経営層が引き起こしたマーケティング現場での手段の目的化の実例
今回は、筆者が勤めていた会社で実際に起こった、マーケティング現場での手段の目的化の実例をご紹介します。
皆さまの会社でも起こりうる事例だと思いますので、ご参考にしていただければ幸いです。
なお、「手段の目的化」とは何か、何が悪いのかについては、以下の記事をご参照ください。
「テレビCMをやるぞ」それは役員の一言から始まった
当時、筆者の勤めていた会社では、新しくリリースしたサービスの登録者数がなかなか軌道に乗らないという問題を抱えていました。
それもそのはず、そのサービスは設計段階において、市場のニーズ調査もしっかりと行えておらず、先行する競合他社に対する優位性も考えられていない、会社のノリと勢いでリリースされたものだったからです。
人は、一人のときはできていたはずの冷静な判断が、組織として集団になった途端にできなくなってしまうことが往々にしてあり、このようにノリと勢いで会社として重要なサービスがリリースされてることはめずらしくありません。
リリースされてしまったものは仕方がありません。うまくいっていない状況に対して、マーケティングの現場が行うべきことは、今一度そのサービスをリリースした「目的」に立ち返り、なぜうまくいっていないのかを分析し、洗い出された課題に対して、それを解決する「手段」を用意し、一つずつ実行していくしかありません。
しかし、担当役員の考えは違っているようでした。なぜうまくいっていないかの分析はすっとばし、「テレビCMをやるぞ」と現場に指示を下したのでした。
経営層は派手な施策がお好き?
本来、テレビCMは、「目的」を達成する「手段」の一つにすぎません。
広告を出すという場合、テレビCMの他にも、Web広告や新聞広告、雑誌広告、交通広告など、様々な選択肢があります。
また、サービス自体の価格設定や提供内容の見直しなども施策の候補として無視することはできません。
なぜ、役員は、どの「手段」を取ることが、「サービスを軌道に乗せる」という「目的」の達成のために必要なのかの検討を行わずに、いきなり「テレビCMをやるぞ」と言ったのでしょうか。
今回のケースでは、以下が主な理由だと考えられます。
役員は、数年ごとに様々な分野の事業部を歴任し、出世していくため、マーケティング分野は素人だった
大きな予算を使う派手な施策ほど、単純に効果も大きいと考えていた
社長に対してのアピールのために、自身がマーケティングの事業部に在任中に目立つ施策を行いたかった
このままでは、「手段」の一つにすぎないはずの「テレビCMをやること」自体が「目的」となる、手段の目的化が発生してしまうことになります。現場はそれを阻止できたのでしょうか。
人手不足+経営層に意見できない体質=手段の目的化
結論から申し上げると、阻止することはできませんでした。
それは、以下の2つの理由によるものです。
人手不足
経営層に意見できない体質
施策進行の理想的な形が、目的を出発点として、達成するために解決すべき課題点を洗い出し、解決策を検討、様々な手段を立案し、実行、効果を検証して、改善していく以下の流れだとすると、
人手不足で理想的な状態の一部分にしか注力することができず、役員からの指示により手段が限定された状態が以下となります。
役員から指示された手段を実行することが目的となり、他の工程は無視された状態が続きます。これでは、状況が改善に向かうはずもありません。
もし、人手が足りていたら…
もし、人手が十分に確保されていたら、役員に指示された以外の手段を講じたり、役員が重視していない分析や設計、実行後の検証や改善などの他の工程を裏でしっかりと行い、施策全体として成功に導ける可能性があったかもしれません。
しかし、それにはまず人事権を握る役員に、人手が追加で必要であることを理解してもらう必要があります。
もし、役員に意見できていたら…
もし、役員に、役員の指示どおりに進めると失敗してしまうと意見することができていたら、手段の目的化を防げていたかもしれません。
しかし、それにはまず役員が、役職が下の者の意見に真摯に耳を傾ける人物である必要があります。
今回ご紹介したケースでは、残念ながら役員が事業部内で神のごとく扱われ、下の者が意見することすら難しく、意見できたとしても聞き届けられる可能性が低い状況でした。
マーケティングは目的を見失わないことが大切
これは、とある会社で起きた、とある施策の失敗例ではありますが、近しいことはどの会社でも起こりうるのではないでしょうか。
マーケティングで大切なのは、その施策を何のために行っているのか、何がどうなったら成功なのかという目的を見失わないことと、手段が目的化してしまいそうなときに、いち早くそのことに気づき、進行を正常な状態に戻すことです。
マーケティング担当者には、上席者の言葉にいちいち右往左往せず、案件全体を冷静に、俯瞰的に見続ける能力が必要とされていると言えるでしょう。
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