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Toshiaki43_№14

🇫🇷TEMPURA
AUTOPORTRAITS DE TOKYO

フランスで年4回発行される日本文化を紹介する雑誌“TEMPURA”で連載中のインタビュー記事
“AUTOPORTRAITS DE TOKYO”=”東京に住む人たちのセルフポートレート”を日本語訳したものをnoteに記録しています。

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TEMPURA_№14 / 2023.7

Toshiaki 43
greengrocer

Text : Mathieu Rocher (Interview : Ayaka Shida)
Photo : Ayaka Shida

私は東京の練馬区出身です。
大学進学のタイミングで北海道に行き、卒業後は北海道の農業協同組合で働きました。そこでの生活と仕事が好きで、ずっとそこに住むつもりでしたが、家族から家業を継ぐよう頼まれ、東京に戻ってきました。長男なので。

東京に戻ってきたとき祖父は90歳で、まだこの店を経営していました。
この店は、元々は食料品店ではなく炭や燃料を売る店だったんです。
祖父も年をとり、引退する時期が来ていました。
子供の頃は毎冬祖父の店を手伝っていました。
特に配達を担当しており、時には20キロの荷物を運ぶこともありました。
祖父も同じことをしていて、70歳になっても腕相撲で私に勝つほど強かったです。
でも、私が戻った翌年、祖父は心臓発作で倒れました。

これまで取り扱っていた燃料に加えて、私は野菜の販売を始めました。
徐々に店は現在のような八百屋になっていきました。
この野菜は奈良県から取り寄せたものです。奈良の野菜はとても美味しくて、野菜の味の概念が変わるほどです。東京ではなかなか見つけられない代物です。
奈良以外も、ありがたいご縁のおかげで、日本各地から素晴らしい野菜が集まっています。

最初は東京の人々に貴重な贈り物を提供しているような気持ちでいました。
しかし、実際にはそうではないのかもしれません。
多くの東京の人々は地方出身なので、美味しい野菜を元々知っているはずなんですよね。
販売する野菜のほとんどは有機野菜ですが、それは意図したことではありませんでした。おいしい野菜を探していたら、自然と有機が多くなっていったのです。
以前は野菜を食べなかったお子さんが、うちの野菜を食べてから好きになったと聞くと、八百屋としてとても嬉しいです。

忙しい時でもお客様には積極的に話しかけるようにしています。
私が教わることもたくさんあるんですよ。料理や食品保存の方法、主婦の力ですよね。学ぶことがたくさんあります。
お客様から「あなたの店はスーパーとは違う、特別なお店」と言われることもあります。
これらの褒め言葉を受けることはとても嬉しいですが、生計を立てるのは非常に難しいです。有機野菜は高いし、野菜はすぐに傷んでしまいますからね。
こういった八百屋は、東京ではもう珍しくなったかもしれません。
でも、私は幸せですよ。最近は、「明日死んでもいい」と思うほど充実しています。
高級車を運転したいとか、欲しいものもありません。ただただ、毎日が幸せです。

もともとは東京が嫌いだったので北海道の大学に行ったんですよ。
人混みが嫌いだったし、東京のペースが私には合いませんでした。速すぎると感じていたんです。
家族から東京に戻るように頼まれたとき、ここ、小石川(東京の北部の静かな地区)なら戻ると言いました。懐かしい街並みと、東京のなかでは比較的ゆったりした雰囲気を持つ街だから。
祖父の店を何世代にもわたって続かせることが大切だと思っています。
特に、近年急速に変化し、ますます多くの人が住むようになった東京では、
“古きよきもの”を守ることが重要だと感じているんです。



水なすにはまってた時に見つけた八百屋さん。
生の水なすにオリーブオイルと岩塩かけるだけですっごくおいしいんですよ〜😇

全国各地の無農薬・減農薬のお野菜を取り扱っているお店です。
こうやってまとめていて気付きましたが
家業を継いだ方へのインタビューが多いですね。

こういうお店って、私にとってお話しする機会がなければ
ただ、いい街だなって思う風景の一部。
でもそう思うのは、こういうお店がそれぞれの地域に馴染んでるということ、時代を超えて必要とされているってことなんだと思います。

銭湯のきみこさんの時にも思ったけど、こういうお店のような“必ずそこにある”ことの安心感ってすごく大きい。
地震やコロナを経験してから、より強く思うようになりました。
当たり前の大切さをもっと理解して過ごさないといけないって思うんだけど
不思議なことに、当たり前になると反比例するみたいにそのありがたみを忘れちゃうんですよね🤔
いろんなことが見えなくなる。
近すぎるとピントが合わない望遠レンズみたい📷

本当は大切にしないといけなかったのに壊しちゃったり
逆に必要なくなったことにも気が付かなかったり😇
気づかないうちに変わっていくものがあるからしょうがないとは思うんだけど🙃

でもそこに、彼らのお店が時代を超えて愛される理由がもうひとつ隠れてるんだと思います😶‍🌫️
必ずそこにあること・変わらないことは安心するけど、街や時代はいやでも変わっていきます。
彼らのお店は変わらないことと変わっていくことのバランスの取り方が上手だなと思う。
小さいことだと、PayPayが使えるとかも変化ですよね。

このお店の場合は、としあきさんが北海道で身につけた農業の知識を活かして、家業をグレードアップさせたことが大きな変化だったんじゃないかなと思います。
もともと燃料店だったとおっしゃっていたけど、今東京で灯油や炭を使う人はそんなに多くないはずです。
冷蔵庫の脱臭用の炭も売ってたので完全に無くしたわけじゃないだろうし、冬に石油ストーブを使う人もいると思うけど
でもやっぱりこの変化がなければ続けていくことは難しかったんじゃないかな。

人間を含め生き物は生理学的恒常性(体温を一定に保つなど)に加えて心理的恒常性にも強く影響されるので、現状維持したがるようにできてます。
毎日の習慣や環境を変えないことに安心する。
「変わらないとな」って思っても「今までこれでうまくやれてたんだからやっぱりこのままでいいや」になる心の動きはこれの影響なんだって。だから三日坊主とか、惰性の付き合いとかが起きるんだって🙃

私がこれを知ったのは動物に関する資格を取った時で、おもしろい機能だなー覚えておこうーって思ったんですが
それ以来忘れてて、今思い出しました😇

変化することには勇気がいるけど、その変化はおもしろいことにつながるかもしれない
としあきさんほどの大きな変化はすぐには挑戦できないけど、小さな変化ならがんばってしてみようかなーと思いました😇


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