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酔っている間にできていた小説を供養する

「急性身体的中毒」

思い出すのも嫌になるけど。 話したくもないけど。

でも仕方ないよな。言葉にしないと人間何かを伝えることなんてできないんだから。 仮に暴力とか、音楽とか、絵画とか、コミュニケーションの手段なんて無数にあるけれど、 俺は基本的に言葉で伝えることしかできないから。 

ま、俺らのアレは言葉以外のコミュニケーションを取った、なんて捉えることができるのかもしれないけれど。 その辺の細かいところはあんまり気にしないでほしい。俺のことだから。

お前と会ったのは中学生の頃だった。 細かいことは知っての通りさ。 俺に友達なんかできるはずもなかったし、基本的にクラスで浮いていたから。 そこで逃げ場になってくれた君には助けられたよ。

当然学校なんて嫌いだった。 ある意味ヤンキーになれたり、ものすごく勉強ができたりしたら良かったかもしれないけれど。 どうしようもなくて、黙って過ごすしかなかった。 どうしてお前が、俺にそこまで気を使ってくれたのかわからないけど。いや、気を使ってたのか、それもしっくりこない気がする。とにかく、俺はお前に逃げ切ってたよ。しかも俺普通の家庭に生まれたけど、普通の家庭って案外きついんだよ。苦労している人にはわからないかもしれないけれど、俺は俺なりに苦労したつもりなんだ。何を苦労したかとか言い出すと、それは事実ベースになるけど、俺は感情ベースで話をしているんだから、事実だけを述べるようなことはやめてよ。

お前はいつだって俺の目を見た。 目と目を一回もそらさないで、いつだって笑顔で。でもその目がたまにすごく嫌いになる時があって。 何か俺の心の中を見てるような気がして。 俺なんかさあ所詮空っぽなんだよね。そんなに何も考えてないから。 それがお前にバレるのが怖かった。 まあバレてたのかもしれないけど。

お前は、いじめられていた。女子って怖いって思ったよ。お前の筆箱がインクで滲んでたの、やられたんだろ。なんで言ってくれなかったんだよ。俺気づいてたから、言ってくれたら助けたのに。動かなかったのはお前が言わなかったせいだよ。俺のせいじゃないから。そう言ってくれよ。

お前は、いつも笑っていた。びっくりするくらい笑顔が眩しくて、眩しいなんて言葉しか出てこない俺も悲しいけどさ、覗く八重歯が可愛かった。俺、お前のこと好きだったのかな。でもお前って何考えてるかわからないんだよね。俺はお前が何考えているか夢中になっている間に中学生活終わってしまったよ。

俺、やっぱりお前のこと好きだったのかな。寝る前に布団の中でお前のこと考えたよ。俺の身体とお前の身体が触れ合って、体温を感じながら眠るような妄想で俺は生きていたんだから。でも、お前と俺とが触れ合うとき、何か壊れる音がしそうで。

その後お前は、高校生になった。当然俺も高校生になった。 同い年だから当たり前だな。高校時代もてんで駄目だった。俺は、居場所を一層失っていったよ。 お前との身体的距離が離れたからかもしれないけど。 でも、どこか繋がっていると信じていたような気がする。

お前の心の中に俺がいると信じていた。 まあ今時スマホだってなんだってあるから連絡先なんてそこら中にあるんだけど、どうしても、連絡を取る勇気は俺には出なかった。 これは後悔すべきなんだろうか。でも俺の人生って考えた時に、これは仕方なかったことなのかもしれないと思うべきかもしれないし、むしろそれがいい結果をもたらしていたと考えるべきかもしれないだろうか。 まあ、結局高校の時にお前が俺を助けてくれたからすごく嬉しかったよ。お前は、何一つしてないような気もするんだけどね、俺に声さえかけてないから。でも、俺はお前の存在というものをすごく大事にしていたし。

俺の話なんかどうでもいい。

お前は、辛そうだった。物を隠されたり、なんて序の口であって、親から受けていた仕打ちは俺にはとてもここで話すことなんかできない。 完全に虐待だったかもしれない。 お前が女であることを恨んだよ。 あの時ばかりはお前が男になってもいいんじゃないかと思った。 でも、俺は何もできなかった。

ある日、お前は公園に立っていた。見知らぬ男と歩いていたよな。お前は高校生なのに、相手は汚いおっさんだった。俺の中でお前が汚れた瞬間だった。俺、すぐにネットで検索してしまった。ごめん。裏アカ見つけた。お前はもう中学時代みたいな姿じゃなくなってた。でも、お前の手首から赤い涙が流れるのを見て、俺も涙を流した。

泣けば心がきれいになるなんて俺に言ってきた奴がいた、あれは嘘じゃないか。本当に泣けば心が綺麗になるんだろうか。 適当なこと言うんじゃねえよ。もう一回言ってみろよ俺にそんなこと。殺してやる。

あーあ。相変わらず友達なんてできなかったけれど。 お前の存在だけが俺の頼りだった。

お前の行動1つ1つが、俺の耳に届くのがすごく辛かった。当然友だちいなくても話なんか回ってくる。周りの奴らから言われることにキレそうにもなったよ。あいつとやったのか、とか、俺はそんな人間じゃない、そういうことはしない、君子みたいな人だ、能力はなくても、心は綺麗なんだから、いや、あいつの妄想で男になったことはないのか、うるさい、死ね。

お前は、俺に心開いたんじゃなかったのか、そう考えてた。なんなんだよ、畜生。どうしてお前はそんな汚い手段で小銭を稼いだんだよ。なんで教えてくれなかったんだ、親父のこと、ああ、知ったら俺はお前のことを好きでいたのか、嫌いになったかもしれない、今更過去なんて消すことはできない。

その過去を受け入れるから、俺のことを好きになってくれよ、そうしたら俺の存在意義ができるんじゃないのか。なんて思ったけど、そんなこともできないと思って。結局連絡を取れないまま。

高校卒業してしまった。

気づけば大学生になってた。

俺のことだから、そんなに勉強はできないよ。

普通に大学に行ってしまったよ。

お前もそうだったろう。

まさか大学に行ってから会うことになるとは思わなかった。

人間には誰だって。一度遊びたくなる時期があるかもしれない。

でもお前は俺を裏切りすぎだ。

俺の前に現れたお前はズタズタだった。

体も心も。

体はズタズタじゃないのかもしれないけど。

俺の目にはそう映った。

他の男の匂いがするだけで、俺は発狂しそうになる。 それは俺の性格だから仕方ない。それを否定するということは俺じゃなくなるのかもしれない。

そういう支配欲と独占欲にまみれた。俺の醜ささえもお前には受け入れてほしかった。 でも、きっとお前は、受け入れやしないんじゃないか?

半分信じきれない気持ちが俺を狂わせていった。

お前の妖艶な見た目には俺も頭が上がらない。おう、中学時代からお前のことはずーっと見ていた。

けれど、俺の手にはどうやっても入らない、手の届かない、雲の上の存在で、高嶺の花で。

そういう、そういう感じのお前が俺にとってのお前だった。

でも気づけば、お前は俺の手の中に簡単に入ってきた。つかむことができていたかは分からないよ。 でも、少なくとも俺の手には触れていた。

お前が泣きながら俺の家を訪ねてきた時。

なぜだろう。どこか嬉しかった。あの時何もできなかったけれど、嬉しさがこみ上げた。

自分を責める気持ちが少し晴れたような気がした。

寂しかった。お前の体温だけが俺の救いになった。


でもお前はやっぱり俺なんか一番じゃないんだろ。


もちろん分かってるだって、お前がそう言ってたんだから。

俺は何をやっても一番になんかなれない。自分のアイデンティティが何なのかなんて分からない。だからこそお前に依存しないと。俺は俺でいられなかったんじゃないかって思ってんだ。

キスをすると、俺は正気を保てなくなる。まるで自分が自分じゃないみたいだ。境界を超越するときに、その感覚がこびりついて俺の体を蝕んでいく。

目だって。見れば、それは身体的な接触に他ならない。俺の網膜は確かにお前を見ている。


あまりに無邪気で。

あまりに天真爛漫で。

俺のことすべて理解したい、なんて言いながら。

何もわかってくれなかったじゃないか?

でも、もう怒ったって仕方ないんだから、お前にはもう会えないんだから。

俺は今も歩いてるよ、お前のもとに。

縁を切ろう、なんて何回も言ったけど、最後の最後まで切ることができなかった。

なぜだろう?涙が止まらない。

俺は、何を人生で成し遂げたんだろう。

たくさん人と関わった。

でも頭にあるのは常にお前のことだった。

もうすぐ着くよ。

会えないのは分かっているけれど。花束も供える。

最後に顔ぐらい見せてくれよ。

喪服なんて着て、何やってんだ。
俺、賭けるから。お前の顔が見たい。



なんかすごい変な人みたいじゃん!俺(笑)
あ、今の話は全部嘘だから気にしないで(笑)

お前に俺の何がわかってたまるか
バーカ

※フィクションです。実在の人物とは関係ありません。

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