【小説】ドブネズミみたいに(1)
ガサゴソガサ
ある晩、いつものようにワンルームの上にある小さなロフトで寝ようとすると、ロフトの下のワンルームから物音が聴こえてきた。
もうそれは、気のせいだとか呼べないレベルの音の大きさだった。
(えっ!? なに、なにっ!?)
急いで電気を点けて、ワンルームを見下ろした。すると、段ボールが積み上がった間を、Sの字に曲がったなにかがスルッと抜けるのが見えた。
(ネ、ネ、ネズミ?!)
信じたくなかった。
(いや~~~ん。うそ~~~ん。一体どこから入ってきたの?!)
信じたくなかったが現実を見なくてはならない。
現にネズミは室内にいるのだ。
といっても、時間は深夜だった。今はどうすることもできない。
(明日も一日中仕事だ。とにかく寝なければ)
ネズミは、ロフトに上がってこない、はずだ。
明日になったら、ネズミは出て行っている、かもしれない。
半ば強引に自分にそう言い聞かせて、無理やり眠ろうとした。
ガサゴソガサ
(はあ~、ダメだ。眠れるわけがない)
電気を点けては段ボールの山を見つめた。
少しすると明日の仕事を思い、電気を消して眠ろうとした。
ガサゴソガサ
パチン、電気を点けた。スマホの画面を開いた。
『ネズミ捕り』
まさか、このワードを自分のスマホで検索する日がこようとは思わなかった。
(ほう、ほう、ほう)
ネズミ捕りと言えば、小動物が入るくらいの鉄製のオリや、ネズミの足や尻尾をバチンと挟むタイプを想像していたが、ゴキブリホイホイのネズミ版、ネズミホイホイもあるらしい。
(これはいい!)
幼い頃、鉄製でできたネズミ捕りのオリにネズミが掛かったはいいが、中のネズミを母が必死の形相で処理したのが忘れられなかった。
(ネズミは捕まえて終りじゃないんだ。処理するところまでがネズミ捕りなんだ)
でも、ネズミ捕りホイホイなら、捕まったネズミをそのホイホイペーパーごとゴミ袋に入れればいい。
(明日、仕事帰りにドラッグストアに寄ろう)
少し安心したら、眠気が襲ってきた。
ガサゴソガサ
その後も何度か物音が聴こえたが、いつの間にか眠りについていた。
(つづく)