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クリスチャン・ボルタンスキー 『Lifetime』

※2020年7月20日 加筆修正

東京本社での研修があり、時間があったので、大阪に戻る前にどこか寄って帰りたいなあ、と考え、探し見つけたのがこちらの展覧会。

空間のアーティストと呼ばれる、クリスチャン・ボルタンスキーの「Lifetime」

展覧会のタイトルが「Lifetime」(一生)とあるように、彼が20代の時に作った作品から、70代の作品まで、まさにボルタンスキーの一生を追体験できる作りになっていました。

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クリスチャン・ボルタンスキー。フランスの芸術家です。



以下、感想です。

国立新美術館について

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美しいガラス張りの建物は、それを見にいくだけでも価値があると思わせてくれます。ちょうど木に隠れてしまい見えないのですが、独特な形をした建物です。

まるでM字を描くように波打つような特殊な形をしています。地震でも来たらどうなるのか?日差しが直接入ってきて、まるでビニールハウスにいるみたいなのでは?と色々思ってしまう見た目です。

しかし、そこはご安心を。公式HPによると、免震装置による地震・安全対策を行なっており、さらに建物を作った建築家・黒川紀章のインタビューでは、ガラスの組み合わせで紫外線・太陽光をカットした省エネ設計になっているとのこと。


展示会 感想

 足を踏み入れ、最初に現れたのは2本のショートムービー。血を吐きながら咳をし続ける男の映像と、少女の人形を舐め続ける男の映像でした。

ボルタンスキーの予備知識が全く無い状態で足を踏み入れたためか、想像もしていなかったグロテスクな映像に、思わず目を細めて怯えてしまいました。

 後から図録を読んでみて気づいたのは、これはボルタンスキーの生い立ちが関係しているということ。ユダヤ人の父親の元で生まれ育ち、「両親を訪ねてくる知人たちから聞いた強制収容所から逃れてきた人々の話が、彼(ボルタンスキー)のトラウマとなっている」(p33)という話から分かるように、その経験が作品に反映されているのだと思います。

それにしても、初っ端から心が騒ついてしまいました。恐るべしボルタンスキー。


 さて、順路に従って行くと、家族写真が壁一面に貼られた空間にたどり着きます。友人からアルバムを貰ったボルタンスキーはその写真を引き延ばし、年代順に飾ったというもの。

壁一面に並べられた写真たちを見ると、まるで家族の一生をみているかのような気持ちになりました。歴史を見ているかのようで面白く、写真一つ一つを場面を想像しながら見ることが出来ました。

 その後も写真エリアを通り、ボルタンスキーの顔が投影された空間にたどり着きました。「あれ、ここで行き止まり?」と思いましたが、その顔はのれん(?)に映し出されていて、そこを潜るようになっていました。

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「人の顔の中に飛び込む」というのは、なんとなくゲームのようでワクワクしてしまいました。思えば私が幼い頃見た、「スーパーマリオ64」というゲームで似たような場面あり、それを思い出したのかもしれません。(あれは絵の中に飛び込んでいたけれど。)


 次の場所は、まるで教会の中にいるような、神聖な空気を感じる空間。全ての写真がモノクロで、遺影のようにも思えるし、電飾があり、そして線で繋がっているからか、生命の繋がりのようなものを感じました。

冒頭でも言いましたが、空間のアーティスト通り、ボルタンスキーは場所作りが恐ろしいくらい上手いです。そこに没入する時の感覚が、何とも言えないものでした。

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 そして、今回のメインでもあろう作品がこちら。「ぼた山」です。

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<ぼた山>は黒い衣服堆積でできた山で、そこにコートの1枚1枚を見分けることはできない。まるで人間の思い出の一切が本当に失われ混ざり合ってしまったかのようだ。これは不定形な塊に過ぎず、そこでは人間一人ひとりの個性は消え去ってしまっている。

 写真撮影可能エリアにあり、中央に大きく積まれていました。サイズ感もあって、初めて見たときは、そのインパクトにただ圧倒されてしましました。

改めて、解説を読んで考えてみると、ぞっとする作品です。黒い服がこんなにも大量に、無造作に積み重なった山を見ると、「私の家族も死んだらこの中に埋もれてしまうのか?」「私も死んだらそうなるのか?」と、いろんな疑問が頭をよぎりました。

ボルタンスキーはインタビューで、展覧会を教会にいるような、「沈思黙考の時間」にしてほしいと、語っています。見事に彼の思惑通り、考えてしまったという訳です。恐るべし、ボルタンスキー。


 このエリアには、映像作品が2つありました。一つはアニタミス(白)と題される作品でカナダの厳しい冬景色の中、先端に小さな鐘のようなものがついた棒を、なんと10時間以上、固定カメラで撮影した映像です。

流石に全てを見ることはできませんでした。5分くらいの映像を繰り返し流しているものだと思っていたのですが…10時間…。発想もすごい

 さて、展示会の空間、つまり構成を改めて考えてみると、最初は人が登場する映像、家族写真…といった「人」にまつわる作品だらけでした。しかし、後半、「ぼた山」あたりから、人の気配が消え始めます。

それはまさに、人間の一生を表しているかのよう。さらに、この世に生まれてから死ぬまでだけでなく、死んだ後の世界まで、残された衣服、誰もいない自然の映像で表現していると感じました。

ボルタンスキーの空間構成の力、恐るべし。

このように、写真から映像まで、様々な作品を見ることが出来て、大満足な企画展でした。社会人にもなり、経済的余裕が少し生まれたということもあり、図録も買ってしまいました。

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作品解説もあり、ボルタンスキーの対談もあり、と内容の濃いものとなっていて、家に帰って見返すことで二度企画展を楽しむことが出来ました。

以上です。

ここ最近は、兵庫県立美術館で行われている印象派展など、絵画中心に美術館を見て回っていたので、こういう服や写真といった、ものを使って、空間自体を楽しむ展覧会は、とても新鮮でした。

是非行くのをお勧めします。

※写真は以下の記事から借用しました。


ちなみに、

KPOPアイドル、BTSのファンである私は、『ぼた山』あたりから「どこかで見たことある感じが…」と既視感を胸に見ていたのですが、『Spring Day』という曲のMVに登場した、服の山そっくりだったのです。

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(BTS (방탄소년단) '봄날 (Spring Day)' Official MV より)

予備知識も無いまま見に行ったので、全く偶然の出会いと発見でした。好きなものは何回も繰り返し見たり聞いたり、時には調べたりする中で、アンテナが私の中ですくすくと育っているんだなあ、と感じました。

無意識のうちに引き寄せたのか、あるいは・・・?とにかく、個人的に発見があり、いつもよりお得に楽しむことが出来ました。


今日はここまで。



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