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おもに七月堂書籍から詩の紹介をしていきます。
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2023年8月の記事一覧

空洞(栁川碧斗『ひかりのような』より)

いつか目を覚まし瞳には虚空があり衣が剥が れぽつねんと悲歎のみがひろがる朝靄を手繰 る肢体…

Time(牧野楠葉『アンドレ・バザンの明るい窓』より)

わたしの後ろから眼に手を当てているのは誰 夜露で固まった鳥たちの音、 布に印刷した時計の絵…

饒舌と沈黙(窪島誠一郎『ぜんぶ、噓』より)

かれは 饒舌なのだが ふいに押し黙る かれの饒舌は そのおそろしい沈黙のなかにある 饒舌は…

ひとなつの巡礼(神泉薫『白であるから』より)

わたしたちよりもずっと低い 大地の皮膚にもっとも近い目線で 空と地を分ける あの果てのない…

つかみぬく(國松絵梨『たましいの移動』より)

雲の奥から 爪みたいな輪郭が覗く 整ったものを やわい手つきで つかみぬきたくなる ゆびのあ…

道行(橘しのぶ『道草』より)

どのあたりかと問われても どこまでだってかゆい 鯨尺を使って手の届かないところまで かいて…

未明(一方井亜稀『青色とホープ』より)

陽光の射す窓があり それをただそうであると認識する日々を 幾年も重ねて 陽光の射す と言葉だけを浮かべていることに気付かないまま 目の前に 焦がれていた 例えば 磨りガラスの前に立ち その先の景色は不明瞭なまま 聞こえる雨音に 傘を手にする ということがあってもよい ビニール傘の向こう シートに覆われた建物はあり それと気付く手前の おぼろげな 闇に手を伸ばしてもよい 立ち尽す鮮明な世界の中で 焦点がずれていく束の間を 目の前と名指すなら その先の景色を切り裂いてもゆけ

Rainbow Connection(鈴木康太『霊園東通り南』より)

あなたが離した 親指と人差し指で水の花束 垂れた ジャングルジムでみつかった 春のペンキ 亀…

泥水が沁みてゆく真っ白な紙(浦歌無子『光る背骨』より)

ほんのすこし輪郭らしきものが見えている まだまわりの岩肌とほとんど区別がつかない 波に洗わ…