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河童的な何かとの遭遇2

ヒマを持て余していた少年の夏休みのお話です。

河川敷でその日に知り合ったグループのやんちゃに誘われて

子供だけで川遊びをすることなった経緯は前回の通り。

「今度はもっと深いところに行ってみようぜ」

しまった。
自分の大人しい友達グループメンツが帰ってしまい、帰りそびれてしまったことを後悔した強く瞬間だった。

顔を見合わせたのはやんちゃグループ側で残ったチビの色白1人だけ
いまはキミが仲間らしい
でもチラリと笑顔が見えた気がするのは
きのせいか

やんちゃはそう言うと川岸から腰を上げてそそくさと
ビーチサンダルを脱いで、なぜかきちんと川岸にそろえ
ザブザブと川に入り始めた

無言のやんちゃの仲間の色白も、サンダルを足についたゴミを払うような
しぐさでサンダルを脱ぎ捨てて
ザブザブとやんちゃの後に続いた

なんか変
しぶしぶ足取り重く色白の脱ぎ捨てたサンダルが川面に飛んでいって流れたのを拾うために川に入ってしまう

岸から10mくらいのところに深さがわかるように10センチ
刻みでわかるように5メートルくらいの水没鉄柱がたっている
河川増水を管理するために河川省がたてたものだ
遊んでいた場所は水門のすぐ横

1,2歩水に入って色白のサンダルを水に上げて振り向くと
色白は流れていくサンダルのことは関心がないらしい
拾ってくれてありがとう、の感謝がほしかったのではなく
サンダルを脱ぐしぐさが変な感じだった
手を使わずに足についたゴミを払うように脱いだのが妙な感じだったし
また履いて帰るサンダルになぜ無頓着なのだろう

通っている小学校は、
学習障害のある子どもや家庭の事情で
授業についていけない人たちを集めた専門の特別編成クラスがあった
(機能障害やADHD学習障害だけでなく転勤を繰り返して地方や都会の授業の進行タイムラグがあるだけだったり、給食費や教科書代の払えない困窮家庭もごっちゃになっていて理不尽で無茶苦茶な状態でした)
そして当時の川にはキャンピングカーのように
中型の船に小屋を建てそこから通う船上生活の子供もいると噂もあって
子供心にワクワクする世界が広がっていた時代でした

色白は和服のようなボロい半纏みたいなものを着ていたので
親から粗末な扱いを受けている子供だと勝手に思っていた

「おい!約束通りここまできたぞ」
やんちゃは水没鉄柱につかまりながらこちらに叫んでいた
もうそんなところまでいったんだ、水深は70cmをさしてる
彼の胸のしたあたりに水面
流れは緩やかだとはいえ、足元を掬う水の流れる力はとても強く危ない

「おい!もういいだろ、もう家に帰りたい」
なにいってるんだ、
川に入って深いところまでいきたいってた本人はおまえだろ
そう言葉にしようとした瞬間、

「もっと深くまでいけ、もっと深くいけ」
叫んだのは、自分より2m先にいた色白だった

これには2つ驚いた
1つめは1回目にやんちゃとみんなで水に入ろうとくるぶしのあたりの
深さまで入ったとき、やんちゃに水をかけられ驚いたような、怯えたような、イジメられている子の特有の主従関係みたいなずっと無口な表情を見せていたのに急に強気な発言したこと
2つめは水没鉄柱は2本存在していた。1本目のまっすぐ後ろ3メートルくらいにもう1本あり岸からは並んで見えるため気づかなかった
2本目の水深は1、6mをさしていて
やんちゃは足がつかないことが予想できた

「やだよ、怖いよ」
「いけ!hjpんふいおp;l、」

あきらかに怖がるやんちゃ、急に言葉も顔色も強面に豹変し叫ぶ色白
やりとりで立場の逆転が混乱する

「やめろ!」

そこで初めて声がでた。しかし二人に声は届かず、嫌がるやんちゃと
深いところにいけと命令口調になっている色白の問答が続く

「イケっ!!」

突然、左手横の水門があるほうから大人の声がする
みると
腰の少し上まで水に浸かり立っている人がいる

「アッチ、コッチ、イケる、ナンカイ、イク」

距離が離れているし夕焼けの逆光で
真っ黒なひとにしか見えない

日曜はへら釣りにいく父に誘われてよく一緒に釣りにでかけた
父は泥酔しなければ優しい父親で、機嫌がいいといろんな話を聞かせてくれて面白かった
多少はきれいになったけど当時ヘドロまみれの川は、昔はもっともっと
きれいで、川も幅がせまくて流れは緩やかだったから
夏はよく泳いで対岸まで往復した話をしてくれた
軍隊の練習もたまに来てて兵隊さんに憧れてよく自主練習してたとか。

川は氾濫防止とヘドロ対策で掘削して深くなり流れは速くなっている
もしウエットスーツを着て泳ぐ練習をしていたら息がきれて急には話せないだろうと子供心に考えた
つまりカタコトの黒い人は、
水泳の練習をしているが対岸とこちらを何度も往復しているがちゃんと泳げば大丈夫だと言ったんだと頭の中で翻訳した

「もうやだ、帰りたい」

やんちゃの声がしてみると先ほどから2歩ほど深みにすすんで
肩の下まで水に浸かっていたが速足で岸に折り返しそうとしていた。
色白は言葉にならない罵声の音を出して抗議をしているようだった

「ミナ、オヨグ、ナカ、イク、カエル、イク」

今度はもっと近くで大人の声がした
さっきの黒い人が近くまできていた。音はまったく聞こえなかった
下流から上流へ水の流れに逆らって10mくらい移動したらバシャバシャ音がするはずなのに。それが聞こえなかった

やんちゃはもう半べそで岸にもどる途中でとまったまま動かなくなっている
「!!!ヤクソク!」
色白は怒鳴っている、さっきまでずっと無口だった色白が怒鳴っている
何かのうなり声のようだ

なんか変だ
さっきまで小一時間みんなで芝滑りしたりアイスを食べたりして遊んだが
やんちゃと色白が約束するようなじっくり話をしている瞬間はなかったはず

さっきより黒い人が近づいてきた
また無音で

黒い手袋のような手で顔や口元をかくしてよく見えない
そういやさっき水に入るときに落とさないように眼鏡外していたっけ
ポケットか
「ミルナ」
病気やケガで顔面をみられたくないのだろう、顔にやけどや大きな痣ある大人の人とかいるよね。学校以外にもいろんな人がいるんだ

川岸で釣りをすると親切な世話焼き、子供心には口うるさい説教おじさんの類はたまに来る、これもそういう人かな
ああ、うっとうしい

泳ぎを教えるってこどもに危険なことさせようって色々責任があるから
学校の先生だって嫌がるのに頭の悪い泳ぎ自慢おじさんかよ
豹変し激高してる色白と泣きべそに改変したやんちゃ、もうぐちゃぐちゃだ

「うちの父も昔よくこの川で泳いだそうです。あなたは今もこの川でおよぎの練習してるんですよね?」
話をそらしてスイミングの提案をながそう
「イッショニオヨグ、タノシイ」

何いってるんだこの人
父が泳いだのは40年以上前の話だ
「父は昔の話です、いまの子どもは川で泳いだりしません」

「カワ、ミナデ、オヨゴウ、ナカマデ」
だめだ会話にならない
口調は優しいのだが訛っているのか発音は変だし難聴者の話し方とも違う、イントネーションはなぜか時代劇のセリフに似てる。それともただ耳に水が入って聞こえないのか、元々知力に問題がある人なのか

つい顔をみたら目は吊り上がってて口になにかつけているようにみえた
ウエットスーツかと思った服ではなく全身が泥を浴びたように真っ黒、流れた落ちた泥の隙間から鯉の黒い鱗のような鈍い光が見えた気がした

え?下は??下半身はどうなっている?
突き出た腹に臍はなく暗くなりはじめた水面は濁った鉛色でどうなっているか見えなかった

「カオミルナ、ミタラコロス」
子供同士の会話は暴言だらけなので慣れてて怖いと感じない
言われた通りバカ正直に顔みないように下を見る

「コレ、ハヤイ」
黒い人は視線を外した下で黒い手を広げてみせた
手は大きくてミズカキは見たことないくらいデカい
第一関節のすぐ下まである。
触ろうとしたら素早く手をひっこめてしまった

「へーすごいなあ、どこで買ったの、欲しい。へー」
ちょっと怖かったが機嫌を損なわないように燥いでみせた
「こっちの水かきはこれだよ」
自分の右手の中指と薬指の真ん中の皮の余りを広げてみせた
ピアノを習うなら絶対切れと言われてたくらいあり密かな自慢だった

「コレ、チガウ」
黒い人は今まで聞いたことの無い笑い声で笑った
ちょっとしつこいくらいに笑った

ふと見るとまだ川の中で硬直したやんちゃがいた
やりとりを距離をおいてみていた
ちょっとイラっとしてきて
「なにやってる、早くもどってこい!」
なんだかわからないこのすべてが無かったかのようにリセットして
マトモな人と相談したかった。いま何がおきている、と。

「モウ、イク」
背後からまた声がして離れていく声がきこえた
色白はこちらをみて
「カワ二ハイル、イッショヤクソク、イコウ」
黒い人より訛はないし語呂も豊富に誘ってきた

「ボクはいかない」
色白はすんなり諦めてザブザブと川下の黒い人のもとへ歩いていく

色白が離れていくのと同時にやんちゃが傍まで戻ってくる
「あれ、だれ?」
黒い人はやんちゃも知らない人らしい
「知らない、さっきいきなりいた。来たの気づかなかった」
黒い人についていく色白が気になって目で追う

「もうやめろよ!危ないぞ」
なぜか怯えた表情のやんちゃが戻って問題が解決したと思ったのに
今度は色白かよ
黒い人はなんだかわからないがものすごくヤバい気がする

見る間に離れていく色白
黒い人は色白が近くまできたのを見て、こちらを見ずに音もなくスーッと水中に消えた
ザブンとかバシャバシャとかなくて音もなくスーっと水面下へ吸い込まれた感じ
色白はザブザブ歩いて肩あたりまで水に浸かって同じようにスーッと消えた。歩くのはさっきと変わらずで、消える瞬間は速かった
潜水泳ぎなのかと思ったが浮かんでこない

え?やばくね?おぼれてない?
ものすごく不安になり、やんちゃをみたら帰ろうとサンダルを履いていた
「おい!友達いっちゃったよ、浮かんでこないよ、心配だよ」
「あんなやつ友達じゃねーよ」
「何いってんだ、一緒に遊んでたじゃん」
「そうだけど、、、、」
「学校の友達?近所の子?約束とか仲よさげだったじゃん」
「仲よくねーよ、知らねーやつだよ。」
「どうゆうこと?」
「あいつ、オレが家に帰ろうとしたらあと付いてきて「一緒に遊ぼう」ってしつこいから逃げたんだよ」
「なんで?」
「びしょ濡れだし、着てるのボロボロだし、しゃべり方も変だし」
「しゃべりかたカタコトだったよね、方言かなって思った」
「逃げてもついてくるしそのまま家にきたら嫌だから少しだけ遊んでやる、そしたら帰れって言ったの」
「うん」
「そしたらヤクソク守れ、破ったら全員コロスって言ったんだよ」
「そんな話したの」
「怖かったけどそんときだけだよ、あとは悪そうじゃなかったから、家とは逆方向の河川敷にきてブラブラしてたらすぐにお前らが見えたんだ」

なにいってるのかわからなかった
頭が混乱したまま彼らが消えた水面をみたが人影はない

「知り合いじゃなかったのか、じゃあアレどーする?」
「知らねーよ、オレは疲れたから帰る、絶対ついてくるなよ」

本当にグッタリヨタヨタしながら歩いていく彼の後ろ姿と
川面に見えない彼らの行方をしばらく探していた

やんちゃのグッタリした姿が見えなくなったころ、
川岸には色白のサンダルが残っていた。
今日起こったことが現実だったのか確かめるようにそのサンダルを拾って
みると、サンダルは実物でそこにある
いま気づいたがサンダルは左右は別々で、色も大きさも違っていたし
よく川に流れているゴミと同じ汚れ具合だった

やんちゃが言っていたことを思い出して
サンダルをそっと川岸に置き、すっかり暗く寒くなった川をあとにした。
一緒に芝滑りで遊んだ段ボールもある
色白が一人だけ占有してた段ボールは濡れていた
堤防の上からもう一度見まわしたが、やんちゃも彼らも誰の姿もいなかった。

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~後日談~

家に帰宅してもどうしても気になって
夕飯を終えたあとに意を決して父に今日の顛末を話した
笑ってバカにされるだけだろうと思っていたが笑われなかった

しつこく子供が溺れたから探してほしい警察にいってくれと頼んだ
しぶしぶ懐中電灯をもって外にでた父は1時間くらい帰って来なかった
それらしきものはなかったし途中出会った警官に話したといった
あとはもう遅いから明日にしようと父の言葉を信じて寝ることにした。
(このころ防犯のため河川敷を定期的にお巡りさんが巡回してた)
翌日も、その翌日もニュースや新聞に子供の溺死発見の事件は上がらなかった。
2週間たった週末の日曜に、情報収集し河川で船でくらしているという家族を探して父を巻き込んで一緒に聞きにいった。
身なりと満足な教育をうけていない環境の子供と推理した、浅はかな子供プロファイリング気取りの行動だけど、もし事件ならと罪悪感から逃れたかったのかもしれない

結果は「うちに子供はいません」
あれは夢なのか何だったのか、未だにわかりません。




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