広告が万人ウケを狙うしかないのだったら、それはつまり死なのでは?

これまで少なからず広告業界に関わっていて、いまでもさほど遠くないところにいる自分としては、大いに震える事象が2件起こった。

1-ロフトのバレンタインビジュアルの件
 -バレンタインって女の戦い文脈で正解でしたよね?
 -自分が理解できなものを否定する風潮
 -広告はバックがでかいから叩きやすい
2-これまでのフィールドでの“広告”ではもはや効果がないのでは
 -コンテンツスタジオCHOCOLATE(チョコレイト)爆誕
 -「ロフト炎上」と「チョコレイト誕生」から何を感じるか

ロフトのバレンタインビジュアルの件

テレビを見ないのでどれくらいワイドショーで話題になっていたかは知らないけど、まあかなりの騒ぎになったのでしょう。

でも正直言って、広告や店頭POPを取り下げるほどのこと!?って感じでした、あくまでも私の感覚としては。

「この発信は好意的に感じられないから買わない!」っていう人が出てくるのは、こういうウィットを狙った表現だったら当たり前のことで、それは受け手の好き嫌い次第。そんなこと言い出したら好きになれない表現って世の中に山ほどあるよね…

バレンタインって女の戦い文脈で正解でしたよね?

バレンタイン=女たちの戦い、バトル感、という構造はこれまでもあった。というかそれこそが基本形だったのでは?とすら思う。本来のイベント内容からしてそうだったはず。

でも今やバレンタイン自体が『彼氏をゲット!』から『友チョコでみんな仲良くしよう〜』という価値観に移ったからこそ、その和を乱すようなことを助長させるのは悪なのだ(たぶん)。抜け駆けは許されないのだ(たぶん)。女の子間に1ミリたりとも波風を立ててはならんのだ(たぶん)。知らんけど。旧世代を生きてきたので知らんのだが、たぶんそうなのだ。

世界観からしておそらく、ターゲットは中高生から大学生くらいまでのポップファンシーが好きな10代〜20代前半の女の子向け。キャリーぱみゅぱみゅとか原宿系の流れなのでは?と思う。違和感はない。あのタッチにウィットが含まれなかったらちょっと幼いだけのビジュアルになってしまう。エロポップというかキュートエロというか、最近よく見るカラッとしたエッチさを匂わせる作風。実際に女子高校生同士だったら女同士足引っ張り合うみたいなビジュアルもウケる〜しんどい〜って笑いながら友チョコしながら見れると思うんだけどな。


自分が理解できなものを否定する風潮

実際にロフトに集まっているという多数の苦情の送り主が誰なのかって話ですよね。中高生が「わたしたちそんなんじゃないんだけどー」って言ってるんだったら、ロフトも広告代理店も、ターゲットのインサイトを見誤ったということなので、外したね〜ってことなんだと思うんだが。

でも中高生ってわざわざクレーム入れたりするのかな…そこが疑問だし、クレームを言ってきた人たちが例えば40〜50代だったら、それとりあえず、無視していいのでは?と思う。

だって、それターゲット外の人にハマらなかったってだけで良くない?だってあなたたちに対して訴求してないですもん。『膝の痛みに皇潤』って言って10代にハマらないのと同じじゃない?

自分が理解できないものは不正解!みたいな風潮。不正解だから教えてあげないと!みたいな。最近、個人レベルでもこういう人増えてきたような気がする。なんならものすごい悪口言うとか糾弾するとかいう人もいて閉口するのだけど…

もちろん、広告ビジュアルってのは不特定多数の人の目に触れる前提のものだから、思いがけず見てしまって不愉快に思った、というのはある。ぱっと見で不快!ってものは事故みたいなもので避けられないのは苦痛。だから作り手たちはとてもそこに心を砕いて、なるべく誰も傷つけまいとして表現を詰めていくのだ。

でも今回のものはそこまでのものだったのか…?わたしも暴力的だったり偏見に満ちていたりとかが苦手だから表現には敏感な方だけど。これは圧倒的にスルーだ。

イラストレーターの竹井さんのツイートには店頭の動画が上がってるのだけど。POP展開やこのために展開したグッズなどがたくさん写っていて…

年イチイベントのためにどれだけ多くの人が関わってきたか、力を入れてきたかが透けて見えるので泣ける。

ビジュアルは取り下げられたとしても継続して販売はされるし、単独で見たらかわいいね〜ってなるんだろうけどな、どうしてもネガティブイメージが付きまとってしまう。

さらにこれを「ロフトは炎上商法を狙ってたのか!」と言ってる勢もいるけれど、それはさすがに違うだろう。

ロフトは、かわいいにウィットを足して華やかにポップなキャンペーンをやりたかっただけなんだ。雑貨店にとってバレンタインなんて最大のイベント、腕の見せ所なのだ。思いがけない騒ぎになってしまいきっと関係者みんなびっくりしてしまい、、という構図なんだろうなとしみじみ思った。


広告はバックがでかいから叩きやすい

しかし、ここ近年これまで見ないほど、広告が叩かれている。

年明け早々、女性の顔面にパイ投げビジュアルでひと燃えした西武そごうがあったからネットには「セゾングループは女性蔑視か!」と怒っている人もいるみたいだ。

西武そごうのパイ投げ広告ビジュアルは確かに、わたしでもちょっと違和感はあった。けれども、その後渋谷の西武に変わらず掲出されてたし、取り下げてはいなかったんだよな?


とても詳しく考察されている記事があったので以下シェアします。ご指摘は概ね多くの検証と同じくで、ビジュアルのインパクトをコピーで回収しきれなかったところが誤解を生んだんだろうなと。完全同意。


販売チャネルが増えて、ネットが強くなってしまった。しかもSNSは口コミベースで、なかなか狙った通りに拡散されない。つまり広告が効果が出なくなってしまった。

話題性を求めるあまり表現がチャレンジングになっていった?かといえば、そうともいえない。実際昔から広告は多かれ少なかれ人の話題になってナンボ。CMソングを歌ったりキャッチコピーを子供が口ずさんでたんだから。昔の広告の中には今ではとても流せないようなCMもたくさんある。

ネットが人の暮らしの中心になって、炎上の話題を聞かない日はないくらい。それでもリテラシーが高まるにつれ、個人攻撃より大企業の方が攻撃しやすくなったというのもあるかも。それだけ話題にもなる。大企業だからさほど痛くないだろう、という感覚も叩く側にあるのかもしれないと思う。

さらに、metoo運動など「女性を守れ」「女性蔑視が」と主語が大きい。そしてそれは正義感から始まっているからより正しいことをしているという感覚になりやすいんだろう。西武そごうの広告についてはテーマがまさにそこだっただけに盛大なブーメランとなって返ってきたことになる。

それだけセンシティブなことなんだな、って改めてみんなそれぞれ実感するきっかけになったのではと思う。


少なくとも、これまでのフィールドでの“広告”ではもはや効果がないのでは

このところ、ずっと思っている。広告代理店がこぞってインフルエンサーを使うようになってから。素敵なワンビジュアルが世界観を引っ張ってくれなくなってから。それは自分もSNSばかり見ているせいでもある。時代がかわったんだ。

そもそも広告というのは『広く告げる』であって、世界観を発信しろともわたしの好きじゃないものを見せるなとも言う対象じゃない。

ポスターや新聞広告よりSNSの方が結果が出ているのが現実。移ろいゆくのが世の常。まさに諸行無常。もっといえば使い回しのインフルエンサーマーケティングもすでに頭打ち。

そんな斜陽を感じているところに、ビックニュースだ。

コンテンツスタジオCHOCOLATE(チョコレイト)爆誕

チョコレイトは、映像を軸として番組、アニメ、映画から、
漫画、ゲーム、空間、VRなど、あらゆるエンターテイメントを
越境して作り出していく“コンテンツスタジオ”です。

普段ツイッターで見ている、個人の個性が立っているクリエイターが集まった『コンテンツスタジオ』ができてしまった。
彼らはいわゆるミレニアル世代。

出自は大手代理店だったりして業界のベースがある人もいれば、YouTuberもいる。わたしはTHE GUILDに憧れて注目していたのだけど、さらに若手でさらに柔軟な構造のチームができてしまった…と言う感想。ローンチも鮮やかだった。とにかく重さがない。飄々として軽やかだ。まさに彼らが生きている時代を象徴している。

つくづく、時代は変わったのだと言わざるを得ない。会議室でおじさんに忖度して決定している場合ではないのだ。だから死んだんだ、広告が。


ローンチ第一声は、しおたんのミリューで知った。

いきなり

「いや、もう僕らは脱広告していこうと思っているんです」

ここから始まるインタビュー。
まあこれはしおたんの構成力ゆえなのですが。

しかし、連日こうも広告が叩かれ、炎上しては取り下げたりお詫びを出したりと見えない相手からのやまない攻撃に辟易している広告業界に、さらっと「まだそんなところで疲弊してるの?」とでも言うかのようである。

いや、まじで言っている。タイミング的にかなりストレートに。鮮やかだ。コンテンツスタジオと言う言い回しもおじさん中心の広告代理店構造とは一線を画して次世代的。これは期待せずにはいられない。鮮やかに爽やかにしれっと軽やかなカウンターだ。なんて気持ちがいいんだ。

「ロフト炎上」と「チョコレイト誕生」から何を感じるか

おっと、思いがけず韻を踏んでしまっているけど、タイミング同じくして起こった広告業界の2大事件。事件というとあれだけど、これはインパクトが大きい。こうなった“結果”だけでなく“経緯”にこそ今後が示唆されていると思う。

もしも業界の人で、ロフトについて「自分たちもこうならないように気をつけなきゃね」なんて言って、チョコレイトについて「若いのは威勢がいいよね」なんて受け流してるのだとしたら、大いに危機感を覚えた方がいい。なぜならあなたはすでに終わっているからだ!!!

つい、力が入りすぎてしまった…
わたしはチョコレイトの面々、ミレニアル世代より上の世代です。でも彼らの登場にワクワクしているし、期待しているし、自分のやる気も刺激してくれたので喜びしかない。きっと多くのミレニアル世代クリエイターが悔しがっているだろうけど、わたしも一緒に悔しがっている。

これまでのセオリーが通用しなくなったのが「ロフト炎上」ならば、これまでのセオリーを壊して新しい風を吹き込むのが「チョコレイト誕生」なんじゃないかって思う。

もしもサポートいただけましたら、私もまた他のどなたかをサポートしてサポートの数珠つなぎをしていく所存です!!