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【映画感想】パーフェクトデイズを観たあとで

ヴィム・ヴェンダース監督作品の「パーフェクトデイズ」を観た。

観終わった後で、新宿の街を歩いた。
行き交う人たちが、映画を観る前とは少し違って感じられた。
何と表現したら良いんだろう。
ちゃんと生きている人がそこにいる、そんな感じ。
あぁ、この人にもあの人にも、日々の暮らしがあって、歓びや悲しみもあって、好きなことや大切にしていることがあって、などと当たり前のことを、とても素直に感じてしまうのだ。

そして、気づいた。
私は普段、街中ですれ違う人たちを、ちゃんと人間として認識していなかったのかもしれない。
雑踏。人混み。障害物。
そこにいるのは、人間ではなく、単なる人のかたまり。
だって、耳や目、諸々の感覚をちょっと鈍らせないと、人の多い場所はとても疲れてしまうから。
なるべく目を合わせないように、ぶつからないように、縫うように早足で歩く。
いつの間にか、それが通常モードになっていたみたい。

作品はトイレ清掃員・平山さんの日常を淡々と描いていた。
仕事ぶりが美しい。

私が出入りしているビルにも、年配の女性が毎日トイレ掃除をしてくれているのだけれど、彼女の手が入った後のトイレは鏡も蛇口も便器も床もびっくりするほどピカピカに磨き上げられている。
彼女が掃除してくれたトイレに入る度に、私も仕事ぶりが美しい人になりたいと背筋が伸びる。

平山さんは、木漏れ日の中で微笑む。
現場に向かう車の中で、少し泣いたりする日もある。

生きることはなかなか厳しいことも多いけれど、納得して丁寧に生きていればそれで充分じゃないかと、この作品は思わせてくれた。

平山さん、病気になったら大変だろうなぁ。
でもきっと、姪っ子が助けてくれるだろうから、大丈夫だよね。

友だちでもないのに、そんな余計なことを心配しながら、1987年に見たヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」を思い出した。
当時、私は20代。
作品の良さがまったくわからなかったのだけれど、今観たら違う受け取り方が出来るのかもしれない。

帰りに寄った花屋で、見知らぬ若い女性が「この花、きれいですよねぇ」と話しかけてくれた。
少し驚いたけれど、私も笑顔で返事をする。

そういうことか。
私が柔らかく素直にそこにいると、ふわりと話しかけてくれる人もあらわれるんだな。

良い日だった。
けれど、晴れた日も悲しみの中にいる時も、私たちの毎日は全てパーフェクトデイズなのだ。

思いきり感化されてる、単純な私。

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