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第2回 スマホネイティブ世代の高齢者UX

こんにちは。SHIFTのUXおにいさん、ヨッシーです。

当社のヒンシツ大学でUX講座の講師をしていますが、コロナが猛威を振るっていますのでオンラインで開催しています。オンラインだとシャイな人でも講師が近くにいる存在に感じるのか質問がしやすいようで、大変多くの質問をいただくようになりました。やってみると改めて気づく価値もあるものですね。今回も最後までお付き合いいただければと思います。

<第1回のおさらいと第2回のテーマ>

第1回はガラケーを利用していた世代の高齢者UXは機能を減らすことで高いUXを提供できるものの、アプリを加えるなどスマートフォンらしい使い方をすると使いにくさが露呈し、その魅力も減ってしまうことを説明しました。第2回の今回は、スマホネイティブ世代の高齢者のUXについて考察していきたいと思います。

<スマホネイティブ世代>

スマホネイティブ世代は、初めてもった携帯電話がスマートフォンという世代です。現在の18歳以下の約65%以上は初めてもった携帯電話がスマートフォンといった結果が出ており、この傾向は今後さらに加速していくことが予測されます。※1
今回は、スマートフォンをすでに活用している方が高齢者になったときを「スマホネイティブ世代の高齢者」と定義します。

<支援することによって高めるUX>

スマホネイティブ世代は高齢者になるまでに、多くのスマホの便利さを享受しています。スマホがいつでも存在することが当たり前になっているため、そのメリットを手放せなくなっているでしょう。しかし、視力など体の機能が衰えていくことで、スマホ操作がむずかしくなっていき、これまで通りの利便性を享受することがむずかしくなっていくと考えられます。

しかし高齢者を支援する技術もどんどん開発され、例えば自動車ではアクセルとブレーキの踏み間違い防止機能や自動運転など自動車での移動が必須とされている地方在住高齢者の生活を支えるものとして期待されています。
デジタルの目線で見てみると、スマホのように画面を利用するだけでなく、声を利用するスマートスピーカーや、スマートグラス、スマートウォッチなど高齢者支援が期待できるデバイスがたくさん登場しています。そのなかから最高齢プログラマーの若宮正子さんが期待するスマートスピーカーについて掘り下げていこうと思います。

<最高齢プログラマー若宮さんが語るスマートスピーカーへの期待>

スマートスピーカーは、音声による操作でネットなど情報へのアクセスや家電に連携して操作なども行うことができるIoTデバイスです。世界最高齢プログラマーで、Apple世界開発会議WWDC2017にも招待された若宮正子さん(84歳当時)がスマートスピーカーについて語っている記事がありましたので一部ご紹介します。

スマホを使いこなす若宮さんは、スマートスピーカーを早い時期から使っており、テレビやエアコンの操作だけではなく、ロボット掃除機の操作もスマートスピーカーで行っています。若宮さん曰く、「シニアは年をとって体が動かなくても、口だけは達者ですから、音声操作は向いていますね」、また「それと、同じことを何度聞いても怒られないところもいいですね。家族だと嫌味を言われるかもしれませんが、スマートスピーカーならドライに対応してくれます。」と、高齢者ならではのメリットも教えてくれます。※2

若宮正子さんにスマホネイティブ世代の高齢者像が垣間見えたように感じますね。

<日本でのスマートスピーカーの現状>

ところで話は変わりますが、日本ではスマートスピーカーは普及しているのでしょうか。実はスマートスピーカーの普及率は、世界全体:20%、米国:26%、日本:6%となっており、日本では思ったほど普及していません。※3※4※5

次に普及率の高い米国と日本での購入者の3割以上が利用している機能数で比較してみました。(表1参照)すると、米国では16機能を利用しているのに対し、日本ではわずか5機能しか使われておらず、日本での使い方が非常に限定的であるということがわかりました。
また、利用方法で特徴的だったのが米国では利用する機能1位がインターネット検索で80%を超えていますが、日本人では上位5位にも入っておらず利用率は30%以下となっている点です。日本人の7割が「人前で音声検索、恥ずかしい」という調査結果もあり、日本人の国民性(シャイである)も一つの要素となっているようで、日本人らしいなあとある意味感心してしまいました。(笑)

表1 米国人と日本人でスマートスピーカーの使い方(枠内は30%以上の人が利用している機能)※4※5

スライド1

<まずはスマホネイティブ世代の高齢者ペルソナを作ってみよう>

それではいよいよ、スマホネイティブ世代の高齢者UXについて検証しましょう。スマホネイティブ世代の高齢者の想定にはペルソナを使用します。ペルソナは製品を使用する典型的なユーザーを表すために作成される架空のキャラクターのことで、典型的な利用者像を見える化することにより、企画や評価を行いやすくできるUXの代表的な手法の一つです。※7 少し未来に行って、スマホネイティブ世代の高齢者ペルソナを作成し、今のスマートスピーカーのメリットと改善点について検証していきます。

スマホネイティブ世代の高齢者のペルソナ

高齢者UI_ペルソナ

今回はあえて現在のスマートスピーカーの技術を未来のペルソナでメリットを見つけたいと思います。現実ではむずかしいこのような評価でも、容易にできることがペルソナのメリットです。今回は、新しもの好きな高齢者として宮野さんをペルソナとして設定してみました。気になることがあれば何でもネットで調べるので普段はスマホを手放すことはありませんが、プライベートな時間はスマホではなく、音声で操作できるスマートスピーカーを求めるという仮説を作成し、メリットや改善点を考えてみたいと思います。

<次にSHIFTのUXガイドラインで検証しメリットと課題をまとめてみました>

スマホネイティブ世代の高齢者、宮野さんの目線で見たスマートスピーカーのメリットをまとめました。

(1)スマホネイティブ世代の特徴であるキーボードが苦手という点において、音声入力が利用できる

(2)新しもの好きで最新情報には敏感。手が離せない時もスマートスピーカーから情報収集ができる

(3)
とにかく時間を守りたいので、スマートスピーカーからの時間やスケジュールの通知は重宝する

(4)
自分の部屋では恥ずかしくないので、スマートスピーカーで音声入力は気楽にできる

(5)
自動車ではスマートスピーカーは当たり前のように仕込めるため、利用範囲を広げることが可能である

次に、宮野さんがこれまで以上にスマートスピーカーからメリットを得るにはどのような点を改善すればよいかを検討してみました。

(1)「スマートスピーカーから「健康」に関する情報など新しい情報が自動的に提供される」
宮野さんは健康グッズ好きで健康に関する情報に敏感です。必要と思う情報を自動で選択し必要なタイミングで情報提供がされると、宮野さんのスマートスピーカーに対する依存度が高くなります。

(2)「 家電やスマートデバイスを自動検出し簡単に接続が可能にする」
すでにスマートスピーカーにつながっている家電などの利用は簡単ですが、新しいものを購入した時いちいちスマートスピーカーをつなぐことは非常に煩雑です。高齢者になると接続だけでも大変な苦労となります。負担をかけないためにも、「デバイスが増える=作業が増える」の概念を変えて、デバイスのメリットをすぐに享受できるような環境が必要です。

(3)
「時間連絡などの重要情報が伝わったかをスマートスピーカーが自動で確認する」
今のスマートスピーカーは原則1部屋に1台必要なため、部屋数の多い郊外の住宅では居場所の数だけスピーカーの数が増えてしまいます。こうなるとスマートスピーカーがない部屋にいた場合、重要な情報が伝わらない可能性があります。スマートスピーカーが居場所を検出し、伝わっていないと判断した場合には自動でリマインドされると不安解消につながります。

(4) 「音声操作だけはなく、ジェスチャーや感情を読み取る機能でスマートスピーカーの機能を利用する」
宮野さんの場合もそうですが、日本人はシャイであり声を出すのが恥ずかしいという特性があります。既存のスマートスピーカーの入力は音声が主体ですが、ジェスチャーで操作ができれば、利用シーンに合わせた活用が可能になります。どうしても声を出せない状況でも利用できることは高齢者UXとして安心感にもつながります。

(5)「自分の居場所にあるスマートスピーカーを自分用に切り替えることができる」
自動車に乗れば自動車のスマートスピーカーが自分用に変わり、ホテルなどに泊まればホテルのスマートスピーカーが自分用に変わることで、スマホを持ち歩く手間がなくなります。どこにいても自宅と同じ体験ができることは宮野さんにとって大きな満足につながります。

<まとめ>

 ペルソナ、SHIFTのガイドラインによって検証した結果、スマホのメリットを享受するデバイスとしてスマートスピーカーが有効であることが分かっただけではなく、さらなる可能性を感じることができました。

このようにペルソナ設定によって利用者の特性を具体化し、その特性にあったUXを考えていくと、さまざまなアイディアが生まれます。このような改善を行うことで日本では普及率の低かったスマートスピーカーのメリットを多くの人が感じられるようなると思いますし、これを拡大して新たな使い方を見つけ出すことで新しいビジネスモデル創出の可能性もあります。

ペルソナ設定は極端な事例をたくさん生み出しても誰にも迷惑は掛かりません。(本当にいたら迷惑がかかる人だとしても)
是非とも将来増えると思われるさまざまなケースを想像し、そのペルソナに対するUXを深堀していくことで、価値のある新しいプロダクトの創出に役立ててみてください。

第2回ではペルソナを利用して、スマートスピーカーを対象に評価や改善点を説明しました。手前味噌で大変恐縮ですが、SHIFTで開催しているUX講座「作るUX・測るUX」の中でもペルソナの作成方法や利用方法について触れておりますので、興味のある方は是非受講をご検討いただければと思います。

さて次回最終回の第3回では、さらに未来のデバイスと高齢者UXについて検証していきたいと思います。


※1 スマホネイティブ世代 (初めて持った携帯電話がスマートフォンという世代:現在の18歳以下の約65%以上は初めて持った携帯電話がスマートフォンといった結果が出ており、この傾向は今後さらに加速していくことが予測されます。)
※2 スマートスピーカーって便利なの?世界最高齢プログラマー若宮正子さんに聞く
※3 野村総研未来年表 
※4 voicify調査結果
※5 電通デジタル調査結果
※6 日本人の7割が「人前で音声検索、恥ずかしい」 
※7 ペルソナ wikipedia ペルソナ (ユーザーエクスペリエンス


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執筆者プロフィール:吉井誠
大手外資系SIer、外資系コンサルティングファームなどを経て、SHIFTに入社。
SHIFTではパッケージソフトのUXコンサルティングなどに従事した後、UX/UIの定量評価、「測る」ことの標準化でUXをもっと広く実践的に活用してもらいたいと励んでいる。また、国公立大学・大学院で、UXの講師を行っている。

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