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SNSでの誹謗中傷に対する教育的解決の思案

一昨日、テラスハウスに出演していた木村花さんが亡くなったことを受けて(ご冥福をお祈りいたします。)、Twitterをはじめ、社会課題の1つとして、SNSでの誹謗中傷に関する議論がなされています。  

表現は多様ですが、要約すると「SNS上での誹謗中傷はいけない。誹謗中傷したやつは反省しろ。」という意見が大半でしょうか。
他にも誹謗中傷に関して裁判を起こすという芸能人や、逆に誹謗中傷はすべて自分のところに来い!という勇ましいツイートも目にしました。

僕も他の大半の意見と同様、SNSにおける誹謗中傷はなくなるべきであり、誤った行為であると考えています。もし本当にSNSの誹謗中傷によって人の命がなくなったのであれば、それは間違いなく大きな問題です。

ただ、今回の問題に関する議論を見ていて、僕個人としては若干の違和感がありました。
「誹謗中傷をしたやつどんな気持ち?」や「誹謗中傷のツイートを消したやつは人間として終わっている」のような、解決策の提言ではなく、社会の潮流に乗っているだけの人が相変わらず多いなあと。
もちろん人間のリソースは限られているし、SNSの使い方は人それぞれなので、そのような発信をすべて否定するつもりはありません。

しかし、どうせ発信するなら解決策を発信すればよいのにと思ったり。(もちろん行動するのがベストですが…。)
また、誹謗中傷をしてしまった人が「誹謗中傷のツイートを消したやつは人間として終わっている」というツイートを見て不安になるという面を考えると、誹謗中傷が誹謗中傷を呼んでいるというなんとも皮肉な構図だなあと思ったりもします。

そこで、今回は教育の視点からSNSにおける誹謗中傷を世の中から減らすにはどうすればよいかを僕なりに考えてみました。

「なぜSNSで誹謗中傷をするのか」は強者の考え

まず、この問題の原因を考えてみましょう。

「誹謗中傷してはいけない」という意見。これは正論です。
なぜ、人を傷つけるようなことをするのか。その言葉をかけられて人が傷つくことがわからないのか。SNSで誹謗中傷をしないことを当たり前としている人にとっては、SNSで誹謗中傷をしてくる人は理解不能であるでしょう。

ただ、人が優しくあるためには、強さと余裕が必要です。
自らの精神的強さ。精神的余裕。経済的余裕。社会的な立場の強さ。自らの強さと余裕を把握したうえで、ようやく人に対して優しさを与えることができます。

逆に言うと、人に対して、誹謗中傷を浴びせる、いわば“優しくない人”には強さと余裕がない可能性が高い人です。

これは悪なのでしょうか。強さと余裕がないことは悪いことなのでしょうか。
この問いに関しては恐らく多くの人が“No”と答えると思います。
強さと余裕がないことは悪いことではありません。強さと余裕がない結果、SNSで誹謗中傷をするという行動自体が“悪い”ことに当たるのです。

誹謗中傷行為は実社会からのSOS

では、なぜ彼らはSNSで誹謗中傷という行動を取るのでしょうか。

この問いについては、これまで多くの分析が実施されています。
ざっくりまとめると、  

・自分より“強い”人に誹謗中傷をすることで、自分の存在を明示する
・現実世界の不満をSNS上で発散する
・自分の態度への正当化

の3つが主な原因でしょう。
つまり実生活のなかで、自己肯定感が低くなるような体験や、募る不満、自分の行動に対する罪悪感から、匿名でだれでも意見がしやすいSNS上で攻撃的になっているといえます。見方を変えると、SNSでの誹謗中傷行為は、実社会でのSOSなのです。

こう考えていくと、問題の根源は経済格差や組織における人間関係へとたどり着きます。
ただ、これはあまりにも話が大きくなってしまうので、この辺りで一旦。
ここで押さえていただきたかったことは、誹謗中傷をする人を排除するのではなく、どう救うかという思考に切り替えてみませんか、ということです。

解決策① 誹謗中傷行為を自らの不快感へと繋げる。

さて、ここからは教育的な視点から、このSNSにおける誹謗中傷行為への具体的な解決策について考えていきます。

SNSでの誹謗中傷行為を減らす教育的解決策の1つ目。それは自己に注意を向けさせる機会を提供することです。  

この提言の背景には、自覚状態理論という理論があります。
自己に注意を向けることで、現実自己と理想自己を照らし合わし、現実自己と理想自己にネガティブなギャップが生まれた時に不快感が生じるという理論です。
現状、SNSで誹謗中傷の言動をしている人の多くは、自らの発言が他人を傷つけていることを僅かに感じながらも、自らの発言に対して不快感を抱くことはなく、それどころか時には快感として発信していると考えられます。彼らが、「SNSで誹謗中傷をすることはよくないことはわかっている。けど、さっきのツイートは人を傷つけてしまった」と自覚ができれば、自らの行動に対する不快感が生まれ、学習と行動の変化が生まれることが期待できるのです。

そして、宮口幸治(2019)「ケーキの切れない非行少年」によると、自己に注意を向けさせる方法として、他人から見られている、自分の姿を鏡で見る、自分の声を聴くなどがあげられています。
教育として、本人の意識外から関与できるのは、1つ目の“他人から見られている”を設計すること。以前のnoteでも触れましたが、まずは教育者が見てあげることが最重要です。  

↓以前のnote P-PBL教育におけるスタッフの役割↓
https://note.com/shiba_kyoiku/n/n522fe373dfad

また、クラスメイトとグループワークすることで、他人から見られている状態を設計することができ、結果的に自覚状態の成長を促すことができます。

ここで大事なのは、「SNSでの誹謗中傷行為はいけないよ」という一瞬のアプローチではなく、誰かが見てくれているという長期的なアプローチが、SNSでの誹謗中傷行為を減らすことにつながるということです。教育という社会への積み立て投資が必要といえます。

解決策② 疑似体験で他者の目を得る

2つ目は、疑似体験をデザインすることです。
「SNSの誹謗中傷をする人はもっと相手の立場になって発言しろ」
社会人の皆様はよくご存じだと思いますが、相手の立場に立つということは非常に難しいことです。
正論だけど、その説教を自らの行動に生かすのは非常に難易度が高い。
ただ、相手の立場を経験することで、相手の立場になって考えやすくなります。  

そこで、もし、学校の機能の1つに、社会を体験をするというものがあるのならば…。本件でいえば、実際にSNSでの誹謗中傷を浴びせる側でなく、浴びる側になる体験をすることで、誹謗中傷される人の気持ちを理解し、自らの行動をコントロールすることができるようになることが期待できます。  

ただ、これは、あまりにもリスクが高い。実際に精神的な影響が出ることが考えられるから。  

なので、ここでは、あくまで疑似的に体験させることが求められます。アニメ、ゲーム、ドラマがこれらを可能にするツールです。
学びたい道徳観に応じたアニメ、ゲーム、ドラマなどのツールを上手に使うことで、相手の立場に立つ思考を養うことができると思います。

道徳のビデオが疑似体験といえるのか

ちなみに、このアニメ、ゲーム、ドラマを疑似体験ツールとして使う場合の重要なポイントは“没入感”です。  

道徳の授業でドラマを見たり、自動車学校で自己のビデオを見たりしても、正直疑似体験とは呼べないと考える人が多いのではないでしょうか。
その理由は没入感の欠如が原因であると私は思っています。あんなに大人数いるところで、小さな画面を見ていても、ドラマの映像を自分事としてとらえることはできません。  

一人1画面、音声もヘッドホンで聞き、しっかりその世界に没入することで、初めて疑似体験ができます。幸いギガスクール構想で、パソコン一人1台へと着実に教育現場はステップアップしていますし、VRなど、さらに没入感が高い最新技術も使うことで更なる疑似性の向上が期待できるでしょう。
没入でき、かつSNSで誹謗中傷される体験ができるコンテンツこそ、これからの道徳教育に必要であると考えています。

現実と仮想の人格は一致する

ここまで、教育的な解決策を提言してきましたが、SNSの誹謗中傷問題については1つ厄介なことがあります。  

それは、現実世界では許されないことがインターネットの仮想世界では許されると勘違いしてしまう人が生まれやすいということです。
現実世界では人を殺してはいけないけれど、ゲームでは人を殺してもいいというように、現実世界と仮想世界は別のルールであり、それに応じて発言も変化させる状態が生まれてきます。  

この問題は非常に難しい。ただ、私個人の意見としては現実世界と仮想世界の人格は一致すると思います。2つの世界で人格を使い分けているつもりでも、そのほころびが浮かび上がる瞬間が必ずあるはずです。
だからこそ、現実世界からの救済が必要ですし、現実世界と仮想世界の間は思っている以上にないことを理解しなければなりません。  

ちなみに、現実世界と仮想世界の間を疑似体験できる・考えるコンテンツとしては、アニメSAO(ソード・アート・オンライン)がおすすめです。興味がある方はぜひ。  

ここまで長文を読んで下さり、ありがとうございました。
教育はSNSで誹謗中傷を行う人を救う数少ない手段の一つです。
今回のような悲しい事件が繰り返されぬよう、教育をアップデートしていきましょう。

アイキャッチは「ケーキの切れない非行少年たち」
https://www.amazon.co.jp/dp/4106108208/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_sSOYEbGWP0D9H

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