柴田裕介 | アート・文化・現代工芸

現代工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO/SINGAPORE」主宰・キ…

柴田裕介 | アート・文化・現代工芸

現代工芸ギャラリー「HULS GALLERY TOKYO/SINGAPORE」主宰・キュレーター。シンガポールと東京を拠点として、日本文化、工芸、アートの魅力を国内外に発信しています。 https://hulsgallerytokyo.com/

マガジン

  • アートの種

    今の社会で求められているさまざまな問いを、「アートの種」として紹介します。現代アートや工芸の作家などに向けた創作のためのヒント集です。

  • 日本の美意識 | 文化・工芸・アート

    世界で人気の高まる日本の美意識について綴っていきます。 1/侘び寂び 2/間と余白 3/禅 4/陰翳 5/自然観 6/日本の茶 7/縁 8/用の美 9/金継ぎ 10/渋い

  • これから学ぶアート・工芸

    日本文化やアートについて学びたいと思う方々に向けたコラムです。主に日本の工芸品についての魅力をお届けいたします。

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間と余白

日本ならではの美意識を語るとき、侘び寂びと同じように、「間/Ma」と「余白/Yohaku」という言葉も欠かせないものです。「間」は、主に演劇や音楽、対人関係の中で意識されるもので、「余白」は美術やデザインのような平面的なものにおいて、頻繁に用いられる言葉です。では、これらの意識は、どのように日本で育ったのでしょうか。 何もないことは豊穣「間」や「余白」という意識には、仏教の「無」や「空」という概念が元にあると考えられます。キリスト教では、「無」とは「有」の対義語で、ただ何も

    • シンガポールのおすすめファインダイニング

      アジアの中でも、国際色豊かな国として、独自の魅力を放つシンガポール。さまざまな文化、民族が交錯するこの国では、マレーや中華系のローカルフードだけでなく、和食、フレンチ、イタリアン、インドなど、多様な国の食をベースにしたファインダイニングの人気も年々高まってきている。シンガポールには3万人以上の日本人が住んでおり、最近ではファインダイニングに興味のある方も多くなっているが、どのお店に行けば良いか、なかなか日本語での情報が少ないのが、このファインダイニングの世界。もっとこの魅力を

      • アートの種

        この文章は、ギャラリストの視点から書かれています。私は、現代工芸のギャラリストとして、日々、さまざまな作り手と出会い、対話をしています。私たちギャラリストは、アート作品や工芸品の良し悪しを見る目も必要ですが、作品と同時に、作り手も見ており、人の個性や魅力を見抜く力も養っていかねばなりません。私が関わっている作り手は、私自身が気づきを得ていると感じる魅力的な人ばかりですが、その一方で、今まで以上に思考を深め、価値の高い作品を生み出し、世に影響を与える作り手になってほしいという願

        • 連載のテーマである伝統的な美意識とは少し異なりますが、日本には、「縁」という言葉があり、これは人と人の関係だけでなく、物事との繋がりにも使われる言葉で、とても東洋的な考え方の一つではないかと思います。 縁は縁起から 「縁」とは、仏教の言葉である「縁起(えんぎ)」に由来します。縁起とは、あらゆる物事には起因があり、繋がりがあるとする考え方です。日本人はもともと、集落での暮らし方を尊重し、個よりも集団を大切にしてきました。人々は支えあって暮らしているものであり、夫婦であれ、友

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        記事

          日本の茶

          海外では、和食の人気の高まりと共に、日本茶の存在感も増してきました。私が暮らすシンガポールでも、抹茶や焙じ茶を使ったお菓子や飲料はとても人気があり、ペットボトルの緑茶も日常でよく見かけるようになりました。 海外で「Japanese Tea」と言えば、「Green Tea」を思い浮かべる人がほとんどですが、その緑茶も元々は中国で生まれたものです。茶は中国で薬草として用いられ、次第に、飲み物となり、9世紀頃に禅僧が日本に持ち込んだとされています。その後、江戸時代に煎茶が誕生し、

          自然観

          日本の美意識について学んでいくと、日本人の美意識の根底に備わっているのは、「自然観」というものなのだろうと気づくようになります。日本人が散りゆく桜を美しいと感じるのは、日本ならではの自然観によるものです。この美意識は、「無常」という言葉で表されることがありますが、これは元々は仏教の用語でありながら、日本の四季の移り変わりの中で、日本らしい美意識へと育っていった言葉の一つです。 西洋と東洋とで異なる自然観「自然観」とは、自然に対する人々の価値観や向き合い方のことを言います。例

          陰翳

          1939年に発表された谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼賛(いんえいらいさん)』は、日本の美意識を広く海外にまで伝えている本の一つです。日本人がいかに薄暗がりが好きかということを独特の文体で描いたこの書は、日本の美学に興味を持つ外国人やデザイン、建築を学ぶ学生にとっては必読書となっており、哲学者のミシェル・フーコーや世界的な建築家である安藤忠雄らも大きく影響を受けたとされています。 陰翳とは何か「陰翳」とは光の当たらない暗がりのことですが、真っ暗な闇を指しているのではなく、光の存在を

          「侘び寂び」と同じく、広く海外に伝わる言葉である「禅/Zen」。スティーブ・ジョブズが影響を受けたことで、東洋的な精神性の一つとして、海外でも興味を持つ方が絶えないようです。「禅」と聞けば、まず真っ先に思い浮かぶのが、「座禅」です。元々、禅は大乗仏教の宗派の一つであり、「禅宗」の略語ですが、座禅を行い、心を落ち着かせることに重きを置くことから、現在ではマインドフルネスの一つとしても応用され、国内外の企業に注目されているものでもあります。本来は仏教の一つでありながら、「禅とは何

          侘び寂び

          「侘び寂び/Wabi Sabi」は、禅の影響から生まれた、日本の伝統的な美意識の一つです。「もののあはれ」や「いき」など、日本には古くから様々な美意識があるものの、侘び寂びは、現代において、海外にまで広く伝わっている言葉として、特別な存在と言っていいものです。私自身も、日本で暮らしていたときには、ほとんど意識することのない言葉でしたが、海外で暮らす時間が長くなるにつれ、「侘び寂び」という美意識が、自然と自分の中にあることに気づくようになりました。 「侘び」と「寂び」「侘び寂

          序章 - 世界の中の日本

          海外の人に日本の魅力を語るとき、みなさんはどんな言葉を思い浮かべるでしょうか。「桜/Sakura」「富士/Fuji」「鮨/Sushi」「侘び寂び/Wabi Sabi」。こうした言葉に続いて、「工芸/Kogei」という言葉を世界に広めたい。それが、私たちの活動に通底する想いです。 ものづくりの国、職人の国日本は、高度経済成長を経て、ものづくりの国として世界で評価を高めてきました。今では、様々な国の人が日本製の車や電化製品は品質が高いと言ってくれます。数年前に、ドバイに行った際

          やきもの産地の魅力 | 有田・九谷・備前・萩

          今回は、やきものの産地の違いについてご紹介します。同じ絵付けの産地でも、有田焼(ありたやき)と九谷焼(くたにやき)では作風は異なり、その違いがわかるようになると、工芸の美をより深く楽しむことができるようになります。 染付が魅力的な有田焼まずは、多くの方がその名を一度は聞いたことがあるであろう「有田焼」からご説明します。 佐賀県の有田は、日本の磁器の発祥の地で、400年以上の歴史があり、「染付(そめつけ)」と呼ばれる藍色の絵柄のうつわが特徴的です。京都や瀬戸のやきものでも染

          やきもの産地の魅力 | 有田・九谷・備前・萩

          日々の工芸品の楽しみ方

          工芸品について興味はあるけれど、どのようなものから日常に取り入れたらよいかと聞かれることがあります。最もおすすめしたいのは、工芸の産地に訪問し、手仕事に直接触れながら好きなものを見つけていくことですが、そうした機会はなかなか作れるものではないので、今回のコラムでは、日々の工芸品の楽しみ方をご紹介します。 まずは「職人」と「作家」の違いを知ろう日本の工芸の世界では、「職人」と「作家」という言葉は区別して使われ、作家が作る作品は「作家物(さっかもの)」と呼ばれます。厳密な定義が

          やきものの違い | 陶磁器

          工芸を楽しく学ぶには、違いを知ることが第一歩です。本日は、うつわの基礎とも言える陶磁器の違いについて、お話ししたいと思います。 陶磁器は、焼成して作られるため、「やきもの」とも呼ばれ、大きくは陶器、磁器、炻器(せっき)、土器の四つに分類されます。土器は日本の歴史教科書の最初に出てくるように、縄文時代から存在する最も歴史の古いやきものです。窯を使わず、800度程度の温度で野焼きされることが特徴です。その後、古墳時代に、須恵器(すえき)と呼ばれる、轆轤(ろくろ)で形作り、窯を用

          民藝とは何か〜用の美

          工芸に触れるようになると、自ずと「民藝(みんげい)」という言葉を知るようになります。もしくは、工芸という言葉以上に聞きなれている人も多いのではないでしょうか。本日は、この「民藝」について、説明したいと思います。 「民藝」とは、「民衆的工芸」という意味であり、大正後期に、思想家である柳宗悦氏を中心として提唱された生活文化運動です。柳宗悦氏の本は翻訳もされており、「Mingei」という言葉は、海外でも日本の代表的な思想の一つとしても知られています。 民藝とは何か民藝には様々な

          美術と工芸の違い

          連載の第一回は、「美術」と「工芸」の違いについてのお話です。 まず、美術とは、視覚的な美しさを追求したものであり、芸術の一種です。芸術の細かな説明はここでは省きますが、美術だけでなく、音楽や演劇、文学なども含まれ、より広い意味を持ちます。美術は、宗教や社会運動と共に育ち広がってきたものですが、近代以降は、個人の表現という側面が強まってきました。 工芸品も「美術工芸品」と称されることがあり、美的価値があるという点で、大きくは美術の一種ですが、一般的には、美術品というと鑑賞目

          これからのアート・文化の学び

          近年、アートや文化などの人文科学の価値を見直す動きが少しずつ広まってきました。 スティーブ・ジョブズはカリグラフィーを学び、ビル・ゲイツは無類の読書家であることが知られています。世界的なイノベーターには、アートや文化に関する見識が深い方が多く、新たな発想を生み出すには、プログラミングや数式だけでなく、感性や美意識を養うことが自ずと必要になるのではないかと思います。 事実、私が住むシンガポールでは、経営者や事業家の方ほど、他国のアートや文化に関しても興味関心を持つ方が多く、

          これからのアート・文化の学び