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団体プロデュース公演に関わってはいけない理由

 皆様ご無沙汰してます、しばいいぬです。

 今日は東京の小演劇において横行している団体プロデュース公演の実態について考えてみたいと思います。
団体プロデュース公演とは、複数の劇団によるオムニバス公演であり、その中でも制作会社が中心となって公演を企画しているものを指します。仲の良い劇団が連携して行っていた従来のオムニバス公演とは異なり、明確に演劇制作会社によって運営されているのが特徴的です。

 「演劇は基本的に儲からない」ということをしばいいぬは口すっぱく主張してきましたが、こうした企画公演に営利志向の強い演劇制作会社が参入しているのには、どういった理由があるのでしょうか?

 これを知るために、近々に行われる実際の団体プロデュース公演を一つ挙げ、その公演予算を概算していきます。そうすることで、こういった公演が利益先行で考えており、演劇を実際に制作するクリエイター達を食いつぶしているかが明らかになると思います。この問題は、演劇関係だけではない様々なクリエイターにも関係することだと思いますので、演劇のことだけだと考えずに読んでいただけると幸いです。

 この記事は2部構成になっています。
①はじめに、団体プロデュース公演とは何か、そして本来の意義は何かをまとめます
②そして、外から見て予算概算がしやすい或る公演を一つ取り上げ、実際に予算を立ててみます。予算を見ることで、このような団体がどこから儲けを出しているのか、逆に言えば、誰が割を食っているのかを明らかにします。

 無用の争いを防ぐため、②以降、実際の予算書については有料記事とさせていただきます。無料公開の部分については、具体的な数字や規模は避け、団体がわからないような形で取り扱いますので、興味がある方は是非とも記事の購入をお願いします。買って下さった方はしばいいぬが推定した当該公演の予算書のpdfがダウンロード可能です


第一章:団体プロデュース公演の現状分析(無料公開部分)

〇団体プロデュース公演の概要と、その本来の意義

 団体プロデュース公演が期待する理念は、次のようなことでしょう。

理念:複数の団体が集まって作品を上演することで劇団同士で相互作用が働くことで、各劇団の観客層の拡大や芸術上のさらなる発展があり、結果的にこれらの劇団が売れ、ひいては演劇界全体の層が拡大すること

 しばいいぬは、団体プロデュース公演というアイデアに批判的であるわけではありません。複数の団体が集まって公演を行うことで得られる相互作用や、観客にとってのお得感であるとかは非常に重要なものだとおもいますし、理念自体は非常に賛成しています。しかしながら現状の公演がこのような理念の達成に向けて行われているのかについては慎重にみていく必要があるでしょう。

 それを考えるために、まずはこの公演形式の利点を7つ下に挙げてみました。大まかに行って、以下のものになるでしょう。
【劇団の短期的利点】
1.ひとつひとつの劇団の集客規模では挑戦できない規模の劇場を使える
2.各劇団の集客力などを共有することでまとまった集客が期待できる
3.チラシデザインや舞台美術の設営料などを抑えられる

【劇団の中長期的利点】
4.今まで見に来なかった観客に作品を見せる機会を獲得し、観客の獲得が期待できる
5.他団体の劇作プロセスを知ることで、あたらしいアイデアを得られる
6.いわゆる業界人などに作品を見せることで、批評などを巻き起こし、次の大きな仕事につながる可能性がある
(次以降の公演での優遇/批評記事の掲載/演劇鑑賞会や海外演劇祭のバイヤーによる買取公演、などなど)

観客側の利点】
7.複数の団体の作品を一回の公演で見ることができるので、あらたな劇団を知る機会になる

上にあげた利点はどれも非常に魅力的なもので、欠かすことはできません。こういった利点があるならば、こうした企画に参加する意義はあるでしょう。しかしながら、とくに劇団の中長期的な利点については、考えなしにこういった企画公演をやるだけでは達成できません。

○意義を達成するために必要なことと、不足している点

 当然ながら、良い作品を作っているだけでは劇団は売れません。そういった作品が公演によって観客にみられ、それが口コミや批評などの話題を喚起し、より大きな影響力のある劇場や媒体を抑えることができ、次回公演にその期待に適う作品を作る。大まかに言っても上のような循環が必要であり、この循環を上手に回し、成功に導くためにプロデューサーが必要となるわけです。こういった点で、プロデューサーは常に中長期的な目線を持っている必要があります。

 自分の団体が主催ではない企画に参加する場合、その企画のプロデューサーは一般的にいえば企画のプロデュースを行うのであって、そこに参加する団体のプロデュースを行うわけではありません。つまり、参加団体は自前でプロデュースをしていく必要があるということです。つまり、団体プロデュース公演の中長期的な利点である【劇団にとって今後のチャンスにつなげる】という点が達成されるためには、企画プロデューサーだけではなくそれこそ団体プロデューサーが必要になるというわけです。

 少し例を上げてわかりやすく説明しましょう。某芸能事務所が自身に所属しているアイドルを集めた企画公演を行う場合、これは明確に企画公演として見本市的に自社のアイドルを紹介し、売るという戦略を持って行われます。そこにはテレビ局のプロデューサーや演出家などを招待し、マネージャーが走り回りそういった業界人にしっかりと挨拶をさせることでしょう。何故こういうことをするかといえば、そこに参加したアイドルが売れることが、その事務所自体の利益につながるからです。
 しかしこれが全く別の団体によって主催される場合はどうでしょう。彼らにとってはそこの参加者が売れるかどうかはあまり関係ありません。どちらかというとそこに参加するアイドルが客を呼んできてくれるか、イベントを盛り上げてくれるかの方に興味があるでしょう。そういった企画はアイドル側に依頼する形で行われ、普通に考えれば主催側がお金を支払い来てもらうことになります。
まあ、なかには参加者が売れてほしい、と主催者が考え、ちゃんとそのために人員が配置している企画もあります。こういった公演においては出演者をしっかりプロデュースする人員が別に配置されているはずです。しかしそういったスタッフが配置されていない場合は、こういったことはまずあり得ないでしょう。

 演劇において実際に行われている団体プロデュース公演は、名前こそ団体プロデュース公演としているものの、参加団体自体をプロデュースする立場のスタッフが配置されていることはまずありません。どの団体のチラシを見ても、企画全体のプロデューサーしかいない、あるいは制作しかいないというパターンがほとんどです。

 ここまで書くと、おそらく次のような反論が来ることでしょう。「演劇公演において利益を出すのは非常に難しく、こんな人員にさける予算はない。私たちは限られたリソースの中でちゃんと参加団体のことも考えてプロデュースを行なっている」

 たしかに演劇公演で利益を出すことは通常は困難ですし、こうしたスタッフに予算を割けないなか現場は頑張っているという指摘も、簡単には反論できなさそうです。そこでしばいいぬは、実在の公演に対し予算を概算することでこの反論に応えたいとおもいます。しばいいぬ自身はこうした公演とは無関係ではありますが、関係者から聞いた話や公表されている一部資料などを用い予算を概算しました。以後の記事は、具体的な名や金額などを計上しますので、有料記事とさせていただきます。しばいいぬは他にも演劇にまつわる様々なことを書いていますのでよろしければ見ていってください。

いったん、したっけ

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