5/21 初めての文フリはクリエイターになれた気にさせてくれる場所だった

トラベルバッグに詰め込んだ、A5 130ページ 45冊。電車の中で俺の右肩の悲鳴が聞こえていたのは、多分俺だけだっただろうな。浜松町の東京モノレール線は羽田空港に行く人と文学フリマに行く人が混ざりあっていて、どちらもキャリーバッグを持っていたから、ホーム内には妙な統一感があった。メイドのコスプレをしていた人は明らかに文フリ側の人間だったが。

電車に乗ったら隣に座ったのがそのメイドさんで、ツレと丁寧語で会話していたんだが、早口すぎてすぐにオタクだとわかったんだが。接客が大事みたいな話を熱弁していたから、こういうイベントには慣れているんだろう。

一方、ツレさんは初めての出展らしく、お客さんに写真を撮ってもいいかと聞かれたときに断ることができるのか不安がっていた。そしたら「大丈夫ですよ、私、超能力使えますから」とメイドさんがマジのトーンで言っていて、ツレが反応に困っていた。

俺はそのとき、絶対にこのシーンをレポで書こうと思った。話を聞くに、接客のテクニックを超能力と呼んでいた。あの場に涼宮ハルヒがいたら「私に変な期待させた罪は重いわよ」とお怒りになっていただろう。

車窓からわずかに見えた養殖場のような四角い水面は太陽に照らされて輝いていた。売れるだろうか、うまく接客できるだろうか、面白い出会いはあろうだろうかと、期待と不安が交互に押し寄せる。電車の揺れがシンクロしている。

駅を出ると、知らない人がいっぱい立っていた。みんな強そう。ハンター試験みたい。人が流れるままに歩くと会場にたどり着いた。自分も含めて、ここにいるのは創作の人だけのはずなのに、商業的な製品としてベルトコンベアで運ばれているみたいだと感じたのは、ここが流通センターという地名だったからかもしれない。

自分のブースは入り口付近だったのですぐに見つけることができた。初心者だったのでわかりやすい位置で非常に助かる。どのブースもレイアウトのクオリティが高くて恐れ参る。

長机に敷くテーブルクロスを買っていなかったので、緊急で持ち込んだ、本来、布団の下に敷くためのエメラルド色の乾燥シートをバッグから取り出す。折り目がくっきり付いており、短い髪の毛もたくさんへばり付いている。むしろ、人が寄り付かなくなるのではないかと思って、そっとバッグにしまった。

隣の人がやってきた。俺と長机をシェアする人。「よろしくお願いしま~す」。こういうとき、悪意なき単純な疑問として「なにが『よろしくお願いします』なんだろう?」と思ってしまう。だから、俺は社会に弾かれているんだろう。人の気遣いには感謝しなければならない。「はい、よろしくお願いしま~す」。

目の前の学生さんたちは俺と同じくテーブルクロスを敷かずに長机剥き出し。殺風景な俺のブースに同情してくれたんだろうか。ありがとう。ダンボールから本の束を取り出す。段が滑らかにずれていくという新品の挙動を見せる。机から落ちないよう慌てて押さえて、自分が慌てている様子を俯瞰して、にやける。若干取り乱した自分を笑えているという余裕を周りに見せつけるように。

ここからはDIYの時間。紙やダンボールをハサミで切り、本立てや値札を作った。周囲を見渡して良いなと思った人の真似をして本の情報を書いた。ひとこと紹介文のために短くて惹きのある言葉を電車で考え続けていたが、全部不採用。その場で思い付いたものを書いて、机の正面にぶら下げた。

気づけば開場時間5分前。見本誌コーナーに本を置いて、席に着くと会場に人が雪崩れ込んだ。最初の30分はお客さんが来なくて不安だった。まさかこのまま売上0で終わるのか。こうしていられないと立ち上がって呼びかけを始めた。

同い年くらいの男性が足を止めて話を聞いてくれた。詩集をパラパラと読んだあと「面白いですね」と言ってくれた。それが初めて詩集が認められた瞬間だった。嬉しくてバイト先では出てこない心のこもった「ありがとうございます」が出た。そのあと「買います」と言われて、報われてないサラリーマンが自分の出した案を採用されたときに発せられるような、日曜劇場のドラマでも通用する「ありがとうございます」が出た。やっと1冊売れて一安心。ちらっと隣の人を見るとお客さんから差し入れをもらっていた。なんという落差。

早く友達よ姿を現せと願うけど実際に来たのはその2時間後。友達とブース前でお喋りして和む。今まで感じていたことを話してスッキリ。気張ってる感じが抜けたのか客足も伸びてくる。

別のブースの友達が様子を見に来てくれた。友達の彼女が買ってくれた。偶然いらしていたお世話になった方もノリで買ってくれた。嬉しい誤算に心踊る。

終盤、60代くらいのおじさんが来て「(詩のわりには)直接的な表現じゃない?」と批判を浴びせられた。こういうのも案外楽しい。あっちも若者をくさせて楽しいだろうからWin-Winの関係だ。

全然読まずにパッと「これください」と言ってくれた方がいた。どこかで俺のことを知ってくれてたんだろうか。そういう人ともお話してみたかった。

結局、売れたのは17冊。半分以上余ってしまったけれど詩集なんてマイナーなものをこれだけ買っていただいて本当にありがたい。

初めての文フリは自分がクリエイターになれた気にさせてくれる場所だった。作り始めの時期はこの勘違いがとても大切だと思う。まったく売れずトラウマにならなくて本当に良かった。無事、成功体験を1つ積み重ねられたというわけだ。

ところで、文フリの1週間前くらいに「文フリのこと周りに言ってる?」って自分から聞いてきた友達がいたんだけど、いくら待っても会場に来なかった。なんだあいつ?変じゃない?


(人にはそれぞれ用事というものがある)


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