しがとじんじタイトル

採用につながる出会いを生む、時間と体験の「質」

情報が溢れる現代において、就活生から見た「“圧倒的多”の企業群」の中からどう候補として抜け出るかは、人事担当者の多くが抱えている課題です。

前回の記事では、これまでの一斉採用の仕組みが生んできた弊害に触れながら、「比較し合わない」ための、新卒一括から『通年採用』へという方向性を提案しました。

その続きとして今回は、「出会った1社との豊かな時間と体験があれば、応募者は比べる必要がなくなる」ことを示す、1つのエピソードを紹介したいと思います。

目の前の1社に、真剣に向き合う5日間のプログラム

2019年9月。滋賀県・湖北地域で開かれた「Local Intern Camp(ローカルインターンキャンプ)」に、全国から23名の学生が参加しました。

これは、地方と日本のこれからの“はたらく”について、真剣に考える5日間のインターンシップです。長浜市と米原市が主催し、プログラムの設計から広報、期間中の運営までを、『しがと、じんじ。』コミュニティを主宰する株式会社いろあわせが担いました。

プログラムの中で、参加学生は初日に指定された「名前も存在も全く知らない(知らされてすらいない)滋賀県の企業」に出向き、数人のチームでその企業の課題解決に挑戦。最終日には全員の前でプレゼンまで行う、ハードなものです。

(その熱量の高さが表れた、弊社メンバーのアツいnoteがあるのでぜひご一読ください。)

このローカルインターンキャンプは、一括採用の問題点である「ステレオタイプな“スペック比較”」を、一切排除しているのが特徴です。初日に参加企業が紹介され、その中からいきなり「あなたはここのインターン生ね」って、運営側が振るわけです。

事前に一切情報のない職場へのインターン。彼らは5日後に、どうなったのでしょうか?

数日前まで知らなかった会社で「ぜひ働きたい」

上の報告noteでも触れていますが、参加者のほとんどは、インターン中に必ずと言っていいほど「こんなに魅力があるのに、なんで知られてないの?」と口にしています。

さらに、プログラムを終えてのアンケートに、非常に印象的な結果を示した項目がありました。

「インターン先企業が求人を出した場合どうするか?」という質問に、「是非応募したい」または「応募したい」と答えてくれた学生が、全体の35%(8名)もいたんです

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(巻末添付の参加者アンケート、「Q3. インターン先企業が求人を出した場合の希望と理由を教えてください」の結果より抜粋)

新卒一括採用の仕組みの中で、学生の多くは何十社という企業にエントリーします。でもその中で、「ぜひここで働きたい」と断言できる対象って、正直そんなにないんじゃないかな(むしろ全くない場合もあるのでは…)という気がしています。

一方、ローカルインターンキャンプで出会うのは、「自分の意思ですらエントリーしてない」「名前すら知らなかった」1社です。なのにわずか数日間の体験を経て、働きたいという声が出た。それも1人や2人ではなく、1/3の学生がです。

目指すべき採用の姿って、実はこういうことなんじゃないかな、と思うんですね。真剣に目の前の相手と向き合える機会と時間があれば、その出会いは十分に前向きな選択肢になるわけです

“圧倒的多”の1つから抜け出すために、時間や体験を届ける

今回のプログラムの参加企業は、独自の技術や販路、経営努力などで、業績も良いところばかりです。いわゆる「ホワイト」な企業が多かった。つまり、学生に知ってもらいさえすれば、十分「働きたい」と思ってもらえる企業だろうという確信が、運営側にはありました。

そんな企業の魅力を、運営のサポートも受けながら、学生自身の手で体験し、見つけてもらう。プログラムを通じて、「この選択は自分にとってベストかは分からないけど、十分ベターの範囲に入る」ということを感じてもらっているわけです。

同時に、滋賀の企業で働く方々と話をする中で、「“はたらく”ことの本質は、目の前の人の期待に応えることにある」とも気づいていきます。それはつまり、「他と比較し続けても、そこに幸せがない」ということを意味します。

この結果として、学生の発想が「全体の中からベストっぽいものを見つけないと…」から、「目の前の1つの出会いに納得できるか?」と変わり、「ここで働きたい」の回答になったのではないでしょうか。

学生にとって大切なのは、出会いの先に、質の高い「向き合いの時間と体験」があるかどうか。繰り返しますが、それは一括採用では実現できません。ローカルインターンキャンプは一例でしかありませんが、そういった“圧倒的多”の中から抜け出せる接点をいかにつくるかが、これからの人事に必要な考え方であるのは、間違いないだろうなと思っています。

北川雄士/Yuji Kitagawa

滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(TwitterFacebook


(ローカルインターンキャンプの事後アンケート結果)

記事内でご紹介した「参加者アンケート」の結果、および「参加企業へのアンケート」の結果はこちらから。満足度などすべて公開していますので、ご覧ください。


(しがと、じんじ。について)

“滋賀ではたらく魅力を再発見する”『しがと、しごと。』プロジェクトの一環で運営される、ローカルで採用活動に取り組む人事担当者のコミュニティです。

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(編集:佐々木将史


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