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大人ゆずの始まり AL『WONDERFUL WORLD 』

2008年リリースのゆずの8thアルバム『WONDERFUL WORLD 』について、
ディスクレビューの真似事をしようと思う。

ライブ参加の体験談や好きなバンド紹介とは毛色が違うので中々苦戦した。
Amazonレビューのちょっと長い版みたいに思ってもらえれば幸いだ。(あそこも作品への理解が深まるガチ考察をしていらっしゃる方がいるが)
ぶっちゃけ自分でも何が書きたいんだろうと迷走した記事ではあるが、時間がある方はお付き合い願いたい。

さて、12年前の作品についてなぜ記事を書こうと思い立ったのか説明すると、「改めて通して聴いてみて良質なアルバムだと感じた」というのがまず一つ。
そして「ここがゆずのターニングポイントだったのでは?」なんて想像が今になって広がったからだ。

根拠のない解釈ばかりになるが自己満足で書き進めていく。

8thアルバムまでの「明るく硬派な」ゆず

WONDERFUL WORLD(以下、WW)における変化を語るために、それまでのゆずについてざっと振り返る。

ゆずの略歴(1996~2007)
1996年 結成
1997年 アルバム『ゆずの素』でインディーズデビュー
1998年 ミニアルバム『ゆずマン』、1stシングル『夏色』などをリリースしメジャーデビュー
2003年 紅白歌合戦初出場(「夏色」を含むメドレー)
2004年 21stシングル『栄光の架け橋』リリース、同曲で二度目の紅白出場
2005年 ベストアルバム『Going [2001-2005]』&『Home [1997-2000]』リリース
2006年 7thアルバム『リボン』リリース(後述)
2007年 CDデビュー10周年記念アルバム『ゆずのね1997-2007』リリース

かなり端折って並べたが、この辺りの話かとイメージしてもらえると思う。
活動全体なら初期が終わって中期に差し掛かったといったところだ。
近年のゆずは押しも押されもせぬ日本を代表する音楽グループといった感じでメディア露出も盛んだが、当時は今ほど積極的ではなく音楽番組登場もほとんどなかった。
(今では北川がInstagramを開設してたりしてゆずも時代も変わったなって感じ)

楽曲としては主にプロデューサー寺岡呼人とのコンビで、アコースティックギターの弾き語りをベースに、ハーモニカやタンバリンで彩る「これぞゆず」といったスタイルが中心だった。
バンドサウンドはあくまで味付けとしての使い方だ。

曲調や歌詞は「からっぽ」や「いつか」のようなバラード系もあるが、やはり「夏色」や「少年」のような若者らしさを前面に出した楽しくおちゃらけた(←悪意はない)ものを売りにしていた。

このように自分のスタイルを大事にして、等身大のゆずサウンドを奏でていた時期だった。


ここでWWの直前に当たる7thアルバム『リボン』について触れる。
これまで同様にプロデューサーは寺岡呼人で、ギターとツインボーカルを前面に出した明るい収録曲が多い。
1曲目の「リアル」からも等身大の今のゆずを歌っていくという雰囲気がよく出ている。

とはいえデビューから何も変わっていないなんてことはない。
翌2007年には30歳になることから「もう青年ではいられない」という憂いや意識の変化を感じる歌詞が随所にみられる。

友達は家庭を築き、かつての恋人が結婚する、妊娠したといった歌詞は私を含めた20代後半には胸に刺さるものが多いだろう。

『リボン』のジャケット写真のあどけなさが残る顔つきを見て、直球タイトルの「もうすぐ30才」を聴けば当時の二人の状況や心境を察してもらえると思う。
バラードの「しんしん」も好きな一曲。

♪ゆず『陽はまた昇る』
https://youtu.be/skCAVsmtnbQ


『WONDERFUL WORLD』収録曲とレビュー

ゆず『WONDERFUL WORLD』 2008/4/16リリース
1. WONDERFUL WORLD(インストゥルメンタル)
2. ストーリー
3. モンテ
4. おでかけサンバ
5. うまく言えない
6. 黄昏散歩
7. 凸凹
8. 人間狂詩曲
9. 春風 8
10. 明日天気になぁれ
11. 行こっか
12. 眼差し
13. 君宛のメロディー
14. つぶやき
15. ワンダフルワールド

前置きが長くなったがアルバムの紹介に入る。
前述の『リボン』から2年3か月ぶりとなるアルバム。

まず注目する点は、メインプロデューサーともいえる寺岡呼人以外の手が加わった楽曲が収録されていること。
WONDERFUL WORLD(インスト)」と「凸凹」は蔦谷好位置がゆずと共同でプロデュース。、「うまく言えない」と「眼差し」は亀田誠治が編曲を担当するなどしている。
前作『リボン』の全編曲・プロデュースが寺岡氏だったことを考えると、アルバム制作に大きな変化があった、変化させようとテコ入れしたというのが伺える。

各楽曲の説明に移る。
1曲目の「WONDERFUL WORLD」はラストナンバーの「ワンダフルワールド」のメロディーを軸にしたインストゥルメンタル。
最初にアルバムコンセプト示してそこから世界観を広げていくという印象を受ける。

なおゆずは本作から3連続で、インストからアルバムを開始している。
その次の11thアルバム『LAND』はシングル曲「REASON」から始まるものの、2曲目には表題曲「LAND」を持ってきてアルバムの世界観を提示している。
このようにWWを境に、アルバムを一つの作品群としてコンセプト・世界観を重視する意識が高まったのではないかと思う。

♪ゆず『LAND』
https://youtu.be/oF3eRh-4sz4


WW収録曲の話に戻る。
ではどのような世界観を提示したかというと、タイトルとラストナンバー「ワンダフルワールド」の通り、世界の広大さや、世界平和について。
特に恵まれない状況下で暮らす子供たちに焦点を当てたもので、「ワンダフルワールド」の楽曲収益の一部を寄付するなどしている。

「はるか(『FURUSATO』収録)」「Hey和」、「with you」など、今作以降のゆずは壮大な世界観の作品が増えるが、その始まりはWW、そして「ワンダフルワールド」という一曲の存在が大きかったのではないだろうか。

とはいえWWでそのような世界観を明確に出しているのはCDのアートワークに加え、冒頭のインストや「ワンダフルワールド」のみ。
14曲目の「つぶやき」で争いについて抽象的に歌ってはいるが、他の曲はそこまで関係性があるとは私は感じなかった。
初回限定版のDVDやアルバムツアーのDVDなどを見れば、アルバムを通して伝えたかったことがさらにわかるのではないだろうか。

では他の曲はどんな作風なのかというと「モンテ」、「うまく言えない」といった、幼少期や過去の恋愛を思い返すノスタルジックなものが目立つ。
前述の『リボン』では「もう青年ではいられない」という心境が歌詞に出ていた。
今作ではさらに一皮むけ、寂しくもあるが昔を思い返すことができる大人の心境に変わってきたと言えるだろう。


また歌い方に落ち着きや温かみが出てきたように感じる。
楽曲の壮大な世界観や大人の心境の歌詞に合わせたのか、グループとしてそういう路線で行こうと決めたのか、自然とそうなったのかはわからない。

しかしその落ち着きある歌声によって聴いていて心地よい温度感のアルバムに仕上がっている。
次作以降はエンタメとして明るく楽しい雰囲気も増してくるので、落ち着きと寂しさが程よく出た温度感はWWならではだと思う。

私が今作を今なお好きで大事に思っている理由がここだ。
これからも気分が落ちている時や、自分の歩みを立ち止まって考える時に重宝するだろう。

続いて楽器編成について説明する。
今作でも「モンテ」や「黄昏散歩」など二人の弾き語りを基調としたゆずらしい曲は健在。
しかしリード曲の「ストーリー」や「凸凹」、「眼差し」などでは、エレキギター・エレキベース・ドラムといったバンドサウンドを取り入れたロック系の楽曲も以前より多く収録されている。
WW以前も「嗚呼、青春の日々」などロック系の曲はあったが、あくまで飛び道具としてで、アルバム全体でしっかりと導入するのは今作からではないだろうか。
弾き語りとバンドサウンドが半々とはまではいかないが、過渡期のアルバムだと言えるだろう。

♪ゆず『ストーリー』
https://youtu.be/NYVfS0rM9zM

以上のように作風に変化があり、より精力的で規模が大きくなる活動のターニングポイントは『WONDERFUL WORLD 』というアルバムだったのではないかと考える。


項目の最後になったがアルバムで聴いてほしい2曲を紹介する。
まずは9曲目の「春風」。
路上時代から存在していた曲らしいが、過去の恋愛を思い出す寂しさを感じる曲で、先程述べた今作の雰囲気に非常にマッチしている。
またバイオリニスト葉加瀬太郎が参加しソロパートを担当している。
これも従来のプロデューサー以外の手が加わった一環だと思う。

さらに大きなポイントとして今作(シングル発売時)で『ミュージックステーション』に初出演したことだ。
最近ならシングルやアルバム発売の度に出演しているゆずだが、23枚目のシングルで、活動開始10年以上経過したタイミングでの初出演。
近年ゆずを知ったファンなら意外に思うだろう。
当時私は中学生だったが、葉加瀬氏とともに出演しているのを見た記憶がある。ちょうどファンになりたての頃だ。

ゆずの代表曲に挙げられることはあまりないが、本作を機にメディア露出が増加した点からもゆずにとって重要な一曲だと私は思う。

ゆずの夏の代表曲が「夏色」なら、春の曲には春風を推したい。(ちなみに冬の曲なら「しんしん」かな。秋はぱっと出てこない。)


聴いてほしいもう一曲は「うまく言えない」。
「君」に向けた飾らない正直なバラードだ。
「愛してる」の一言をまっすぐ伝えても薄っぺらさを感じないのは、曲の雰囲気作りや歌詞のストーリーがしっかりしているからであろう。

高校生の頃によく聴いていて、こんな恋愛出来たら素敵だなぁ、恥ずかしいセリフでも本当に大事な人になら言っていいんだなぁなんて思ったりした。
その後盛大に捻くれてロック系に傾倒するが、今でもこういう甘酸っぱい恋愛観は頭の片隅に残っている。(完全に余談)

なお「うまく言えない」のMVには2020年7月に亡くなられた俳優の三浦春馬さんが出演されている。
春馬さんは以前からゆずのファンで、今作をきっかけにして交友関係が続いていたようだ。
こうして映像作品として春馬さんの活動が残ることは意味のあることだと思うし、私もこの曲を聴くたびに春馬さんのことを必ず思い出すと思う。

♪ゆず『うまく言えない』
https://youtu.be/TiFWmEEwbmM

以上でアルバム『WONDERFUL WORLD 』の紹介を終える。

8thアルバム以降のゆず

WW以降のゆずの活動について、アルバム発表を中心に簡単に紹介する。

ゆずの略歴(2008~)
2008年 月9ドラマ『イノセント・ラヴ』に北川がメイン出演
2009年 9thアルバム『FURUSATO』リリース
『ゆずのオールナイトニッポンGOLD』放送開始(~2015年)
2011年 10thアルバム『2-NI-』リリース
2012年 ベストアルバム『YUZU YOU [2006-2011]』リリース
2013年 11thアルバム『LAND』リリース

メディア露出も増え、活動がさらに活発になるため全てをさらうことはできないので、気になった箇所のみ触れる。

まず驚いたのは北川の連続テレビドラマ『イノセント・ラヴ』出演。
主演の堀北真希とともにメインキャストを演じた。
といっても当時見ていなかったので内容は詳しく知らない。
堀北真希も結構好きだったのに何故見なかったのか当時の私に問い詰めたい。

2009年には『ゆずのオールナイトニッポンGOLD』を開始する。
デビュー当時もラジオをやっていたようで久々の冠ラジオ番組復活。
ちょっとエッチなおふざけコーナーがあったり、時々生歌の弾き語りがあったりした。
アルバム『2-NI-』の制作情報もラジオ内で逐一発表するなどゆずの発信源の一つとなっていた。


続いてこの時期に発表されたアルバムについて述べる。
まずは9thアルバム『FURUSATO』について。
大きな特徴は前作WWで培われた優しく、温かみのある歌い方や曲調がより強くなった点だ。
前作は大人になり少し愁いを感じる中の優しさなら、今作は包み込んでくれるような安心感のある優しさといったところか。
『FURUSATO』というタイトルの通りのコンセプトに仕上がっている。

個々の曲も「逢いたい」、「Yesterday and Tomorrow 」といった君と僕の関係を描いた王道寄りのラブソングが増え、幅広い層が自分と重ね合わせて味わえるアルバムだろう。
「Yesterday and Tomorrow 」は個人的に思い入れのある曲。

また「逢いたい」「シシカバブー」「Yesterday and Tomorrow」など、テレビ関連のタイアップ曲が多く収録されている。ドラマや音楽番組出演なども含め、活動の幅がより広がった期間であった。

♪ゆず『シシカバブー』
https://youtu.be/R-3ABHyw3n0

そして楽器編成は代表曲の一つ「」に代表されるようにストリングスアレンジが本作のメイン。
これも「ワンダフルワールド」でオーケストラを導入した時からの流れであろう。
このように前作からの流れを汲みつつ、コンセプトに沿って新たな表現を見せたアルバムといえる。


続く10thアルバム『2-NI-』も良い作品。
前作のストリングスアレンジに加えてさらにロックサウンド要素も強まり、全体的によりシャープなJ-POP系サウンドに仕上がっている。
よく特徴が出ている曲は「HAMO」、「彼方」、「1か8」など。

♪ゆず/『HAMO』
https://youtu.be/YOj0SOOtHxY

そして「慈愛への旅路」、「Hey和」などWWから続くスケールの大きい世界観の曲も収録。
もはやゆずの新たな持ち味といっていいだろう。
民族音楽のテイストがある「桜会」も好きな一曲。

♪ゆず/『桜会』
https://youtu.be/Tsl3covFGyQ


続いて近年のゆずのライブやツアーについて。
ストリングを取り入れた壮大な曲やエンターテイメント性溢れる曲、世界観を重視したアルバムが増加することに合わせるように、派手でテーマパークのようなセットや演出が目立つようになる。
きっかけとしてはサーカス小屋のような世界観の11thアルバム『LAND』のライブで、ミュージカルテイストの演出を取り入れたことが大きかったのではないだろうか。
大規模な会場で頻繁にライブをするようになり、お客さんを楽しませる手段として力を入れるようになったんだと思う。

♪ゆず「タッタ」from LIVE FILMS ゆずイロハ
https://youtu.be/mybkifrPq_Q


とはいえ「ギター弾き語り」というずっと軸としてきたスタイルも大事にしている。
バックバンドを入れない二人の弾き語りだけのツアーも何度か行っている。
2017年で一度終了したものの「冬至の日ライブ」という無料ライブも毎年行ってきた。
前述のラジオでも「原点回帰」というフレーズを度々耳にするなど、悩みどころであり、自分達のアイデンティティでもあるのだろう。

♪ゆず 『YUZU LIVE CIRCUIT 2010 SUMMER FUTATABI』ダイジェスト版
https://youtu.be/_kvqGRWN5sk


おわりに

以上『WONDERFUL WORLD』とゆずの変化について、独断と偏見で書き連ねた。

弾き語りというシンプルなスタイルを軸に、何枚も曲やアルバムを発表し続けるというのは決して容易なことではないだろう。
でもそのスタイルで変えてはいけない部分と、時代やニーズに合わせて変化させていく部分のバランスをとって活動を更新してきたゆず。
この年代はこんな活動でこんなアルバムを出してるんだ、と照らし合わせてみるのも面白いと思う。

あれこれと語ったが単純にアルバムとして良質だと思うので是非聴いてほしい。