見出し画像

シカク運営振り返り記 第16回 開業届と青色申告(たけしげみゆき)

 この社会には書類というものがたくさん存在する。それと同時に、書類を書いたり提出することが蕁麻疹が出るほど苦手な人間が一定数存在する。何を隠そう、その中の一人が私である。
 今回はそんな社会不適合な私が、開業届、そして確定申告にまつわる諸々の書類を提出した時の話を書こうと思う。お店に限らず、フリーランスとしての生き方を考えている人の参考になる部分があれば嬉しい。

●そもそも開業届とは?

 開業届とは、簡単に書くと『個人事業主になります宣誓書』だ。
 宣誓書だからぶっちゃけ、出さなくてもいい。
 いや、法律的に言うと「開業届は個人事業主として開業後1ヶ月以内に出すべし」みたいなのが決められているらしいのだが、出さなくても特に何も起こらないのだ。事実、私の周りにはフリーランスのイラストレーターやライターがたくさんいるが、初めから開業届を出したという人の話は聞いたことがない。
 ただ、出さなくても何も起こらないけど、出すとできるようになることはいくつかある。なので私の周りの人々の多くは、最初はなんとなくフリーの活動を始め、仕事が増えるにつれて「どうもこれは開業届を出したほうがよさそうだ」と必要に迫られて出している。

 かくいう私も、開業届を提出したのはシカクをワンルームで始めた時ではなく、中津商店街でリニューアルオープンした時だった。
 ではなぜそのタイミングで開業届を出したのか、という理由をご説明します。


●開業届を出した理由

(1)屋号をゲットするため
 開業届を出すと、屋号が設定できる。「たけしげみゆきがやってる店の屋号はシカク」という風に、個人名と事業名を紐づけることができるのだ。そうすると、例えば「シカク」という名前で切ってもらった領収書を、確定申告の時に経費で落とせるようになったりする。

(2)安心感を得るため
 始めは民家でモグリ営業をやっていたシカクだが、さすがに商店街に看板を出すと、「店やってますね」というのが一発でバレる。
 開業届は出さなくても罰則がないとはいえ、一応出さないといけないことにはなっている書類。たまたま通りかかった近所の税務署職員が「ここ開業届出しました~?」と言ってくる可能性もまったくのゼロではない。私は妙に気が小さいところがあるので、自分の脳が生み出した架空の税務署職員に怯えるくらいなら、蕁麻疹が出ても書類を提出するほうがマシだと考えた。

(3)青色申告をするため
 この社会には確定申告という、言葉にするのも恐ろしい儀式が存在する。
 「この人は年収何円だから、税金が何円です」という情報は、サラリーマンなら会社が代わりに申告してくれるけど、個人事業主の場合は自分で申告しないといけない。それが確定申告。

 その確定申告には白色と青色の2種類があり、青色申告をすると税金の控除が受けられるという。それを知った私は、「じゃあ青色申告したほうが得だな。よしやろう」と単純に考えた。
 青色申告をするためには、まず開業届を出してから、「私は確定申告を青色申告でやります」という宣誓書を提出する必要がある。そのため開業届を提出したというわけだ。

 私の考えは間違いではない。だが、大きな誤算が2つあった。
 1つは、書類の提出だけで蕁麻疹が出る私にとって、青色申告が拷問レベルの苦痛だったこと。
 もう1つは、そんな苦痛をこらえてなんとか申告書を完成させたのに、肝心の税金控除の意味がなかったこと。

 確定申告については後述することにして、まずは開業届についての話を片付けてしまおう。


●届出は簡単

 開業届の提出は思ってたよりずっと簡単で、あっという間に終わった。
 書類は「開業届 PDF」で検索するとネットでダウンロードできる。それを印刷し、記入し、税務署に持っていけばOK。確定申告の時期以外の税務署は利用者がほとんどいないため、待ち時間もゼロだった。記入の仕方がわからないところがあれば、窓口で聞けば優しく教えてくれる(初めは税務署の人=サラ金の取り立て並に怖いというイメージがあったのだけど、窓口業務の人は今まで会った限り全員優しかった)。

 同じタイミングで私は「青色申告やります宣誓書」も提出した。これも提出自体は簡単だった。
 こうして私は想像よりもずっとあっけなく、『青色申告ができる個人事業主』になった。

(余談1)この宣誓書シリーズには、他に「従業員を雇います宣誓書」「源泉所得税納めます宣誓書」「消費税納めます宣誓書」などがある。税金を払うために大嫌いな書類作りをしないといけないなんて、切腹するための刀を自分で研ぐような話である。なお顧問税理士がいればこの辺の宣誓を代わりにやってもらえる。人知を超えた力だ。
(余談2)私はこの時まだ副店長だったけど、個人事業の届出、中津商店街の物件、お店用の口座名義などはすべて私の名前で登録していた。諸々の金銭事情や当時の店長の体調を考慮してのことだったが、後々その決断が自分自身を大いに助けることを、この時はまだ知らない。


●青色申告という拷問

 確定申告は、毎年1月~12月の間の売り上げや経費を、翌年2月~3月の間に申告するというサイクルに決まっている。私が開業届を出したのは9月だったので、最初の年はほとんど申告することがなく平和に過ぎ去った。
 地獄が訪れたのはそれから1年後の確定申告の時期だった。
 
 白色申告と青色申告の違いは、平たくいうとややこしさだ。
 白色申告はやったことがないが、誰もが「お小遣い帳みたいな感じ」「簡単」と言う。私と同じくらいの書類アレルギー保持者もそう言っていたので、本当に簡単なのだろう。
 一方の青色申告は、まず書き方からして難しい。「複式簿記」というルールに基づいてお金の流れを書かないといけないのだが、このルールがもう、基礎の基礎から何百回読んでもちんぷんかんぷんなのだ。

 とはいえ今は便利な時代なので、青色申告も簡単にできるソフトが存在する。お小遣い帳感覚で「現金 -100円 文房具」とか入力すると、勝手に複式簿記の形式にしてくれるというものだ。なのでルールがわからなくても、そのソフトを使えば大丈夫!……そう思っていた。しかし。
 確かに便利なソフトは多数存在した。が、シカクのメインの販売方法である委託販売に対応しているソフトは、なんと一つも存在しなかったのだ。

 簡単入力ソフトが使えないとなると、残された手段は「ある程度カスタマイズもできる中級者以上向けソフト」。私は年間1万円の某有名帳簿ソフトを契約し、GoogleやYahoo知恵袋に頼りまくって、なんとかかんとか帳簿を作った。
 あーよかった、なんとかなった……と安心し、ソフトの機能を使って帳簿をもとに税務署に提出する書類を作成した。ところが出てきた書類を見てびっくり。今年度のシカクは200万円の赤字ということになっていた。

 確かに儲かってはないが、いくらなんでも200万円も赤字になってはいない。何かがおかしいのだ。しかし何がおかしいのかわからない。

 私は呪文の羅列のような帳簿を睨み、再びGoogleやYahoo知恵袋に頼りまくって、おかしいと思われるところを少しずつ直していった。ある程度直したら試しに書類を作成してみて、赤字が増えたり、逆に急にめちゃくちゃ黒字になったりするのを見て、「これだとまだ何かがおかしい」とか「この方向性でもう少しいじればマシになりそう」という具合で、手探りで数字をいじっていく。もはや何の作業をしているのか、自分でもさっぱりわからない。
 確定申告の目的は「1年間の事業収入・支出を把握すること」のはずなのに、私の目的は完全に「呪文を書き換えてそれっぽい数字を出すこと」になっていた。

 そんなことを1ヶ月ほど続けて、ようやく「なんかそれっぽい数字が記録された書類」ができあがった。もちろん達成感なんて1ミリもない。そこに書いてある数字はおそらく現実のものではないし、何が書いてあるのかすらわからないのだから。
 その完成した書類によると、私は1万6千円くらい何かしらの税金を納めないといけないらしかった。現実の売り上げと照らし合わせると、明らかにそんなに払わなくてもいいはずの金額だったけど、私は考えることを放棄して謎の税金を払った。この苦しみから逃れられるなら、もう1万6千円も惜しくないと思ったのだ。

 そして、そんなに苦労して複式簿記の帳簿をつけたのに、青色申告の特典である税金控除65万円はまったく活かされなかった。控除というのはつまり、例えば本来なら100万円の所得に対して課税されるところを、65万円を引いた35万円に対しての課税にしてくれるということ。しかし初期のシカクはまったく儲かっていなかったので、経費や基礎控除を引いただけで余裕のゼロ所得になったのだ。
 つまり私は、しなくていい苦労で心をボロボロにしたうえ、1万6千円を無駄に払ったということになる。骨折り損のくたびれ金払い。最悪である。

 そんな悪夢の確定申告を年に1回必ずやらないといけないのが辛すぎて、毎年確定申告の時期が近づくと気分がドン底に落ち込んでいた。だが、今年からはついに顧問税理士をつけ、苦しみから逃れることができた。これもみなさんの日頃のご愛顧のおかげなので、本当にありがたい。ちなみに私は顧問税理士さんのことを心の中で「魔法使い」あるいは「救世主(メシア)」と呼んでいる。
 とはいえ、それまでの数年間に私が積み上げてきたメチャクチャな数字は消えないので、初めは税理士さんをずいぶん困惑させてしまった。というか、たぶん今でもヤバい顧客だと思われている。お恥ずかしい限りだ。
 
 もしあなたが個人事業主として独立を考えていて、すぐに大きな仕事や利益を生み出せる算段はなく、さらに数字が苦手ならば、確定申告のやり方をちょっと考えておいたほうがいいかもしれない。青色申告宣誓書を一度出すと、白色申告には二度と戻れないので注意が必要だ。
 特にお店をやる人は、お金の出入りの仕方が商品によって変わってくることも多いはずなので、経理については慎重に考えたり調べたり、詳しい人から話を聞いておくことをオススメする。
 

●ちなみにその頃

 突然ですがここで問題。副店長である私が青色申告で苦しんでいた頃、当時の店長であるBは何をしていたでしょうか?

 答えは……『何もしていなかった』。
 いや、むしろ何もしていなかったよりもタチが悪い。というのも、Bは当初「大学の経営学科で帳簿もちょっと勉強したから、確定申告は俺がやるわ」と言っていた。だからこそ私は、自分が数字や書類が大の苦手だとわかっていながら青色申告の宣誓書を提出したのである。
 ところがいざ確定申告の作業を始めて、委託販売の帳簿が想像以上にややこしかったり大赤字の書類が完成してしまうと、Bは心が折れてあっさりサジを投げた。私は当然「おめーがやるって言ったんだろ!!!」と激怒したが、怒ろうが励まそうがやる気をなくしたBは絶対に動かない。だからといって確定申告をしないわけにはいかないので、私が半狂乱になりながらやって、その後もずっとやり続けることになったのである。

 Bのそういった行動は、青色申告の件に限らなかった。最初だけやる気を出し、自信満々に大風呂敷を広げ、やる気をなくして私に全てを押し付ける。日常生活の細かいことでも、シカクの業務やイベントでもそういうことが頻繁にあった。
 もっと言うと、それはシカクという店自体に対しても同じことだった。2人でシカクを初めた2011年5月から、Bが抜ける2017年10月までの間に、彼は少しずつ、しかし着実に何もしなさに磨きをかけていった。

 今この連載の時系列は2013年~2014年前後。このあたりからのシカクを振り返る上で、Bという人間と我々2人の関係性についてをもう少し掘り下げなければならない。なにせ店長なので、良くも悪くも影響が大きいのだ。
 ……というわけで、ちょっと気が進まない部分もあるのだけど、次回は初代店長Bについてを書こうと思います。

画像1

★シカク運営振り返り記、過去の記事はこちらから。
★お店が気になった方はシカクのホームページもぜひ見てね!

サポートしていただけたらお店の寿命が延び、より面白いネタを提供できるようになり、連載も続けようという気合いに繋がるので、何卒お願いいたします。