『往復書簡』(仮)24復信

Sさんへ

こんにちは。
この前の手紙に書こうと思って書き損なったことを先に、ちょっとだけ。
月について考えたことがあって。月は満ちては欠けるけど、どこかの時点で、ある瞬間、100.00%になっているんだなって気がついたんだけれど、もし、100.00%という数字を完璧なものとするなら、この世に完璧なものがあるってことになるなと思って。数字のトリックに過ぎないとは思うんだけど、何だか可笑しくて。それだけです。
で、質問についてだけど、わかると思うけど答えは出ていないし、今のところ出す気もない。それが答え。はい、終わり。
Sさんの将来に対してのアプローチはごく自然で、幸せだなと思った。学芸員、今はキュレーターっていうことも多いらしいけど、とかはどうなんだろう。もしそれを目指すなら芸術系に進学する必要があるとは思うけれど。早めに調べてみた方がいいと思う。これ以上のことを僕に聞かれてもわからないから。念のため。
絵にしろ、言葉にしろ、音楽も、表現を通して他者と共有されるものの可能性を僕は信じているんだけれど、色や言葉や音、それ自体は道具に過ぎないとも思っている。そこになにが表現されているのか、それをないがしろにしたものが多すぎるとも感じている。
いつだったか、Sさんは何でもありだと言っていたと思うけれど、商業ベースで考えれば確かにそうだと僕も思う。ただ、果たしてそれが正解なのか、僕は立ち止まって考える。芸術の役割について、今一度問い直した方がいい気もする。
本物という言葉は危ない言葉だけれど、エンターテイメントと本来の芸術の間には、完全なる断絶があるように僕は感じている。

T 


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