ガシャーンと脇に積んであった空瓶の入ったケースが派手な音を立てて崩れた。
肺は酸素を求める余り吸い込まれた空気から酸素を取り出す前に吸い込まれた空気を吐き出してしまう。
路地裏は一直線で先は暗いというよりは暗めの青で塗られているようだった。
足が地面に接するたび、雨上がりのコンクリートにできた浅い水溜りから水が跳ねる。
「バカン!」
と頭上のエアコンの室外機から火花が散り、背後からは「カラン、カラン」とショットガンのシェルが落ちる音が聞こえた。
後ろを振り返ることなく、転びそうになりながらも逃げていると開いているドアを見つける。助かったと思いながらドアを壊す勢いで入り、ドアの鍵を閉めた。

そして絶望する。直方体にくり抜いたような部屋で、何もなく、窓も他の部屋に繋がるドアもない。コンクリート打ちっぱなしの空間
急に視界がボヤけ、足がふらついた。
足元を見ると赤い液体が見えた。
アドレナリンが出ているせいか、それが自分の血液だとわかるのに随分と時間がかかった。
 ふらつきながら部屋の隅へ崩れ落ちた。左腹にできた傷を押さえながらベルトに挟んであったリボルバーを取り出し、ハンマーを起こす。
ドアは随分と薄いらしく、外の音がはっきりと聞こえる。
「コツ、コツ」と革靴とコンクリートが鳴らす音がだんだんと近くなり、そして止まる。
呼吸がさらに荒くなる。リボルバーを握る手をドアの方へと向ける。
「ジャコッ」というショットガンの操作音が聞こえ「ゴツッ」とドアノブと銃口がぶつかる音か聞こえた。
荒い呼吸はさらに早くなり、酸素が回ることで視界は鮮明になり出す。
「バカン!バカン!」とドアノブが吹き飛ばされ始める。
最後の力を振り絞り、リボルバーのトリガーを引く、ガチッと起こされたハンマーが落ちるーーー


ーーー「ピピピピッ、ピピピピッ」
ガバリ、と布団を退けて起き、左腹を確認する。そこでようやく夢だと脳が認識した。
窓の外からは鳥の鳴く声が聞こえる。
「……死なずに済んだ」
私はホッと息をついた。