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彼女が言いたかったこと


私は、SEKAINOOWARIというバンドがつくる音楽が大好きです
叫び出したくなるような想いをファンタジックな世界観で包んでくれる、ボーカルFukaseの感性と歌声が大好きです

Fukaseといえば、最近「キャラクター」という映画で殺人鬼を演じていました
作品内でのFukaseの最初の台詞は"大丈夫じゃないです"でした
山道を一人で歩いているところを通りかかった車から大丈夫ですか?と声をかけられて"大丈夫じゃないです"と答えるシーン
あまりにも透き通った第一声に早々に鳥肌がたってしまった私でした


ただ今日は、この映画の話をしたかったのではなく、同じくSEKAINOOWARIのメンバーであるSaoriが藤崎沙織として発表した「ふたご」という本のお話です
強く強く結びついた二人のお話です

この本のレビュー欄には気持ち悪いという不快を露わにした感想がやや目立ちます
「ふたご」は、西山夏子と月島悠介が出会ってから、バンドを結成するまでを描いている作品です

どう考えてもSEKAINOOWARIを連想させる内容ですし、読者は夏子=Saori、月島=Fukaseとして読み進めることになると思います
実際書かれている内容は、過去のインタビューなどで答えていた内容とほぼ全部一致します
この物語は全くフィクションではないのです
ただノンフィクションだとは言っていない
そういう作品です

ここでしっかり断っておきたいのですが、
私はアンチではありませんファンです

気持ち悪いと言われてしまう理由としては、タイミングもあると思います
「ふたご」は10月に刊行されていて、その翌年の1月にSaoriは結婚を発表しています
そしてこの作品が第158回直木賞にノミネートされたとき、Saoriは産休中でした
本を完成させるまでに5年間かかったとSaoriはあとがきに書いています
一般的な流れでいえば、結婚相手とのお付き合い期間から婚約するまでの間、Saoriはこの本の執筆をしていたことになります

Fukaseは以前、Saoriとの恋愛を含めた長い付き合いで育まれた関係性をインタビューで語っています
お互いがお互いの恋人以上の存在であると認め合っている二人です
その過程を惜しみなく語っているのがこの作品だと思います

ここで誠に勝手ながら、Saoriの心の声を想像して代弁してみたくなりました

"知って、でも理解してとは言ってない"

二人のことは二人にしか分からない
それでいい
それでも知ってほしいと思う理由が、二人にはあるのかもしれないなと歌詞の中にも感じることがあります

いっそのこと、本当にふたごのようであったら、こんなふうにいつまでも一緒にはいなかったのだと思う。
いや、はっきり言おう。
私たちがふたごのようであったら、絶対に、一緒にいることは出来なかった。


「ふたご」の冒頭で出てくる文章です
「ふたご」は二部構成であり、第一部では親が少し出てくる以外は月島の話です
彼女の世界の大部分が月島で構成されていて、二人の世界を描いています

第二部ではバンド結成が語られるので、登場人物が増えます
ここで最初のメンバーとして出てくる山口凛太郎はおそらくSEKAINOOWARIのNakajinのことだと思われます

私がこの作品で一番印象に残っている場面を読みます

月島は叫び続けていた。
玄関の前で、両手で頭を抱えながら、自分に巣食う悪魔を振り払うように叫んでいた。
不思議な光景だった。
私は玄関で立ちすくんで、月島に見入ってしまった。なんて美しいんだろう。
野生の獣のように、月島は美しかった。
涙で濡れた髪が、頬に張り付いていた。

この部分は、Fukaseが発狂する様子が今私の目で見ているように鮮明に浮かびました
第一部ではFukaseが精神を患っていた当時のとても不安定で危うい描写が鮮やかに語られます
これは、愛おしい人が目の前で発狂するシーンです
想像してみてください

恍惚とした、見惚れているかのような表現です
少し離れたところから、駆け寄るわけでもなく、きっと瞬きも忘れて目に焼き付けています

では、シメとして「バードマン」というSEKAINOOWARIの最近の曲を紹介したいと思います
頑張れないことの辛さを身をもって知っているFukaseが伝える、頑張れと言わないエールです


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