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心が晴れる。僕の場合。

いよいよ暑い。仕方ないが、やはりもう暑い。

世間は感染者数に慣れはしないまでも、周囲の感染に対する恐れを超えて、次は自分でもおかしくないという「備え」となっている。ただ飲食店への時短要請も酒類提供の規制もないゆえに、立ち続けられる限りそこにいる。特に深夜の来訪者が少ないのも、常識的思考からすれば理解のできることであり、そういう備えと姿勢を持つ顧客が多いことを誇りに思いながら。

そんな中でも、人は来てくれる。感染症対策を弁えた、お客と店の信頼関係の上で。お二人の男性は、昨年10月5日以来の来訪だった。


普段は手書きの日報、その一週間の集計を日曜にデータ入力をする。来店者名、人数、男女比、滞在時間、勘定(金額と支払い方法)など。そうしていると例えば一年に一度必ずその日に来るとか、この季節は来ないとか、あぁ転勤で神戸を出られた日だったなぁとわかりやすく記憶が重なってゆく。

それにしても、なぜその日を覚えていたのか。

緊急事態宣言は解除されても、2021年10月は21時(酒類提供20時半)までの営業規制が継続でとにかく店にいた。昼間から営業しては?と言われたりもしたが、再開を想いながらできる限り普段通り自分のリズムで続けることにした。とは言え、酒場にはこれからだという時間の閉店は辛い。

そこに来てくれた件の二人。でも、もうすでに酔っていた。かなり早い時間からハイペースで飲んだのだろう。コロナ禍で変わったことと言えば、スタート時間と、眠気やもう充分だという頃合いが早くなったことだ。

まずは水を出す。弊店使用はバナジウム入りの38mg/L軟水。そのまま飲むのにも抵抗なくスッと入る。どうやらもう水しか飲めないようで、ほどなくお二人は「コロナ大変やったでしょう」と、酒が二杯だとしても余りあるほどの金額を置いて行こうとする。無論僕は拒んだけれど、ではまた次に取っておいてと、店を後にした。コロナ禍の応援。おそらくわざとだった。

そういうことが起こると必ず、ホワイトボードに書き入れる。お名前、日付と金額。これは、たまたま満席で入店をお断りした場合の方にも同じくだ。次に会えるその時まで消さないでおく。「あの時はすみませんでした…」というセリフのためではない。関係性を繋げるための、記憶のケジメだ。


10月以来のお客様、今宵はハイボールを飲んでいた。
前回とは違い話は弾み、この場を堪能してくれたんだと思う。

お帰りの際、お代はいただかない。なぜ?と怪訝な顔をされたので、「あの日」にいただいていますからと見送った。コロナ禍、あの夜の「粋」を「心意気」で返す。正直に言えば、今は特に店としては人出の少なさを感じ、喉から手の出そうなカラ元気だったのかも知れない。しかし心は晴れる。

間もなく迎える27周年にしても、特に毎年何かするわけでもない酒場だが、その週に偶然来る人とは「実は周年なんです」なんて言いながら酌み交わしたかったここ数年。しかしそんな日だけを大きく捉える店よりも、日々淡々とたおやかな時間を感じられる、そんな幸せを噛み締めていたい。


つまりこの日こそ、気になっていたことが晴れた特別な一日であった。

また一つ、ホワイボードの文字を消した。

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