『スパイファミリー』エンディングに出てくる家具×9の解説
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。
アニメ『スパイ×ファミリー』
現在(2022年5月)、テレビやアマゾンプライムビデオなどで放映中のアニメ『スパイ×ファミリー』が、キャラクターたちが可愛らしく、そしておもしろく、アニメはオープニング曲にOfficial髭男dismの「ミックスナッツ」、エンディング曲に星野源氏の「喜劇」が使われるなど、けっこう豪華な作りです。
原作は、少年週刊ジャンプで連載されている漫画です。
さて、このアニメ&漫画は、ミッドセンチュリーモダンの家具が漫画では表紙にも使われ、劇中にも頻繁に登場してきます。そこで劇中に出てくる家具とミッドセンチュリーモダンについて以前触れたのですが、今回は、エンディングにシルエットが出てくる家具を全部、どこの、誰がデザインしたもののなのか?何なら買えるのか?ということを紹介していきます。
『スパイ×ファミリー』のエンディング
TOHOの公式チャンネルから。
このエンディングの冒頭に家具のシルエットが出てきます。他にもピート・モンドリアンの絵画をモチーフにしたものやジョージ・ネルソンのマシュマロソファも出てきますが、今回はこのシルエットにのみフォーカスします。全部で9つあります。
1.エーロ・サーリネンのチューリップ・アームレス・チェア
ひとつめは、この1本脚のチェア。
1本脚の珍しいこの椅子は、エーロ・サーリネン(Eero Saarinen/1910–1961)がデザインしたチューリップ・アームレス・チェア。デザインしたのは1956年。まさにミッドセンチュリーです。メーカーは、Knoll(ノル)。1938年にドイツ生まれの家具商の息子、ハンス G・ノールがニューヨークで設立したメーカーです。サーリネンは、椅子に4本脚があることで、テーブルの下が、カオスになることを解決せんとして5年研究し、この椅子をデザインしました。脚の部分はアルミダイキャストを使い、シェル部分にはFRPと異なる素材を使っています。これらの素材の使用は、第二次世界大戦を経て、開発された素材が家具に多用され始めた、ミッドセンチュリーモダンの特徴でもあります。一本脚で立つ姿から、チューリップチェアと名付けられました。
日本の通販サイト、FLYMEeから購入できます。価格は27万〜30万円。世界ではビンテージもけっこう出回っています。
2. アルネ・ヤコブセンのスワンチェア
こちらも1本脚の椅子ですが、今度はデンマークの建築家、デザイナーであるアルネ・ヤコブセン(Arne Emil Jacobsen)によるデザインです。ブランドは、デンマークの家具ブランド、フリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)。いわゆる北欧家具の代表的なブランドのひとつです。アルネ・ヤコブセンは、建築や家具の歴史のおいて、多くのマスターピースを残しているので、その名は、頻繁に出てきます(このあともまた出てきます)。このスワンチェアは、形が白鳥に似ていることから名付けられたものです。この椅子は、ヤコブセンが1958年にコペンハーゲンのSASロイヤルホテルのロビーやラウンジで使うためにデザインしたものです。スワンチェアのほかに、このホテルのためにエッグチェアという椅子もデザインされています。
フリッツ・ハンセンでもFLYMEeでも購入できます。価格は、素材によって変わりますが、52万円から。安すぎるのは、品質が保証されないレプリカものです。
3. フランク・ロイド・ライトのタリアセン2
エンディングのシルエットでは、これだけ照明です。こちらは、アメリカの建築家で、ル・コルビュジエとミース・ファン・デル・ローエと合わせてモダニズム建築の三大巨匠と呼ばれている(誰が呼んでいるのか知らないです。が、モダン建築といえばの挙がる御三方ではあります)、フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)のデザインです。
フランク・ロイド・ライトについては、東京の帝国ホテルの設計も(初代の帝国ホテル)一部担っており、日本にゆかりもあります。帝国ホテルを訪れると彼のデザインした照明がバーにあったりして、楽しいです。それについてはこちらで書きました。
この照明は、タリアセン(TALIESIN)2と名付けられていますが、タリアセンとは、フランク・ロイド・ライトの夏の家(アメリカ合衆国州ウィスコンシン州タリアセン)の一部として1933年にデザインしたもの。タリアセンの敷地内にあった体育館を劇場に改装した際に設計したのが、その原型です。光源を直接見せずに柔らかな光で空間を心地よくし、且つ消灯時も、美しい佇まいになるようにデザインされています。良く映画やドラマにも登場します。価格は33〜39.6万円。これもFLYMEeで購入できます。ちなみにタリアセン1も『スパイファミリー』の劇中に出てきます。
4. アルネ・ヤコブセンのセブンチェア
再びのデンマークのアルネ・ヤコブセンのデザインです。メーカーもデンマークのフリッツ・ハンセン。デザインされたのは1955年。日本では「セブンチェア」と呼ばれていますが、英語圏では「シリーズ 7(SERIES 7™)」。ヤコブセンがチャールズ&レイのイームズ夫妻による合板の曲げ加工を使った椅子からインスパイアされてデザインしたものです。「Model 3107 chair」ともよばれています。この椅子が人気になったきっかけは、写真家、Lewis Morleyが撮影したモデル、Christine Keelerの写真(1963年)でした。(しかしこのとき使った椅子は模造品でした!)こちらに英語ですが、撮影のメイキングに関する記事があります。
シリーズ7(セブンチェア)の価格は、FLYMEeで6.3万円から。
5.イームズ夫妻のワイヤーチェアDKR
一部だけですが、このシルエットは、イームズ夫妻がデザインした「ワイヤーチェアDKR」です。
このセクシーは椅子をデザインしたのは、アメリカ合衆国のデザイナー、建築家、映像作家でもあるチャールズ・イームズ Jr(Charles Ormond Eames, Jr)と妻のレイ・イームズ(Ray-Bernice Alexandra Kaiser Eames)のイームズ夫妻。1951年に、イームズ夫妻により、軽量で、耐久性があり、手頃な価格で購入できる椅子としてデザインされました。先に「セクシー」と形容しましたが、この素っ裸なスケスケ椅子にビキニを着せたようにみえるパッドをつけることもできます。このバッドは、ビキニパッドと呼ばれています。
ちなみにハーマンミラーは、1905年創業のアメリカ合衆国のオフィス家具メーカーです。価格は、ハーマンミラーオンラインストアで11.6万円。
6.イームズ夫妻のウォルナットスツール
再びイームズ夫妻です。アールデコの気配も感じるこのウォルナットスツール、まあまあ重いどっしりしたスツールです。そんなこともあってサイドテーブル的にもよく使われていますが、盤が湾曲しているので、わたしはちょっと使いにくいなぁと思っています。
価格は、FLYMEeで17.9万円。
7. ハンスヨルゲンセン・ウェグナーのCH24 ウィッシュボーンチェア
これは、ドイツ帝国生まれのデンマークの家具デザイナー、ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナー(Hans Jørgensen Wegner)がデザインした、ウィッシュボーンチェア(CH24)という椅子です。北欧家具の代表的なブランドの一つ、デンマークのカールハンセンアンドサンがメーカーです。「ウィッシュボーン」とは、鶏を解体していると出てくる骨で、古代ローマ人たちの迷信が由来で、この骨を二人の人間がそれぞれ持ち、引っ張って折れて、長い方を持っていた人の願いが叶うという迷信から来た名前です。ウィッシュボーンということばは19世紀半ばにアメリカ合衆国でつけられたもの。
これに似ているので、ウィッシュボーンチェアと呼ばれていますが、日本では「Yチェア」と呼んでいます。(家具はなぜか日本独自の呼び方が多い。)デザインされたのは、1949年。使ってみるとすごく使いやすくて、馴染むのですが、日本でとても人気の椅子で、販売数の4分の1が日本だそうです。販売先の地域の平均身長を反映して座面の高さが2cm異なります。アジアと比べて、欧米のほうが高くなっています。使われる素材によって価格はかなり異なってきます。9.5万円くらいから。カールハンセンアンドサンなどで購入できます。東京の神宮前にフラグシップ・ストアがあります。
8. イームズ夫妻のイームズ・エレファント
かわいいのに、苦労しまくった経緯とその苦労と技術を反映した価格のイームズ・エレファント(プライウッド)(Eames Elephant (Plywood))。その価格はFlYMEeで18万円。プライウッドとは、合板という意味なんですが、この技術を試行錯誤してイームズ夫妻はさまざまな家具やオブジェを作るも、技術的にはまだ量販できる環境形成に至らず、夫妻は14歳の娘に試作品としてこのエレファントをプレゼントしました。1946年にMoMAで展示され、そこから半世紀以上経ってから
現在、生産されるようになりました。メーカーは、しすのVitra(ヴィトラ)。
9.オーガニックチェア(教えていただいた)
このシルエットは、最初、自信なくて、イームズのアームシェルチェアかなぁと思っていたんですが、コメントでRinさんがご指摘くださり、チャールズ・イームズとエーロ・サーリネンのふたりによる「オーガニックチェア(Organic Chair)」だと判明しました。
オーガニック チェアは、1940年にニューヨークのMuseum of Modern Art(MoMA)が主催した「住宅家具のオーガニックデザイン」コンペの一環として、チャールズ・イームズとエーロ・サーリネンによってデザインされ、出展されたもの。オーガニック(有機的)なフォルムのシェルに生地張りが施されています。背もたれの高い「オーガニック ハイバック」もあります。25万円から。
エーロ・サーリネンは、1番目のチューリップチェアをデザインしたフィンランド系アメリカ人の建築家、工業デザイナーです。
まとめ
漫画・アニメ『スパイファミリー』に出てくる家具や照明は、アメリカのものや北欧のものが混在しているもののミッドセンチュリーモダンというテーマでくくれるものです。ここで見知った家具をどこかで見かけたときに、それとわかるのもおもしろいですし、逆にミッドセンチュリーモダンな家具や照明が好きな人が、この漫画・アニメでの使われ方を見ても楽しめるのではないでしょうか。そしてビジネスでも、ミッドセンチュリーモダンを代表する家具を知ることが、直接にしろ間接にしろ、役立つ場面が多々あります。なぜなら空間や印象を形成する場面で、家具の知識というものが必要になってくるからです。とまれ、家具、楽しいですね!
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参照
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