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タル鶏天は麻薬

丸亀製麵、歴代人気No.1商品のタル鶏天を食ったことはあるか。
僕はなかった。昨日までは。


そもそも、全部モスが悪い。
僕はそのとき"和風のなにか"を食べたがった。和風ハンバーグ、和風パスタ、定食もいいな、その他その他。今日は春が近づいてきて暖かいから、さっぱり行きたいぜ。
そうだ、モスの新作。和風で、シャキシャキお野菜も入っていて、鶏の揚げたの。レモンも使用。今日の気分はそれだ、と運命的に悟ったのだった。
だがしかし、神様の悪戯は今日も気まぐれに、ちっぽけな人間の感情を揺さぶってくる。
あれだけデカデカと広告ポスターを貼っているにもかかわらず、店内のメニュー最上段、期間限定品に「販売を中止しております」の文字が書かれている。
僕は神様にフラれたようだ。一目惚れだと、運命の赤い糸で結ばれた前世からの許嫁だとそう思いたかったのに、許されない恋だった。ロミオとジュリエットもヴェローナ市街でこんな思いをしたのだろうか。僕はいま、東京のど真ん中で絶望しているよ。

店内を後にして空を仰いだ。悔しくも綺麗だ。青いお空を掠れた雲がすべる。
"和風旨だれのとり竜田バーガー"に未練タラタラのまま歩き始める。時間は前にしか進まない。僕のお腹は減り続ける。


とぼとぼと駅ビルへ向かう。駅ビルの中ならなんでもあるだろう。失恋した僕の侘しい心を癒してくれるだろう。
うどん。
うどんか、冷なら今の気分だな。鶏天?おお。タルタル?おおお。これは今の気分なのでは?
脳内シミュレーションを開始します。冷たいおうどん、ちゅるちゅる。鶏天、サクじゅわ。
あ、最適解きた。ポスターをよくみると、タルタルには可愛らしい黄色のリボンが拵えてある。柚子先輩!!食べます!

「タル鶏天 並 冷たいの」

これはこれは。鶏天四つがうどんを覆い隠すように堂々と鎮座している。照明を受けて、"我 不動ノ王座ナリ"と輝く。絶景カナ。
吸い込まれるように、のめり込むように、嚙み付いていた。この感情は、恍惚___


___頭がぼーっとする。どんぶりの汁に映る今はなきカリスマの影を、ただ見つめる。お腹、心が満たされて、幸せな気分だ。
ほとんど無心にて完食してしまった。夢中。夢の中。とにかく幸せな時間を過ごしたことは覚えている。
今この記事を書く瞬間も唾液が止まらない。舌は鶏天の肉汁と衣の油を求め、喉はうどんのコシを求めている。食道が痙攣している(気がする)。禁断症状だ。


お手軽麻薬。
味を占めてしまった。
一度味わった旨みは、忘れられない。

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