2023.4.25 初めてのひとり飲み、そして

家の近くに前から気になってる居酒屋がある。気になってるというか、その居酒屋は何回か訪れたことはあるのだが、ひとりで行ったことはなくて、是非ともひとり飲みというのをやってみたく、その第一実験場所にしたかったのだ。しかし俺にはそこに踏み入れる勇気がない。そういうときは運に選択を任せることにしている。俺はパンの耳を揚げて砂糖をまぶしたやつが好きなのだが、それが近所のスーパーでたまに売っており、もし今日、お目にかかることができたなら、それだけを買って家に帰り、なかったら初めてのひとり飲みをすることにした。スーパーに行くと例のブツが売っていた。しかし、なぜだか、俺の心はもうあの居酒屋に向かっていた。俺はひとりで居酒屋に行くことを決意した。階段を降りる前にメガネを外す。少しでも店員によく見られたいからだ。しかし、俺を出迎える人はおらず、「いらっしゃいませー!」の声は厨房から聞こえてきた。「一人です」と言う時の俺の声はいかにも頼りなく、人見知り全快という感じだった。カウンター席に案内されたが、先客がすでに2人いたので俺は一番端に座ることを余儀なくされた。注文をしたいが、もちろん目が悪いので、結局ポーチからメガネを取り出すことになり、それでもメニューを確認する視力がなかった俺は勝手に近くのテーブルに置かれたメニュー表を取り店員を呼んだ。ハイボールとフライドポテトと焼き鳥8本盛りを頼み、俺は予め持ってきていた詩集をポーチから取り出してカウンターに広げた。今日読み終えようと決めていた詩集だ。俺は昨日バイト先でお客さんが忘れていったセブンスターを取り出し火をつけて詩集を読み始めたのだが、新しい環境が苦手なこともあってか集中できず全然頭に入ってこなかった。結局、ハイボールが届くまで、吸い馴染めていないセブンスターの香りを楽しもうと努力したわけだ。思い起こせば注文するときの声もなんだか自信なさげだった。俺は非常に無理をしていると思った。しかし、そんな自分も楽しみたいのだ。ハイボールが出されたとき、俺は店員と目を合わせずに「ありがとうございます」と言えた。ありがとうございますと言えたのだ。店員の顔は確かに視界にあったが、茶髪で三つ編みということしか把握できなかった。ハイボールが来るまでは店で流れている有線と他の客の会話に耳を傾けた。他の客はおそらく社会人2~3年目くらいの集まりで「5万払えば整形できるのか~」という会話だけが耳に入った。今は整形を公表している人が多数いるのでわりと顔を変える勇気が必要とされていない。だから否定的な意見が少なからずあった一昔前の時代に整形をした先駆者的存在の人はすごいと思う。俺は先駆者愛好家だ。有線で流れている曲は絶対に聴いたことのある曲だったけれど全く思い出せなかった。サビが来た時、何が流れているのかわかった。なぜなら「翼の折れたエンジェル~」と聞こえたからだ。酔いが回り割り箸を2回落とした。ペースが少し早かったのだろう。フライドポテトが運ばれてきた。居酒屋の隅で食べる一人きりのフライドポテトはなんだかさみしいものだ。美味しいけれど量が多い。ひとり飲みのデメリットはすべての料理を多く感じてしまうことだろう。続いて焼き鳥の8本盛りが到着した。店員からそれぞれの串の説明を受けるが4割くらいしか頭に入ってこない。外国人にとっては良い日本語のリスニングテストになるかもしれない。皮を食べる。美味しい。砂肝を食べる。美味しい。ねぎまを食べる。ねぎ、甘い。美味しい。もう、美味しいのだ。全部が美味しいのだ。すべての焼き鳥を食べきる前にハイボールがなくなったので、もう一杯注文した。今度はメガサイズだ。残りのレバー、ハツ、ぼんじり、なんこつ、そして、もも、も全部美味しかった。1時間も経たないうちに帰ると店員に舐められると思った俺はさらにハイボールと鳥の軟骨を注文した。そして、「チンチロ」をすることにした。「チンチロ」とは2つのサイコロを振り、出た目の数によってサービスが変わるちょっとしたお遊びだ。俺が投げたサイコロはどちらも4。ゾロ目は無料。ラッキー。通常料金を払えばメガサイズにしてくれるということだったので二つ返事で了承した。2杯目のメガハイボールが目の前にガツンと置かれる。お酒のCMを間近で見ているような迫力があった。しかし、そろそろ飲むペースも遅くなってきた。ひと口で飲む量が少なくなってきている。そんな時に軟骨の唐揚げの登場だ。おつまみはいつも遅れてやってくる。レモンの果汁は揚げ物によく合う。さっぱりとした風味にカリっとジューシーな…と、もうありふれた表現はやめにしよう。美味しかったのだ。もう、美味しかったのだ。大満足かつ頭もフラフラ。お会計はなんと2568円。ひとり飲みにしては高い値段だが、これだけ食って飲んで3000円いかないのは安すぎる。予算内に収まったのでスーパーに寄ってあのパンの耳を揚げたやつを買うことにした。お酒を飲むと食欲は止まらないのだ。しかし、パンのコーナーに彼らの姿はなかった。人気者はあっという間に家に連れていかれる。俺も所詮オタサーの姫に群がるうちの一人というわけだった。仕方ないのでカツカレーを買った。レジを抜けるとあることに気づいた。カツカレーの方がポーチよりでかい。仕方がないので骨壺を持つ遺族のように両手でカツカレーを持ちながら帰った。しかし途中で蓋が外れて容器が下に落ちカツが地面に散らばった。すかさずカツを容器に戻したが、あのときの俺はミレーの落穂拾いみたいになっていた気がする。歩きながらラジオを聴いていた。空気階段の踊り場というやつだ。内容が面白いというより空気階段の2人の人間性が面白いのだ。今回のラジオでは鈴木もぐらがモテない理由は性格が悪いからだと相方の水川かたまりに非難されており、本人はチビでデブでヒゲだからだと反論するという言い争いだった。水川かたまりは言う。「もぐらは無自覚に人の心に石を積んでいる、それは人の気持ちがわかってないからだ。お前は性格が最悪だからモテない」と。俺は笑いながらも「これは俺のことを言っているな」と思った。人の気持ちがわからないから人の善意に漬け込みまくり、それが不満という石となって他人の心に積まれていく。ここまではわかってんだ。システムはわかってんだ。だけど、人の気持ちだけはどうにもわからない。わかろうとしていない。しかも、たちが悪いことに、鈴木もぐらには愛嬌がある一方、俺にはかわいげというものが一切ないのだ。俺は愛嬌で誤魔化したり媚びないと成立しないことをそういうの一切なしで平然とやるので鈴木もぐらよりも最悪なのだ。この放送は2017年のものだった。翌年の2018年に鈴木もぐらは一般女性と結婚し、今年2023年の1月に離婚していた。浮気とか不倫ではないのだ。きっと相手は鈴木もぐらから無自覚な悪意を浴びせられ続けて耐えきれなくなったんだろう。俺にはわかる。俺がそうだから。それを裏付けるように、俺の親は離婚しているし、俺の父親の兄弟も父親もおじいちゃんも全員離婚している。俺にはまごうことなき離婚の血が流れているのだ。俺もきっと離婚するだろう。何度も言うが俺たちのような人間は浮気や不倫に興味がないのだ。一途で純粋でロマンチストだ。誠実な人間であるという事実、これだけは疑わないでくれ。しかし、どういうわけか、人間として嫌われる。そんな未来が現実まで顔を覗かせてくる。これは、予想ではない。確定事項だ。今までその事実を覆したことがなく、長く一緒にいた人は間違いなく俺を嫌う。だから、ここ1、2年は深い関わりを持たないように会う回数に制限を設けるなどの工夫をしているのだ。ところで、こうも離婚離婚と騒いでいるが、それ以前に俺と結婚してくれる相手はいるのだろうか。俺はどうやったら結婚できるのだ。教えてくれ、未来のパートナーよ。ついでに離婚しないで済む方法も。できれば友達の作り方も教えてくれ。

後日、改めて俺の悪いところを考えた。それはやはり自己中心的なところに落ち着くと思う。誠実がどうのこうの言っているが、自分は常に中立的な立場で物事を見ていない。ほとんどの場合、最初から自分は自分の意見寄りなので、フェアではない。自分の意見を押し通すことしか考えてないので相手が意見を通すのはかなり難しい。この前、こんなことを知り合いに話された気がするが、その時は全く理解できなかった。今なら少しわかる。個人に対してわがままを押し通そうとすることはあまり良くないかもしれない。あまりというか絶対だ。しかし、このわがままさを矯正するのも違う気がする。なので、団体や社会に対してわがままであろうと、自分より大きなものに対してはわがままを押し通そうと思った。というか元からしている。自分より弱いもの、強いもの、対等なもの、なりふり構わずわがままを貫こうとしている。やめた方がいいんだろうけれど、そしたら満たされてしまう気がする。エネルギーが涌き出てこない気がする。残念ながら、幸せになってしまったら終わりの人間だから、負の水車で生命を回している人間だから、どうするべきか非常に悩む。

小さい頃からお金をもらうことが好きでした