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「昭和」の光と影、混沌と狂気を味わい尽くせる一冊 2021年6月4日

 おはようございます。自称「昭和世代に読んでほしい女」
 
 神垣です。

 かなり偏った読み方をしていますが・・・

「キックの鬼」「沢村忠」「真空飛び膝蹴り」「YKKアワー」
 にピンときたあなたは、きっとわたしと同世代。
 あるいは、格闘技好きなのでは?

 では、「五木ひろし」「山口洋子」
 という人名が続けば?


 今日、紹介するのは
「沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝」
 です。

 キックの鬼として知られた沢村忠と
 歌手の五木ひろし、作詞家・作家の山口洋子が
 野口修という人物を軸に結びついていきます。

 格闘技好きの友人が本書をFacebookで薦めていて
 文面にあった「沢村忠」と「山口洋子」の名に
 引き込まれるように買って、一気に読みました。

「キックボクシング」の名付け親である野口修の
 生涯を丹念に追い、10年の月日を費やして書かれた労作。

 でも、本書でわたしが強く興味があったのは
 山口洋子についての一点です。

 銀座のクラブ「姫」のオーナーであり
 作詞家にして、直木賞作家。

 小説も読みましたが、彼女のエッセイというか
 恋愛指南本を読み漁っていた時期がありました。

 男女関係の機微や身の処し方について
 山口さんの著作から多く学んできたわたしにとって
 ずっと気になる作家でした。

 晩年はすっかり新作も、彼女の名も
 目にすることがなくなり
 2014年に77歳で亡くなってしまった……。

 キックの鬼・沢村忠と山口洋子の結びつきは
 わたしには意外で、謎でしかなかったのですが
 本書を読んで、全てが氷解しました。

 詳しくは、本書を読んでいただくとして。

 本書でわたしがもっとも響いた箇所が
 著者が山口洋子について考察した
「うそ」のくだりです。

 山口洋子が作詞を手掛けた曲の中で
 最大のヒットとなった、中条きよしの「うそ」。

 この詞は、子どもだったわたしにも強烈で
 大人になってからも
「折れた煙草の吸殻で男の嘘が分かるなんて、
 どんだけすごい洞察力なんじゃ」
 とずっと思っていました。

 本書には、この「男」こそ
「野口修のことではないか」
「野口修が投影された唯一の作品」
 でなかったか、と述べています。

 なにより心にズシリときたのが
 本書に引用されている山口洋子の著作の言葉。

「嘘も方便などという言葉は安易であまり好きではないが、
 ことがらは嘘でも、嘘をつく心、嘘をつかねばならぬその心が
 真実である場合がある」

「何でもかんで真実を告げたり、本音でふるまってしまうのは
 ただの粗野で無神経なだけなのだ。
 人と人との複雑なつながりにおいて、
 嘘ほど潤滑油の役目をしているものもない」

  山口洋子の本をむさぼり読んで、自分なりに得た
「嘘の定義」がこの文面に凝縮されていました。

 もちろん、嘘をつくこと自体はいけないことです。

 でも、上手な嘘のつき方を身につけてこそ
 本物の大人ではないか、とわたしは思うのです。

 実は、本書は最初から読まず
 第十九章の「山口洋子との出会い」から読み始め、
 あとがきまで読みきってから、序章を読みました。

 全550ページのかなりボリュームのある本ですが
 格闘技ファンでなくとも
「昭和」という時代の光と影、混沌と狂気を
 味わい尽くせる一冊。

 沢村忠、山口洋子、そして野口修自身も
 すでに故人となっています。
 著者が取材した人物の多くが亡くなっており
 数々の証言が本書に残されていることだけみても貴重な書。

 正真正銘の労作です。

 ぜひ、読んでみてください。損はありません。

細田 昌志 著「沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝」


 わたしはkindleで読みましたが、
 やめられないとまらない状態で一気に読めます。

 合わせてこちらもおススメ

山口 洋子 著『ザ・ラスト・ワルツ―「姫」という酒場』

2021年6月4日 VOL.3802配信 メールマガジン あとがきより)

 
 



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