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ディオールのロゴと“高級感”の秘密 「銅版印刷」

DIOR

Dior - Paris Montaigne store, 30 Avenue Montaigne, Paris, France.
By Frédéric BISSON from Rouen, France - Décorations de Noel de la boutique Dior, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53156620

ディオールは、正式には「クリスチャン・ディオール SE」で、1946年創業のフランスのラグジュアリーファッションブランド。現在は、ファッションブランドの帝国LVMHの傘下。クリスチャン・ディオールのあとをイヴ・サン・ローランやジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、エディ・スリマンなど名だたるデザイナーたちがクリエイティブ・ディレクターを務めてきた革新的なブランド。現在のクリエイティブ・ディレクターは、キム・ジョーンズ(Kim Jones)。ディオールの革新性以外の特徴としては、クリスチャン・ディオールが男性から観た女性の美しさの追求という姿勢。このあたりは、女性のためという姿勢をもつシャネルのココと対称的です。

ディオールのブランドについても語りたいところですが、今回は、ディオールのロゴにある本物感の秘密に迫っていきたいので、そのロゴに注目していきます。

ディオールのロゴの遍歴

まず(2022年3月)現在のディオールのロゴを確認してみましょう。こちらがディオールのウェブサイトです。

2022年3月現在のディオールのウェブサイトのトップページ
https://www.dior.com/ja_jp

上部に小さくロゴが見えます。すべての大文字で「DIOR」というロゴが見えます。これが現在のディオールのロゴです。余談をひとつ。「ロゴ」とは。

ロゴ

ロゴという言葉。英語だと「logo」となります。このことばは、古代ギリシア語の「 λόγος (lógos)(ロゴス)」が由来で、意味は「言葉」。なので、なんとなく「文字」のニュアンスが強い言葉です。「ロジック(Logic)」と同じ語源。ロゴマークは和製英語だと言われたりしますが、英語でもロゴマークという言葉を使うことはあります。文字だけを使ったマークとして「WordMark(ワードマーク)」という表現も使われます。それに対して、Appleやナイキの文字なしのマークは、シンボルマークと言いますが、あんまり気にしないで良いでしょう。通じます。

ひだりがワードマーク、右がグラフィックロゴ
https://brandingcompass.com/logo-design/wordmark-logos-the-hardest-working-logos-in-branding/

閑話休題。ディオールのロゴの遍歴の話に戻ります。ディオールの創業は厳密には1946年ですが、ブランドは1947年を開店の年としています。創業からずっと同じロゴでしたが、2018年にロゴが順次新しく変わっています(雑誌広告などではなんとなく移行していきました)。

1947–2018のディオールのロゴ

このロゴが2018年に先のウェブサイトで確認したようなすべて大文字のロゴに変わっています。

2018–
ディオールのロゴ

これがディオールのロゴの遍歴。短い(笑)。たのファッションブランドがサンセリフ体という、日本で言うところの「ゴシック体」にどんどん変わっていくなか、ディオールは王道感のあるセリフ体のロゴで更新しています。サンセリフやセリフに関してはこちらの記事で詳しく書いています。


ディオールのロゴに使われている書体 ”Nicolas Cochin ”

新旧ともにディオールは、ロゴのベースにNicolas Cochin(ニコラ・コシャン)という書体を使っています。この書体がどんな書体なのかに迫ることで、ディオールのロゴにある“高級感”の謎が見えてきます。こちらがNicolas Cochinです。

このDiorはロゴではなく、Nicolas Cochinで打っただけです。

ちょっとややこしいですが、Nicolas Cochinという人がこの書体をデザインしたわけではありません。Nicolas Cochinは、18世紀の彫刻家、デザイナー、作家、美術評論家です。

Charles-Nicolas Cochin

コシャンは自身をロココ様式の教育者、批評家として捉えていました。彼の作品を見ると「ロココ」感がみてとれます。

More details Detail of the frontispiece of the Encyclopédie, drawn by Cochin and engraved by Benoît-Louis Prévost.

ロココ様式についてはこちらで詳しく書きました。

じゃあコシャンじゃないなら、誰がこの書体をデザインしたのかというジョルジュ・ペイニョという書体デザイナーです。

Georges Peignot's portrait in 1910 More details Georges Peignot (1872-1915)

「ペイニョ」ってなんか聞いたことあるなーと思う方がいたら、この記事を読んでくださっているかもです。

ジョルジュ・ペイニョ氏が1912年にニコラ・コシャンの銅版画をベースにしてこの書体をデザインし、世に出しました。いま出てきた「銅版画」という言葉が、ディオールの高級感を生み出している謎の答えです。

欧文書体で高級感を出す2つの源泉

欧文書体を使って高級感、本物感を生み出す2つの源泉があります。ひとつはローマの碑文。ルイ・ヴィトンなどのロゴに使われているFuturaという書体は、じつはローマの碑文がベースになってデザインされています。碑文とは、とたえばトラヤヌスの記念柱などに掘られたものなどです。

A drawing and a photograph of a carving (in Hopton Wood stone) by Eric Gill, made in the early twentieth century, inspired by the "Trajan" capitals on the Column of Trajan.
By Jeremy Keith from Brighton & Hove, United Kingdom - Trajan, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52150968

2000年くらい昔に生まれたこの碑文は、見るからに歴史があり、本物感や高級感のある美しい佇まいをしています。なので、こういうニュアンスをもたせることで、高級感が生まれてきます。

ルイ・ヴィトンのロゴに使われている書体はFutura


もうひとつの源泉は、銅版画や銅版印刷。銅版印刷は、18世紀のロココ様式以降に流行した凹版印刷(おうはんいんさつ)の1種で、平滑な銅版に彫刻刀で細い線を掘って、その溝にインクを詰めて(拭き、そうすると溝に詰まったところにだけインクがある状態になります)、プレス機で紙に転写する印刷方法です。とても手間暇と技術を要する印刷方法で、そのためとっても高価です。高価であることが、この銅版印刷の意味するところとなります。丁寧、高級などのニュアンスを伝えるために、銅版印刷や銅版印刷らしさが記号として使われます。これが第二の高級感の源泉である理由です。

ちなみに銅版印刷のニュアンスを持つ書体には大雑把にいうと3種類あります。

  1. 平べったい大文字。Copperplate GothicやSackers Gothicなどがその例。

  2. 太いところと細いところのコントラスがある大文字と小文字のある書体。Nicolas Cochinはここに該当した書体です。

  3. 細くて優雅な筆記体(スクリプト体)。Snell Roundhandなどがこれに該当。


ディオールのロゴに高級感がある理由

というわけでディオールのロゴに高級感があるのは、ベースになっている書体が銅版印刷のニュアンスをもった書体だからでした。「なぜメールのマークは「ダイヤ貼り」なのか?」という記事でも書きましたが、高級感というのは、直接的な話ですが「お金がかかっている」という背景があることで生まれてきます。もうちょっと正確に言うと「高級感や本物感は、お金がかかっているというシグナルが機能するとき生まれます」。

ところで現在のディオールのロゴは、Rがだいぶ調節されています。Nicolas Cochinのままだとこんな具合になります。

Nicolas Cochinでそのまま打ったらこうなります。


書体の購入

Nicolas Cochinの購入はこちらからできます。無料フォントの多くはイリーガルなのでお気をつけください。


まとめ

じつはデザインというものは、概ねセマンティクス(記号論)に含まれます。どういう記号を有しているのか、なぜそれが機能するのか、などなど。ちょっと難しくなりそうですが、ディオールのロゴに関して単純にまとめると「お金と技術を要する銅版印刷のニュアンスがあるNicolas Cochinという書体を使っているからディオールのロゴには高級感がある」ということににあります。加えて、ディオールが何をしてきたのか、何を作っているのかということも、この高級感には不可欠な要素です。見た目と実態が合致して初めて生まれる記号というわけです。


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参照




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