと増え、棚がスカスカになってしまったので、聖徳太子の置物やレゴブロックを並べているところにも工夫が見られます。もちろん全部拾ったものです。
 それまでのシカクの写真と見比べてみましょう。

画像22

 比べるまでもありません。どちらが店ですか? と聞かれたら、100人中100人が前者と答えるに違いない、完全な店っぷりです。

画像23

画像24

 お店の外壁には、たまたま工事中に泊まりに来てくれた漫画家・小林銅蟲さんに絵を描いていただきました。
 人見知りの激しい初代店長が「通りすがりや近所の人が絶対入ってこないように」という願いを込めた外壁。田中さんも銅蟲さんもそれに答える素晴らしい仕事をしてくれ、入るのに相当な勇気のいるエクステリアに仕上がりました。扉は知人の家で使わなくなった室内用のものを譲っていただき、看板は田中さんの家に余っていたトレース台を流用。窓はヤフオクで、確か2000円くらいで買いました。

 他にも、床下に埋め込まれていた巨大な大豆貯蔵庫をコンクリで埋めたり、余計なシンクを取り外したり、色々な苦労を重ねて工事は完了しました。このとき手伝ってくれた友達、本当にありがとう。

 そして気になる工事代金は……
 材料をもらいものと拾いもので工夫し、田中さんのご厚意もいただいた結果30万円ほどに収まりました!
 ちなみに工事期間は3ヶ月ほど。そんなに長期間働いてくれたのに、「自分はプロじゃないから」と良心的な値段で作業をしてくれた田中さんには、感謝してもしきれません。

画像25

 こうして劇的ビフォーアフターを経て、人が暮らせる空間に生まれ変わったシカク。
 ……え? そりゃビフォーよりはマシだけど、アフターもそんなにキレイとはいえないんじゃないかって?

 そう思われるのも無理なきこと。一般的なお店や住居に慣れている皆さんにとっては、お世辞にもキレイな場所には見えないだろう。
 しかし、キレイや汚い、快や不快は、あくまで相対的なもの。そして私はこの改装工事中、あまりに汚くて不快なものを見続けたせいで、その価値基準となるメーターが完全にブッ壊れていた。畳や壁のブリキの裏にびっしり張り付いたゴキ●リの卵。床下や天井裏にいくつも建設されていた、人の頭ほどもあるネズミの巣。不意に発見されるネズミやイタチのミイラ。ダクトにべったりとこびりつき、軍手がくっついて取れなくなるほどの油汚れ。それを処分するためブリキバサミで細かく刻んだとき、顔や手に容赦なく飛んでくる油のカタマリ。ボロボロに腐り落ちた床や柱、土壁……。
 そんな地獄で3ヶ月間過ごした結果、多少の汚さやみすぼらしさは味わい深さとして肯定的に受け止められるメンタリティを手に入れていた。人間の適応力とはすごいものだ。それがなければ頭がおかしくなっていたかもしれない。

 さらに前々回書いた通り、これまでのシカクはワンルームの民家。一方新しいシカクは、なんと店の部分と住居部分が別々だ。もうお店に布団を敷かなくていい。店番しながらごはんを食べることだってできる。体調が悪くなっても押し入れにこもらなくていいのだ。
 そんな感動もあいまって、棚がバラバラでも、床がガタガタでも、天井が傾いて隙間風が吹いていても、私にとってこの空間は「めっちゃいい店!!!!」なのだった。

画像26

 そんなこんなで無事に改装を終えたシカクは、2012年9月、中津商店街での営業を開始した。
 これからいっそう充実したお店ライフが幕を開ける……と希望に満ち溢れたのもつかの間、ある怖ろしい事件が起こってしまう。結果的にはその事件のおかげで、シカクが「バイトで生活費を稼ぎながら半分趣味でやるお店」ではなく「生活のためにマジでがんばるお店」になったのだけど、あのときのことは今思い出してもゾッとする。次回はそんな、シカクで本当にあった怖い話について書きます。

サポートしていただけたらお店の寿命が延び、より面白いネタを提供できるようになり、連載も続けようという気合いに繋がるので、何卒お願いいたします。