見出し画像

つぎのまつりへどんぶらこ

祭りの後である。こうっと光る月を無気力に見上げては柿の種を頬張る。ぽりぽりと快活な音を鳴らすと、あまりにも滑稽なのである。ぽりぽりぽりぽりと頬張ると、次第にぽろぽろと変わっていった。何か次の、楽しいことをみつけねば。

カプス、静かにプルタブをあけると刹那の夕煙が鼻をかすめる。あの夕空に棚引く切ない食欲に、あらがって河川敷に仁王立ちになり放り込む缶ビールである。夕日に入っていく鳥たちを見ては、より喉を鳴らして垂らし入れ、我が過敏なる胃袋の感を覚える。満たされてゆくと遂には黄金と化すので、くしゃみとともに取り出し、夕日に透かした。

それは夏の朝、葉に佇む雫のように、繊細な光を放った。そしてそっと、そのGOLD STOMACHを小舟に見立て、南へ向かう河川に流した。

どんぶらこどんぶらこと我が身より飛び出たGOLD STOMACHは夜をも超える。

先日インターステラーを視聴した鹿田の脳内の妄想であるので、それはここぞとばかり4次元へと突入し、数日前のあの素敵に盛り上がったGOLDMOONフェステバルの会場へとたどり着く。勿論その船と化した我が胃が、再び進化し、二足歩行陸上にたどり着くことはない。その、中央を流れたあの天の川にいるのである。遠目に見ればそれは小さな小舟に見えなくもないが、近くで見ればそれはただただ黄金に輝く生々しい胃袋なのである。ベガは事の次第に気づかず悠々と川辺で昼寝をするアルタイルに苛立ち、そして殴った。

胃だ、金色の胃がドンブラコドンブラコと不釣り合いに我らが天の川に流れてきたよ、これは天変地異の前触れに違いない、起きろお、アルタイルゥ!!

そして素敵な夏の大三角は、少しいびつに、鋭利になって空に浮かんだ。その麓の井戸底。いつも星空を眺めている1匹のカエルがいた。名前をやじろべえという。誰がつけたかその名前、知る人ぞ知るとあるオマージュだと、メタ的発言をしたやじろべえだが、その発言はカエル以外には「ゲコ」としか聞こえないので問題はない。それはけっこうであるが、しかし問題は別にあった。このやじろべえ、己の名に恥じるほど、異常な先端恐怖症だったのである。そしてとうとう、空の異変に気づいてしまったのである。

その異常なほどの先端恐怖症をもつカエルは、天変地異に気づくや否や、戦き、すっかり、ひっくり返った。

どんぶらこどんぶらこと胃は流れ続けている。黄金に輝く胃袋は夜空によく目立った。

ところで読者の皆さんは、ここらへんできっと予想していることだろう。その鋭利になった夏の大三角の角に、都合よく天の川より落下した胃袋が突き刺さり、なんとかなるのだろうと。まあ、そうなるかもしれないしそうならないかもしれない。なぜなら全ては鹿田次第であり、鹿田は想像以上の浅さと気軽さで、とにかく祭りの後の寂しさを埋めるために乱雑に書きなぐっているだけなのであるから。その寂しさが埋まらぬ限り、鹿田は今まで以上に自棄になり、無益を追求し、酷いエピローグを準備する!これは明言しておこう。さあ、鹿田に自棄を起こして欲しくなければ、さっさと次の素敵なイベントを準備するんだ冬!!

どちらにしろ無謀なのである。冬がなんとかなったところでここが夏でない限り奇跡など起こらない。

そう諦めた途端、優雅に天の川を流れていた黄金の胃袋は、急速に力を失う。黄金に輝いていたはずの表面は今はもはや薄ら白い深海に生息していそうな不気味な生物に見える。そして天の川に溺れては落下してゆく。ああ、僕のGOLD STOMACだったものよ、夕暮れの切なさを抱えどこへ消えへゆく。お腹の胃のあったあたりを抱え、僕は切なくなって泣いた。帰ってこい、僕の可愛い胃袋よ。

いつの間にか黄昏を過ぎ、あたりはすっかり闇に包まれていた。胃を失った僕は体のバランスがとれず、右往左往とふらつきながら街を徘徊した。

どれくらい歩いたことだろう。古びた町並みにはトレンチコートを着た人々が街を行きかい、またパイプを咥えた男たちが馬車に乗ってはカタカタと石畳の道を行き来している。

そう、僕はここの街の221B番地に住むパイプ愛好家に用があって来たのだが。これだけ広げた風呂敷を、一体どうやって閉じたならいいですか?後生ですから教えて下さいっ!

空を見上げて神頼みをする。そしてゆっくりと目を開け、空を見つめた。今夜も晴天だ。鋭角になった夏の大三角のてっぺんに、胃が、ぶっささっている。

おお、素敵なオチを導きくださった。僕は手をそれに向け大きく大きく広げた。分かってるじゃないか、なんだかんだかわいいやつだよ、夏空、お前は。


空では月がわらいをこらえ、ふるえていた。
それがはったばかりの初夏の水田にうつり、ゆれていた。
蛙が、ぎゅるりと鳴いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?