俺より年下の父と母に出会えた！

東伊豆の稲取海岸辺りの海の家だ。涼しい風に吹かれて、のんびり大相撲のテレビ中継を見ている。

突然の轟音、土俵上の櫓屋根が凄まじい勢いで揺れている。海の家も揺れている。どうやら大地震のようだ。

部屋の中には父と母がいるが、まるで動じることなく、いつもの優しい口調で何か言っているが地震の騒音で聞こえない。

相変わらずスリムで上品なおしゃれの父と、典型的な和服美人の母が何かを指さしている。そちらを見ると、大きな鍋にオミオツケが出来ている。

我が家では、オツケと言っているんだと思いだす。母は何が言いたいのだろう？　地震の揺れの中で母を抱いてオツケの処へ行くと、母が得意そうな顔をする。

鍋を見ると、オツケの表面が揺れていないのだ。温かな湯気の中から、ホンノリした味噌の香りと煮干し出汁の風味が漂ってくる。

そうだ！これが俺の母の味なんだと思い出した。さすがは日本の伝統文化、母のオツケは地震にもびくともしないのである。

揺れが収まったので外へ飛び出してみる。そこは、なぜか突然、六本木４丁目の路上だった。東京無線タクシーのグリーンの側面がちぎれて飛び散っている。

道路の反対側の、俺が所属するプロダクションが入っている黒崎ビルが崩壊している。確かにこのビルは手抜き工事で地震にはやばいと言われていた。凄まじい光景である。

立ち尽くす俺の腕の中には、抱いていた母の軽さと柔らかさが残っている。それにしてもあの父と母は、俺よりも年下だった。