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Wanda Gagのグリム童話

このノートは、Wanda Gagの作品の深堀り鑑賞会用に用意したものです。参考としてnote筆者の仮訳を付けています。これは、極力オリジナルに近く、しかし、日本語としてぎこちなくならない程度に作ってあります。それが、オリジナルに含意されるものに気づくきっかけにできればと考えています。また、邦訳者の訳の比較をすれば邦訳者の工夫が浮かび上がってきます。

このnoteは、朗読を含めて自由にお使いいただけますが、転載はご遠慮ください。また、引用される場合はご連絡ください。Wanda Gagのオリジナルの作品は、著作権が切れていますが、参照した翻訳や文献には著作権が残っていますのでご留意さい。

Wanda Gagの紹介と、処女作『100万匹のねこ』他の作品についての紹介は、別のnoteで公開していますので、ご参照ください。


1. グリム童話


グリム兄弟による「子どもと家庭のメルフュン集」。伝承されてきた物語りを文字に起こしたもの。初版は兄弟共同の作品だが、第二版以降は、ほとんど弟のヴィルヘルムが話を集めて文章に手入れしたという。文学的に磨かれて世界で愛読される書になった。版を重ねるたびに、修正が加わっている。『白雪姫』も同じ。グリムの話は、例えばディズニー版のように、さらに、修正が加えられた話が出てきている。

グリム生前に7つの版が出版されている。(9)

初版  第一巻1812年、第二巻1815年、156話
第2版 1819年 161話(付・聖者伝9話)
第3版 1837年 168話(付・聖者伝9話)
第4版 1840年 178話(付・聖者伝9話)
第5版 1843年 194話(付・聖者伝9話)
第6版 1850年 200話(付・聖者伝10話)
第7版 1857年 200話(付・聖者伝10話)

初版は、後にヴィルヘルムの妻となる、すぐ裏に家があった薬局の娘、ドルトヘン・ヴィルトの話、その乳母真理恵、ヴィルト家と親しいハッセンプルーク姉妹から聞いた話を、忠実に純粋に伝えようとしている。また、第二巻では、カッセルのツェーレン村のフィーマン夫人である。後述の通り、版を重ねつつグリム(もっぱらヴィルヘルム)が加筆修正を加えた(10)。なお、1825年には、50話からなる小さい編集の本が出版され、売れ行きははるかに良かったという。

1824年に、テイラー(Edgar Tayler)による英訳本が、クルックシャンク(George Cruikshank)の挿絵入りで出版されている。グリム童話の最初の日本語訳は1887年にでた『西洋古事神仙叢話』と言われている。


2. ガアグのグリム童話、「ガアグ」による解説)


ドイツ語のメルヒェンは、英語ではtale(物語)、fable(寓話)、legend(伝説)と訳されてい入るが、ガアグが親しんだものとは異なるという。夕暮れ時、大人が、「ほら、座ってごらん、ガアグ。メルヒェンを読んであげよう。」と言われ、それまでやっていたことを放り出し聞き入ると、すべてが変わり高尚なものとなる。うずくような、何でもおこりえるという感覚がおこり、大きなジューシーな西洋梨を食べたような感覚を得たものだ。・・・

まだ、自分自身がグリム童話を語るなど夢にも思わない頃、なるべく、オリジナルの話の真実の意図に直接触れることができるように、オリジナルのドイツ語で読んでいた。グリム童話から、いくつかの話を選び、文字通りの翻訳をしてみた。あるものは、オリジナルと同じような生き生きとした訳となった。特に、方言で書かれたもので、それは、言葉が単純でなんども繰り返されているもので、子どもたちにとって理解しやすい明快さがあった。他方で、原典がスムーズで、暖かく、変化のあるものの翻訳が、薄っぺらく、生気がなく、ぎこちなくなった。後者の場合は、より自由に翻訳をすることでのみ、原作の感じを伝えることができるものだった。・・・

おとぎ話は、適当に異様で不思議だが、説得力のある三次元の特徴がある。あいまいではない、魔法と、不思議さと、妖術がある。ドイツの魔女は、ほっそりした亡霊が空をとぶものではなく、通常、こぎれいな小屋に居て、糊のきいたボンネット帽子と汚れがないエプロンを着ている。・・・

話を読むにつれ、その背景を知りたくなる。そうしているうちに、多くの話はドイツに限られるものではなく、他の国の民話としても存在していることに気が付いた。そして、多くの場合、正統な版というものもない。同じようなモティーフが使われ、数えきれないほどのコンビネーションがあり、あるものは、完璧で、あるものはバランスを欠くくらいだったり不十分だったりする。・・

グリム兄弟は、完全な話だけでなく。ばらばらの断片的な話にも興味を持っていた。混合物、あるいは、未完とのラベルを張って話を提示することもあった。多くの場合、2つ3つの不完全な話を遣い、追加や削除を行って、全体としてうまくまとめたものとしている。・・

Kinder-und Hausmarchen (Nursary and Household Tales) は、素材となるものが決して子どものために限定されていないことを示している。グリムが話の収集を始めた1812年以降、おとぎ話の年齢の上限がシフトし、自分が子どものころに比べて2歳ほど下がったようだ。わたしは、14歳の時分でも、おとぎ話をむさぼるように読み、呪文を唱えられればと思っていたが、映画や、ラジオ、タブロイド、ミステリーなどがあるような時代となって、おとぎ話の年齢の上限を11-12歳にすることはできなくなっている。自分は、大人用に書かれた話を子ども用に書き下ろすことができるとは思っていないが、4-12歳の子どもでも話の価値がわかるように部分部分は簡素化したほうがよいだろう。

簡素化というのは以下のことである。

① 複数の話が流れて混乱する部分の話の合成を解くこと。
② 話を明快にするために、大人っぽい話にはない反復を使うこと。
③ 子どもにとって、語りが多すぎる部分は会話を入れることで関心が続くようにする。

しかし、これは決して、1つないし2つの音節の短い単語だけを用いるということではない。不注意に単語を多く使うと、子どもたちは混乱する。長くなじみのない単語であっても、その色彩と音に価値があるものは、味わいを深めることができ、子どもたちは吸収する。

一つ一つの話は、様々な源からきており、農民から学者に至る様々な人によって作られ、スタイルやテンポも多様なので、できるだけそれらを残すように試みた。

児童文学の「残虐さ(goriness)」については、様々の相反する意見がある。自分自身の判断に頼ることは避けたかったので、何人かの権威ある専門家に相談した。一般的な意見としては、削除や手直しをあまり多く行うと、骨格のないものとなって、お話の特徴がなくなってしまい、実際の詳細よりも語りにより多く依存することとなる。或る程度の「残虐さ」は、あまりリアルにせずに面白く表現できるなら、普通の子どもたちは冷静に受け止めることができるというものだった。このようなやり方で、血なまぐさい部分を、その趣(salt)と活力(vigor)を失わずに、害のないものとすることができる。

自分が、自由な翻訳をする際に、注意せずに自由な話を作ったのではない。グリム兄弟は、欄外において、真正なものと正当なものについて指摘を付けている。さらに、かれらは、首尾一貫した倫理的な態度を貫いたので、骨を折って作成した脚注を読めば、明確に意識しながら、彼らの素材を無差別にシャッフルすることができる。・・・

3. 『白雪姫(Snow White and the Seven Dwarfs)』(1938)


(1) 概要

ガアグは、ドイツ系移民の父からドイツ民話を聞かされて育ってきた。その中にはグリム童話も入っていた。1937年には、ディズニーが『白雪姫』を映画化しているが、それに対しては違和感があり、それがこの作品作成につながったという。

ちなみに、ディズニーは、徳を積んだものが報われ、成功するというハッピーエンドであり、ストリーは単純化され、かたりも平易である。Gagのグリム童話は、グリムが書いた童話のおしまいの方の版に近いストリーであり、きっと父親から語り聞かされた話に近いのだろう。thou (youの古語), art (areの古語)のように一部古語が使われ、文体も古風なものとなっている。詩的な美しい散文となっている。モノクロの絵は古風で、どこか欧州の香りを感じさせる幻想の世界をデザイン性豊かに描いている。1939年、コールデコット名誉賞。

ストーリーは、グリムの最終版(第七版)に比べれて余計な説明は省かれ、残酷なシーンは省略されているかサラッと書かれている。例えば、猟師が白雪姫をナイフで刺そうとする描写はなく、「猟師が危害を加える前に」だけで済ませている。また、最後の結婚式の場面で、王妃が焼けた靴を履かされるシーンでは、原作は、真っ赤に焼けた炭の中に鉄の靴を入れて焼き、トングで挟んで持ってきたものを、履かし、倒れて死ぬまで踊らさせると書かれているが、ガアグは、「王妃は、赤く焼けた靴を履かされて、それで邪悪な一生が終わるまで踊り続けねばならなかったからです。」として、生々しい残酷な描写は入れていない。

分かりやすさや生き生きとした物語にするために、反復を意図して加えているところがある。原作では、7人の小人それぞれが台詞を言うのは、テーブルの食べかけの皿や使用したナイフやフォークの話のところだけだが、ガアグは7つのベッドのそれぞれの説明、及び、小人たちが白雪姫がつかった7つのベッドのしわくちゃの様子を一人ずつ言うセリフが入り、意識して反復させている。

ガアグは、王妃と鏡の会話はきれいに韻を踏んでいる。また、小人たちがベッドのシーツのしわについて語る台詞も、形容詞の響きを合わせている。

白雪姫が棺に入れられてから王子様が来るまでの時間は、原作では長い長い間としか書かれていないが、ガアグ何週間、何か月、何年と具体的で、「長い間」から想起するものよりも長い年月が経ったことを示唆する。これは、王子との結婚するときに、白雪姫の年齢が7歳よりはずっと年上になるように配慮したのかもしれない。

 ちなみに、ディズニーは、王妃が白雪姫を殺そうとしたのは毒リンゴの時一回のみである。ディズニーでは、白雪姫が目を覚ましたのは、王子様がキスしたからである。王子様が自分の城に棺に入った白雪姫を連れて帰ろうとした際に、棺を担いでいた召使(或いは小人)の一人が躓き、それで棺が揺れた際に咽につまっていたリンゴが飛び出て生き返っている。ディズニーには、王妃が焼けた靴で踊らされる場面はない。

ガアグの『白雪姫』のテキストと絵は、Webに公開されている。

(2) 本文


【1ページ】

【3ページ】

【5ページ】

【7ページ】

Once upon a time, in the middle of winter, the snowflakes were falling like feathers from the sky. At a castle window framed in ebony sat a young Queen working at her embroidery, and as she was stitching away and gazing at the snowflakes now and then, she pricked her finger and three little drops of blood fell down upon the snow. And because the red color looked so beautiful there on the snow she thought to herself, "Oh, if I only had a little child as white as snow, as rosy red as blood, and with hair as ebon black as the window frame!"

むかしあるとき、真冬のさなかに、空からは鳥の羽のように雪が降っていました。枠が黒檀でできたお城のまどのそばで、若い王妃は座って刺繡をしていましたが、ときおり外の雪を見ていて、ゆびを針で刺してしまい、小さな3滴の血が雪の上に落ちました。雪の上の赤い色がとてもうつくしかったので、「おお、雪のように白く、血のようにバラ色で、窓枠のような黒檀色の髪の小さな子供がいれば」と思ったのでした。

参考:内田莉莎子氏訳

むかしむかし、まふゆのある日、ゆきが、羽毛のように、ひらひらとふっていました。あるおしろの、まっくろなこくたんのわくどりのまどのそばに、わかいおきさきがすわって、ししゅうをしていました。ときどきゆきをながめながら、ひとはりずつ、かがっているうちに、うっかりゆびをさしてしまい、ちいさな血のしずくが三つ、ゆきのうえにおちました。ゆきのうえにちった血のあかいいいろが、それはそれはうつくしかったで、おきさきは、ふとかんがえました。

「ああ、ゆきのようにまっしろで、血のようにまっかで、こくたんのようにまっくろなかみの子どもがいたら、どんなにいいでしょう!」

参考:菊池寛氏によるグリム版の訳

むかしむかし、冬のさなかのことでした。雪が、鳥の羽のように、ヒラヒラと天からふっていましたときに、ひとりの女王さまが、こくたんのわくのはまった窓のところにすわって、ぬいものをしておいでになりました。女王さまは、ぬいものをしながら、雪をながめておいでになりましたが、チクリとゆびを針でおさしになりました。すると、雪のつもった中に、ポタポタポタと三滴の血がおちました。真っ白い雪の中で、その真っ赤な血の色が、たいへんきれいにみえたものですから、女王さまはひとりで、こんなことをお考えになりました。

「どうかして、わたしは、雪のようにからだが白く、血のように赤いうつくしいほっぺたをもち、このこくたんのわくのように黒い髪をした子がほしいものだ。」と。

【8ページ】

Soon after this a baby girl was born to her—a little Princess with hair of ebon black, cheeks and lips of rosy red, and a skin so fine and fair that she was called Snow White. But when the child was born the Queen died.

まもなく、赤ん坊が生まれましたーー髪の毛は黒檀のように黒く、ほほと唇は赤いバラ色で、肌は細やかで美しかったので、白雪姫と呼ばれました。しかし、子どもが生まれたときに王女は亡くなりました。

After a year had passed, the King married a second time. His new wife, who was now Queen, was very beautiful but haughty and proud and vain—indeed, her only wish in life was to be the fairest in the land. She had a mirror, a magic one, and when she looked in it she would say:

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and the mirror would reply:

"Oh Queen, thou art the fairest in the land."

一年ほど過ぎて、国王は二度目の結婚をしました。新しい妻、つまり、あらたな王妃は、とても美しかったのですが、傲慢で、誇りとうぬぼれ高い人でした。ーー彼女の生涯唯一の思いは、国中でもっとも美しくあることでした。彼女は、魔法の鏡を持っていて、それを見て、彼女が、

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中でもっとも美しいのは誰?」

と聞けば、鏡は、

「お妃様、国中で貴妃(あなた)がもっとも美しい」

と答えるのでした。

一年ほど過ぎて、国王は二度目の結婚をしました。新しい妻、つまり、あらたな王妃は、とても美しかったのですが、傲慢で、誇りとうぬぼれ高い人でした。ーー彼女の生涯唯一の思いは、国中でもっとも美しくあることでした。彼女は、魔法の鏡を持っていて、それを見て、彼女が、

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中でもっとも美しいのは誰?」

と聞けば、鏡は、

「お妃様、国中で貴妃(あなた)がもっとも美しい」

と答えるのでした。

【9ページ】

With this the Queen was well content for she knew that her mirror always spoke the truth.

それで、王妃はとても満足していました。なぜなら、鏡はつねに真実しか言わないことを知っていたからです。

【10ページ】

The years flowed on, and all this time Snow White was growing up—and growing more beautiful each year besides. When she was seven years old she was fair as the day, and there came a time when the Queen stood in front of her mirror and said:

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and this time the mirror answered:

"Queen, thou art of beauty rare
But Snow White with ebon hair
Is a thousand times more fair."

年月が流れ、白雪姫は、毎年、美しく育っていきました。彼女が7歳になると晴れた日のように美しくなりました。そして、あるとき、王妃は鏡の前に立って言いました。

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中でもっとも美しいのは誰?」

すると、鏡はこう答えました。

「お妃様、貴妃(あなた)の美しさは、まれにみるもの
しかし、黒檀色の髪の白雪姫は、1000倍も美しい」

参考:内田莉莎子氏訳

やがて、ときがたち、しらゆきひめはげんきにそだち、一年ごとに、うつくしくなっていきました。そして、七さいになると、まひるのようにうつくしくなりました。そのころ、おきさきさまは、まほうのかがみのまえにたって、いいました。

かがみよ、かがみ、かべのかがみよ、
いちばんうつくしいのは、だれ?

すると、かがみはこうこたえたのです。

おきさきさま、あなたは、まれに見るほどうつくしい。
けれど、くろかみのしらゆきひめは、
その千ばいも、うつくしい。

【11ページ】

At this the Queen became alarmed and turned green and yellow with envy. And whenever she saw Snow White after that, her heart turned upside down within her—that was how much she hated the innocent child for her beauty. These envious feelings grew like weeds in the heart of the Queen until she had no peace by day or by night. At last she could bear it no longer. She sent for a royal huntsman and told him to take the child into the woods and do away with her. "And bring me a token," she added, "so that I may be sure you've obeyed me."

これで、王妃は、嫉妬と恐怖で青ざめました(ドイツ語では緑と黄色に変わるという)。そして、白雪姫を見るたびに、王妃の心は動転しましたーーその美しさゆえに、無邪気な子供をどれほど嫌ったことでしょう。王妃の心の中で、嫉妬の気持ちが雑草のように繁り、日夜、穏やかではいられませんでした。ついに、王妃は耐えられなくなりました。王妃は、忠誠な狩人を呼んで、子どもを森の中に連れて行き捨ててくるようにと命じました。「その証拠となるものを持ってきなさい」と王妃は言いました。「お前が私の命令に従ったことが確かだとわかるように。」

So the huntsman called Snow White and led her into the woods but before he could harm her, she burst into tears and said, "Oh please, dear hunter, have mercy! If you will let me go, I'll gladly wander away, far away into the wildwood and I'll never come back again."

そこで、狩人は、白雪姫を呼んで森の中に連れて行きました。しかし、狩人が白雪姫に危害を加えようとする前に、白雪姫は泣き出して言いました。「狩人さん、どうか、助けてください。私に、このまま、行かせてくれれば、私は喜んで野生の森の奥のほうにさまよい、二度と帰ることはないでしょう。」

The huntsman was glad enough to help the sweet innocent girl, so he said, "Well, run away then, poor child, and may the beasts of the wood have mercy on you." As a token he brought back the heart of a wild boar, and the wicked Queen thought it was Snow White's. She had it cooked and ate it, I am sorry to say, with salt and great relish. 

狩人は、かわいい無邪気な子供を助けることができて、とても嬉しくて、言いました。「かわいそうな子どもよ。逃げておいき。野獣たちがお前に情けをかけてくれるように。」狩人は、証拠として野生のイノシシの心臓を持って帰ったところ、邪悪な王妃は、それを白雪姫のものと思いました。王妃は、それを料理して食べてしまいました。お気の毒なことに、塩をかけてとても美味しそうに。

【12ページ】

【13ページ】

Little Snow White wandered off into the depths of the wildwood. Above her were leaves and leaves and leaves, about her the trunks of hundreds of trees, and she didn't know what to do. She began to run, over jagged stones and through thorny thickets. She passed many wild animals on the way, but they did not hurt her. She ran all day, through woods and woods and over seven high high hills. At last, just at sunset, she came upon a tiny hut in a wooded glen. The door was open and there was no one at home, so she thought she would stay and rest herself a little.

白雪姫は、野生の深い森の中にさまよっていきました。頭の上には、葉っぱがいくえにもかさなるようにしげり、ちかくには、何百もの木の幹がありました。そして、白雪姫は、なにをしたらよいかわかりませんでした。白雪姫は、ぎざぎざの岩を超え、とげとげの茂みをぬけて、走り出しました。とちゅうで、たくさんの野生の動物に出会いましたが、どれも白雪姫に危害を加えることはありませんでした。ちょうど日没のとき、白雪姫は、ついに、木が茂った谷間のちいさな小屋にたどり着きました。扉は開いていて、中にはだれもいませんでしたので、白雪姫は、そこに留まり、少しの間、休むこととしました。

【14ページ】

She went in and looked around. Everything was very small inside, but as neat and charming as could be, and very very clean. At one end of the room stood a table decked in white, and on it were seven little plates, seven little knives and forks and spoons, and seven little goblets. In front of the table, each in its place, were seven little chairs; and at the far side of the room were seven beds, one beside the other, all made up with coverlets as pure and white as plum blossoms.

白雪姫は、中に入ってあたりを見回しました。すべてのものがとても小さくて、とても整っていてとても魅力的で、とてもとても綺麗でした。部屋の一つの端には、白く飾られたテーブルがあって、7つの小さなお皿と、7つずつの小さなナイフとフォークとスプーンと、7つの小さなワイングラスが置かれてました。机の前には、7つの小さな椅子があり、部屋の向こうには7つのベッドが並んでいて、すべて、白梅の花のように純白のカバーがかかっていました。

Snow White was hungry and thirsty, so she took from each little plate a bit of vegetable and a bite of bread, and from each little goblet a sip of sweet wine. She had become very tired, too, from all her running, and felt like taking a nap. She tried one bed after another but found it hard to choose the one which really suited her.

白雪姫は、おなかがすいていてのどがかわいていたので、お皿の一つずつから一口ずつ、野菜と一口のパンを食べ、ワイングラスから一すすりあまいワインを飲みました。白雪姫は、走りとおしていたため、とても疲れていて、ちょっとだけ居眠りをしようと思いました。白雪姫は、ベッドをひとつずつ試しましたが、彼女にちょうどあうものを、なかなか見つけることができませんでした。

【15ページ】

The first little bed was too hard.
The second little bed was too soft.
The third little bed was too short.
The fourth little bed was too narrow.
The fifth little bed was too flat.
The sixth little bed was too fluffy.
But the seventh little bed was just right so she lay down in it and was soon fast asleep.

最初のベッド、は固すぎました。
二つ目のベッドは、柔らかすぎました。
三つ目のベッドは、短すぎました。
四つ目のベッドは、狭すぎました。
五つ目のベッドは、たいらすぎました。
六つ目のベッドは、ふわふわしすぎでした。
でも、七つ目のベッドは、ちょうどよかったので、そこに横になったら、すぐに寝てしまいました。

After the sun had set behind the seventh hilltop and darkness had crept into the room, the masters of the little hut came home—they were seven little dwarfs who dug all day and hacked away at the hills, in search of gems and gold. They lit their seven little lights and saw right away that someone had been there, for things were not quite the same as they had left them in the morning.

お日さまが7つ目の丘のうしろに沈むと、部屋には闇がしのびより、小屋の主人たちが帰ってきました。かれらは、7人の小人で、一日中、宝石と金を探して丘で掘っていたのです。7人は、7つの小さなあかりを灯すと、そこにだれかが居たことに気づきました。なぜなら、あたりの様子が、朝、出かけた時とまったく同じではなかったからです。

【16ページ】

Said the first little dwarf, "Who's been sitting in my chair?"
Said the second little dwarf, "Who's been eating from my plate?"
Said the third, "Who's been nibbling at my bread?"
Said the fourth, "Who's been tasting my vegetables?"
Said the fifth, "Who's been eating with my fork?"
And the sixth, "Who's been cutting with my knife?"
And the seventh, "Who's been drinking from my little goblet?"

最初の小人が言いました。「おれの椅子に座ったのは、だれだ?」
二番目の小人が言いました。「おれの皿のを食べたのは、だれだ?」
三番目が言いました。「おれのパンをかじったのは、だれだ?」
四番目が言いました。「おれの野菜を食べたのは、だれだ?」
五番目が言いました。「おれのフォークで食べたんのは、だれだ」
六番目が言いました。「おれのナイフで切ったのは、だれだ?」
そして、七番目が言いました。「おれの小さな杯から飲んだのは、だれだ?」

参考:内田莉莎子氏訳

一ばんめの小人がいいました。「わしのいすにかけたのは、だれだ?」
二ばんめの小人がいいました。「わたしのさらからたべたのは、だれだ?」
三ばんめがいいました。「わたしのパンをかじったのは、だれだ?」
四ばんめがいいました。「わたしのやさいのあじみをしたのは、だれだ?」
五ばんめがいいました。「わしのフォークをつかったのは、だれだ?」
六ばんめがいいました。「わしのナイフできったのは、だれだ?」
そして、七ばんめがいいました。「わしのワインをのんだのは、だれだ?」

【17ページ】

Now the first little dwarf turned around, and saw a hollow in his bed and said, "Someone's been sleeping in my bed."
And the second little dwarf looked at his bed and said, "Someone's been sleeping in mine too. It's rumpled."
And the third said, "In mine too, it's all humped up and crumpled."
And the fourth said, "In mine too. It's full of wrinkles."
And the fifth said, "And mine. It's full of crinkles."
And the sixth said, "Mine too. It's all tumbled up and jumbled."
But the seventh cried, "Well, someone's been sleeping in my bed, AND HERE SHE IS!"

そして、最初の小人があたりを見回して、ベッドにへこみがあるのを見つけて言いました。「誰かが、おれのベッドに寝た。」
二番目の小人がベッドを見て言いました。「俺のベッドにも誰かが寝た。しわくちゃだ。」
三番目が言いました。「俺のにもだ。くしゃくしゃだ。」
四番目が言いました。「俺のにもだ。こまかなしわが寄ってる。」
五番目が言いました。「俺のにもだ。しわで波になっている。」
六番目が言いました。「俺のにもだ。しわで脈うってる。」
しかし、七番目は叫びました。「俺のベッドで、誰かが寝ている。ほら、女の子だ!

参考:内田莉莎子氏訳

一ばんめの小人は、へやを見まわして、じぶんのベッドのくぼみに、きがつきました。「だれかが、わしのベッドにねたんだ」
二ばんめの小人が、自分のベッドをのぞいて、いいました。「わしのベッドでも、ねた。しわくちゃだ」
三ばんめがいいました。「わしのもだ。でこぼこのくしゃくしゃだ」
四ばんめがいいました。「わしのもだ。しわしわだ」
五ばんめがいいました。「わしのもだ、よれよれだ」
六ばんめがいいました。「わしのもだ。もみくちゃだ」
すると七ばんめの小人が、さけびました。「おっ、わしのベッドに、だれかがねてるぞ。ほら、女の子だ!」

【18-19ページ見開き】

The others came crowding around, murmuring and whispering in wonderment at the sight. "Ei! Ei!" they said, "how beautiful is this child!" They brought their tiny lights and held them high, and looked and looked and looked. So pleased were they with their new little guest that they did not even wake her, but let her sleep in the bed all night. The seventh dwarf now had no bed, to be sure, but he slept with his comrades, one hour with each in turn until the night was over.

他の小人が周りに集まり、驚いて、つぶやいたりひそひそいいました。「えぇー、えぇ!」と皆は言いました。「なんて美しい子どもだろう。」皆は、それぞれの小さなあかりを高くかざして、何度ものぞき込みました。新しい来訪者にとても喜んだので、起こそうとはせずに一晩中寝かせておきました。7番目の小人は自分のベッドがなかったので、仲間の一人一人と一時間ずと一緒に寝ました。

In the morning when Snow White awoke and saw seven little men tiptoeing about the room, she was frightened, but not for long. She soon saw that they were friendly little folk, so she sat up in bed and smiled at them. Now that she was awake and well rested, she looked more lovely than ever, with her rosy cheeks and big black eyes. The seven little dwarfs circled round her in new admiration and awe, and said, "What is your name, dear child?"

朝が来て、白雪姫が目を覚ますと、7人の小人が部屋をつま先だってあるいていたので驚きましたが、それはちょっとの間のことでした。白雪姫は、まもなく、小人たちはやさしいとわかったので、ベッドから起き上がり笑顔を見せました。白雪姫は、すっかりと目を覚まし、よく休息することができていたので、そのバラのように赤いほほと大きな黒い瞳で、これまで以上に可愛く見えました。7人の小人たちは、白雪姫を取り囲み、感激して言いました。「お嬢様のお名前は?」

"They call me Snow White," said she.

「みんなは白雪姫と呼んでいるわ」と、彼女は答えました。

"And how did you find your way to our little home?" asked the dwarfs. So she told them her story.

「私たちのこの小さな家をどうやって見つけたんだい?」と小人たちはたずねました。白雪姫は、何があったのかを話しました。

All seven stood around and listened, nodding their heads and stroking their long long beards, and then they said, "Do you think you could be our little housekeeper—cook and knit and sew for us, make up our beds and wash our little clothes? If you will keep everything tidy and homelike, you can stay with us, and you shall want for nothing in the world."

7人の小人は、周りに立ってうなずきながら、長いひげをなでながら、話を聞きました。そして、言いました。「私たちのお手伝いさんになれるかい?ーー料理をして、編み物と裁縫をして、ベッドを整えて、洗濯をしてくれるかい? もしも、すべてをきれいにしておいてくれるなら、一緒にいてもよいよ。そうすれば、あなたも、それ以上を望むことはないだろう。」

参考:内田莉莎子氏訳

ひめをかこんだ七人は、うんうんとうなずいたり、ながいあごひげをなでたりしながら、はなしにききいっていました。そして、しらゆきひめにいいました。
「どうだろう。わしらのところで、はたらいてくれてもいいんだよ。りょうりをしたり、ぬったりあんだり、ベッドをきちんとしたり、せんたくしたり、おじょうちゃんが、しっかりいえをきれいんして、いごこちよくしてくれたら、ここにずっといていいよ。そうしたら、なんのふじゆうもなく、くらしていけるじゃないか」

【20ページ】

"Oh yes, with all my heart!" cried Snow White. So there she stayed, and washed and sewed and knitted, and kept house for the kindly little men. Every day the seven dwarfs went off to one of the seven hills to dig for gems and gold. Each evening after sunset they returned, and then their supper had to be all ready and laid out on the table. But every morning before they left they would warn Snow White about the Queen.

「ええ、もちろんだわ。」と、白雪姫は叫びました。そして、そこに住んで、洗濯をし、裁縫をし、編み物をし、家を片付けました。毎日、7人の小人は、宝石と金を探しに7つの丘の一つに行きました。毎晩、日が沈むと、皆戻ってきますが、夕食ができていてテーブルに並べられていました。しかし、毎朝、家をでるときに、白雪姫に王妃のことを注意しました。

"We don't trust her," they said. "One of these days she'll find out that you are here. So be careful, child, and don't let anyone into the house."

The dwarfs were right. One day the Queen, just to make sure, stood in front of her mirror and said:

「俺たちは、王女のことは信じていない。」と小人たちは言いました。「いつか、彼女はここを探し出し、ここにお前が居ることを見つけるだろう。だから、注意するんだ。誰一人、家に入れてはいけないよ。」

小人たちの言う通りでした。ある日、王妃は、ものごとがちゃんといっていることを確かめようとして、鏡の前に立って言ったのです。

【21ページ】

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and the mirror replied:

"Thou art very fair, Oh Queen,
But the fairest ever seen
Dwells within the wooded glen
With the seven little men."

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中で美しいのは誰?」

そして、鏡は答えました。

「お妃様、貴妃(あなた)はとても美しい、
しかし、これまで見たことがないほど美しいものは、
小さな7人の男と、森の中に住んでいます」

The Queen turned green with fury when she heard this, for now she knew that the huntsman had deceived her, and that Snow White was still alive.

これを聞いて、王妃は顔色を怒りで真っ青にしました。なぜなら、狩人が王妃を欺き、白雪姫はまだ生きていることがわかったからです。


Day and night she sat and pondered, and wondered what to do, for as long as she was not the fairest in the land, her jealous heart gave her no rest. At last she thought out a plan: she dyed her face and dressed herself to look like a peddler woman. She did it so well that no one would have known her, and then, with a basketful of strings and laces, she made her way over the seven hills to the home of the seven dwarfs. When she reached it she knocked at the little door and cried, "Fine wares for sale! Fine wares for sale!"

王妃は、夜も昼も座って、一生懸命、考えていました、そして、どうしたらよいかと思っていました。なぜなら、長い間、王妃が最も美しくはないということはなかったからで、嫉妬心をどう落ち着けたらよいかわからなかったのです。ついに、王妃はひとつの計画を考えました。王妃は、物売りのおばさんのように見えるように顔に色を塗り、そのような身なりをしました。とてもうまくやったので、だれも、気が付きませんでした。それから、紐とレースをかごに入れて、7人の小人の家へと7つの丘を越えて向かいました。家に着くと、小さな扉をノックして、「すてきなものを売りにきたよ!すてきなものを売りに来たよ」と叫びました。

【22-23ページ見開き】

Snow White peeped out of the window and said, "Good day, my dear woman, what have you there in your basket?"

"Good wares! Fine wares!" said the woman. "Strings, cords and laces, of all kinds and colors," and she held up a loop of gaily colored bodice laces.

Snow White was entranced with the gaudy trifle and she thought to herself, "The dwarfs were only afraid of the wicked Queen, but surely there can be no harm in letting this honest woman into the house." So she opened the door and bought the showy laces.

白雪姫はまどから外を覗いて言いました。「こんにちは、おばさん。かごには何がはいっているの?」

「いいものだよ、すてきなものさ」と、おばさんは言いました。「いろんな種類のいろんな色のひもとれーすだよ。」と言って、チョッキを締めるはでな色のレースを手にとりました。

白雪姫は、派手な飾り物にうっとりとしてしまい、こう思いました。「小人たちは邪悪な女王だけを心配してたけど、この正直そうなおばさんを家の中に入れても害はないでしょう。」それで、白雪姫は扉を開けて、きれいな紐を買いました。

"Child," said the woman as she entered the little room, "what a sight you are with that loose bodice! Come, let me fix you up with your new laces, so you'll look neat and trim for once."

Snow White, who suspected nothing, stood up to have the new gay laces put into her bodice, but the woman worked quickly and laced her up so tightly that Snow White lost her breath and sank to the floor.

"Now!" cried the Queen as she cast a last look at the motionless child, "now you have been the fairest in the land!"

「おまえよ」、と小さな部屋に入ったおばさんはいいました。「そのゆるんだチョッキじゃみっともないよ。わたしが、新しい紐で整えてあげよう。そうすれば、キリっときれいに見えるようになるさ」

白雪姫は、なにも疑うことをしなかったので、立ち上がって新しい派手な紐をチョッキに付けましたが、おばさんはいそいできつく締めあげたので、白雪姫は息ができなくなり床に倒れました。

「さぁ」、と動かなくなった子どもに最後の一瞥を投げて王妃はいいました。「お前さんは、この国で、いままではいちばん美しかったんだね!」

【24-25ページ】


Luckily this happened just as the sun was sinking behind the seventh hill, so it was not long before the dwarfs came trudging home from work. When they saw their dear little Snow White lying there, not moving, not talking, they were deeply alarmed. They lifted her up, and when they saw how tightly she was laced, they hurriedly cut the cords in two. And in that moment Snow White caught her breath again, opened her eyes, and all was well once more.

幸運にも、ちょうどお日さまが7つ目の丘の後ろに沈むときのことだったので、小人たちは、あまり時間が経たないうちにとぼとぼと帰ってきました。小人たちは、白雪姫が倒れて動かず、ものも言わないのを見て、とても不安に思いました。小人たちは白雪姫のからだを起こしたところ、紐がとてもきつく締められていることがが分かったので、急いで二つに切りました。そして、すぐに、白雪姫は息を吹き返し、目を開けて、また、もとに戻りました。

When the dwarfs heard what had happened they said, "That was no peddler woman, Snow White; that was the wicked Queen. So please beware, dear child, and let no one into the house while we're gone."

小人たちは何が起きたのかを聞いて、白雪姫に言いました。「それは物売りのおばさんじゃないよ。邪悪な王妃だ。おねがいだから言うことを聞いておくれ。みんなが出かけているときはだれ一人家に入れてはいけないよ。」

By this time the Queen had reached her home, so she rushed to her mirror and said:

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and to her dismay it answered as before:

"Thou art very fair, Oh Queen,
But the fairest ever seen
Dwells within the wooded glen
With the seven little men."

そのころ、王妃は城に戻っていました。そして、いそいで鏡に向かって言いました。

「鏡よ、壁の鏡よ。世の中でもっとも美しいのは誰?」

すると、鏡は、

「貴妃(あなた)はとても美しい、お妃様。
しかし、これまで見たことのない美しいものは、7人の小人とともに森の中に住んでいる」

と、この前のように答えたので、がっかりしました。


【26-27ページ見開き】



At this the Queen's fury knew no bounds and she said, "But now, my pretty one—now I'll think up something which will be the end of you!" And soon she was very busy.

王妃の怒りは、限りというもの知りませんでした。そして王妃は言いました。「おまえよ、お前にとどめを刺すことをかんがえてやる。」そして、王妃はとても忙しくなりました。

You will not be surprised, I am sure, when I tell you that this wicked creature was skilled in the arts of witchcraft; and with the help of these arts she now worked out her second scheme. She fashioned a comb—a beautiful golden comb, but a poisonous one. Then, disguising herself as a different old woman, she crossed the seven hills to the home of the seven dwarfs. When she reached it she knocked at the door and cried as before, "Good wares for sale! Fine wares! For sale! For sale!"

驚くにはあたりません。この邪悪な者は、魔女の魔法に長けていたのです。だから、それを使って、二つ目の計画を作り上げました。王妃は、美しい金色の、しかし、毒のある櫛をつくりました。それから、自分自身を別の老婆に見せかけて、7つの丘を越えて7人の小人の家へと向かいました。家に着くと、ノックをして、前と同じように叫びました。「いいものがあるよ。いいものを売りに来たよ。とてもお値ごろだよ。」

Snow White peeped out of the window but this time she said, "You may as well go on your way, good woman. I am not allowed to let anyone in."

"Very well!" said the old woman. "You needn't let me in, but surely there can be no harm in looking at my wares," and she held up the glittering poisonous comb.

白雪姫は窓から外をのぞき見しましたが、こんどは、こう言いました。「あなたはそのまま行った方がいいわ、おばあさん。私は、だれも家に入れることは許されていないの」

「いいとも」と老婆は言いました。「私を家に入れてくれなくってもいいんだ。だけど、私のものをみても何も悪いことはないだろう?」そして、ぴかぴか光る毒が付いた櫛を手に持ち上げました。

Snow White was so charmed by it that she forgot all about the dwarfs' warning and opened the door. The old woman stepped inside and said in honeyed tones, "Why don't you try it on right now, my little rabbit? Look, I'll show you how it should be worn!"

白雪姫は、すっかり見とれてしまい、小人たちが注意したことを忘れて扉を開けてしましました。老婆は中に入って、甘い声で言いました。「ためしたらどうかね。子ウサギちゃん。ほら、どうやるか見せてあげる。」

Poor Snow White, innocent and trusting, stood there with sparkling eyes as the woman thrust the comb into her ebon hair. But as soon as the comb touched her head, the poison began to work, and Snow White sank to the floor unconscious.

可愛そうな白雪姫は、お人好しで信じてしまったので、目をキラキラさせてそこに立ちました。老婆は、白雪姫の黒檀色の髪に櫛をさしました。櫛が頭に触るや否や、毒が廻って、白雪姫は気を失って床に倒れてしまいました。

"You paragon of beauty!" muttered the Queen. "That will do for you, I think."

「絶世の美女よ!」と、王女はつぶやきました。「それが効くだろうよ。」

【28ページ】

28ページ上段

She hurried away just as the sun was sinking behind the seventh hill, and a few minutes later the dwarfs came trudging home from work. When they saw Snow White lying there on the floor, they knew at once that the Queen had been there again. Quickly they searched, and soon enough they found the glittering poisonous comb which was still fastened in the girl's black hair. But at the very moment that they pulled it out, the poison lost its power and Snow White opened her eyes and sat up, as well as ever before.

お日さまが七つ目の丘の向こうに沈みかけていたので、王妃は急いでその場を離れました。すると、ニ三分後には、小人たちが仕事からとぼとぼと戻ってきました。小人たちが、白雪姫が床に倒れているのを見て、すぐに、王妃がきたと分かりました。急いで周りを見ると、すぐにぴかぴか光る毒の付いた櫛が、白雪姫の黒い髪にしっかりと差されているのを見つけました。しかし、小人たちがそれを抜いたとたんに毒はその力を失い、白雪姫は目を開けて目を覚まし、いつものように戻りました。

When she told the seven dwarfs what had happened, they looked very solemn and said, "You can see, Snow White, it was not an old woman who came, but the wicked Queen in disguise. So please, dear child, beware! Buy nothing from anyone and let no one, no one at all, into the house while we're gone!"

白雪姫が小人たちに何が起こったのかを話すと、小人たちはとてもしかつめらしい顔をして言いました。「ほらね。白雪姫。あれは老婆じゃなくって、邪悪な王妃が変装したものだったんだ。おねがいだから、注意して!自分たちがいない時に、だれからも何も買ってはいけないし、誰一人、家の中に入れてはいけないよ!」

And Snow White promised.

そして、白雪姫はそう約束しました。

【29ページ】

ページ上段

By this time the Queen had reached her home and there she stood in front of her mirror and said:

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and the mirror answered as before:

"Thou art very fair, Oh Queen,
But the fairest ever seen
Dwells within the wooded glen
With the seven little men."

そのころ、王妃はお城へ戻り、鏡の前に立って言いました。

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中でもっとも美しいのは誰?」

鏡は、前のように答えました。

「貴妃(あなた)はとても美しい、お妃様、
しかし、見たことがないほど美しいのもは、森の中で7人の小人とともに住んでいる」

ページ下段

【30ページ】

ページ全面

【31ページ】

When she heard this, the Queen trembled with rage and disappointment. "I must, I will be the fairest in the land!" she cried, and away she went to a lonely secret chamber where no one ever came. There, by means of her wicked witchery, she fashioned an apple. A very beautiful apple it was, so waxy white and rosy red that it made one's mouth water to look at it. But it was far from being as good as it looked, for it was so artfully made that half of it—the rosiest half—was full of poison.

これを聞いて、王妃は、怒りと失望で唇をふるわせました。「じぶんが、じぶんがこの国でもっとも美しくなければならない。これからも。」と、王妃は叫びました。そして、だれも入ったことがない秘密の部屋に一人で入っていきました。そこで、邪悪な魔法の力でリンゴを作りました。それはとても美しいリンゴで、つやのある白色とバラのような赤色で、美味しそうで、見ればよだれがでてきそうでした。でも、それは、見かけのようによいものではなくて、真っ赤な半分は、毒がいっぱいついていたのです。

When the Queen had finished this apple she put it into a basket with some ordinary apples, and disguised herself as a peasant-wife. She crossed the seven hills to the home of the seven dwarfs and knocked at the door as before.

王妃がリンゴを作りおわると、かごの中に普通のリンゴと一緒に入れて、自分は農婦のように変装しました。王女は、7つの丘を越えて7人の小人の家へと向かい、前のように扉をノックしました。

【32-33ページ見開き】

見開き左側
見開き右側

Snow White peeped out of the window and said, "I am not allowed to let anyone in, nor to buy anything either—the seven dwarfs have forbidden it."

"Suits me," said the peasant-wife, "I can easily sell my fine apples elsewhere. Here, I'll give you one for nothing."

"No," said Snow White, "I'm not allowed to take anything from strangers."

"Are you afraid? Of poison, perhaps?" said the woman. "See, I'll cut the apple in two and I myself will eat half of it to show you how harmless it is. Here, you can have the nice rosy half, I'll take the white part."

白雪姫は、窓のそとをのぞき見して言いました。「私は、誰一人家に入れられなし、買うこともできないのーー七人の小人に止められてるの。」

「大丈夫さ」と農婦は言いました。「私は、どこででもこの素敵なリンゴを売ることができるからね。ほら、一つ、タダであげるよ。」

「だめなの」と白雪姫は言いました。「私は、知らない人からものをもっちゃだめと言われているの」

「こわいのかい?毒だと思ってんのかい?」と、おばさんは言いました。「ほら、リンゴを二つに割って半分は私が食べて大丈夫なことを見せてあげる。おまえは、バラ色の良い方の半分を食べたらよい。わたしは白い方を食べるさ」

参考:内田莉莎子氏訳

しらゆきひめは、まどからのぞいて、いいました。「だれもいれてはいけないの。なにもかってはいけないの。七人の小人さんたちにとめられているの」
「そんなこと、かまわないよ」おひゃくしょうのおかみさんは、いいました。「あたしのりっぱなりんごは、どこにいっても、すぐ、うれるものね。ほら、ひとつ、ただであげるよ」

By this time Snow White's mouth was fairly watering for the luscious-looking fruit, and when the woman took a big bite out of the white half and smacked her lips, the poor girl could bear it no longer. She stretched her little hand out through the window, took the rosy half of the apple and bit into it. Immediately she sank to the floor and knew no more.

With a glance of glee and a laugh over-loud, the Queen cried, "Now, you! White as snow, red as blood and black as ebony—now let the dwarfs revive you!"

白雪姫の口の中は、とても美味しそうなくだものを見て、もう、かなりよだれでいっぱいでしたので、農婦が白い半分をおおきくかじると、舌鼓をして、もう待ちきれなくなりました。白雪姫は、窓から小さな手を伸ばして、リンゴのバラ色の半分をとってかじりました。たちまち、白雪姫は床に沈み、あとは何も分かりませんでした。

王妃は、ほくそ笑んで大声で笑い、叫びました。「さぁ、おまえ。血のように赤く、黒檀のように黒い、白雪姫よ。小人たちに生き返らせてもらえばいい!」

She could scarcely wait to get home to her mirror and say:

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and to her joy it said:

"Oh Queen, thou art the fairest in the land!"

Now there was peace at last in the heart of the Queen—that is, as much peace as can ever be found in a heart full of envy and hate.

王妃は、いてもたってもいられずにお城に帰り、鏡に向かって言いました。

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中でもっとも美しいのはだれ?」

鏡は、

「お妃様、貴妃(あなた)が、この国でもっとも美しい」

と言ったので、王妃は喜びました。

ようやく、王妃の心が穏やかになりましたーー嫉妬と嫌悪で溢れていたのと同じくらい、心の中が幸せとなったので。

参考:内田莉莎子氏訳

そして、とぶようにおしろにかえると、かがみのまえにかけつけて、ききました。

かがみよ、かがみ、かべのかがみよ、
いちばんうつくしいのは、だれ?

うれしいことに、かがみはこたえました。

おお、おきさきさま、
あなたが、くにじゅうでいちばんうつくしい!

やっとおきさきの心がしずまり、おちつきました。やきもちで、人をにくむことしかしらない心でも、安心はできたのです。

【34ページ】

After the wicked Queen had gone away, the sun sank down behind the seventh hill and the dwarfs came trudging home from work. When they reached their little home, no light gleamed from its windows, no smoke streamed from its chimney. Inside all was dark and silent—no lamps were lit and no supper was on the table. Snow White lay on the floor and no breath came from her lips.

At this sight the seven little dwarfs were filled with woe, for well they knew that this was once more the work of the wicked Queen.

邪悪な王妃が去ったあと、お日さまは7つ目の丘の向こうに沈み、小人たちは仕事からとぼとぼと帰ってきました。小人たちが家についたとき、窓からは明かりが見えず、煙突からは煙が上がっていませんでした。家の中は暗くて静かでしたーーランプは灯っておらず夕食もテーブルにはありませんでした。白雪姫は床によこたわり、くちびるには息がありませんでした。

これをみて、7人の小人は、とてもつらく感じました。なぜなら、また、邪悪な王妃の仕業だと分かったからです。

"We must save her!" they cried, and hurried here and there. They lit their seven lights, then took Snow White and laid her on the bed. They searched for something poisonous but found nothing. They loosened her bodice, combed her hair and washed her face with water and wine, but nothing helped: the poor child did not move, did not speak, did not open her eyes.

"Alas!" cried the dwarfs. "We have done all we could, and now Snow White is lost to us forever!"

「白雪姫を助けなければ!」と小人たちは叫び、いそいであちこちを動き回りました。7つのライトをつけて、白雪姫をベッドに寝かしました。毒のありそうなものを探しましが、みつかりませんでした。服を緩めて、髪をとかし、顔を水とワインで洗いましたが、どれも助けになりませんでした。

「あぁ」と、小人たちは叫びました。「できることはすべてやったが、白雪姫は、もう永遠に戻らない。」

【35ページ】

Gravely they shook their heads, sadly they stroked their beards, and then they all began to cry. They cried for three whole days and when at last they dried their tears, there lay Snow White, still motionless to be sure, but so fresh and rosy that she seemed to be blooming with health.

"She is as beautiful as ever," said the dwarfs to each other, "and although we cannot wake her, we must watch her well and keep her safe from harm."
So they made a beautiful crystal casket for Snow White to lie in. It was transparent all over so that she could be seen from every side. On its lid they wrote in golden letters:

SNOW WHITE—A PRINCESS

小人たちは重々しくあたまを振り、髭をなで、そして皆で泣き出しました。まる三日間泣き続けたので、涙が涸れてしまいました。白雪姫は、生きているようでバラのように赤かったので、あたかも体は大丈夫なように、動かずに横たわっていました。

「白雪姫は、これまでどおり美しい。」と、小人たちは互いに言いました。「白雪姫を目ざまさせることはできないけども、彼女のことを見守り危ないことがないようにしよう。」そして、小人たちは、白雪姫を入れる美しいガラスの棺をつくりました。棺は透明なので、どの面からも白雪姫を見ることができました。棺のフタは、金色の文字で「白雪姫ー皇女」と書かれていました。

【36ページ】

and when it was all finished they laid Snow White inside and carried it to one of the seven hilltops. There they placed it among the trees and flowers, and the birds of the wood came and mourned for her, first an owl, then a raven, and last of all a little dove.

すべてが終わると、白雪姫を中に寝かせて、7つの丘の上のひとつに運んでいきました。それから、木と花に囲まれたところに置きました。そこには、森の鳥たちが来てお悔やみを言いに言いました。最初はフクロウ、次はカラス、そして最後は小さな鳩でした。

Now only six little dwarfs went to dig in the hills every day, for each in his turn stayed behind to watch over Snow White so that she was never alone.

Weeks and months and years passed by, and all this time Snow White lay in her crystal casket and did not move or open her eyes. She seemed to be in a deep deep sleep, her face as fair as a happy dream, her cheeks as rosy as ever. The flowers grew gaily about her, the clouds flew blithely above. Birds perched on the crystal casket and trilled and sang, the woodland beasts grew tame and came to gaze in wonder.

いまは、7人ではなく6人の小人が掘りに出かけました。なぜなら、かわりばんこに、一人が、白雪姫がひとりっきりにならないように見守ったからです。

何週間も、何か月も、何年も過ぎて、白雪姫はずっとガラスの棺の中に寝ていましたが、動くことも目を開くこともありませんでした。白雪姫は、顔はが幸福な夢のように美しく、ほほはいままでのように赤く、深い眠りにおちていたように見えました。花が周りで陽気に咲き、雲が快活に上を流れました。鳥たちは、ガラスの棺にとまり、さえずりました。森の獣たちは、大人しくなり、不思議そうに見つめていました。

【37ページ】

ページ全面

【38ページ】

Some one else came too and gazed in wonder—not a bird or a rabbit or a deer, but a young Prince who had lost his way while wandering among the seven hills. When he saw the motionless maiden, so beautiful and rosy red, he looked and looked and looked. Then he went to the dwarfs and said, "Please let me take this crystal casket home with me and I will give you all the gold you may ask for."

But the dwarfs shook their heads and said, "We would not give it up for all the riches in the world.

森の鳥やウサギや鹿ではないものがやってきて、不思議そうに見つめました。それは、七つの丘をさまよって道に迷った若い王子様でした。動かない乙女を見つけたとき、あまりに美しくバラのように赤かったので、王子様は、ただただ見つめていました。それから、小人に向かって言いました。「この棺を持ち帰らせてくれないか?好きなだけ黄金をあげるから。」

しかし、小人たちは首を横にふって言いました。「これは、世界でいちばんのお金持ちにもあげません。」

At this the Prince looked troubled and his eyes filled with tears.

”If you won't take gold," he said, "then please give her to me out of the goodness of your golden hearts. I know not why, but my heart is drawn toward this beautiful Princess. If you will let me take her home with me, I will guard and honor her as my greatest treasure."

When they heard this, the kind little dwarfs took pity on the Prince and made him a present of Snow White in her beautiful casket.

王子様は、困って目にいっぱい涙をためました。

「もしも、黄金を受け取らないというのなら」と、王子様は言いました。「私のために、あなたたちの金色の心の優しさを彼女にあげてください。あなたたちがダメだというのはわかります。でも、私の心はこの美しい王女様の虜となってます。もしも、私の城に連れて帰るのを許してくれるなら、私の最高の宝物として彼女を守り讃えます。」

これを聞いて、親切な小人たちは王子様が気の毒に思い、美しい棺に入った白雪姫を王子様に贈ることとしました。

【39ページ】

The Prince thanked them joyfully and called for his servants. Gently they placed the crystal casket on their shoulders, slowly they walked away. But in spite of all their care, one of the servants made a false step and stumbled over a gnarly root. This joggled the casket, and the jolt shook the piece of poisoned apple right out of Snow White's throat. And lo! she woke up at last and was as well as ever. Then all by herself she opened the lid, sat up, and looked about her in astonishment.

王子様は、嬉しそうに小人たちに感謝をして、召使いたちを呼びました。召使いたちは、優しく棺を肩に乗せ、ゆっくりと歩いて行きました。しかし、とても注意をしていたにもかかわらず、召使いの1人が足を踏み外し、古い木の根っこでつまづいてしまいました。それで、棺が揺れたところ、そのショックで白雪姫の喉に詰まっていた毒リンゴのかけらが口から飛び出しました。そして、おぉ、ついに白雪姫は目を覚まし、元通りになりました。まぶたを開き、目を覚まし、驚いて周りを見渡しました。


The Prince rushed up and lifted her out of the casket. He told her all that had happened and begged her to be his bride. Snow White consented with sparkling eyes, so they rode away to the Prince's home where they prepared for a gay and gala wedding.

王子様はかけ寄り、白雪姫を棺から持ち上げま-した。王子様は、何があったのかを白雪姫に話し、彼女にお嫁になって欲しいと言いました。白雪姫は目を輝かせて同意しました。それで、馬車に乗って王子様のお城に行き、楽しく盛大な結婚式の準備をしたのでした。

【40ページ】

ページ上段

But while this was going on in the Prince's castle, something else was happening in that other castle where lived the wicked Queen. She had been invited to a mysterious wedding, so she dressed herself in her festive best and stood in front of her mirror and said:

しかし、王子のお城で準備が進んでいる一方で、王妃が住んでいるもう一つのお城では、何か別のことが起きていました。王妃は、不思議な結婚式に招かれていましたので、もっとも華やかな服を着て鏡の前に向かい、言いました。

"Mirror, Mirror, on the wall,
Who's the fairest one of all?"

and the mirror answered:

"Thou art very fair, Oh Queen,
But the fairest ever seen
Is Snow White, alive and well,
Standing 'neath a wedding bell."

「鏡よ、壁の鏡よ、世の中でいちばん美しいのは誰?」

すると、鏡は答えました。

「お妃様、貴妃(あなた)はとても美しい。
しかし、これまで見たことがないほど美しいのは
生きていて、元気にしている、白雪姫。
ウェディングベルの下に立っている」


* * * * *

ページ下段

【41ページ】

When she heard this, the Queen realized that it was Snow White's wedding to which she had been invited. She turned purple with rage, but still she couldn't stay away. It would have been better for her if she had, for when she arrived she was given a pair of red hot shoes with which she had to dance out her wicked life. But as to all the rest—the Prince and his Princess Snow White, and the seven little dwarfs—they all lived happily ever after.

これを聞いたとき、招待を受けたのは白雪姫の結婚式であることに気がつきました。王妃は怒りで真っ青になりましたが、欠席することはできませんでした。でも、できたら欠席していた方がよかったはずです。なぜなら、王妃が到着すると、彼女は、赤く焼けた靴を履かされて、それで邪悪な一生が終わるまで踊り続けねばならなかったからです。しかし、彼女以外のもの、つまり、王子様とかれの王女、白雪姫と、七人の小人たちは、そのあとはずっと幸福に暮らしました。

参考:内田莉莎子氏訳

それをきいて、おいきさきは、じぶんがよばれたのは、しらゆきひめのけっこんしきだったときづきました。おきさきは、かおをむらさきいろにして、はらをたてましたが、どうしてもいかずにはいられなくて、でかけてしまいました。やめておけばよかったのに。

おきさきは、王子のしろにつくと、まっかにやけた、てつのくつをはかされ、おどらされ、とうとうしんでしまったのですから。

けれど、ほかのひとたちはみな、王子もしらゆきひめも、そして七人の小人たちも、そろってしあわせにくらしました。いつまでも、いつまでも。


THE END (おわり)

(3) 白雪姫のグリム童話改訂版間での異なり


グリム作のグリム童話は何度か改定されている。初版の1810年版、それ以降の1812年版、1819年版、1857年版の比較で、異なるところを小澤俊夫氏が解説している。物語を36の部分に切って比べているが、違いが分かりやすいの29か所を拾い、違いポイントを記したのが以下の通り。

グリム童話は、英訳においても、日本語訳においても、単なる簡素化や言葉の補足にとどまらないヴァリエーションがある。

よく知られているディズニーは、徳があれば世の中は丸く収まるというようなストリーなので、グリムのオリジナルとはかなり感じがことなり、そのあたりは、ボヘミアンの伝承を聞かされ続けていたWandaには受け入れにくいところだったのだろう。

ディズニーは、王妃が白雪姫を殺しにいくのは、リンゴをもって訪れるときの一回だけである。他の訳では、最初に王妃が売りに行ったひもが何に使われるのかが明示されず、身体を締め付けたのではなく首を絞めたという話に変えているのもある。それにより、子どもにとっては分かりやすいストリーになっているだろうが、白い雪と赤い血、ウエストを締め付けるコルセット用のひも、髪を飾る櫛、そして禁断の木の実を連想させる赤いリンゴという一連のモティーフから浮かび上がる、無垢な少女が成熟した女性になろうとする願望が隠れてしまう。小人たちに注意されながら、三度も同じ過ちを犯してしまう、言葉では語られていない動機が見えなくなるのではないだろうか。

なお、ディズニー(絵本版)の違いは、Note筆者が加えている。

初版(1812年版)の英訳

http://pinkmonkey.com/dl/library1/story158.pdf

最終版(1857年版)の英訳

① 冒頭(白と黒と赤、女王)

お母さんが、針仕事。黒檀でできた窓、白い雪、雪に落ちた赤い血。

それぞれの色が何を指すのか? 黒いのは髪か目か?赤いのはほほか唇か?白は無垢、赤は妊娠を暗示する?

伝承では女王=魔女とのことだったが、初版(1812)から、実の母は死に、継母が現れる。

(ディズニー)

お母さんの針仕事の場面がない。既に生まれている。黒い髪、赤い唇。登場するお母さんは残忍な継母。

② 鏡への問いかけ

白雪姫が現れてからか?毎日か?

(ディズニー)

毎日鏡の前に立つ継母。

(ディズニー)
継母は、美しくなった白雪姫を嫉妬したが、捨てはせず、ぼろを着せて誇りまみれの中でお城で働かせた。白雪姫は、それでも、やさしく元気に過ごす。いつか、ハンサムな王子様が来て、お城から連れて行ってくれることを夢見る。

③ 白雪姫はどれほど美しい?

十万倍か?千倍か? 白雪姫の年は7歳と明記されているか?

(ディズニー)

或る時、女王が鏡に尋ねると自分よりも美しいものが居るという。それが白雪姫であると。

④ 白雪姫はどう捨てられた?

森に置き去りされた。狩人に森に連れて行かせて、そこで刺し殺し、肺と肝臓を持ってくるように命じた。どれほど妃は妬み、高慢であったか。

(ディズニー)

猟師を呼んで白雪姫を深い森に連れて行き、殺すことをを命ずる。猟師は慈悲を乞うが、失敗したら罰を与えると突き放す。

⑤ 命乞いと妃

狩人は、白雪姫を殺さなくてすんでどれほどほっとしたのか。妃の魔女性はどれほど強く書かれているか。

(ディズニー)

白雪姫は、捨てられることを知らずに猟師と深い森に行く。猟師はナイフを取り出すが、自分には出来ないと泣き出し、女王の命を受けてのことだと告げて許しを請う。

⑥ 小人との出会い

白雪姫はどれほど心細かったか。必死だったか。

(ディズニー)

白雪姫に、猟師が、逃げろと告げる。驚いた白雪姫は、腕や足を小枝に引っ掛けて傷をつけながら、深い森の中へ入っていく。疲れた白雪姫の周りに森の動物たちが集まり、美しい白雪姫を小屋へと案内する。

⑦ 食卓で

なぜ、一つの皿からちょっとだけ取ったか理由がついているか?

(ディズニー)

汚れていた小屋を白雪姫は掃除する。動物たちが手伝い、きれいになる。

⑧ こびとたち

家の中の様子が違うことをどのくらい具体的に言っているか。言葉を発したのは5人か、全員の7人か?白雪姫を小人たちは何をした?部屋の様相(ビーダーマイヤー風)?

(ディズニー)

小人たちがかえると、家が綺麗になっていて驚く。二階に白雪姫が寝ているのに気づく。

⑨ 白雪姫の話

ナレーションか、白雪姫とこびとたちの会話か?

(ディズニー)

白雪姫は、ベッドに書かれた7人の小人の名前を呼ぶ。女王が自分を殺そうとしたことを伝え、小人たちと会話する。

⑩ こびとたちの忠告

注意すべきは女王さま?継母?理由は?

(ディズニー)

夕食の後、小人たちは白雪姫と歌って踊る。

⑪ 鏡の応答

初版には鏡が答える場面はない。白雪姫がどこに誰といるかを説明しているか?

(ディズニー)

鏡を見るシーンはないが、鏡から白雪姫が生きていることを知る。次の⑫から㉑まではない。いきなり、毒リンゴになる。

⑫ 森へ向かった女王

なぜ、森へ向かったのか説明があるか?

⑬ 売りに来たものは?

結び紐?飾り紐?絹の紐?ちょうどほしかった?

⑭ 首を絞める。

どのくらい具体的?むすびかたひどいね→なんてかっこうしているの?この美人もこれで終わりさ→国じゅうでいちばんの美人もこれでおわりさ。

⑮ 生き返る白雪姫

紐をほどいたら息を吹き返した→飾り紐をまっぷたつに切りました。すると白雪姫は息をし始め、それから生き返りました。→まっぷたつにきりました。白雪姫は、かすかに息をしはじめ、だんだんに生き返ってきました。

⑯ 鏡が答える

初版にはない。

⑰ 女王の驚き

「血が全部心臓へ逆流しそう」、「血がみんな頭にのぼってしまいました」
白雪姫と女王の会話。

⑱ かみをくしけずる

毒が効いたことが書かれているか?女王の捨て台詞は?

⑲ 白雪姫の復活

ちょうどよい時に戻った?毒の櫛は探した?

⑳ 三度、鏡に問う。

初版にはない。

㉑ 女王の腹立ち。毒リンゴ。

どのくらい腹が立ったか?どのくらい強い毒か?どのくらい欲しそうに見えるか?

㉒ リンゴで誘惑。

まどからとてもうまくふるまった→女王と白雪姫の会話。あんたはこの赤い方をおたべ、私は白い方を食べるから。

(ディズニー)

魔法で毒リンゴを作る。小人たちは、白雪姫に、家に誰も入れないように警告する。まどから魔女がリンゴで白雪姫を誘う。白雪姫は、小人たちの警告を思い出すが、老婆は悪い人ではなくリンゴが美味しそうに見えたので、リンゴをかじり、そこに倒れる。

㉓ また鏡に問う。

初版には、鏡は登場しない。→あなたがこの国で一番美しい。やれやれこれで安心だ。「雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒いだって!今度こそは、こびとたちだってお前のめをさまさせることはできやしないぞ、鏡よ、鏡よ、、」

㉔ 七人の小人が帰ってきてしたこと、

白雪姫のからだを、水とワインで洗った?

(ディズニー)

鳥と動物に知らされて小人たちがもどる。小人たちは女王を山の高いところに追い詰めると、稲妻が走り女王が倒れる。

㉕ 白雪姫を棺に入れる。

棺に入れる前に土の中に埋めようとした?棺に書かれた名前?生い立ち?金文字。ほほの赤。黒い土。動物たちがやってきた?フクロウ、カラス、鳩。

(ディズニー)

ガラスと金の棺を作り、日夜、王女を見つめる。

㉖ 棺を見つけたのは?

お父さん(王様)?生き返らせたのはお医者さん?
王子様が見つけた?小人たちと会話?

(ディズニー)

あるとき、ハンサムな王子が通りかかり、白雪姫をみて恋に落ちる。白雪姫にキスをすると、白雪姫は起き上がる。ふたりは城に向かい、結婚する。(終わり)

㉗ 白雪姫がリンゴのかけらをのどから外したのは、

王子の外出先に棺を担いだ召使が腹を立てて白雪姫の背中を殴ったから?
棺を担いだ召使がやぶに足を取られて躓いたから?
それとも、小人が躓いた?

㉘ 王子と白雪姫の結婚式

お母さん(悪い妃=女王)も招待された?

㉙ 結婚式の場で、

上履きが日の中で真っ赤に焼かれ、女王様がその靴を履かされて、死ぬまで踊らされた。

鉄の上履きが火にかけらえて真っ赤になっていて、その上履きを履いて踊らされた。両足は「ひどくやけどした」けど、死んで床に倒れるまで、ダンスをやめることが許されなかった。


4. シンデレラ CINDERELLA(Wanda Gag "Tales From Grimm"(1936))


(1) 概要

シンデレラは、Gagの”Tales from Grimm”(1936)に収められた16作品の中の一つである。邦訳は松岡享子氏によるもの(『グリムのむかしばなし』、のら書房(2017))が出ている。ここでは、Gagのテキストと挿絵を紹介し、併せてnote筆者による仮訳を付けた。

シンデレラはよく知られた昔話だが、Grimmのオリジナルとそれに沿ったガアグの再話には、おなじみのカボチャの馬車は登場せず、靴もガラス製ではない。

Grimmのオリジナルに(ガアグの再話にも)登場するハシバミ(hazel)は、ギリシャ神話で知恵の神ヘルメスが持つ枝の木であり、英知を象徴する。また、ハトは、平和と希望だけでなく、愛、真理、正直、復活などの象徴でもある。


(2) 本文


A RICH man had lost his wife and was left all alone with his little girl. Although they were lonely and sad, father and daughter lived together peacefully enough through the summer, the autumn, and the winter. But when spring came, the man married again, and from that time on, all was different for the little girl.

大金持ちの男が妻を亡くし、小いさな娘と取り残されました。2人は寂しく悲しくはありましたが、父娘は、夏、秋、冬と、2人で平和に過ごしました。しかし、春が来ると、男は、再び結婚しました。そして、それからは、小いさな娘の生活は全く違うものとなりました。

When the new wife arrived she brought two daughters of her own. These were as homely as they were haughty, and when they saw that the little girl outshone them in beauty, they took a great dislike to her and decided to get her out of the way.

新たな妻は、二人の娘を連れてきました。二人は、器量が悪く傲慢(ごうまん)で、小さな娘が自分たちよりも美しいのを見ると、彼女のことをとても嫌って仲間外れにすることにしました。

“Why should the little fool be allowed to sit in the parlor with us?” said they. “If she wants food, let her work for it. All she’s fit for is the kitchen. Out with her!”

「なんで、あのちっぽけなばかものを、私たちと一緒に居間に居させなきゃいけないの?」と娘たちは言いました。「もしも小娘が食べ物が欲しいなら自分で働けばいいじゃない。あの娘(こ)が似合っているのは台所さ。あの娘を追い出しましょう」

They took away her pretty clothes and dressed her in drab rags and clumsy shoes. They shoved her into the kitchen and made her work very hard. She had to get up at dawn, build the fire, carry the water, and take care of the cooking and washing besides. And that wasn’t all. At night, after a hard day’s work, the poor little thing had not even a bed to sleep in! The only way she could keep warm was to lie on the hearth among the ashes and cinders, and because of this she was now called Cinderella.

* * * * * * * * * * * *

二人は、彼女からかわいい服を脱がせてくすんだ色のぼろをきせ、不格好な靴を履かせました。二人は、彼女の髪を切って台所に連れていきこきつかいました。彼女は夜明けとともに起き、火をおこし、水を運び、食事の支度(したく)をし、洗い物もせねばなりませんでした。それだけではありませんでした。一日のたいへんな仕事の後なのに、夜、寝るためのベッドをもらえなかったのです。彼女は、暖炉の前で、灰と燃え殻で暖を取り寝ることしかできませんでした。そのため、彼女は、シンデレラ(灰かぶり)と呼ばれました。

Now it happened one day that the father decided to go to the fair, so he asked his two step-daughters what they would like to have him bring home for them.

ある日こと、父親はお祭りに出かけることとなり、後妻(こうさい)の二人の娘に土産としてなにが欲しいか尋ねました。

“Beautiful dresses,”said one.

“Jewels,”said the other.

一人は、「美しいドレスが欲しいわ」と言いました。

もう一人は、「宝石が欲しいわ」と言いました。

“And you, Cinderella?”asked the father.“What would you like to have?”

“Please bring me a fresh green hazel twig, papa—the first one which brushes your hat on the way home.”

「シンデレラは?」と父親が聞きました。「お前は何が欲しいのだい?」

「私には、新しい緑色のハシバミの小枝をおねがいします。家に戻られるときに帽子を撫(な)でた最初の枝です」

At the fair the man bought rich gowns and sparkling jewels for his two step-daughters, and as he was riding home along a narrow woodland road, a little green hazel twig snapped against his hat and pushed it off. “Well, well, I almost forgot!” said the father as he broke off the twig. “That’s what little Cinderella asked for.”

お祭りで、男は高価なガウンと輝く宝石を継娘(むすめ)たちのために買いました。そして、森の中の道路を馬車にのって戻る途中に、ちいさな緑色のハシバミの小枝がかれの帽子にかかり帽子を飛ばしました。「そうそう、忘れるところだった!」と父親は言ってその小枝を折りました。「これはシンデレラが欲しいと言っていたものだ」

The two step-sisters were delighted with their gorgeous presents and were soon prancing before their mirrors, primping and preening themselves like the vain creatures they were. Cinderella was pleased, too, with her simple present. She took the hazel twig and planted it in the garden behind the house. She watered it every day: it grew and grew, and soon it was a little tree.

二人の継娘(あね)たちは、素敵なプレゼントに喜び、鏡の前で踊りはね、虚栄心の塊のように着飾っておりました。シンデレラも、ささやかな贈りものに喜んでいました。彼女は、ハシバミの小枝を家の前の庭に植えました。毎日、水をやると、どんどん育って、まもなく小さな木になりました。

One day a dove came and made its home in the tree. It fluttered among the leafy branches, perched on the little twigs, and cooed softly. Cinderella loved the dove, for it was the only friend she had. She gave it crumbs and seeds, and the dove was grateful and sang:

“Rookety goo, rookety goo.”

あるひ、一羽のハトが来て、その木に巣を作りました。葉の多い枝の間を飛び回り、小枝に止まり、しずかにさえずりました。シンデレラはハトが好きでした。なぜなら、このハトが唯一の友だったからです。彼女はパンくずと種をあげました。すると、ハトは喜んで歌うのでした。

「ルークティ・グー、ルークティ・グー」


* * * * * * * * * * * *

One day there came news of a big party to be given at the royal palace. It was to last three days and nights and the King had invited all the young ladies in the kingdom, so that his son, a young and handsome Prince, might choose one of them for his future bride.

ある日、王宮で大きなパーティが開かれるとの知らせが来ました。それは三日三晩続き、王様は、王国のすべての若い女性を招待しました。息子でハンサムな王子が、その中から将来のお嫁さんを選ぶことができるようにするためです。

What a flurry there was in every household! All the maidens in the land were full of hope and excitement, and none more so than Cinderella’s haughty step-sisters. They were determined to dazzle the Prince at all costs and were in a fever of preparation for weeks before the event.

どの家でも大慌てとなりました。国中の若い女性は、だれもが希望にあふれとても興奮していましたが、シンデレラの傲慢(ごうまん)な継姉(あね)たちにはかないませんでした。彼女らは、何が何でも王子を驚嘆(きょうたん)させようと何週間も前から準備に燃えていました。

At last the first day of the festival arrived and the two sisters began dressing for the big ball. It took them all afternoon, and when they had finished, they were worth looking at.

ついに、お祭りの最初の日となり、二人の姉妹は大きな舞踏会のために着飾り始めました。それは、昼じゅうかかり、終わったときには、さすがに見るだけのことはありました。

They were dressed in satin and silk. Their bustles were puffed, their bodices stuffed, their skirts were ruffled and tufted with bows; their sleeves were muffled with furbelows. They wore bells that tinkled, and glittering rings; and rubies and pearls and little birds’ wings! They plastered their pimples and covered their scars with moons and stars and hearts. They powdered their hair, and piled it high with plumes and jeweled darts.

二人は、サテンと絹のドレスをまといました。腰当(こしあて)と胸は膨(ふく)らませ、スカートはひだひだで蝶(ちょう)結びとなっており、袖には大きなフリルが付いていました。チリンチリンとなるスズと、ルビーと真珠と小鳥の羽が付いた輝く指輪を身に着けていました。ニキビにはおしろいで塗りこめ、傷跡(きずあと)は月や星やハートの形で隠しました。髪を高く飾り、飾り羽と宝石でちりばめました。

At the last minute Cinderella was called in to curl their hair, lace up their bodices and dust off their shoes. When the poor little girl heard they were going to a party at the King’s palace, her eyes sparkled and she asked her step-mother whether she might not go too.

最後に、シンデレラは、二人の髪にカールをつけ、胴を締め付け、靴の汚れをとるために呼ばれました。かわいそうな小娘は、彼女たちが王宮のパーティーに行くことを聞いたとき、眼を輝やかせて自分もいくことはできないかと継母(ままはは)に聞きました。

They Went Rustling and Tinkling to the Ball

* * * * * * * * * * * *

“You?”cried the step-mother. “You, all dusty and cindery, want to go to a party? You haven’t even a dress to wear and you can’t dance.”

「おまえがかい?」と継母は叫びました。「埃(ほこり)と灰だらけのおまえがパーティーに行きたいって?着るものもなければ踊ることもできないじゃないか」

But Cinderella begged and begged until the step-mother, in order to get rid of her, said: “Very well, I’ll tell you what I’ll do. I’ll toss a panful of peas into the ashes, and if you can pick out all the good ones and get them back into the pan in two hours, you may go.”

しかし、シンデレラは、なんどもなんども頼んだので、継母も、嫌になってしまい、こう言いました。

「わかった。では私の言うとおりにするのだよ。灰の中に、豆を鍋から撒(ま)くけども、二時間以内に一粒のこさずに良い豆を鍋に戻すことができれば、行ってもいいさ。」

Cinderella knew she could never do all this alone, but she knew what no one else did—and what was that? She knew that her hazel tree had magic in it and that her little dove was a fairy dove. So she went out under the hazel tree and said softly:

シンデレラは、そんなこと一人でできないことは知っていましたが、他の誰もができないことも知っていました――それはと言うと、彼女は、ハシバミの木には魔力があることと、かのじょの小さなハトは妖精(ようせい)のハトであることを知っていたからです。それで、ハシバミの木の下に行って優しく言いました。

Fairy dove-friend in the tree,
Birds that fly
In the sky
Come and help me!

The dove replied:

Rookety goo!
What can we do?


* * * * * * * * * * * *

And Cinderella said:

The good peas in the pan
As fast as you can
Please help me!

木の中のお友達の妖精のハトさん、
空をとぶとりさん、
わたしをたすけて!

ハトはこたえました

「ルークティ・グー」
なにをすればいいんだい?

そしてシンデレラは言いました、

鍋の中に良い豆を
なるべくはやく
わたしをたすけて!

Down flew the dove, and down flew all the birds in the sky, and up and down went all their little heads as they picked up the peas.

ハトが降りてきて、空にいたほかの鳥たちも降りてきて、頭を上下にうごかしながら豆を拾いました。

“Pick, peck! Pick, peck!”went the birds, and soon every good pea was out of the ashes and back in the pan. The birds flew away and Cinderella hurried off to show the pan full of peas to her step-mother.

「ひろって、つついて、ひろって、つついて」鳥たちが続けると、まもなく、灰の中からすべての良い豆を拾い出して鍋に戻してしまいました。鳥たちはとんで去っていき、シンデレラは、鍋一杯になった豆を継母に急いで見せに行きました。

When she saw this, the step-mother was astonished and angry, and she said crossly,

“All the same, you can’t go. You have no dress, and you can’t dance with those clumsy feet of yours.”

継母は、それを見て、驚き、怒り、不機嫌にこう言いました。

「おんなじことさ。行くことはできないよ。ドレスはないし、あんたのぎこちない足では踊ることもできないだろ」

Tears rolled down Cinderella’s cheeks, and she begged and begged until her step-mother said, “Very well, I’ll give you another chance. This time you’ll have to clean two pans full of peas and I’ll give you only one hour to do it in.” And she walked off, muttering, “That ought to keep her busy until we’re well on our way.”

シンデレラのほほに涙が落ち、彼女は、継母になんどもなんども頼みました。それで継母は言いました。「わかったよ。もう一回チャンスをあげよう。今度は、豆がいっぱいにはいった鍋を2つを一時間以内にきれいにしなさい。」 そして、「これで、あの子は、我々がお城に向かう途中までずっとかかりっきりさ」とつぶやきながら、その場を離れました。

Again Cinderella stood under her hazel tree and said softly:

Fairy dove-friend in the tree,
Birds that fly
In the sky,
Come and help me!

もういちど、シンデレラはハシバミの木の下に行き優しく言いました。

木の中のお友達の妖精のハトさん、
そらをとぶとりさん、
わたしをたすけて!

And then everything happened as before. The fairy dove and all the birds in the sky flew down, and in less than an hour the ashes were picked clean and the two pans were heaped high with peas.

そして、前とまったく同じことが起こりました。妖精のハトとそらの鳥たちが降りてきて、一時間のうちに灰はきれいに片付けられ、二つの鍋は豆一杯になりました。

Cinderella took them to her step-mother and said, “Now may I go?” The step-mother flew into a rage and cried, “Don’t be a fool! You have no dress to wear, and you could never dance in those clumsy clodhoppers of yours. You would disgrace us all.”

With this she turned her back on the poor little girl and rustled off to the party with her two haughty daughters.

シンデレラは、それを継母に見せて言いました。「これで行っていいですよね」継母は、怒り叫びました。「ばかなことを言うんじゃない。着るドレスもなければ、そんなドタ靴で踊ったこともないじゃないか。お前が行ったらあたしたちの恥になる」

そして、かわいそうな小娘に背を向け、二人の娘とともにパーティーに向かいました。

* * * * * * * * * * * *

Cinderella did not mope and cry as you might suppose. Instead, she suddenly became very busy. She brushed the ashes out of her hair and combed it until it floated around her face like a golden cloud. Then she scrubbed and scoured herself until she was radiantly clean. No one would ever have guessed that she was only a poor little kitchen drudge who had to sleep among the ashes and cinders! Now she ran out and stood under her hazel tree. As she looked up into the leafy branches she said:

Shake yourself, my little tree,
Shower shiny clothes on me.

みなさんが想像されるとおり、シンデレラはふさぎ込むことも泣くこともしませんでした。代わりに、彼女は、とても忙しくなりました。彼女は、髪の毛から灰をブラシで払い、顔の周りで金の雲がただようように見えるまで髪を櫛(くし)でとかしました。それから、綺麗に輝くようになるまで身体をこすって洗いました。だれも、彼女が、台所で働き灰まみれになって寝ていたかわいそうな小娘だとは思わなかったでしょう。彼女は外に飛び出て、ハシバミの木の下に立ちました。葉が繁った幹を見上げて彼女は言いました。

からだをゆすりなさい わたしの木よ
わたしに、輝く服を降り注いでおくれ

There was a whish and a whirr in the branches above, and in that moment Cinderella’s rags disappeared and a shimmery silken dress fell over her instead. Her wooden shoes were gone, too, and on her feet were two tiny golden slippers. In her fluffy hair nestled a diamond star which sparkled in all the colors of the rainbow. Now Cinderella felt festive and gay, and she hurried off in high spirits to the party. When she appeared at the palace, she looked so rich and radiant that no one knew her, not even the step-mother and her haughty daughters.

上の幹で、シュー、ブーンという音がすると、たちどころにシンデレラが着ていたぼろが消えて、きらきら光るシルクのドレスが降りてきました。彼女の木の靴も消えて、金色の靴(ひものないかかとの低い靴)になっていました。彼女のふわふわの髪には、ダイヤモンドの星が虹の中のすべての色に輝いていました。彼女が王宮に現れると、彼女はとても豪華(ごうか)に輝いていたので、だれも、継母もその娘たちも彼女のことは誰か分かりませんでした。

As for the Prince, he had eyes for no one else from that moment on. He took her by the hand and did not leave her side all evening. Whenever anyone else wished to dance with her he always said, “No, she is my little dancer.”

王子様も、その瞬間から、他の者に目が向きませんでした。彼は、彼女の手を取り、夜じゅう、彼女のそばから離れませんでした。他に誰かが彼女をダンスに誘っても、「いや、彼女は私のお相手です」とお断りになるのでした。

Cinderella was very happy, but she knew this happiness could not last long. The dove had warned her that all her lovely clothes would disappear at the stroke of midnight—and so, at a quarter of twelve, Cinderella was suddenly nowhere to be seen. When the Prince saw that she had disappeared, he looked frantically all over the palace, but he could find no trace of her anywhere.

シンデレラは、とても幸福でしたが、それが長くは続かないことを知っていました。ハトは、彼女の素敵な服は12時の鐘の音とともに消えてしまうと警告していましたので、シンデレラは12時15分前に、突然、姿を隠してしましました。王子様が、彼女が居なくなったと気づいたとき、彼は、一心不乱に王宮中を探しましたが、どこにも痕跡(こんせき)すら見つけることができませんでした。

In the meantime his little dancer had reached her own backyard. As she passed her hazel tree the clock struck twelve. Her shimmery clothes vanished, her tattered rags fell down upon her; and there she was, clumping into the house in her old wooden shoes. Once more she was only Cinderella, the poor little kitchen drudge!

しばらくして、王子様のかわいいダンス相手は、彼女の家の裏につきました。彼女が、ハシバミの木を通り過ぎたときに、時計は12時を打ちました。彼女の、輝くドレスは消えて、ぼろが降りてきました。そして、彼女は、古い木靴で家の中へと入っていきました。再び、彼女は、台所で働くかわいそうな小娘のシンデレラに戻りました。

Shivering in her rags, she lay down among the ashes and cinders as usual, but she was too excited to sleep. When the step-mother and her haughty daughters returned, Cinderella was still wide awake, and could hear them talking among themselves in the next room.

ぼろのなかで震えながら、いつものように灰と燃え殻の中に身を横たえましたが、興奮していたので眠れませんでした。継母(ままはは)と傲慢(ごうまん)な娘たちがもどったとき、シンデレラはまだ起きていました。そして、隣の部屋で彼女たちが話していたのを聞くことができました。

“That mysterious little beauty,” said the step-mother, “who can she be, and why did she vanish so suddenly?”

“No one knows,” said the first step-sister. “But I, for one, was glad she went. No one else has a chance with her around.”

“Yes, I agree with you,” said the second step-sister. “All the same I do wonder where she came from.”

Little did they know that the maid of mystery had come from their home, and was at that very moment lying in rags and tatters among the cinders of their own hearthstone!

「あの、なぞめいた小さな美女」と継母は言いました。「いったい、だれなのだろう。そうて、どうして、突然、消えたのだろう」

「だれも知らない娘だったわ」と一番目の娘がいいました。「でも、彼女が居なくなってくれてよかったわ。彼女が居たら、だれにもチャンスがないわ」

「そうね。そう思うわ」と二番目の娘が言いました。「いったい、どこからきたのでしょうね」

彼女たちは、謎めいた女が、自分の家からきたなど夢にも思わなかったのです。そして、まさしくそのとき、自分たちの家の中で灰をかぶってぼろをかぶって寝ていたなどとは。

* * * * * * * * * * * *

The next day everything happened as it had before. The step-mother and her haughty daughters bedecked themselves in frills and furbelows and went, rustling and tinkling, to the ball.

次の日、すべては以前の通りでした。継母と、自らをフリルや飾り羽で飾り立てた傲慢(ごうまん)な娘たちは、いそいそと、チリンチリンいわせながら舞踏会へ向かったのでした。

Again Cinderella’s tree showered shimmery clothes on her, only this time they were even more beautiful than before. As soon as she appeared at the palace, all eyes were upon her. The two step-sisters made wry faces, but the Prince rushed joyfully to Cinderella’s side and would not leave her all evening. Whenever any one else wished to dance with her, he said, “No, she is my little dancer.”

もういちど、シンデレラの木は、彼女に輝くような衣類を降り注ぎましたが、前よりいっそう美しいものでした。王宮に彼女が現れるや否や、すべての者が彼女にくぎ付けとなりました。二人の姉たちは顔をしかめましたが、王子様は、喜んでシンデレラのそばに駆け付け、一晩中、彼女のもとを離れようとはされませんでした。他の者が彼女と踊りたいといっても、「彼女の踊る相手は私だ」といってお断りになるのでした。

He was widely happy, but to his dismay she gave him the slip again just before midnight. This time he saw her just as she was making her escape through the door. He ran after her, but she knew the way to her home, and he didn’t. He often lost sight of her as she flitted in and out among the dark streets, but he kept on. He caught a glimpse of her as she turned into her own back yard, but it was so dark that he could not tell where she went after that. She had ducked in among the bushes and had reached her hazel tree at the stroke of twelve. Her beautiful clothes vanished, and when the Prince reached the tree, as he saw as a tattered little figure clumping into the house in wooden shoes. How could he guess that this was his dainty little dancer?

王子様はとても幸福でしたが、彼が当惑したのは、また、真夜中の前に彼女がすり抜けていなくなってしまったことでした。今回は、王子様は、彼女が扉から逃げていこうとするのを見ていました。彼は彼女を追いかけましたが、彼女が彼女の家への道を知っていても彼は知りませんでした。かれは、何度も見失いながらも彼女の家の裏手に向かうのを垣間見(かいまみ)ましたが、とても暗かったので、彼女がそのあとどこに行ったかはわかりませんでした。彼女は、茂みの中に入り、12時の鐘の音が鳴ったときにハシバミの木にたどり着きました。彼女の美しい服は消えてしまい、王子様が木にたどりついたときに、ぼろを着た小さのものが木靴で家の中に入っていくのを見ました。それが、かれのかわいらしい踊り相手だったなど、彼はどうして想像することができたでしょう。

“But she ran into this yard, I saw her!” he said to himself. “She must be hiding here in the garden.”

He searched every corner of the yard, parted every bush, and peered into every flower-bed, but of course his little dancer was not there. At last he went home, shaking his head sadly.

“But tomorrow it will be different,” he said. “I’ll see to it that she can’t get away.”

「しかし、彼女はたしかにここへ走ってきた。わたしは見たのだ。」と彼は心の中でいいました。「彼女は、きっと庭の中に隠れているに違いない。」

かれは、庭の隅々を探し、茂みをかき分け、すべての花壇をのぞき込みましたが、もちろん、そこには、かわいいダンス相手はいませんでした。ついに、彼は、悲しそうに頭を振りながら家に戻りました。

「しかし、明日は、ちがうぞ」と彼は言いました。「彼女がいなくならないようにしてみせる」

* * * * * * * * * * * *

On the third evening, after the step-mother and her two haughty daughters ad again gone off, rustling and tinkling, to the party, Cinderella stood under her magic tree as usual, and said:

Shake yourself, my little tree,
Shower shiny clothes on me.

三日目の晩に、継母と傲慢(ごうまん)な二人の姉たちは、また、いそいそと、チリンチリンとならせながら出かけていきました。シンデレラは、いつもと同じように魔法の木の下に立ち、言いました。

からだをゆすりなさい わたしの木よ
わたしに、輝く服を降り注いでおくれ

She had no sooner said this, when a dress fluttered down on her; a dress so heavenly fair that it must have been spun out of angels’ dreams. A tiny crown, sparkling like a thousand dew drops, floated down and nestled in her hair; and two little golden slippers, set with dancing diamonds, fitted themselves neatly around her feet. But all these beauties were as nothing compared to her own winsome face, her modest air, and her graceful bird-like ways.

言うやいなや、服が降りてきましたが、天国のように美しくドレスだったので、天使の夢から出てきたものに違いありませんでした。千のしずくのように輝く小さな王冠が降りてきて彼女の髪に止まりました。そして金の靴は、ダイヤモンドが躍るように輝き、彼女の足に美しく収まったのでした。でも、これらの美しさは、彼女自身の魅力のある顔と、慎ましい雰囲気、そして彼女の鳥のよう優雅ないでたちにかなうものではありませんでした。

When she entered the palace, a hush hell over the hall; and the Prince, completely bewitched, dropped on one knee before her and kissed her hand. He would not leave her side all evening and he smiled at her so happily and danced with her so gaily that Cinderella, blissful beyond words, almost forgot about the time. It was just one minute of twelve when she deftly drew her fingers out of the Prince hand, ducked in among the many guests, and dashed away down the wide staircase which led to the street.

彼女が王宮に入ると、ホールは静まり返り、王子様は、完全に虜になって、彼女の前に膝まづき、彼女の手にキスをしました。かれは、夜じゅう、彼女のそばから離れようとせず、彼女に幸福そうに笑顔を投げかけ、楽しそうにダンスをしたものですから、シンデレラは言葉もないほど幸せで、すっかり時間のことを忘れるところでした。深夜の十二時の一分前に、王子の手から彼女の指を巧みに抜いて、たくさんのパーティー客を押しのけながら、通りにつながる階段を駆け下りたのでした。

But the Prince, determined not to lose her again, had ordered the staircase to be painted with pitch, and as Cinderella skipped swiftly down the steps, one of her golden slippers sand into the pitch and stuck there! There was no time to spare, and Cinderella had to run off without the slipper.

しかし、王子様は、彼女を再び見失うものかと決めていたので、階段にタールを塗るように命令をしていました。なので、シンデレラが階段を軽やかに降りようとしたときに、金色の靴の一方がタールに沈(しず)み込み、くっつきました。もう、まごまごしていられません。シンデレラは靴なしにかけていかねばなりませんでした。

At that moment, too, the clock struck twelve, her beautiful clothes vanished in twinkling, and there she was, running down the stairs in rags and tatters. She had only just made her way through the big door when the Prince came tearing along, distracted and breathless. The guard, who had be half dozing, was rubbing his eyes.

“Have you seen my sweet little Princess?” cried the Prince.

“Princess?” said the guard. “Oh, no, Your Highness.”

“Has no one passed by here—no one?”

ちょうどその時、時計が12時を打ち、彼女の美しい服は瞬(またた)く間に消え、ぼろ切れ姿になって階段を駆け下りて行きました。彼女は、王子様が取り乱して息もつかずに急いでやってきたときに、ちょうど大きな扉をくぐり抜けたのでした。半分、居眠りをしていた衛兵は、目を擦(こす)りました。

「お前は、私の可愛いお姫様を見なかったか」と、王子様は叫びました。

「お姫様?」と、衛兵は言いました。「いいえ、殿下」

「誰も、ここを通らなかったのか? 誰も?」

“Only a little begger girl, Your Highness,” answered the guard. “She was running for her life, but why I don’t know.”

The price looked crestfallen and was about to turn back, when he spied the little golden slipper, caught in the sticky pitch on the stairway. He picked it up, marveling at its dainty trimness. His eyes brightened.

“’Tis true she got away from me,” he said, “but I shall search until I find her, and this dear little slipper shall show me the way?”

「ただ、物乞いの娘だけです。殿下」と、衛兵は答えました。「彼女は、命がけで走っていましたけど、なぜかは、私はわかりません。」

王子様は、階段のねばねばしたタールでとらえた小さな金の靴をじっくりと見て、悲しそうにふり返りました。それを拾い上げると、そのかわいらしい見た目におどろきました。彼の眼は輝きました。

「彼女が私から逃げてしまったのはほんとうだ」と、彼は言いました「しかし、私は、彼女を見つけ出すまで探して見せる。この小さな靴がその助けになるだろう」

Early the next morning he went to Cinderella’s home and said to the step-mother, “I saw my little dancer disappear into your garden the other night—does she live here?”

The step-mother beamed with pleasure and her haughty daughters smirked and blushed with new hope.

“Here is something she lost last night,” continued the Prince, as he drew the dainty little slipper from his pocket, “and only she who belongs to it can be my bride.”

次の朝早く、彼はシンデレラの家に行き、継母に言いました。私のかわいい踊り相手は、夜あなたの庭で見えなくなったのです。――彼女はここに住んでいるのでしょうか?」

継母は、目に喜びを浮かべ、彼女の傲慢(ごうまん)な娘たちは希望を新たににやにや笑うのでした。

「ここに、彼女が、昨晩、落としていったものがあります」と、王子様は、彼のポケットからかわいらしい靴を取り出して続けました。「そして、この靴の持ち主だけが私の花嫁になるのです。」

The oldest sister tried it on first. Her foot was narrow but too long. She had to nip off a bit of her big toe to it in, but she didn’t care—it would be worth it to be a Princess for the rest of her life!

お姉さんが最初にためしました。彼女の足は細かったですが長すぎました。彼女は、大きなつま先を少し切り取らねばなりませんでしたが、構いませんでした――だって、生涯、お姫様になれるのですからやる意味があります。

When the Prince saw her wearing the slipper, he thought she must be the right girl, so he lifted her on his horse and started off with her to his palace. But as they passed the hazel tree, Cinderella’s fairy dove called out:

Dee rookety goo
Just look at the shoe!

The Prince glanced down at the oldest sister’s foot, and now he saw a little blood trickling out of the golden slipper. When he asked her to walk on it she could only hobble.

* * * * * * * * * * * *

王子様が彼女が靴を履くのをみると、彼女がそうだと思ったので、彼女を持ち上げて馬に乗せ、王宮に向かって出発しようとしました。しかし、ハシバミの木を横ぎるときに、シンデレラの妖精のハトが言いました:

ディー ルーケティ グー
靴を見てごらん!

王子様は、お姉さんの足を見たところ、金の靴から血がぽたぽた落ちていました。王子様が彼女にその靴で歩くようにいうと、よろよろとしか歩けませんでした。

The prince saw that he had made a mistake. He took her back and gave the second step-sister a chance. Her heel was too fat, so she had to nip off a little bit of it, but she didn’t care. What was a little pain now, compared to the glory of being a Princess forever after? She squeezed her foot into the slipper, and the Prince lifted her on his horse, and started off. But as they passed the hazel tree, Cinderella’s fairy dove called out.

Dee rookety goo
Just look at that shoe!

王子様は、間違いを犯したとわかりました。彼は、彼女を家に戻し、妹にチャンスを与えました。彼女のかかとは太すぎましたので、少しだけ切り取らねばなりませんでしたけども、彼女は構いませんでした。永遠にお姫様になれる栄誉にくらべれば、ちょっとやそっと痛くてもなんでもないですよね。彼女は、足を靴の中に押し込みましたので、王子様は彼女を馬に乗せて出発しました。しかし、かれらがハシバミの木を横ぎるときに、シンデレラの妖精のハトは言いました。

ディー ルーケティ グー
靴を見てごらん!

As the Prince glanced down he say that the second sister’s foot was fairly bulging out of the tiny golden slipper and that a few drops of blood were trickling out at the heel. When he asked her to walk on it, she could only hobble.

王子様が目を落とすと、妹の足は靴からかなり膨らんで出ており、踵からは血がぽたぽたと落ちていました。王子様がその靴で歩くようにいうと、よろよろとしか歩けませんでした。

* * * * * * * * * * * *

So he took her back home and said to the step-mother, “is there another daughter in the house?”

“No, Your Highness,” said the step-mother.

“No other girl?” said the Prince. “there must be! I saw one go into this house two nights ago.”

“No, no,” said the step-mother, “nobody but a clumsy little kitchen maid. It wouldn’t be she—I’m sure of that.”

そこで、彼は彼女を家に戻し、継母に言いました「別の娘さんがこの家にいるのではありませんか?」

「いいえ、殿下」と継母は言いました。

「ほかに女の子がいない?」と、王子様はいいました。「きっといるはずです。わたしは、だれかがこの家に入っていくのを二晩も見ているのです」

「いえいえ」と継母は言いました。「不格好なちいさな女中以外にはいません。彼女であるはずがありません。絶対に確かです。」

“Let me see her,” said the Prince.

“Oh no, she’s far too wretched and ragged to be seen by a Prince.”

"Bring her out! It is my command!” said the Prince, and he looked at her so sternly that she had to obey.

「彼女をみせてください」と王子は言いました。

「だめです、王子様にみていただくにはあまりにみずぼらしくぼろぼろです」

「彼女を連れてきなさい。命令です!」と王子様は言いました。そして、とても厳しい顔をなさいましたので、彼女は従わざるを得ませんでした。

Cinderella, in the kitchen, had heard all this, and had lost no time. She had washed and scoured herself and brushed the ashes out of her hair. As she entered, she lowered her head modestly, dropped a little curtsy and sat down on the chair which the Prince held out for her. She pulled off her clumsy wooden shoe, held out her trim little foot and slipped it easily into the tiny golden slipper which the Prince was holding in his hand.

シンデレラは、台所にいて、すべてのことを聞いていました。そして、すぐに出てきました。彼女は、身体(からだ)を洗い、紙にブラシをかけて灰を落としました。彼女は、部屋に入ると、つつましやかに頭を下げ、小さくお辞儀をし、王子様が抑えていた椅子に座りました。彼女は、ぶざいくな木の靴を脱ぎ、彼女のすらっとした足を、王子様が手に抱えていた小さな金の靴に簡単に滑り込ませました。

Now she raised her head shyly, and when the Prince saw her fair face and looked into her kind starry eyes, he cried, “How could I ever have been mistaken! This is my own, my true little Princess indeed!”

At the moment, there was a whish and a whirr. No one knew how it happened, but Cinderella’s rags had vanished and she was arrayed once more in her shimmery party attire.

彼女は、はずかしそうに頭を上げると、王子様は、彼女の美しい顔を見て、星のように輝く目に見入り、叫びました。「どうしてまちがえようか。これこそ、わたしの本当のかわいいお姫様だ」

その瞬間、シュー、ヒューという音がしました。だれも、どうしてかは知りようがありませんでしたが、シンデレラのボロは消えて光り輝くパーティ姿に変わっていました。

The step-mother and her two haughty daughters were speechless with astonishment and fury. The Prince left them, snarling and sputtering among themselves, and walked out hand in hand with Cinderella. He lifted her beside him on his horse, and the young pair rode away happily through the garden. As they passed the hazel tree, the dove cooed:

Rookety rookety goo,
She is the bride for you!

継母と傲慢(ごうまん)な姉たちは驚きと怒りで言葉もありませんでした。王子様は、うなりながら訳の分からないことを言っている彼女たちを残し、シンデレラと手をつないで出ていきました。彼は、馬の上で彼の横に彼女を乗せ、若い二人は幸せそうに庭を過ぎていきました。ハシバミの木を横ぎろうとすると、ハトがくーくーと鳴きました。

ルーケティ ルーケティ グー、
彼女があなたのお嫁さんですよ!

It fluttered down and nestled on Cinderella’s shoulder, and so all three—the Prince, his Princess and her fairy dove—rode away, far far away, to a charming castle on a hill where they and a long and happy life together.

ハトは飛び降りてシンデレラの肩にとまりました。そして、王子様と、かれのお姫様と彼女の妖精のハトは、馬に乗って、遠くのまたその向こうの素敵なお城へと向かいました。そのお城で、皆は、ながく幸せに暮らしました。

(終)

(3) おなじみの話

シンデレラといえば、カボチャの馬車とガラスの靴がおなじみの話であり、その代表がディズニーの物語だろう。カボチャの馬車が登場する話が、青空文庫に二作掲載されているので紹介する。

カボチャの馬車の話は、気の毒なシンデレラを、実は魔女であった乳母が魔法を使って助けるとい仕立てになっている。それに対して、グリムのオリジナルは、神を敬い、いじめられながらも徳を積んでいたシンデレラを神が助け、2人のお姉さんには天罰を加えるという仕立てになっているのが大きな違いであろう。

実は、カボチャの馬車とガラスの靴が出てくるのは、ペロー童話である。シンデレラの名前はサンドリヨン(正式名称は”Cendrillon ou la petite pantoufle de verre” 『サンドリヨンまたは小さなガラスの靴』)で、意味はやはり「灰かぶり」である。ペロー童話では、サンドリヨンは貴族の娘である。貴族として王子に近づくためにカボチャの馬車という仕立てが必要だったのかもしれない。また、ガラスの靴は、Verreという言葉が使われているが、同音のvair(リスの皮)をペローが誤認したという説もあり、今は否定されてはいるが、そのような説が出るくらいなので、積極的にガラスである理由は無いようだ。

舞踏会で使われる靴であり、靴にフィットするかが決め手となったことを考えれば、ガラスの靴は踊りやすいものとはいえず、階段を降りる際に脱げてしまうので普通では脱げないほどのフィット感がない。他方、グリム童話における金の靴は、舞踏会用の低底の靴とされていて、靴が脱げたのは、階段にタールが塗られていたためである。なので、ガラスの靴よりもフィット感はしっかりしていたと考えられるのではないだろうか。

なお、ペロー童話では、シンデレラは気立てがよく良いセンスの持ち主であったため、姉たちが舞踏会へ出かける際の衣装や髪形などに良いアドバイスをしている。姉たちを送り出した後に、大泣きしたシンデレラを仙人だった名付け親がかわいそうに思い、かぼちゃの馬車を仕立てる話へとつながる。舞踏会において、シンデレラは、王子からもらったオレンジやレモンを姉2人に分け与えている。舞踏会の後、王宮にて王子様は、ガラスの靴を、まず、王女たち、侯爵家の令嬢たち、宮中の女性たちにはかせてみるが、だれにも会わない。意地悪な2人のもとにも運ばれるが靴は合わない。グリムのように姉が自分の足を削って靴を履くシーンはない。最後には、2人の姉はシンデレラに謝罪しシンデレラは2人の姉を許す。そして、これからも自分を好きでいてほしいお願いする。フランス風の博愛思想か?教訓として、うつくしさは女性にとって最上級に称賛される財産だが、善意と呼ばれる稀な特こそが美しい顔よりもはるかにとお得、その永続的な魅力な何物にもまさると締めくくっている。また、もう一つの教訓として、人間にとって機智と勇気、家柄と良識、明晰な頭脳、そして、神より授かったそのた諸々の才能を持つことは間違いなく有利だが、名付け親の代父や代母に従わず、あるいは、厳格なまでの忠告に耐えることができなければ出世には何の役にも立たないと言っている。

① Andrew Langの『シンデレラ』(青空文庫)

シンデレラがかまどのある部屋が好きだったから灰かぶり(シンデレラ)となっている。ハシバミの木とハトは登場せず、代わりに、魔法使いのお婆さんとかぼちゃの馬車が登場する。かぼちゃの馬車が登場するいきさつが詳しい。靴は、金のSlippersではなくガラスの靴で、二度目に舞踏会に行った帰りに脱げたものである。靴に合う女性と結婚する布告を出してから姉たちが競い合うが、足を削る場面はない。古風で美しい挿絵が付いている。

② 水谷まさるの『シンデレラ』(青空文庫)

用事が済むといつも部屋の隅の炉端へ行って燃えがらと灰にまみれて休むのでシンデレラと言われる。話の内容はおおむねAndrew Langのシンデレラと同じで、ハシバミの木とハトは登場せず、代わりに、魔法使いのお婆さんとかぼちゃの馬車が登場する。靴は、金のSlippersではなくガラスの靴である。

(4) グリムのオリジナルとガアグの再話の違い

前述のように、グリムのオリジナルは、神を敬い、いじめられながらも徳を積んでいたシンデレラを神が助け、2人のお姉さんには天罰を加えるという仕立てになっているの。しかし、ガアグの再話をグリムのオリジナルと比較すると、ガアグの再話は、ストーリーはグリムのオリジナルを踏襲しつつも、シンデレラが主体的に判断して行動し、それに結果がついてくるという話となっていることが浮かび上がる。主要なポイントは以下の通り。

① 母親の遺言

グリムのオリジナルでは、シンデレラの実母は、亡くなる前に、シンデレラに、神を敬(うやま)い、良い子でいれば、神が守ってくれて、自分もそばで見ている、と遺言している。ガアグの再話には、この部分はない。オリジナルでは、言われたことを言われた通りにして神に救われたという流れになるが、ガアグの再話では、シンデレラは自分の意志でその後の行動を行ったことになる。

② ハシバミの木

グリムのオリジナルでは、シンデレラは父親からもらったハシバミにの枝を実母の墓のそばに植え、流した涙が木を育てている。ガアグの再話では、シンデレラは、ハシバミの枝を庭(の自分が選んだ場所)に植え、自分で水を遣って育てている。

③ 舞踏会ヘ

グリムのオリジナルでは、シンデレラがハシバミの木に願いをかけるとドレスだけでなく、全身が綺麗に変身する。ガアグの再話では、シンデレラは、自ら髪にブラシをかけて灰を落とし、顔の周りを金の雲が覆うように自分で髪を櫛でとかしている。

④ 梨の木

グリムのオリジナルでは、シンデレラは、王宮から逃げ帰って梨の木に登って身を隠してから家に入る。王子は、そこにいたシンデレラの父にシンデレラが梨の木に登ったというと、父は梨の木を切り倒すが、そこにはシンデレラはいなかった、という話になっている。ガアグの再話では、この部分はない。また、父親は、ハシバミの枝を持ってきて以来、出てこない。

⑤ 金の靴

グリムのオリジナルでは、金の靴を姉たちが試した時に、継母が足を切るように指示している。ガアグの再話では、姉たちは将来を考えて自ら足を切っている。

⑥ 結婚式

グリムのオリジナルは、王子とシンデレラの結婚のおこぼれにあずかろうとした姉2人が、式に参加した際に、ハトに目を突かれて失明するという罰を受けるが、ガアグの再話にはこの部分はない。自らが拓いた道なので天罰は無用ということかもしれない。

参考文献

(1) “Children’s Literature Review” Gale J. Senick, Gale Research Company, Book Tower, Detroit Michigan 48226, Vol. 4, 78-94
(2) 『アメリカ児童文学の歴史(300年の出版文化史)』, 2015,167-168, レナード・S・マーカス、前沢明枝監訳、おおつかのりこ・児玉敦子訳
(3) 『オックスフォード世界児童文学百科(1984)』ハンフリー・カーペンター、マリー・プリチャード、神宮照夫監訳
(4) 『世界の絵本・児童文学図鑑(1001 Children’s Books』(2009) ジュリア・エルクスクショア編、クレンティア・ブレイク序、井辻朱美監訳、柊風舎、
(5) 『世界児童・青少年情報大辞典』(2006) 藤野幸雄編訳、第3巻、29-33、勉誠出版。
(6) Yesterday’s Authors of Books for Children, Anne Commire editor, Gale Research Company, Book Tower, Detroit, Michigan, 48226, Vol. 1 135-143
(7) 『素顔の白雪姫』、小澤俊夫、光村図書 (1985)
(8) ”Wanda Gag-Bite of the Picture Book”、Richard W. Cox, Minnesota History Fall 1975, P 239-254


(9) 『グリム童話ーメルヘンの深層』、鈴木章、講談社現代新書(1991)
(10) 『白雪姫ーグリム童話集I グリム兄弟、植田敏郎訳』、新潮社、昭和42年7月刊行。解説から。
(11) "Tales from Grimm-Freely Translated and Illusturated by Wanda Gag" の"Introduction"から抜粋。 
(12) 『グリムのむかしばなし』、ワンダ・ガアグ編・絵、松岡享子訳のら書店(2017)
(13) 『ペロー童話集』付・詩集、ときは春、荒又宏訳、新書館(2010)




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