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とんかつ大王に憧れて

グルメバイブル美味しんぼ全111巻の中には、後世に語り継がれる有名な神回というものがいくつか存在する。「とんかつ慕情」は純粋な単発読切として、個人的神回と呼べる作品だった。とんかつ大王店主が若者に向かって語るシーンがある。

「いいかい学生さん、トンカツをな、トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。それが、人間偉過ぎもしない貧乏過ぎもしない、ちょうどいいくらいってとこなんだ」

私が学生の頃、ここを読んで、激しく同意した上に、食べたくてたまらなくなる、とんかつ大好きゾーンに突入。毎週のように高級ロースとんかつを食べに行き、結果、困窮し貧乏過ぎる状態に陥った。

何事においても中庸が良いと思う私の価値観は、アリストテレスととんかつ大王の影響によるものなのだ。

「とんかつ慕情」のハイライトは、トンカツを揚げる油を作るシーンだった。豚のラードを少しずつ溶かし、こうじゃなきゃダメなんだ!と言って揚げ油にするのだ。もう、それは感激だった。憧れた。自分もやってみたい。そう思い続けたまま、年をとった。40歳を過ぎたあたりで、ようやくそのチャンスが巡ってきた。養豚農家との出会いによって、大量のラードを入手することができたのだ。もうこんなチャンスはないと思って、写真を撮りながら、とんかつ大王の店主になったのだった。

廃棄せざるを得ない豚のラードをふんだんに!!
じっくりゆっくり溶かして脂の海を作る
大量に使ったけど、疲れた。これくらいが限界
揚げるまでは行かず、両面を揚げ焼きというギリギリラインで折り合いをつける
偉過ぎでも貧し過ぎでもない私がようやく辿り着いたとんかつ大王もどきカツレツ完成


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