#262 若い世代は本当に「飲みニケーションが苦手」なのか調べてみた
竹内義晴の「これからの働き方」――この番組は、これからの働き方、組織作り、地域づくりの実務家、竹内義晴が「楽しく働く」をテーマに、組織づくりやコミュニケーション、マーケティング、キャリアデザイン、複業、テレワーク、ワーケーションなどの視点で、ゆるゆるとお話をしていく番組です。もし、この番組が面白かった、あるいは参考になったらフォロー・コメントなどいただけると嬉しいです。
前々回は、若い世代は本当に「飲みニケーションが苦手」なの? という問いを立ててみました
前々回の「若い世代は本当に『飲みニケーションが苦手』なの?」では、よく、ちまたで言われる「若い世代は飲みに行きたがらない」という話について、「本当?」と問いを立ててみました。
なぜなら、忘年会シーズンということもあって、ネットをみていると「若い世代は飲みに行きたがらない」みたいな記事を本当によく見るからです。
ネットで見かけた「Z世代はお酒が……」の記事
たとえば、これ。
元記事はこちらのようです。元記事には「ゆとり&Z世代」という言葉がありません。
ちなみに、元記事のほうを読んでみると、もっとも新年会に行きたくない年代は30代だそうです。ゆとり&Z世代に限らず、年末に飲み疲れていれば「新年会は行きたくない」と思うんじゃないかな、と。
次の、「若い世代は飲みに行きたがらない」に関する記事はこちら。
元記事のタイトルは違いますが、こちらの記事はどちらも「Z世代」とうたっています。
タイトルは「Z世代」となっていますが、内容をよく読んでみると、飲み会が苦手な理由は、「シラフから見て別人格だから」「苦手な話ばかり繰り返され、前に進んでいない」「お金の無駄と感じる」「時間の無駄と感じる」といった内容でした。
「お酒が苦手なら、年代に関わらずみんなそうなのではないか」と思いました。
「ネタ」ならいいけれど「思い込み」につながらないか
面白く読ませる「ネタ」としてであればいいんです。ですが、こういった情報に触れることによって、「最近の若い世代は飲み会が苦手だ」という、職場における人間関係の「思い込み」を抱かせる1つの要因になっていないかな? という懸念を抱いています。
本来、人はそれぞれ多様です。僕の意見では、年代に関わらず、飲みニケーションは「好きな人は好きだし、苦手な人は苦手」「無理やり飲まされるのは好きじゃない」と思っています。
というわけで、一般的によく言われる「 若い世代は、飲みニケーションが苦手」は本当なのか? についてデータを調べてみました。
本当? 若い世代は「飲みニケーションが苦手」なのかデータを調べてみた
飲みニケーションに関して、できれば、学術的な論文がないかと思いました。そこで、論文が検索できるGoogle Scholarで「飲み会 コミュニケーション」「飲みニケーション」といったキーワードで調べてみました。
ですが、さらっと触れているものはあったものの、「お~! これはいいデータだ!」といった論文を見つけることはできませんでした(もし、ご存じでしたら、ぜひ教えてください!)
そこで、ネット上にあるアンケート結果や調査を調べてみました。
調べるにあたり、できるだけ元記事をあたりました。また「年代による差」を意識しました。加えて、コロナ禍中と後では、意識に違いがあるのではないかと感じられるため、できるだけコロナ禍の影響を受けない情報になるよう、留意しました。
R&C株式会社のアンケート
まず、R&C株式会社が20~50代の社会人男女1,000人にアンケートを実施した、社会人の飲み代平均は1回4,237円で1カ月の平均は6,002円!参加回数は20代がもっとも多い結果に!。
こちらの記事によれば……
となっています。
年代別のグラフもあります。著作権の関係で画像データは引用しませんが、「好き」「どちらかといえば好き」「どちらともいえない」を合わせると、各年代とも6割程度で、多少の差はあるものの、年代による差はそれほど感じませんでした。
株式会社くるめしのアンケート
つぎに、株式会社くるめしが、全国、20歳以上の「くるめし弁当」「シェフコレ」会員 男女719人に行った「忘年会・飲み会に関する意識調査 2023年版」です。こちらは、リリースは株式会社くるめしのサイトにあったものの、データはPR TIMESに掲載されていました。
こちらのアンケートによれば……
とのことでした。飲み会はむしろ「交流が深まる良い機会」とのことです。
株式会社ライボ(Job総研)の調査
つづいては、キャリアや就職・転職に特化した匿名相談サービス「JobQ」を開発・運営する株式会社ライボの調査機関『Job総研』が、1,037人の社会人男女を対象に実施した「2023年 忘年会意識調査」です。
こちらの調査によれば……
だそうです。年代別のグラフもありますが、忘年会への参加意欲は約5割程度で、年代による差はほとんど感じられませんでした。
産労総合研究所のアンケート
業界によらない、中立的なデータはないかと思い、調べました。
こちらは「人事実務」という人事系の雑誌を刊行している、産労総合研究所が2021年に、20~60代の男女300人を対象に行った独自調査:飲みニケーションは好きですか?のアンケート調査です。
このデータによれば、職場の飲み会が好きなのは3割程度となっており……
となっています。
年代による差は、男女によって多少の違いはあるものの、飲み会が好きなのは20代も50代も3割程度で、年代の違いはあまり感じられませんでした。
タメニー株式会社の調査
次に、タメニー株式会社が20~39歳の男女2,400人に対して「会社の忘年会」に関するアンケート調査です。リリースはこちら。データはPR TIMESの飲み会で社内コミュニケーションを取っている人はわずか8.2%となっています。
このリリースをよく読んでみると、「飲み会で社内コミュニケーションを取っている人が8.2%」の比較対象が……
となっています。
通常、社内で仕事のコミュニケーションをするなら、直接対面で会話するのが自然だと思いますし、続いて、電話やミーティングなのも自然です。それらと比較して、飲み会が8.2%なのは、個人的には「それは、そうだろうな」と感じます。
「飲み会が8.2%」だけをタイトルでみると、「え? やっぱり飲みニケーションはダメなの?」と感じますが、データの読み方は留意したいところです。
調べた結果「年齢はさほど関係ない」
さて、ここまでのデータから、みなさんはどのように感じられたでしょうか?
上記で取り上げた記事のデータをご覧いただくとお感じいただけると思いますが、その多くは「お酒が好きな人と苦手な人は半々」「年代別で、お酒が好きな人と苦手な人の差はほとんどない」という結果となっていました。
僕の、率直な感想としても、飲みニケーションにおける年代による差は「ほとんどない」でした。
それにも関わらず、飲みニケーションに関するネット上の情報は、なぜ「Z世代」「ゆとり世代」「若い世代」といった、世代で括った情報であふれているのでしょうか。
なぜ「若い世代はお酒が苦手」という情報であふれているのか?
ここで、なぜ「若い世代はお酒が苦手」という情報であふれているのか? について考察してみます。
その理由としては、そういった情報を発信したい人たちが、過去に「飲みに行くことで、交流ができた」といった、何かしらの成功体験があるからなのかもしれません。
また、以前はピラミッド型のヒエラルキーがある組織体制が一般的だったために、「飲み会は全員参加だ!」と上司が言えば、それに従わざるを得なかった背景がありそうです。ですから、「以前はみんなで飲みに行ったのに……」となるのも、不思議ではありません。
一方で、アンケート結果を読み込んでみると、飲みニケーションが好きな人、苦手な人は、どの年代でも半々ぐらいであるように、本音ベースでは、年代に関わらず「飲みニケーションが苦手な人はもともといた」と言えます。
また、近年「飲みニケーションが減った」と感じるのは、世代よりも、むしろ、ハラスメント防止などの職場環境の変化が影響を与えているのかもしれません。つまり、「いままで見えていなかったものが、可視化されるようになった」と考えることができそうです。
このように考えてみると、「最近の若い世代は飲みニケーションが苦手だから……」と、過度に遠慮することはないのではないかと思っています。
そもそも人は多様である
もし、気にすることがあるとすれば、「そもそも、人は多様である」ことと、「それぞれの事情を尊重すること」です。そうすれば、飲み会に誘うことも、それほど恐れなくてよいのではないでしょうか?
ちなみに、僕が飲み会を企画するなら「参加は自由」「行きたい人だけで行く」とします。なお「〇〇のために、飲み会をしたい」という目的は伝えるように意識しています。
このような関わりをするようになってから、「目的を考えると飲み会には参加したいのですが、実は、家族の事情があって……」とか、「お酒は好きなのですが、実は、大勢の席が苦手で……」とか、といった事情を教えてくれるようになりました。
それぞれの事情を聞けば十分納得できましたし、むしろ、「こういった本音が言える職場環境こそ、大切なんじゃないか」とも感じます。
「思い込み」や「印象操作」をうたがうことも大切
ここまでのお話の中で、一般的なイメージと、実際のデータでは印象が異なったように、「若い世代は、宴席が嫌いに違いない」といった思い込みや、過度にネットの情報を信じることも注意したいところです。
最近読んだ、古屋星斗さんの著書『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』には、こんな記述があります。
つまり、「コミュニケーションといえば飲み会」に頼るだけではなく、日ごろから、部下にわからないこと、不明瞭なことがあれば確認したり、他部署の人たちと交流する機会を作ったり、自身の失敗や成功を部下に話したり、部下がやりたいことを聞いたり……といったコミュニケーションを行っていれば、さほど、飲み会を恐れることはなさそうです。
「お酒は好き? 苦手?」そんな会話も、相手の事情や多様な個性を知る上での、大切なコミュニケーションの1つですよね。若い世代と飲み会については、そんな観点で捉えてみてはいかがでしょうか?
というわけで、今日の話はこれで終わりにします。じゃあね、バイバ~イ!
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