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アジャイルQAジャーニー#4 〜具体と抽象の連続の中で生きることと、次世代プロダクトとの向き合い方〜

はじめに

こんにちは。 アドベントカレンダー16日目担当させていただきます、アジャイル推進2Gの谷岡です。

先日、AgileJapan2022で「アジャイル組織に求められるQualityのつくり方」というテーマで登壇させていただきました。 3年前にも登壇させていただきましたが、その時とは違い完全オンラインでの開催でした。
滞りなく進む様に運営の皆様には頭があがりません。 今回もオンライン上で資料確認できるのでご興味ある方はみていただけると幸いです。

さて、これまでアジャイルQAの動き方考え方ということでアジャイルQAジャーニーシリーズ(#1,#2,#3)でお送りしてきましたが、今回は視点を変えて、現場と組織、エンジニアとマネージャ、シングルとマルチタスクといった普段触れている環境や役割をデフォルメしていくと、少し景色が変わってくるよと言う話から始まり、「プロダクト」とそれを形作る周辺環境が変わった時にどう向き合っていくかと言う話を綴りたいと思います。

長文になるので、頭の体操をしたい方やお時間のある方だけよろしければお読みください。

森の中に拠り所を見つける

「木を見て森を見ず」という話があります。 「細かい部分にこだわりすぎて、大きく全体や本質をつかまないこと」 「小さいことに心を奪われて全体を見通さないこと」を表しています。 海外では「木はしばしば森を隠す」「木を見ているものは森を見ることができない」とも言われます。

例えばあなたが実際に森(=リスクを伴う環境)に入っていくとしたら、何をするでしょうか。 勝手知ったる場所であればいいのですが、これから飛び込む新しい環境に対して周辺環境、それに至る経路を確認、また地図を見て、しっかり準備をしてから森へ向かおうとするのではないでしょうか。
森の中を進んでいくとそのうちに穏やかで安定した場所を見つけることでしょう。 この場所を見つけるまでには個人差があり、運もあり、タイミングもあるかと思います。

そこで安心したポジションを取れるようになると腰を据えてキャンプを楽しんだり、鳥の声を聞いて川のせせらぎに身を任せ長い時間を過ごすことになります。中にはその場を中心に生活が始まる人もいるかもしれません。

少し話が入り込み過ぎましたが、木(一箇所)を見て森を見ないことが、実際の生活や仕事の環境において間違っているとは考えていません。
豊かで集中できる環境はそう言った場所にあるのだと思います。

木をみるということ

一般的に○○エンジニアと呼ばれる役割を持っている方は木を見る機会が多いのではないでしょうか。 また、手に職があると呼ばれるような方々、誤解を恐れずに言うならば事務作業や士業などもここに該当するのではないか思います。

目の前のタスクに目を向けて解決に向け、完了に向けて動くことが多いと思います。 アジャイル開発でお話しするならば1日の多くの時間を目の前のタスク(スプリントバックログのチケット)と向き合っていきます。

アジャイル開発を進めるにあたり必ず必要になるのはDoD(Done of Definition)つまり完了の定義という考え方です。この完了の定義が明確なタスクに落ちている段階でまだ周辺の諸条件や、前提条件がクリアできておらずタスクに集中できないとなっているとき、スプリントプランニングはうまく行っていないと言えます。アジャイルのアンチパタンの1つにスプリントプランニングが不十分であることが挙げられます。
タスクの分割や見積りが適切でない場合この事象に陥ります。(ただし例外的に、タスクの内容によっては調査研究という意味で木を見ながらさらに樹皮の中にまで目を凝らして細やかに確認していく、といったこともあるとは思います。)話を戻しますが、逆に目先のタスクがクリアで生産性が最高潮に至るようなタスクフォーカス状態が十分に木をみている状態だとここでは定義します。

ちなみに、プロダクトが実際にPMF(プロダクトマーケティングフィット)に到達するまでアジャイルにフィードバックループを回すことを暗闇の中を進むといった表現をすることもありますが、暗闇の中に一筋の光を見つけながら前に進むことはエンジニア人生冥利に尽きるのではないでしょうか。

森をみるということ

一方で森を見ている状態とは立面として、または空間として一本の木を見ている状態から、例えばドローンで上空から平面的に俯瞰して複数の木々や森を見ている状態です。こうすることで当然ですが自身の背の高さでしか感じることができなかった木も、その天辺の色や形他の木との関係性、森の中でどう言う位置にあるか関係性なのかが見えてくると思います。
エンジニアに対し、マネージャに相当する方はより俯瞰で物事を見続けるような動き方になるのではないでしょうか。シングルタスクとマルチタスクとも言われますが、相互に進めること、調整をつけること、音頭をとることなど同時並行で把握して推進していく能力が求められます。

では、あなたは普段木を見ているでしょうか、森を見ているでしょうか?
もう1つの段階があると思います、それは地図を見ているということです。

地図をみる、そして作ると言うこと

地図は線と印で表現されることが多いと思います。 勝手知ったる世界ではあなたはその地図を持っています。 もちろん詳細度は人によりけりですが、経験知と言うのはこの地図を持っている状態を言うのではないかと考えます。木に寄り添い、森を見てきたからこそ、地図を描けているのだと思います。 人が物事を学習する時や技術を習得するときはこの過程を意識すると効率が上がるとも言います。

まれにドキュメンテーションや情報整理の話もこの仕事をやっていると耳にしますが、 情報整備がされていない原因は木だけ見ている、森が虫食いになっている、地図が作られていない。のいずれかが原因です。
これも当てはまっていきます。実は人が認識する考察する作業をする過程はこの三段階(木、森、地図)で構成されることがほとんどなのではと思うほどに当てはまるのではないでしょうか。

デフォルメで考える

さてここで、一度話をまとめてみたいと思います。 私はよくこの三段階(木、森、地図)のことをピントを合わせるということで顕微鏡に喩えたりします。 フォーカスしている状態とフレームアウトして森を見ている状態を交互に無意識によく切り替えているなと感じることがあります。
言語化をすることは得意ではないので絵も使いながら説明するとこう言うイメージです。

※1.なお、ここでテストは利便性のためにテストレベル別で記載しましたが、弊社ではアジャイル開発の中ではテストタイプ別に考える(ここでいうところのユーザ目線側)で語ることが多いです。

※2.ここで新しく「林」の表現も使いましたが木から森の移行期間と捉えてください。   

※3.ここであえて地図と書きましたが行ったことがない場所の地図としてください。線と地名が書いてあっても実際に行ってみないとよくわからないというレベルでこの図を見ていただけるといいかなと考えています。

ここまで書いて気づいたのですが、私はこの相互にピントを合わせながら世の中を真正面から、上から、斜めから、またそれを地図に起こしたりするその様そのものが好きなのだと改めて気付かされました。
角度を変えて次元を変えるを新しい刺激で溢れていますし、地図を渡すことで誰かの役に立ちます。私は仕事をする上で以下のピント合わせを交互に行っています。

  1. ぼかした状態で見る

  2. 広域に確認する

  3. 焦点を当てる

  4. 広域に確認する

  5. ぼかした状態で見る

シチュエーションごとの例をあげて詳しく見ていきましょう。

1)ぼかした状態で見る

  • 何もわからない状態や、初めて接するものの話です。

  • または課題があったり向き合わないといけない事象に対して複雑に絡み合って不鮮明な状態です。

  • セールスをしていて初めてのお客様と対峙する時であったり新しい人にあうときだったりもします。

  • この段階ではまだ解像度は低い状態です。

  • 解像度が低いからこそ大きな輪郭を捉えることができます。

  • 外見や見た目で捉えます。

  • より際立った線だけを拾うことができます。短い時間で情報を獲得します。

  • 白紙の地図に輪郭を載せていきます。勝ち得た情報を少しでも残しておきます。

  • 実際には手元のエディターでもエクセルでも付箋でも構いません。

2)広域に確認する

  • ピントの調整フェーズです

  • 複数のタスクに対して1つ1つの関係性を確認します。

  • 自身が視認できる範囲にいっぱいに、関係項を構築していきます。

  • それらの関係項の優先順位がついたら優先順位の高いものから自分が潜るべき深海や洞窟/寄り添い合う暗闇/向き合うべき木を決めます。(ここでいう深海、洞窟、暗闇、木はタスクのメタファーです。)

3)焦点を当てる

  • 目一杯焦点を絞って担当タスクへ注力します。

  • ただただ全力で走ることが正解です。

  • 振り返ったり横道に逸れることは適当ではありません。

  • 帰ってきた球(メッセージ)を返す、コミュニケーションをとる、タスクを消化する、事務処理を捌くことに該当します。

  • レスポンス速度を1秒でもあげていきましょう。

4)広域に確認する

  • ここからは答え合わせのフェーズです。自分が深く潜った後、また1つのタスクや事象に向き合った後(まさに今この記事を書いていることそのもの)仮定をしていたこと、自分が誤解していたこと、間違った関係値をつくったことなどを答え合わせしていきましょう。

5)ぼかした状態で見る

  • 当初1)で課題やよくわからなかった状態がより鮮明に広域に見えるようになっているはずです。

  • この領域を他環境や、他者からみても当初のアウトラインが鮮明に大枠をなぞれているかを確認します。

  • このとき1本木を抜かしていたので虫食いになっていることなどに気付けるのではないかと思います。

  • ここまでが1セットです。 5)のフェーズに来ると1)~5)は自由にピントをずらせるようになっていくかと思います。

様々な局面で通用する具体と抽象

いかがでしょうか。実はこの考え方。

  • テストを上手に回す様に似ています。

  • アジャイル開発を上手に回す様に似ています。

  • 人と上手に付き合っていく過程に似ています。 繰り返しますが何にでも当てはまるのでは?と思います。

「具体と抽象を繰り返すことで認識の解像度を上げていくことがスムーズに脳が認知するための方法である」と自分の中で定義しています。
こんなに大層に文章で書かなくても当たり前に皆さんがやっていることなのではないかと思います。

さて、実はこれまだ折り返しです。ここまで書いて話を変えます。
これからのプロダクトとタスクへの向き合い方について記載します。

ここまでは信号機で自分が見ている赤色と他人が見ている赤色が本当に同じ色かと言う類の確認に過ぎません。

これからのプロダクトへの向き合い方

この記事を書こうとしていた1週間(2022/11/28~2022/12/02)の間にTwitterではとある流行が来ました。 「AIイラスト」と「ChatGTP」です。
実際にやってみましたが非常に面白いです。 img2imgであったりtxt2img txt2txt(これらのキーワードでGoogleで画像検索してみてください)の処理を行い成果物を生成するときにそこに創造性や恣意性(例えば好みの絵が出るまで呪文を試行錯誤する等)がある場合にはAIで作られた成果物には著作権が認められることがあるそうですが、何も考えずに適当に並べた文章や、手書きの落書きもアーティストが描いたものと遜色ない状態で表現されたりしています。

しかし細部を見ると、人体は指の本数や生えている位置がおかしかったり、猫が毛深いおじさんに変わったり、お面が美少女に変わったりと、微細なところから大胆なところまでサイコロを振ってみないとわからないような面白さがあります。また変換結果を何度も変換すると元画像すらもはやわからなくなります。

何が言いたいかと言うと、これからは人の意識化にないプロダクトや創作物がどんどん生まれてくると言うことです。またその中に埋もれるようにWebサイトや定型的なプロダクトは特にこんなものが欲しいと伝えれば自動で作成できる未来が既に来ています。

その時にこれまでフォーカスしてきたものや関係項を築いてきた過程は全て省略されるような。また、この一連の過程を別次元から俯瞰するような新たなフェーズに入ることになります。必要とされていた物やコト、役割が省略されてきます。

IT業界の肝となるサービス品質を考えた時に 細部の細かい正しさはユーザにとって必要がないコトに気づきます。 「だってそれはAIが書いたのだから仕方ない」から始まりますが、そのうちそう言った細部ですら正確なものになり区別はつかなくなります。

ユーザにとってはサービスに触れる時は体験が全てです。
どのプロダクトがもたらすものを見てどう満足できるか、次に繋げられるか、メリットを享受できるかが全てであって、生成された画像の指の本数が5本でなくても良いのです。すごく雑にこの事象を言うならば2次生産以降、つまり任意の言語やツールを使ってプロダクトやサービスを作ると言ったことを行う場合には(生成する技術を作ったりメンテナンスする1次生産者でない限りは)フォーカスすること、木と向き合うことの必要が希薄になってくることを意味しています。これは、こんなプロダクトを作りたいと言えばできてしまう世界です。

木を見ることが希薄になると、いかに森を見て(森すら見る必要がなくなるかもしれませんが)いかに地図を見て、ユーザに届く物語を届けられるかが肝になってきます。ピントを合わせて解像度とその物語を強く意識しましょう。 この世界になったとき我々特にこの業界の向き合い方が1~2年で大きく変わるのではないかと感じています。
どのポイントで今を向き合えば良いか、今どこに向かうべきかを改めて考え直してみたいと思います。

\明日も最新記事を公開/


執筆者プロフィール:谷岡 俊祐
2児の父。SIerにて自治体向けシステム開発に長年従事した後、SHIFTへ入社。エンジニアの知見とQA×SMの観点で業務改善や因数分解、チーム改善が得意。
最近は蓄積された知見や業務を如何に低コストで掬い上げるかをテーマに手法確立に向けて試行錯誤中。

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