持たざる者が努力することの難しさ

前書き

ふと、脳科学における「貧困と努力の関係性」という興味深いトピックを目にしました。
内容を見ていると、「貧困に限らず強いストレスが構造的に努力への障壁となっており、誰もがこのパラドックスに陥る可能性がある」と感じたため内容を簡単にまとめています。

※この文章では貧困層が努力することの構造的な障壁について述べています。「貧困者は努力ができない」と断定しているわけではございません。

稚拙ではありますが、本題に入る前にタイトルで用いている言葉についても認識を揃えさせていただきます。
持たざる者: 日々の生活に困窮している貧困層
努力: 月次・年次などの中長期的な達成項目に向け、何かを犠牲にしてコミットする行為

1. 貧困と脳の報酬体系の影響

ストレスは人間の行動と意思決定に大きな影響を及ぼすとされている。
貧困によるストレスは脳の報酬体系、特にドーパミン系統に変化をもたらし、即時の報酬を求める傾向を強化するよである。
これは「報酬割引」と呼ばれ、将来の大きな報酬よりも、少ないが即時の報酬を選好する傾向を指す。

2. 貧困による物理的リソース不足

また、貧困状態では物質的、情緒的、または認知的なリソースが限られ、長期的な目標を立ててそれに向かって努力することが難しくなる。

3. 持たざる者に努力は難しい

前述のように、脳の報酬体系が即時の快感を求め、さらにリソース不足から短期的出来事の重要性が極端に高い状況下では、努力(=中長期的な物事の達成に向けて継続的に特定のアクションを行うこと)が非常に難しいことがわかる。

貧困化では、脳の報酬体系は、未来の自分のために何かを学ぶより、今の快感を得るためにビデオゲームに身体を突き動かし、1ヶ月後の目標のことは考えられず、明日の食事・収支のことで思考は占有されるのである。

4.脳の報酬体系を変える訓練

この貧困の状況下で中長期的な利益に焦点を当てるためにはいくつかの戦略を採用することが効果的とされている。

  1. 小さな目標の設定

  2. 自己効力感の強化

  3. ポジティブな視覚化

  4. ストレス管理

  5. 感謝日記の習慣

  6. 社会的サポートの活用

  7. 教育とスキルの習得

  8. 意思決定の追跡と反省

これらのアプローチは、個人が中長期的な利益を追求するための脳の報酬系を効果的に活用するための一助となる。

貧困さに関わらず、強いストレス下においては我々は短期的な快感を求める傾向にあるため、強いストレス下にあると自己認識している場合には上記の対策をすることで中長期的な利益に焦点を当てることを意識すべきであるとされている。

5. 出典

  • Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). "Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey". American Psychologist.

  • Bandura, A. (1994). "Self-efficacy". In V. S. Ramachaudran (Ed.), Encyclopedia of human behavior.

  • Kabat-Zinn, J. (1990). "Full Catastrophe Living: Using the wisdom of your body and mind to face stress, pain, and illness". Delta.

  • Cohen, S., & Wills, T. A. (1985). "Stress, social support, and the buffering hypothesis". Psychological Bulletin.

  • Becker, G. S. (1964). "Human capital: A theoretical and empirical analysis, with special reference to education". The University of Chicago Press.

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