UTMFとオリンピック、時々Jリーグ(そもそもスポーツって何?)
さて、今回はトレランの魅力について書こうと思っていましたが、他にどうにも気になることがあり…お題を変更します。
※超長文ですのでお時間のある時にお読みくださいませ。
UTMF2021中止
2021年3月17日、UTMF2021が中止と発表されましたね。
私はエントリーしていませんが、この大会に向けて一生懸命トレーニングをしてきた方の心情は察するに余りあるものがあります。
2年連続の中止ですしね…。
しかしながら、緊急事態宣言後もコロナの感染者数が下げ止まっており、発表があった3月17日には東京で400人超と、むしろぶり返している状況の中では、個人的には開催は正直難しいと感じていましたし、妥当な判断だと思います。
開催して万が一クラスターでも発生してしまったら、大会の存続自体も難しくなるでしょうし、トレラン業界全体に与える影響も決して小さくないと予想します。
前記事で書いたように、トレランの社会的な認知度は高いとは言えず、マイナースポーツの域を出ていません。
その中でUTMFは日本国内ではフラッグシップと言える大会で、メジャースポーツとは比較になりませんがトレラン業界の中では注目度はトップクラスの存在です。
つまり、日本の1トレラン大会としては第一人者的な役割を担っていると考えて良いと思います。
その大会で、クラスターを出してしまったら…
ただでさえあまり認知されていないスポーツなのに、風当たりが更に強くなることは容易に想像が付きます。
また、UTMFは毎年のようにコースが変わり、以前は富士山の周りを一周できたのが、今はできなくなってしまっています。
行政や関係団体、地権者等に許可を得ながらコース選定をしていると思いますが、要は各所に「お願いして走らせてもらっている」ため、何か問題が起こったら翌年はそのコースは使えなくなる可能性があると思います。
そうなると当然翌年以降の開催自体が危うくなります。
鏑木さん始め、実行委員の方々は開催に向けて尽力されてきたと思いますが、おそらく上記のようなトレラン業界全体のことや将来的な展望も見据えて、中止という判断をされたのではないかと想像しています。
UTMFは中止⇨オリンピックや他のスポーツは?
さて、UTMFは中止になりましたが、東京オリンピックは諸説芬々ですが今のところ実施する方向のようですね。
私個人としては、楽しみにしていましたし、トレラン以外のスポーツも好きなので、できれば実施してほしいとずっと思っていましたが、今は中止した方が良いと思っています。
ただ、現時点(3月19日)では実施する方向に変わりはないようです。
実施するにしても無観客であることは必須と思いますが…。
そうまでして開催することの意義は?特殊な環境下で選手は良いパフォーマンスが発揮できるのか?等、考え出すとキリがないですね。
オリンピックが開催されると仮定して、なぜUTMFは中止になり、オリンピックは開催されるのか?
考えてみるとちょっとおかしくない?と思います。
オリンピックの開催可否はIOCが判断するので、日本側に決定権がないのは理解していますが、コロナ感染者増大のリスクという面では、たとえ無観客だったとしても普通に考えてUTMFよりもオリンピックの方が遥かに上だと思います。
それでも開催される(予定)…なぜ?
また、Jリーグは緊急事態宣言下でも上限を5000人に設定して有観客試合を開催しています。
これらの違いはどこから生まれるのでしょうか?
UTMFと比較しながら考えてみたいと思います。
※オリンピックやJリーグは比較対象として不適当かもしれませんが、大きな意味での「スポーツイベント」であることに変わりないため、今回はあえて比較して考えていきます。なお、パラリンピックについてはまた違った観点が必要と思いますので、今回は除外して考えています。
ビジネスとしてのスポーツ
東京都の試算によると、東京オリンピックの経済効果は約32兆円(!)だそうです。
ただこれは当初の試算で、延期した時点で数千億の損失が出ており、なおかつ開催したとしてもおそらく無観客となるでしょうから、更に損失が出ると見込まれますが、それでも莫大なお金が動くことには変わりありません。
パラリンピックも含めた大会全体の予算は1兆6000億円を超えていますし、招致するだけでもいくらかかってるんだろ…。
このように、オリンピックは第一義的にはスポーツの祭典ではありますが、同時に巨額のお金が動くビジネスの祭典でもあると言っても過言ではないと思います。
それに対して、UTMFの経済効果がどの程度なのかはわかりませんが、エントリーフィー以外にレース前後に周辺地域で宿泊、飲食、土産物購入等したとしても、参加者が2400人ですから、家族やサポーターの分を考慮しても経済効果は高いとは言えないのではないかと思います。
レースのためにシューズ等のギアを購入したり、コーチングを受けたりする人も多いと思いますが、同様の理由で大きな金額にはならないと思われます。
また、Jリーグのように毎週試合が行われる訳ではなく、一年に一度しかありませんから、収入を得る機会も一年に一度になります(試走等でお金を落とす人もいるかと思いますが、大きな額ではないと思われます)。
参考までに、UTMFのエントリーフィーの収益のみですが計算してみました。
エントリーフィーは一般が36000円、寄付エントリーが、100000円。2021年は募集が計2400人。
寄付エントリー者は全体の4%のようなので、2400×0.04=96人。
一般が36000×(2400-96)=82944000円
寄付が100000×96=9600000円
合計で92544000円となります。
もちろん、この他にスポンサー収入等も加わると思われます。個人的には意外と高額なんだなぁという印象でしたが…。
Jリーグについては、経済効果についてのデータを見つけられなかったのですが、リーグ全体の一年の営業収益は1300億円を超えるそうです(2018年)。
オリンピックとは桁が違いますが、それでも一般庶民から見ればとんでもない額ですよね。
このように、同じスポーツイベントではありますが、関わるお金については大きな差があります。
関わるお金が多いと言うことは、当然そこで働いている人もたくさんいる(雇用を創出している)訳で、もしそのイベントが開催されなくなると、職を失ってしまう人も出てきます。
また、観光業や飲食業等、直接関わりはないものの、開催することによって収益が見込まれていた産業についても、大きな打撃を受けます(無観客となったらそのような収益は見込めなくなってしまいますが)。
Jリーグでも、選手はもちろんですが、リーグ自体に雇用されている人や、各クラブのスタッフの人もたくさんいるでしょう。スタジアムの維持管理やグッズの販売等に携わる人も多数いると思います。
中止となると、こういった関わる人達の減収や失職につながってしまう訳です。
よって、ビジネスとしての側面を強く持っているスポーツイベントは、中止することが経済的な観点から難しく、実施する力がより強力に働くと考えられます。オリンピックのような国を挙げての一大イベントや、サッカーのような競技人口が多いメガスポーツなら尚更です。
それに対して、UTMFはどうでしょうか。
中止になったことで損失はもちろんあるでしょうが、規模が全く違いますし周辺産業も含めての経済的な損失は相対的に少ないと思われます。
また、トレランの場合海外のトップランナーでも専業の選手は少ないように思います。あのフランソワデンヌでさえ、本業はワイナリー経営らしいですしね。スポンサー収入のみで生計を立てているのは、日本では上田瑠偉選手くらいでしょうか。
選手でなくても、トレランの大会を主催している、ショップを経営しているといった、トレランを生業にしている人は存在しますが絶対数としては少ない。
こういったことが、オリンピックと比べ中止の判断がしやすくなっている要因なのではないかと推測します。
個人的には、ビジネス色が強くなることが必ずしも良いこととは思っていません。トレラン業界全体としてそれが強くないことは、独特の雰囲気の良さやコミュニティ形成等に繋がっていると考えているので、むしろ好意的に捉えています。
そもそも、スポーツはお金のためにあるんじゃないよって思いますしね。
ただ、大きな大会を運営していくためには、ある程度のお金が必要となることは現実問題としてあるでしょうし、きちんと収益を出してスタッフに対する報酬を出す等の措置は、継続した運営という意味でも必要だと個人的には思います。
歴史、伝統、ステータス
オリンピックの歴史は私が説明するまでもなく、とても古く、伝統あるものです。
Jリーグの歴史は古くはないですが、サッカーの歴史は長いですし、競技人口も多いです。
(ちなみに、全世界のスポーツの競技人口ランキングでは、1位がバスケ、2位がサッカー、3位がクリケットだそうです。サッカーが1位だと思ってたなー)
前記事でも書いたように、トレラン自体発展途上の新しいスポーツですし、日本においての普及もまだまだです(そこが面白い所でもありますが)。
伝統というものは不思議で、それ自体の良し悪しに関わらず、長く続けるうちにその伝統自体を継承していかなければならないという共通意識のようなものが生まれます(ここに詳しいです)。
例えば、職場において悪習だと皆が思っていて、どうして存在するのかわからないような慣習でも、何故か続けているということはありませんか?
オリンピックのように伝統があり、開催することが多くの人に好意的に捉えられ、なおかつ開催国のステータスになるようなものであれば尚更です。
オリンピックは長い伝統があり、4年に1回必ず開催してきた…だから延期にはなったけども、今回も必ず開催すべきという認識が根強くあるのではないかと推測します(日本側というよりもIOC側かもしれませんが)。
それに加え、オリンピックには「オリンピズム」という哲学があり、「平和の祭典」という側面も存在します(参照)。オリンピックの歴史上、中止になったのは第一次、二次世界大戦の時だけだそうで、今回の東京オリンピックを延期したのは、史上初の出来事だそうです。
オリンピックは戦争の時以外は開催する、というのがIOCの基本姿勢で、今回は世界的パンデミックの状況ではあるが戦争状態ではないので、オリンピックは開催するという考えのようです。
…戦争はダメでパンデミックはいいんだ?と素人としては思ってしまいますが…
そういった思想が背景に存在するようですね。
いずれにしても、長い伝統があるものには、それに伴って哲学や思想というものが生まれてきます。一度そういったものが出来上がると、それに反する決定を行うのはオリンピックに限らず容易ではありません。
今後回を重ねていけば、UTMFも同じようなものを持つようになっていくかもしれませんが、現時点ではそうではないと思います。
よって、過去の歴史に縛られることなく判断ができたのではないかと考えます。
観るスポーツ
オリンピックを楽しみにしている人は、生であれTVであれ、観戦することを楽しみにしていると思います。
Jリーグも同様です。
前々項とも重複しますが、そこにチケット代や放映権等莫大なお金が発生します。
また、観ることに楽しみを見出せるスポーツは、そのスポーツを自分でやっていなくても観ることで楽しさや喜びを得ることができます。
例えば、私はサッカーは自分ではほぼやりませんが、観るのは好きで、ワールドカップの時は早起きしてTVで観戦していました。
ではトレランは?
現時点では、観戦するスポーツという要素は少ないと思います。
自身が選手である、またはそれをサポートするという形で関わる場合がほとんどで、「トレランの大会観戦が趣味」という人はあまりいないのではないでしょうか(実際は結構いるのかな?すみません想像で書いてます)。
何を言いたいかと言うと、そのスポーツを自身で行う層に観戦する層が加わることで、愛好者の数が飛躍的に増え、ビジネスとしても大きくなっていくということです。
オリンピックやJリーグが開催されないと、選手はもちろんですがそれを観るのを楽しみにしていた人たちの期待も裏切ってしまうことになりますし、観戦チケットや放映権等の収入も入ってきません。
その結果、中止という判断が下しづらくなります。
トレランに関しては、TVで実況中継したら画的にかなり面白い題材なのではないかと個人的には思っているのですが、残念ながらニーズがないんでしょうね。
UTMFではYouTubeでライブ配信を行っていますが、テレビ放送のような規模ではありませんし、それによって収益を得るという性格のものでは今のところないようです。
蛇足ですが、グランレイドレユニオンは現地のTV局で大々的に実況放送しているようで、NHKのグレートレースでご覧になった方も多いと思いますが、結構面白いです。トップ選手にレース中突撃インタビューしてたりとか(選手は迷惑かもしれませんが)。島を挙げてのお祭りといった様子ですので、レニユオンは結構経済効果としても高いのではないかと推測してます。
いずれにしても、現状トレランは一部を除いて「観るスポーツ」ではないため、良し悪しはさておき観戦者層のことを考える必要性があまりない(=それに伴う経済的な要素を考える必要性がない)ので、中止の判断が下しやすいのではと思います。
選手のために
言うまでもなく、オリンピックは世界最高峰の舞台です。
選手はオリンピックに向けて最大限にトレーニングし、細心の注意を払ってピークを本番当日に合わせます。
その結果、世界記録が生まれるといった、それまでに誰もなし得なかったことが達成されることがあります。
世界記録は人類の身体的な到達点であり、ある意味では人類全体の財産と言えるものでもあると考えます。また、記録系の競技でなくても、最高峰のパフォーマンスが見られることは間違いありません。
このように、オリンピックの役割として、アスリートにとって最高峰の舞台を用意するということがあると思います。というか、それが本来の趣旨なのではないかと思いますが…。
何度も出場する選手も中にはいますが、多くの選手にとって、一生のうちにオリンピックに出場するチャンスは一度しかないかもしれません。
中止となれば、今まで必死に実績を積み重ねてきた選手たちの出場機会を奪ってしまう…それは酷ではないか。
個人的には、この点がオリンピックを開催する根拠として一番説得力があると感じました。
オリンピックは何よりもまず、選手のためにあるべきと思います。
私としては選手達に力を発揮する場を与えてほしいし、自分もそれを見たいと思ったからです。
…でも、冷静になって考えてみると、それってオリンピックじゃないとダメなんでしょうか?
多くの競技に世界選手権があり、そちらも世界最高峰の舞台ですよね。しかも競技によりますが、2年に1回等オリンピックより短い周期で開催されているものも多くあります。
私は中高時代陸上部でしたが、なんでオリンピックと世界選手権両方あるのかなーと思ってました。どっちかに統一した方がわかりやすくないかなと。
アスリートにとっては、チャンスが増えるため良いのかもしれませんが。
サッカーにおいてはもっと話がややこしく、皆様ご存知の通りワールドカップが国別の対抗戦としては最高峰ですが、オリンピックでは基本的には23歳以下(延期されたため東京大会のみ24歳以下)の選手を対象として行われています(女子には年齢制限なし。それもまた妙な話だが)。
プロサッカー選手はただでさえ過密日程と言われているのに、オリンピック競技にまで参加する必要があるのでしょうか?しかも、年代別のワールドカップも別途行われています。ですので、私はオリンピックのサッカーは不要と考えています(特に男子)。
少し話が逸れましたが、UTMFも同じくアスリートにとっての晴れ舞台です。
ただ、オリンピックがトップアスリート限定なのに対し、一般ランナーにも門戸が開かれている点が違っています。
精一杯トレーニングしてピーキングして…という点ではレベルは違えど、トップランナーも一般ランナーも変わりはありません。
中止になることで、その舞台を奪われてしまう…UTMFを中止にするにあたって、その点が運営側としても一番心苦しいのではないかと思います。
しかし、来年以降もまたチャンスがありますし、他の大会もあります。
冒頭の文章と重複しますが、将来を見据えて今は自重するべきと判断されたのだと思っています。
コロナ禍におけるスポーツイベントのあり方
さて、UTMFとオリンピックやJリーグを比較しながら今まで考えてきました。
まとめると、たくさんの愛好者がおり、多額のお金が動き、なおかつ歴史や伝統、思想的な裏付けもあり、単なるスポーツ以上の存在になっているイベントは、現在の社会的状況においても中止という判断をしづらい、ということになるかと思います。
自分で書いていて、特にオリンピックは様々な要素が複雑に交錯しており、本質がわかりにくくなってしまっているなと感じました。
しかし、オリンピックの本質はやはりスポーツの祭典だと思います。
そもそもスポーツって社会的にはどのような意味を持っているでしょうか?
スポーツは、それがなくては生きていけないという類のものではありません。
医療や教育、福祉、食糧生産等、なかったら明らかに社会が機能しなくなるような類のものとは違います。
誤解を恐れずに言えば、「ないと寂しいけれど、なくても生命の維持には直接関与しないもの」だと思います(もちろんそのスポーツで生計を立てている人には死活問題ですが)。
コロナ禍で会議等無駄な業務が減ったという声をよく耳にします。
スポーツにおいても、この機会に無駄なものはできるだけ削ぎ落として、将来に備えるための時間と捉えるのが良いのではないでしょうか。
一個人の素直な気持ちとしてそう思います。
ですので、中止を決めたUTMF実行委員会の判断を私は支持しますし、オリンピックは上記のように複雑な状況ではありますが、この社会状況下ではやはり中止する方が良いと思います。
皆さんはどう思われますか?
終わりに
この記事を書いている最中に、緊急自体宣言解除の発表がありました。
感染者数が下げ止まっているのに何故?と思いますが、これもオリンピック開催に向けての布石なんでしょうか…(^^;)
動向を注視していきたいと思います。
超長文&駄文をお読みいただき、ありがとうございました!
※上記は全て私個人の意見であり、他の意見を否定するものでは全くありません。また、思い込みで書いている部分も多々あるかと思います。何卒ご容赦下さいませ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?