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困った人、西川美和 2012年9月14日

 おはようございます。自称「気になる女」神垣です。

 困った人ですねぇ

 西川美和

 という人は・・・

 現在、絶賛上映中の映画「夢売るふたり」の監督
 西川美和さんの小説
 「その日東京駅五時二十五分発」
 を読みました。

 天は二物を与えず
 と言いますが、
 二物どころか、それ以上の才能を持つ女性が
 西川美和という人です。

 可憐でチャーミングな容貌、
 映画監督としての才能は言うに及ばず
 脚本も自ら手がけ
 さらに、小説まで書いてしまう……

 前作の映画「ディアドクター」の
 原案となった彼女の小説「きのうの神さま」は
 直木賞候補にもなっています。

 でも、ラジオで彼女の声を聴き
 彼女を取り上げた週刊誌の特集記事を読むにつけ
 思うのは

 いつも「居心地悪そうにしている」人
 という印象。

 20代で監督デビューし
 脚本家、作家としても注目される中

 彼女めがけて押し寄せる
 評価と賞賛の嵐の中
 なす術もなく立ち尽くしているような
 風情のある人です。

 それはまるで
 ステージにいきなり引っ張り出された
 大道具さんのように…。

 「その日東京駅五時二十五分発」には
 陸軍の特殊情報部に配属された初年兵が
 図らずも、世間よりも早く敗戦を知ることになり
 どこにも属すことのない「無」の状態のまま
 故郷に帰り着く様子が描かれています。

時代に巻き込まれ、あの戦争への参加を余儀なくされながらも、
完全にコミットを果たせぬままに放り出された
宙ぶらりんな少年の境遇が、
私自身の寄る辺ない気持ちとどこか重なる気がしたのかもしれません。

西川 美和 著「その日東京駅五時二十五分発」

 と彼女自身があとがきに綴っています。

 飛行機が好きで、特殊情報部に配属される前
 飛行機の部品を作る工場で熱心に仕事に励む主人公の姿は

 あくまで裏方として
 映画作りに没頭していたいという
 彼女の気持ちと重なっているように感じられました。

 強いショックもドラマチックな展開もない
 淡々とした作品ですが
 今の西川美和という人の偽らざる心境が投影された小説が
 「その日東京駅五時二十五分発」だと思います。

 この人、本気出せば
 人の心の裏側にあるエグさ、コワさを
 容赦なく描ける人に違いないのですが

 この作品は
 なんだか、本来の西川美和から離れた
 牧歌的な作品という印象を受けました。

 戦争を描いているのに
 なんだかのんびりと、ほわんとしている。

 これでまた
 西川美和という人から
 目が離せなくなってしまうのでした。

西川 美和 著「その日東京駅五時二十五分発」

VOL.1797 2012年9月14日 配信 メールマガジン あとがきより)

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