小説を書く。その31【BL小説】
いつも、ケンカばかりしていた。
顔を合わせればお互いを口汚く罵りあっていた。俺はあいつのことを嫌いだと思っていたし、あいつも俺のことを嫌っているだろうと思っていた。
中三になって、クラスもバラバラになり、受験勉強も本格的になり……。いつの間にかあまり顔を合わせなくなっていった。
あいつはどこの高校受けるんだろう。
ふと気になったが、なぜか気恥ずかしくて訊くことができなかった。
卒業式。
もしかしたら、もう一生会えないのかもしれない。
そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。
「おいっ……!」
正門の近く、もう少しで学校を出るところを捕まえた。俺が声をかけなかったら、このまま何も言わずに去るつもりだったのかと思うと、悔しくなった。
あいつは黙ったまま、卒業証書を手に振り返った。
「……何か俺に言うことないのかよ」
「……別に」
そう言われて思わず顔を伏せた。ああそうかよ、とここで踵を返したくなる。でもそうすると、本当にこいつとの縁はここで切れてしまう。
「俺は……あるよ」
意を決して、顔を上げる。あいつと目が合った。なぜかその表情はつらそうに見えた。
「お前とは、ケンカばっかりしてたけど、その……お前がいてくれてよかったっつーか」
つらそうな顔から驚いたように目を見開く。
「何かこのまま……っていうのは悔しいっていうか、何か……嫌なんだよ」
そこまで言い切ってふいっと顔を背けた。目の前を薄紅色の花びらが舞い散る。
よく見ると校庭の桜がところどころピンクに染まっていた。
「――ありがとな」
いつの間にか、あいつがあと半歩のところまで近づいていた。久しぶりに間近に見る端正な顔にどきりとする。
「俺もお前といるときが、一番楽しかった」
そう言って、ふふ、と微笑んだ。
こんな風に笑うんだな。
ケンカばっかりだったのに、楽しいなんて言われて、なんだか照れくさい。
「お前……どこの高校行くんだよ」
やっとものすごく訊きたいことを口に出した。
「ん? A高校」
なんだよ一緒じゃん。
俺はほっとして、あいつの肩を思い切りはたいた。
痛えな、と笑いながらはたき返された。
桜の花がこんなに綺麗に見えたのは、今年が初めてかもしれない。
きっと、来年も、こいつと。
そんな予感が胸をよぎり、俺は卒業証書をぐっと強く握りしめた。
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