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【中国SF】 郝景芳『人之彼岸』に読む、希望

SFとは希望である」は、高校の大先輩の言葉らしい。

ここ数年、いわゆる中国SFを読むことが多くなった。実証産業組織論などで研究が進む現代中国は、もちろん清濁はあるけれど、いま世界中が何かを学ぼうとしている対象だろう。これから世界のヘゲモニーの行方は定かではないけれど、コロナショックを経て、まるで第二次世界大戦後のようなリスタートの時期であることは間違いない。

そのようななか現代中国のSF小説に、ドキドキしながらページをめくるのは僕だけではないだろう。

2021年の一冊目は、郝景芳(ハオ・ジンファン)『人之彼岸(ひとのひがん)』だ。この本は人工知能いわゆるA Iをテーマにした短篇集(6篇)だが、冒頭にエッセイ2篇がおさめられているのが特徴的である。本来なら短篇の方を紹介すべきなのだろうけれど、今回はエッセイの一つ「人工智能时代应如何学习人工知能の時代にいかに学ぶか)」を紹介してみたい。

この本をおすすめするターゲットは、僕と同じような昭和四十年代生まれのオヤジか、小学生の我が子の将来を考える教育パパかな? これからいかに学ぶべきかは、我が子の学びに責任を持つ育メンにとっても、運悪く五十代になってA I時代を迎えるオヤジにとっても切実な悩みだろう。

著者である郝景芳氏は、1984年天津市(中華人民共和国)生まれの才媛である。大学では宇宙物理学を学んだのち、経済学と経営学の博士号を取得したという。『折りたたみ北京』でヒューゴー賞を受賞。小説家の肩書きだけでなく、社会課題を解決する事業家として中国農村部の子供たちに教育を行き届かせるプロジェクト「童行計画」にも取り組んでいる。このエッセイにある彼女の考えは、そうした教育事業に対する初志であり、プロジェクトの長期的なビジョンでもある。

彼女は言う。

人間の学習の最も優れた特徴は、子供たちに凝縮されている。
子供の学習はスモールデータ学習である。

このエッセイを読んで得られることは、何かと不安な世にあって、学び続けることに対する希望だ。A Iの「ビッグデータ学習」には逆立ちしてもかなわないが、逆に生身のヒトが勝る「スモールデータ学習」の凄みがあって、もちろん、学ぶことをあきらめた反知性主義はばっさり否定したうえで、彼女は人間の教育や学習の希望を指摘してくれている。

またスモールデータ学習以外にも連想習慣試行錯誤と機械学習にはない“人間学習”の特徴を明らかにする。特に、連想学習における「類比」については

貴重な類比は実際には深層にある構造の発見であり、             外部からの情報との無関係は、                       深層にあるメカニズムとの無関係性を意味するものではない。

と述べて、“飛躍的思考”の大切さを改めて気づかせてくれる。そして、最後には、将来どのように教育と学習を行うべきか?について最も重要な4つの点を挙げる。ネタバレは避け、あえて紹介しないが、ぜひ本書を手にとって、彼女の語り口で、そのエッセンスに触れてみてはいかがだろうか。


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