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「侘び寂び」と同じく、広く海外に伝わる言葉である「禅/Zen」。スティーブ・ジョブズが影響を受けたことで、東洋的な精神性の一つとして、海外でも興味を持つ方が絶えないようです。「禅」と聞けば、まず真っ先に思い浮かぶのが、「座禅」です。元々、禅は大乗仏教の宗派の一つであり、「禅宗」の略語ですが、座禅を行い、心を落ち着かせることに重きを置くことから、現在ではマインドフルネスの一つとしても応用され、国内外の企業に注目されているものでもあります。本来は仏教の一つでありながら、「禅とは何か」という議論に捉われず、座禅を組めば、すぐにでも禅を実践することができるのも、禅が現代社会で受け入れられる理由の一つかもしれません。

禅の生まれ

禅は南インド生まれの達磨(だるま)が中国で広めた教えが始まりとされています。その後、禅は中国から日本にも渡り、鎌倉時代に普及しますが、近代になり、仏教学者の鈴木大拙が英語で禅について発信したことなどから、禅は日本から海外へと広まっていきました。

禅には曹洞宗や臨済宗など、様々な宗派がありますが、共通するのは「不立文字(ふりゅうもんじ)」というもので、そのほかの宗教と異なり、経典などの文字に頼らず、座禅を通じて、釈迦と同じ悟りをひたすら追体験することを大きな目的とします。この実体験を重視する姿勢が、宗教としてだけでなく、日々の心の在り方の一つとしても着目され、起業家やプロスポーツ選手などから支持を受けているのです。

日本の禅

日本の禅は、鎌倉時代より日本に普及したものですが、古くは武士道に繋がり、それ以外にも、禅僧が茶道や懐石料理を日本に伝えるなど、宗教の枠を超えて、日本の生活文化に浸透していきます。また、日本には美しい禅の「庭」があります。禅の庭では、水を用いない庭である「枯山水」が有名ですが、キリスト教における教会や仏教全般における仏像のように、禅にとっては、この美しい庭が日本の禅の存在を国内外に伝える上で、大きな役割を担ってきたと言えるでしょう。

禅と日本美術

禅は、書画や絵画などの日本美術にも影響を及ぼします。禅僧は絵画や書画に優れた人が多くおり、彼らが描いた作品には国宝や重要無形文化財が数多く存在します。国宝として指定されている水墨画の『瓢鮎図(ひょうねんず)』は、禅について描いたものとして有名ですし、禅僧の白隠慧鶴(はくいんえかく)が描いた『達磨図』は、一度見たら忘れることのできないほどの迫力があります。

また、禅の書画の中で重要なものの一つに「円相」というものがあります。多くの禅僧が描くものとしても知られており、丸く描かれた円は、始まりもなければ、終わりもなく、すべてが始まりであり、終わりであるとも言え、その境地が禅を代表する書画となっている所以です。

禅と工芸

禅に関連する工芸品と言えば、禅僧が用いる応量器が有名です。別名は「鉄鉢」とも言い、高台のない形状が特徴です。本来は鉄または土で作られたものが用いられ、木製は厳禁とされていましたが、鉄を模して漆がかけられた漆器は良しとされ、今では、一般の暮らしの中でも使われています。

多様な時代の中での禅

現代において、禅が国際的に注目を浴びるのは、物や情報が溢れ、絶え間なく変化を続ける時代に、そうした日常から離れ、物事の本質を見つめたいと思う人々が増えているからではないかと思います。日本は、以前から美しい四季がありながら、地震や台風などの天災があり、変化の中で本質を望む気質が自然と備わっており、それが禅の在り方と結びつきやすかったのかもしれません。こうして、日本の暮らしの中で育まれてきた禅は、「日本の禅」として、世界に羽ばたいているのです。

文:柴田裕介(HULS GALLERY)

参考図書)

『禅とは何か』鈴木大拙
日本の禅を世界に広めた鈴木大拙氏の禅の入門書とも言える一冊。

『禅とジブリ』鈴木敏夫
ジブリのプロディーサーである鈴木敏夫と住職との対談集。ジブリの名作に見え隠れるする禅の精神にも触れられており、幅広い層の方に楽しめる一冊。

『弓と禅』オイゲン・ヘリゲル
スティーブ・ジョブズが愛読したと言われる禅の書の一つ。ドイツの哲学者である著者が弓道を通じて、禅を体現していく。




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