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「安くなるデザインの特徴」 高級のデザイン&安価のデザインの違い

ビジネスに使えるデザインの話マガジン


安くなるデザインの特徴

安さを伝えるデザインではなく、「そうするつもりがないのに、安くなっていくデザインの特徴」について紹介します。結論から言うとそれは、

高級に見せるつもりだったのに安易にわかりやすさを保証しようとしたデザイン

です。高級とは言わなくとも、本物らしさなど、商品や企業の価値を伝えるつもりだったのに、その価値が安くなって伝わるのは、こういう流れがデザインに現れたものです。


高級を伝えるデザインの特徴

『ラグジュアリーを伝えるメディア「紙」』という記事でも紹介しましたが、高級ブランドが高級さを伝えるためにするデザインは、

わかりにくいけど(あなたにならきっと)わかるかもしれないデザイン

です。こちらがその記事です。


どういうことかというと白い紙に白い印刷、黒い紙に黒い印刷など。また印刷したデザインではなく、素材の良さを手触りで伝えるなど。

たとえばこんなデザインです。

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虎屋のパッケージのひとつです。もちろん紙もこの加工(顔料の黒色の箔押し)も紙や箱自体も良質で効果なものです。「控える」デザインとも言えますが、高級を伝えるのには、わかりにくい良質さを表現するのがわかりやすいのです。


どう安くなるのか

波の写真の上に文字を載せたものです。

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わかりにくい(笑)。ちなみに書体は、エスティー・ローダーのロゴにも使用されている美しきサンセリフ体、Optimaです。

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これだとちょっとわかりにくいんじゃないかという懸念が出てきます。ということで「ちょっと影をつけてもう少しわかりやすくしてほしい」とデザイン会社に指示を出すとします。

そうするとこうなります。

スクリーンショット 2021-01-06 11.44.02

こうやって安くなります。安くしないで視認性を高めるとするならば、ドロップシャドウをしないで、文字色を変更します。

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これだと安くなりません。

ただ、この対処やデザインが可能なのは、背景のコントラストが弱い場合です。高級を伝えるデザインの場合、ここまで考えて背景となる写真を撮影します。が、それを知らない場合、「写真に文字を載せて」という指示を写真の設計をせずに依頼してしまいます。

この写真の場合、明暗があるところにこの文字を移動してみましょう。

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「わかりづらい」以上に読めなくなってきました。こうなるともう文字に影か縁をつけざるを得ません。そしてこうなります。

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文字に縁をつけて大きくするととこうなります。

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そんなわけで、文字に縁をつけると「あんまり何も考えてないっす」ということが伝わるデザインになっていきます。

安さを伝えるデザイン

逆に安さを伝えるのに文字に縁をつけることはとても有効です。

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画像引用:ユウマペイント「ユウマペイント総決算大セールチラシ(終了しました)」

わかりやすく安さが伝わってきます。これは安さを伝えるデザインとして優れているわけです。

良くないデザインは、安さを伝えたいのにそれが伝わらないデザインや高級感を伝えるべきところでそれを損なってしまっているデザインです。または、言いたいことが送り手側でちゃんとまとまっていない場合も良くないデザインになります。

なぜなら、デザインとは機能だからです。

例外もある

この主張には当てはまらない例も、もちろんあります。1850年創業のクレジットカードブランド、アメックスことアメリカン・エキスプレスは、ロゴタイプに白フチをつけています。しかしクレジットカードとしては会員費が高い方です。

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ファッションのフィールドになると逆張りもあるので、高級を作り出す流れを逆行したデザインも出てきます。それが良いデザインといえない場合もあろうとも。

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日本限定モデルのグッチのグリップです。23万円です。
画像引用:FASHION PRESS 「グッチの新作腕時計、“カタカナロゴ”の日本限定「グリップ」やビー(ハチ)の秒針が回転するウォッチ」


まとめ

デザイン会社、ブランディング会社は、このように言語化せずとも、商品やサービスのブランドについて(ちゃんとしていれば)考えます。誰に伝えるのか、この商品やサービスのコンセプトは何かなど。そしてメディア(広告やパッケージやSNS)によって伝えられる情報力が減るので、メッセージは削って減らしていき、大切なものを残していきます。

このプロセスや意図をクライアントが理解しないとデザインが悪化していきます。書体の種類や印刷の詳細をクライアントや経営者が知る必要はあんまりありません。ただデザインというものが、「なんとなくこういうものだ」というヒューリスティックな知識は、経営者が率先して持つべきものです。なぜなら、経営者が社員、ステークホルダー、顧客に伝えたいのは、意図だから。言葉を間違えると意図は伝わりません。難しい単語を知らずとも、「わたしたちが提供したいのはこれなんです」と伝える必要最低限の単語は知っていないと伝えられない。

その知識を経営者が本人が得るほかには、経営陣と同列かその直下にクリエティブディレクター(人または企業)を設けることです。ファーストリテイリンググループは、ずいぶん昔からそれを実行しています。


企業成長においてブランディングは二の次

その一方で、ブランディング以上に企業成長に必要なものは、サービスや商品の需要です。上場企業なのにブランディングに重きをおいていない企業は多々あります。ブランディングなどしなくても、良いデザインをつかってメッセージを発信せずとも世界的な規模にまで企業を成長させることは可能です。

台湾セミコンダクター・マニュファクチャリングのロゴは、デザインとしてはあまり優れていませんが、アメリカ合衆国の株式市場における時価総額ランキングで7位です。時価総額は、57兆円です。

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それでもブランディングなり、デザインは強力な武器です。使わない手はありません。


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