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グルメレポートの禁忌

旨い!美味しい!が氾濫している。
テレビのグルメレポート。安易過ぎる。
おじさんは気になる。

かつて、グルメ番組において食後のコメントとして「美味しい」「旨い」は言ってはいけないワードだった。ひろゆき風に言えば、それってあなたの感想ですよね、ということ。

テレビが今のように総バラエティ化されていなかった頃、まだ30年前は番組の随所にジャーナリズム精神が息づいていた。個人的な感想ではなく、真実を客観的に伝えようとする態度を尊重していた。故に、食べたものに対して、その味を如何に伝えるかということにレポーターは腐心する。美味しいのは当たりまえ。感情の爆発度だけで安易にレポートを済ませるなんてことは決してなかった。

そのグルメレポートのあり方に変革をもたらした一つの事件があった。

1997年永谷園の広告で、ただいまお茶漬け中というテレビCMによって当時、お茶漬けが大ヒットした。ただのお茶漬けなのに何故? CMは、若い男がただ一心不乱にお茶漬けをかきこむ映像が流れるだけ。起用する予定の俳優ではなく、撮影現場の広告代理店社員が実際のCMでは使われた。その夢中な食べっぷりがリアルだった。誰もがそのCMを観るとお茶漬けを食べたくなるのだ。言葉ではなかった。

どんな美辞麗句を並べたところで、本当に旨いという表情や仕草には敵わない。そこに多くの人が気がついてしまったのだ。

そして、グルメレポートの軸足は、その味を正確に伝えることから、どれだけ美味しいかを伝えることに、無自覚的に移行していった。つまり、しっかり伝えることよりも、食べてもらうこと買ってもらうことを大切にするようになった。

大はしゃぎで旨い!美味しい!というのは販売促進活動であり、伝える行為ではない。それはテレビショッピングの中だけでやってくれ。グルメ番組では、はしゃいだり興奮するのは抑え気味に、しっかり正確な日本語でその味に対する想像を掻き立ててほしい。

秋の味覚を楽しむ時期。札幌では地元民の胃袋を満たす最大の食イベント、オータムフェストが明日から始まる。その味を自分の中で言語化することは、料理人や生産者への敬意を表すことでもある。大切にしたい。

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