詰め込み教育の問題は知識偏重だからではない

詰め込み教育は知識偏重で思考力が阻害されるのが問題だ。一方、ゆとり教育は必要な知識が得られず学力が落ちる。などと双方それぞれもっともな議論があります。

しかし、詰め込み教育に関することだけでなく、多くの議論をみていて疑問に感じるのは、

　「勝つか負けるか？」

　「正解か不正解か？」

　「善か悪か？」

など、AかBかという二項対立の議論が多い点です。

鋭い論を展開するためには有効かもしれませんが、でも残念ながら、この世界はそれほど単純ではないですよね。

そこで、論点をもう少し因数分解して整理してみたいと思います。

まず、横軸に知識重視か、思考力重視か、をおきます。そして、縦軸に主体的、非主体的とします。

すると、右上の第一象限は「主体的で思考力重視」、左上の第二象限は「主体的で知識重視」、右下は「非主体的で思考力重視」、左下は「非主体的で知識重視」となります。

このように軸を1本増やし（次元を増やし）マトリクスで考えるだけで、単純な二項対立の議論から抜け出すことができ、ぐっと複雑な状況を理解しやすくなります。

この図によれば、子供達が主体的に取り組んでくれるのであれば、知識重視もありではないか、といえるかもしれません。

さらに、思考力も知識もどちらも補完的であるため、問題とすべきは知識か思考力かではないことにも気づきます。

また、実際には、極端に知識重視か、極端に思考力重視かという０か１００かではなく、４６とか７３とか中間値があって、グラデーションになっています。

つまり、子供達の個性や将来進む道により、どの程度知識を重視するか、思考力はどの程度必要かというのは一人一人違いがあってもいいわけです。

大学選びであっても、知識を覚えることが得意な子は、そういった問題を出す大学を選べばいいし、考えることが好きな子は、思考力を試す問題を出す大学を選べばいいわけです。

さらにこの問題をもっと整理するため、もう1本新しい軸を追加してみましょう。時間軸です。すると下図のように３次元空間になります。

上図をみて考えられるのは、例えば、

1.　小学校低学年のうちは、ある程度先生が主導し、文字を読んだり、漢字を書いたり、かけ算九九を覚えたり、基本的なことをやっていく。この段階では勉強嫌いにならないことを一番の目標におくのがいいのではないか？

2.　小学校中学年から高学年になり、自我が強くなって、大人がコントロールするのが難しくなってきたら、徐々に主体的に取り組めるような課題をやるようにし、思考力をつける方向でやっていくのがいいのではないか？もちろん、必要な知識の習得は並行してやっていくのがいいだろう。

3.　中学2年生くらいになったら、自我もはっきりしてきて、抽象的な概念も考えることができるようになるため、子供達が主体的に行動でき、知識を自発的に習得していけるようにティーチングを減らしてコーチングを中心にサポートしていくのがいいのではないか？

さらに、一人一人の個性（性格や興味、価値観、才能など）も違うため、さらに事態は複雑です。本来一律のやり方でいいわけはなく、子供達の成長段階に合わせて方針を変えていく、適切なサポートを変えていくのがいいのではないかということです。

ここまでをまとめると、詰め込み教育というのは、知識偏重だから問題というわけではないと考えるのです。

時期によっては期間限定で、詰め込みをする時期があってもいいし、その後も場合によっては自分の意志で、知識の詰め込みをしていくのはありと考えます。

ただ、十分自我が育ってきた中学生以降になっても、他人が本人の意志に反して詰め込もうとすることは問題があるといえるのではないでしょうか？

子供が自分で考えられるようになっても成績や点数を上げること、学習指導要領どおりに単元を終わらせることを目的としてしまい、子供達の主体的な学ぶ力の育成を（意識の上ではそんなつもりがなくても、大量の宿題を出してしまうことなどを通じて無意識に）犠牲にしてしまうことが問題と考えるのです。

つまり、一人一人の個性と成長段階をふまえ、中学卒業くらいまでに自立して学習できるようになるために、一人一人を観察し、現時点では何をしてあげればいいのか、何をしてあげないほうがいいのか考え続け、試行錯誤しながらサポートしつづけることが大切と考えます。

もちろん、マニュアル化はできませんし非常に難しいことです。特に思春期の子供達は大変で、時期によって気分も変わりさらに大変です。

しかし大変ではあっても、我々大人が「とにかく成績さえ上がればいいのだ」と短絡的に考え、子供たちの自立や成長を阻害するわけにはいきません。不透明な時代を生きるこれからの子供達の未来をあきらめるわけにはいかないと考えるのです。

個人個人の個性や成長段階をふまえたサポートをすることが小規模な個人塾のミッションなのだろう、と考えています。

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