未明(一方井亜稀『青色とホープ』より)

陽光の射す窓があり
それをただそうであると認識する日々を
幾年も重ねて
陽光の射す
と言葉だけを浮かべていることに気付かないまま
目の前に
焦がれていた

例えば
磨りガラスの前に立ち
その先の景色は不明瞭なまま
聞こえる雨音に
傘を手にする
ということがあってもよい

ビニール傘の向こう
シートに覆われた建物はあり
それと気付く手前の
おぼろげな
闇に手を伸ばしてもよい

立ち尽す鮮明な世界の中で
焦点がずれていく束の間を
目の前と名指すなら
その先の景色を切り裂いてもゆけるだろう

陽光の射す窓があり
磨りガラスの向こう
やがて
雨が降るとしても



一方井亜稀『青色とホープ』収録
発行:七月堂

七月堂HP通販はこちら
七月堂古書部オンラインショップはこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?