ぼくの彼女は暴力的だ

 数日前の話である。コンビニの夜勤のバイトから帰宅し、ぬるいお風呂に浸かってのんびりしていたら、右腕の上のほう(二の腕)に青紫色のあざがあることに気が付いた。

 別に痛みはない。バイト中にぶつけたかな。ウォークイン冷蔵庫(ペットボトル飲料水とかを並べる冷蔵庫)に入った時に扉にぶつけ……た記憶はないがなあ。家でぶつけた記憶もないし、大学でぶつけた記憶もない。公園で小学生からバスケットボールを当てられた記憶もないし、マッドサイエンティストに体をイジられた記憶もない。別に痛みはないので無視して構わないのだが、このあざの原因、ちょっと気になるなあ。

 ここでぼくは思い出した。数日前のことである。ぼくは由梨(彼女)と一緒に横浜ブルク13へ『ユニコーン・ウォーズ』という映画を観に行った。テディベア軍とユニコーンたちの戦争を描いたヨーロッパのアニメ映画だ。映画が終わって、エスカレーターを降りて、「衝撃的な映画だったね……」と感想を話しながら横浜駅方面へ徒歩で向かう。146円の節約なり。

 道中、ぼくが由梨をからかうようなことを言ったので(何を言ったかは忘れた)、由梨がツッコみながらぼくの右腕を殴った。20分ほど歩いて横浜駅西口エリアに到着。ドン・キホーテの隣のウェンディーズで遅めのお昼ご飯を食べることに。ウェンディーズはファーストフード店の中ではメニューの価格が高いほうだが、交通費146円を節約したためにぼくらは気が大きくなっているのだ。

 ウェンディーズを出て、ビブレで由梨の洋服の買い物(というか冷やかし)に付き合う。このあと由梨はバイトが入っているので、由梨をバイト先のパン屋さん(横浜駅近くの某商業ビル内の店舗)まで送りに行った(行かされた)。案の定バイト先のひとたちと挨拶させられ、成り行きでパンを買う。そうしないとその場を去るきっかけがありませんのでね……。ああ、本来なら使わずに済んだお金をまた使ってしまった。このパン屋さんが高級パン専門店でないことがせめてもの救いだ。

 この日はぼくもバイト(夜勤)が入っていたので、JR京浜東北線に乗って帰宅することにする。別に寄りたいところもないし、他の誰かと会う予定もないしな。ブックオフ横浜ビブレ店に寄ろうかなと一瞬思ったが、またビブレまで戻るのは面倒なのでやめておこう。桜木町駅から横浜駅まで歩いてなんだかんだで疲れたし。JR横浜駅のホームへ行き、電車が来るのを待つ。うーん、今夜の夜勤ダルいなあ。

 ……さて、お気付きになっただろうか。ここまでの文章の中で、ぼくは他人から暴力を振るわれている。映画を観終わって横浜駅方面へ向かう途中、ぼくは由梨から右腕を殴られているのだ。

 由梨がぼくの右腕を殴ってきたのは、もしかしたら直前に観た映画『ユニコーン・ウォーズ』の影響かもしれない。あのアニメ映画は絵柄は可愛らしかったが、内容はとんでもなくバイオレンスだったからな。観る前に由梨から「スペインとフランスの合作アニメだ」と聞かされて、ぼくはどうせ台詞が少ないシュールなやつだろうと思い込んでいたが、映画を観ながら良い意味でも悪い意味でも想像を裏切られた。由梨はさっき観たばっかりの『ユニコーン・ウォーズ』に感化されてぼくを殴ってきたのか。それでぼくの右腕には青紫色のあざができたのか……

 ……いや、待てよ。ぼくが由梨から殴られるのは今回が初めてではない。由梨がツッコミ代わりにぼくを殴ってくることはよくある。それどころか由梨は特に脈略なくぼくを殴ってくることだってある。手を繋ぐ代わりに体をぶつけてくるケースも含めれば、ぼくは結構な頻度で由梨から物理的攻撃を食らっているのだ。今回に限ってあざになったというのは辻褄が合わない。

 それに、「殴ってくる」といっても、由梨のそれは全然痛くないんですよ。「拳で腕にタッチする」っていうか、「殴るふり」と表現するのが正確かもしれない。仮に0歳児が食らったとしても「痛い」とは感じないはずだ(「自分より大きい動物が体になんか当ててきた」とは感じるだろうが)。いくらぼくでもそこまで体が脆いわけじゃないので、ネコパンチにも劣る由梨パンチなんかであざができるはずはないのだ。

 ……ただなあ。この一週間のうちの出来事を振り返ると、右腕のあざの原因として、由梨のあのパンチ以外に思い当たる節はないんだよなあ。状況証拠を踏まえると、ぼくは由梨が犯人だと推定せざるを得ません!

 あざを発見した日から数日が経ち、ぼくの右腕のあざはみるみる薄くなっており、まもなく消失する見込みである。もはやまったく気にならないし、ぼくは普段タンクトップを着ているわけではないので他人に気付かれる心配もない(そもそも論)。「疑わしきは罰せず」と言うし、このあざができたのが本当に由梨のせいだとしても、ぼくは由梨をお咎めなしとしてやろう。いつもバイト先の売れ残ったパンを恵んでもらっていることだしね。由梨のバイト先のパン屋のパンはいつだって安くて美味しいのです。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?